Assalut Lily/Zero one ~serial conculusion ark~ 作:レティス
゛人は皆、目を閉じて生まれてくる。そして大半はそのまま生涯を終える。〝 ーー J・ミッチェル
黒煙と血の如く紅い空、元々廃墟だった瓦礫は更に細かく、もしくは跡形もなく粉砕されている。
ただでさえ地獄絵図な戦場に、一人の少女は戦慄していた。彼女の視界には一人の…否、一体の“悪魔”が君臨していた。
左右対象のベルト、飛蝗の骸骨を思わせる白と黒のモノトーン、その左目には悪意で満ちた真っ赤な瞳があった。
悪魔の周りには屍が転がっていた。
数多の弾幕で蜂の巣にされた少女…
原型が留まらない程に左腕で粉砕された少女…
有象無象を灰燼へと帰す光で身体の一部を消し飛ばされた少女…
青白い炎で消し炭にされた少女…
怒涛の踏み込みで斬り刻まれた少女…
二度と動かなくなるまで蒼雷で貫き滅ぼされた少女…
首を切断された上、断面から陽炎で焼かれた少女…
その惨い光景は嘔吐を促すには十分だった。
そしてその悪魔の手にも、一人の黒髪の少女の屍があった。悪魔は“赤黒い何かが差し込まれた白色の剣”を屍から引き抜くと、黒い獣を召喚してその屍を貪らせた。
少女は戦慄して動けなかった。惨い光景を見て泣き叫ばずにはいられなかった。
そんな事は知ったことかと言わんばかりに少女のもとへゆっくりと歩み寄る。桜色の魔力を返り血で汚れた白い剣の先に収束しながら。
返り血で赤黒く染まった悪魔は、慟哭する少女に、無情に、かつ冷酷に、その閃光を撃ち放った。
【悪意】の“仮面”を被りし者は
【恐怖】の“幻想”を振り撒き
【憤怒】滾りし“龍帝”の如く
【憎悪】に委ねて“愚者”を喰らい
【絶望】を振るい“英雄”を屠る
【闘争】に“女神”は啼き
【殺意】に“死神”は猛り狂い
【破滅】の大地に“雷霆”が迸る
【絶滅】の果てに“日輪”は消え
【滅亡】の“星光”は墜つ
PRESENT DAY…
PRESENT TIME…
PRESENT CONCLUSION ONE…
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Episode 1 目覚め
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「……ここは…何処だ?」
何もない真っ白な空間。0と1のホログラムが浮き上がる泡のように上昇するのが見えるだけの空間。俺は気が付くと、そこにいた。
何故俺がここにいるのか、よく分からなかった。
「目が覚めたか、“岩倉玖流”。」
「え…?」
何者かに声を掛けられたので振り返ると、そこには白いコートを羽織った一人の青年がいた。
「だ…誰ですか?」
「俺は…そうだな…“神”って名乗っておこう。」
「あの、神様…ここは何処なんですか?」
「ここは転生の間。ここには一度死んだ者が訪れる。」
「えっ…!?俺、死んでるの!?」
「どうやら事故のショックで覚えてないようだな…これを見てみろ。」
神様はそう言うと、空中にモニターを展開する。そこには暴走するトラックが俺を轢き殺す光景だった。
「トラックの運転主は信号無視をした上に、違法薬物に手を染めて認識が曖昧だったよ。全く…あいつは何をどうしたらあんなゲテモノに手を染めるのだか…。」
「そんな…。」
記憶が無くて知らなかった…俺が信号無視のトラックに轢かれてたなんて…。
「俺はお前のように不幸な出来事で死んだ人間を別世界に転生させる役目をに担っているんだ。お前だって、納得いかない死に方して、未練とか残ってるだろ?」
「はい…けど、もしこれが二度目のチャンスなら…俺はもう一度生きたいです。」
「そう言うと思ったよ。ただ、その前にちょっと注意事項があってな…。」
「注意事項?」
「実はこの前に他の人を転生させたんだが、そいつが転生特典を数多く要求する我が儘野郎でな…?そいつ、その世界でバカやって世界を崩壊させてしまったんだ…。だから今は天界の定めで、特典と転生場所はランダムにするよう言われたんだ。」
「つまり、場所とその特典によっては不利になるって場合も有り得るって事ですか?」
「そうなるね。本当は選ばせたかったんだけど、いかんせん欲にまみれたバカが若気の至りでねぇ…もし運が悪くても、文句はそいつに言ってくれな…?」
おのれ前の転生者許すまじ。
とはいえ、流石に転生特典の濫用は不味いよな…特典によっては世界すら破壊できるんだしな…。
それに、物騒な特典だったら場所によっては合わないものもあるし…そこは神様に委ねるしかないかぁ…。
「一応、容姿とかの変更は許されるけど、どうする?」
「あ、それは大丈夫です。後は神様に委ねます。」
「そうか……いいか、特典があってもその世界で有利になるとは必ずしも限らない。けど希望を捨てるな。“覚悟を越えた先に希望はある”。」
「!…はい!」
「よし、転生を始めるぞ。そっちの世界でも頑張れよ。」
神様がそう言うと、俺の足下に魔法陣が現れ、俺の視界は光に包まれた。やがて俺の意識は失っていった。
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ガタンゴトン……ガタンゴトン……
「う…ん…電車の…中…?」
適度な揺れと音で目が覚めると、そこは見知らぬ電車の中だった。俺はてっきり赤子からやり直すのかと思ったが、そんな事はなかったようだ。仕方ないか、ランダムだし。
ふと自分の姿を確認すると、黒を基調とした制服を身を包んでおり、座席のすぐ側には鞄とアタッシュケースがあった……ん?“アタッシュケース”?
「もしかして、これが転生特典って奴か…?」
俺はアタッシュケースを手に取り、その場でケースを開いてみる。
ビンゴ。中にはバックルと数枚のカードキーが納められていた。
バックルは黒を基調とした機械的なフォルムをしており、中央の銀色のカバー、左側の認証装置が備えられていた。
そしてカードキー。それぞれバッタ、ハヤブサ、サメ、トラ、シロクマ、マンモス、カンガルー、ライオンといった動物が描かれている。
カードキーの右上にはそれぞれアビリティが記入されている。恐らくその動物に由来したものだろう。バッタとサメはよく分かる。シロクマは生息地からしてかな?ただ、トラとライオンはよく分からない。ライオンの“バースト”は雄叫びからしてかな?そしてトラは…炎のk…おっと、これ以上はいけない。
ちなみに、ケースの上側にもキーはあったが、バッタのやつから派生したもののようだ。やけに金ぴかだし。
「ん?これは何だ?」
ふと見ると、そこには一枚の紙があった。俺はその紙の内容を確認してみる。
『玖流へ
この手紙を読んでいるという事は、無事に転生ができたという事だな。
この世界は一見現代と大差ないが、違う部分がある。この世界には今から50年前、[ヒュージ]という化け物が現れて人類を脅かしている。それに対抗するべく[CHARM]という武器を扱う少女[リリィ]がこの世界を守っている。つまるところ、この世界はさしずめ魔法少女が主体となっているって感じだ。
お前の転生特典は[仮面ライダーゼロワン]…それに変身するための“ゼロワンドライバー”と“プログライズキー”だ。それの使用方法は“ドライバー”が教えてくれる。けどさっきも言ったけど、油断は禁物だ。いくらゼロワンの力が強力とはいえ、それ単体で通じるのは“ミドル級”までだ。“CHARMと契約”できれば話は別だが…。
それから、戸籍と生活費とかはちゃんと用意してあるから安心してくれ。流石に無国籍の奴がいきなり現れたらそれこそ大騒ぎだしな。
そしてその制服姿だが、お前にはリリィ養成施設…ガーデンの一つである“百合ヶ丘女学院”に入学してもらう。そしてリリィ達と共にヒュージに立ち向かえ。
これが最後だ。この手紙は読んでから1分立つと消滅して、この世界の知識が脳内に瞬時に叩き込まれる。一瞬激しい頭痛に見舞われるが、すぐ治まるから安心しろ。それにこの世界で生きていく以上、この世界の一般常識は知っておかないと失礼だからな。
それじゃあ、頑張れよ。
夢に向かって飛べ。
神』
「なんだよ…神様って、意外と過保護かよ…?」
メタ発言が満載な手紙だったが、それでも有難い手紙だった。特に有難いのは戸籍と生活費が約束されてる事だ。無国籍無一文スタートだったらそれこそ詰みだったし…けどリリィが全員少女だけだから仕方ないとはいえ、女子校に入学というのはなんか…恥ずかしいな…下手したらそれこそ袋叩きというかなんというか…。
それにしても気になる事がある。まず、ミドル級までしかゼロワンの力が通用しないというのは何だ?もしかして、CHARMとの契約が密接に関係してるって事なのか?
そしてリリィ達と共に戦え…チームを組めって事だよな…?
そうこうしてる内に、手紙は1分経って粒子状になって消滅した………っ!?
「うっ…!?…ぁぁぁ………!!」
なんだっ!?この破裂しそうな程の頭痛は…!?知識のラーニングが始まったのか…!ああ…一気に情報が頭に叩き込まれるとこうも頭痛がするのか…!!
ああ…耐えろっ!この世界で生きていくための試練だ…!耐えろ俺……!!
「っ…はぁ!…はぁ…はぁ…はぁ…。」
徐々に頭痛が和らいでいく…ラーニングが完了したのか……はぁ…。
目的地に辿り着く前に頭が汗びっしょりじゃねぇか…えっと、ハンカチあったか…?あ、ポケットにあった。
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とりあえず、あのラーニングで分かった事がある。まずヒュージは[ネスト]という場所を拠点に置いており、そこからステルス飛行、もしくは[ケイブ]と呼ばれるワームホールから現れる。
ヒュージの等級だが、下からスモール、ミドル、ラージ、ギガント、アルトラの五段階あり、ネストを運営しているのは主にギガント級とアルトラ級らしく、そこから下は戦闘員として出される。
次にゼロワンの力がミドル級までにしか通用しない理由は、マギと呼ばれるエネルギーにあるかららしい。どうもラージ級以上のヒュージにはマギによる防御フィールドが張られている状態らしく、マギを纏っていないゼロワンではこれを突破できないからのようだ。ならCHARMと契約すればいいじゃないかといえばそうは問屋が下ろさない。
CHARMは10代の少女に共鳴しやすいという点がある。それだけなら男性にも可能性があると思うだろう。だがその理由は、現状の戦術が“9人による集団戦術”に変わっているかららしい。
現状、主力となっているのは9人のリリィによる部隊[レギオン]による連携必殺攻撃らしく、それは女性にしか成せない戦術だからだ。
以前は1人のリリィが数多のヒュージに立ち向かった例が主力だったようだが、被害が大きすぎた故に現在の戦術に切り替わったらしい。
以上の事から、ゼロワン単体ではヒュージを圧倒するのは無理らしく、本格的にヒュージと戦うにはCHARMとの契約、及びレギオンに加入しないといけないらしい。
けど男性じゃCHARMとの契約は困難なんだろ?どうすりゃいいんだ?
ラーニングした知識を得て、入学してからどうするべきか悩んでいる間に、電車は次の駅に到着した。乗車口のドアが開き、一人の少女が乗り込んできた。ピンク髪ミディアムヘアーにサイドテールが特徴で、少々幼い顔立ちの少女だ。太股に目がいってしまったのは内緒だ。( ´・ω・`)
背中には楽器ケースのような大きいケースを背負っている。黒を貴重とした制服…大きいケース…もしかして、百合ヶ丘に向かうのか?
「あの…隣、いいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
俺はその少女に隣の席を譲った。少女は隣に座ると、ケースと鞄を降ろし、メモを取り出した。俺がちらっとそれを見てみると、そこには百合ヶ丘女学院の行き先が書かれていた。やっぱり彼女もそこに入学するようだ。
「ねぇ、その格好…もしかして今から百合ヶ丘女学園に向かうのかな?」
「そうですけど、それが…?」
「実は俺もそこに入学する事になってるんだ。」
「ええっ!?そうなんですか!?」
「うん…ただ、行き方が全く分からないから、教えてほしいんだ。」
「あ、はい。いいですよ。」
彼女は戸惑いながらも、百合ヶ丘女学院の行き方を教えてくれた。そりゃ、男の俺がそこに入学する事知ったら驚くよね…うん…。
それにしても、なんで神様は行き先のメモだけは用意してくれなかったんだ?さてはこれを想定してたからか…?
「そういえば、自己紹介まだだったね。俺は岩倉玖流だ。」
「私は一柳梨璃って言います。」
少女は梨璃と名乗った。果物の梨に瑠璃色の璃を合わせたような名前だ。語呂的に“生まれながらのリリィ”って響きだ。
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改札口を通り、俺達は駅から外に出た。
カシャ!カシャ!
「「…え?」」
「…。」
刹那、横からシャッター音が聞こえた。振り向くと、そこには一人の自衛隊員がこちらにカメラを向けていた。フラッシュはなかったため、カメラの形状的に結構な年代物だろう。自衛隊員はこちらに顔を向けると敬礼をしたが、どこか不真面目な印象だった。
とりあえず俺達は、敬礼した自衛隊員に礼をする。俺達は学院に向けて歩き出す。
学院までの道のりは緑豊かであると同時に荒れ果てた印象だった。先程の駅にも関係者以外立入禁止の注意があったように、学院付近の街並みは殆どが廃墟と断言してもいい。ヒュージ襲来に備えて、リリィ達はこの廃墟を自然の要塞として利用しているのだ。
「それにしても、玖流君はどうして百合ヶ丘女学院に入学する事になったんですか?」
「それが、俺にもよく分からないんだよな。」
「じゃあ、玖流君がCHARMを持ってないのは…。」
「ああ。確かにCHARMは持ってない。代替ならここにあるけど。」
ドライバーとプログライスキーの入ったアタッシュケースに視線を向けつつ、話題を進める。この際、俺が転生した者である事は黙っておこう。下手にその事を話したらどうなるか分からないし。
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しばらく歩いていると、白を基調とした門の前についた。その奥に、百合ヶ丘女学院がある。
「着いたな…。」
「はい、ここが…百合ヶ丘女学院。」
長い道のりだったけど、ようやく着いたな。この百合ヶ丘女学院に入学して何が起こるかは分からないけど、とにかくやってみなきゃ何も始まらない。
最初の一歩を、踏み出すまでだ!
俺と梨璃は学院に入ろうと横断歩道を渡ろうとした、その時
ブォォォォォォォン!
「っ!?梨璃、ストップだ!」
「えっ!?」
右から車の走行音が聞こえ、俺は同じく横断しようとした梨璃を引き止める。右から走ってきたリムジンは、俺達の目の前で停車した。このリムジン、電車に乗ってた時にさっきの海沿いの道を走ってたな…。
「ドアくらい自分で開けますわ。今日から自分の面倒は自分で見るのですから。」
リムジンのドアが開き、そこから一人の少女が出てきた。赤みがかったブロンドヘアーの少女だ。少女はリムジンの運転手にそう言ってドアを閉めた。
あの容姿や雰囲気からしてどこかの令嬢かな?
「あら?」
「えっ、えっと…。」
「ああ…その…。」
俺達はその少女と目が合った。偶然とはいえ、口論を聞いてしまったからちょっと気まずい…
「あら、ごきげんよう。貴方達もう帰ってよろしくてよ。」
「「ええっ!?」」
なんでさ!?いや初対面だけども唐突だな!?
「ちょっと待って下さい。私達、今着いたばかりで…。」
「でも私、付き人は必要ないと申し上げたはずですのよ?」
「つ、付き人!?違います!“私達”は、百合ヶ丘の新入生です!」
「”私達”?…でも、その男の方は…」
「あの…混乱させる発言で申し訳ないですが、俺もこの学院に“入学”する事になってるんです。」
「…………なんですってぇぇぇ!?」
俺のカミングアウトに目の前の少女はお嬢様らしからぬ反応をした。まあ、ここでは妥当な判断です…はい。
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「まあ、ここは何かの縁という事で…私は楓・J・ヌーベルと申します。」
「私は一柳梨璃と言います。」
「俺は岩倉玖流です。」
互いに名前を名乗りながら学院の校舎まで歩く俺達。楓と名乗った少女は梨璃の名前を聞いてきょとんとした反応をしていた。
「あら?貴女、今“リリィ”って…。」
「あ、これは名前が“梨璃”なんです。」
「まぁ、つまりは生まれながらのリリィって事ですわね。」
俺が先程考えてた事と同じだ。まあ、リリィの養成施設に入学するんだから、梨璃の名前は縁起がいいのだろう、多分。
「そういえば、玖流さんはどうして百合ヶ丘に?」
「それが、俺にもよく分からなくて…唐突に入学が決まったんですよ。」
楓さんに先程と同じ質問をされた俺。そりゃ、男でしかもCHARMすら持っていない俺が百合ヶ丘に入学なんて考えられないからな…神様はこの世界の知識はラーニングさせてくれたけど、立ち回りまでは教えてくれなかったな…そういや、CHARMとの契約がどうとか書いてあったけど、もしかして“ゼロワンの力”が関係してるのか…?
俺がそんな事を思っていると
「……ん?なんか妙に賑やかだけど、何だ?」
俺の目の前にある光景が目に映る。“二人の少女が対峙している”光景だった。一人は猫耳のような髪留めを着けたピンク髪の少女、もう一人は黒い長髪の少女だ。ピンク髪の少女は既にパルチザン型のCHARMをケースから出した状態で背負っている。一方黒髪の少女はCHARMをケースに納めたままだ。当然周囲には野次馬達が群がっていた。
「中等部以来お久しぶりです、夢結様。」
「何か用ですか?遠藤さん。」
「亜羅椰と呼んでいただけませんか?」
ピンクの髪の方は亜羅椰、黒髪の方が夢結という名前らしい。来て早々一触即発の雰囲気だ。
「やっと着いた…と思ったら、なんですか?あれ。」
「大方、血の気の多いリリィが上級生に絡んでいるんですわ。」
「そんな!リリィ同士でCHARMを向け合うなんて!」
「…なぁ、これ止めた方がいいんじゃないか…?」
いくら何でも血の気多過ぎだろ…これが日常茶飯事だとしたら各地のガーデンもこんな感じなのか?
「あら!?あれは白井夢結様ですわ!ごきげんよう梨璃さん!玖流さん!」
「え!?ちょっと…!?」
楓さんは夢結様の姿を視界に捉えると、目を光らせて猪突猛進で野次馬達の群れに突撃していってしまった。
「行っちゃった…あの騒ぎどうすんだよ……って、梨璃?」
「…。」
夢結様の姿を見て何か思い当たるような表情をしている梨璃。どうしたんだろう?
「あ、あの!」
「「え?」」
「今のは、楓・J・ヌーベルさんでは!?」
「「う、うん…。」」
刹那、何処からともなく現れた少女に楓さんの事を質問された。オレンジ色のショートヘアーにアホ毛が生えており、梨璃よりも小柄だった。
「あの方は、有名なCHARMメーカー・“グランギニョル”の総帥を父に持つ、ご自身も有能なリリィなんです!」
少女は楓さんの詳細を説明した。何処かのお嬢様かなとは思ってたけど、予想以上にスケールが大きかった…。
「あっちの方は遠藤亜羅椰さん!中等部時代から名を馳せる実力派!そしてもう一方の方が、どのレギオンにも属さない孤高のリリィ、白井夢結様!」
更に、現在対峙中の亜羅椰、及び夢結様の詳細も教えてくれた。連携戦術主体となっている中、未だにレギオンに属さず単独でヒュージと戦うリリィ…それが夢結様のようだ。
「リリィに詳しいんだね。」
「防衛省発行の官報をチェックしていればこのくらい…あっ、私は二川二水って言います!」
この小柄な少女は二水というらしい。リリィに関しての情報に随分と物知りだ。
「なぁ、さっき楓さんは夢結様を見て一目散に走っていったけど、何しに行くつもりなんだろう?」
「あの様子だと、夢結様と“シュッツエンゲルの契り”でも結びに行くんでしょうね。」
シュッツエンゲル(守護天使)…電車の中で資料読んでた時にそんな項目があったな…。確か、百合ヶ丘にのみ存在する制度で、擬似的な姉妹関係を結ぶやつだったような…。
「シュッツエンゲルか…二川さんにも、そういう憧れの方は居るの?」
「ふ、二水でいいよ!私みたいに補欠合格のヘッポコがシュッツエンゲルの契りを結ぶなんて…!」
梨璃の問いに二水は慌てながら謙虚に答えた。彼女は補欠合格でここに入学してきたらしい。そうなると、俺は転入って感じかな?
「あはは…気にする事ないよ。補欠なら私「知ってます。一柳梨璃さん。」うっ!?…梨璃でいいよ…。」
いや温度差!さっきと比べて言葉の温度差が激しすぎ!?
「えっと…ところで、貴方は?」
「ああ、俺は岩倉玖流。俺もこの学院に入学する事になってるんだ。よろしくな。」
「ええっ!?何故男の人がここに!?もしかして、貴方はCHARMが使えるんですか!?」
「いや、残念だけどCHARMは使えないんだよな…その代わりとなるのがこの中に入ってる。」
俺はそう言いながら、ドライバーとプログライズキーの入ったアタッシュケースを見せる。
「ちょっと中身見てもいいですか?」
「ああ…いいよ。」
二水の頼みを受け、俺はアタッシュケースの中を開く。
「これは…バックルと、メモリーカード?」
「こんなのでヒュージと戦えるとは到底思えませんけど…。」
梨璃と二水の言う通り、これを見ただけではヒュージと戦うなんて不可能と思うだろう。けど、神様曰く“使い方はドライバーが教えてくれる”と言っていたし、何より“CHARMとの契約”に後々役に立ってくると俺は思う。
「まあ、そう言うと思ったよ…だけど、もしかしたらこれがCHARMに関わってくるかもしれないと思うんだ。」
「これがCHARMに…ですか?」
「多分…とは言っても、俺はCHARMに関して全く詳しくないんだよなぁ…。」
俺はまだCHARMに関して詳しい知識を学んでいない。普通の方法ではCHARMと契約できないが、ゼロワンの力ならそれを可能にする事が出来るというのは、直感ながら分かる。
「お退きなさい、時間の無駄よ。」
「なら、その気になってもらいます。」
そうこうしていると、夢結様の警告を無視してついに亜羅椰がCHARMを起動した。右手のリングを介してCHARMのコアが輝き、ルーンを描く。そしてCHARMはパルチザンから戦斧に変形した。
まずい…とうとうCHARMを構え始めた…!
「手加減しないわよ…。」
「あら怖~い、ゾクゾクしちゃ~う。」
夢結様の威圧に怯むどころか、逆に快感を得ている亜羅椰。サディストなのかマゾヒストなのかはっきりしないなこいつ…まるで、“パンドラの箱を開けた後”みたいに好戦的な態度だ。
「は~い、そこ!お待ちになって。」
刹那、一触即発の雰囲気に待ったをかけて現れたのは、楓さんだった。野次馬達を潜り抜け、パンパカパーンと言わんばかりの登場だった。
「私を差し置いて勝手な事をなさらないで下さいます?」
「何?貴女…。」
亜羅椰は無視し、夢結様の方を向く楓さん。あの、楓さん…夢結様にシュッツエンゲルの契りを交わそうとするつもりなのは知ってるけど、その前にやる事あるよね…?
「お目に掛かり光栄です。私、楓・J・ヌーベルと申します。夢結様には、何れ私のシュッツエンゲルになって頂きたい存じております。」
楓さんは夢結様に丁寧に挨拶し、シュッツエンゲルの契りを結ぶよう申請した。
「ちょっと!しゃしゃり出てきて何のつもり!?それとも、貴女は夢結様の前座という訳?」
「ふっ、上等…ですわ!」
夢結様に下剋上する気満々な亜羅椰の問いに対し、楓はそう割り切って自身のCHARMに手を伸ばそうとする。楓さん…ノブレス・オブリージュのつもりなんだろうけど、血の気が濃いのは結局貴女も変わりないな…。
「まずいぞ…!梨璃、二人を止めに……って…?梨璃…!?」
「あれ…?梨璃さん何処に…?」
あの騒ぎを見ているうちに、梨璃は突然姿を消してしまった。あいつ…こんな時に何処にいったんだよ…!?いや、今はそれよりも決闘騒ぎを止めないと…!
「だ、駄目だよ楓さんまで!」
「速っ!?」
「えっ!?あれ…梨璃さんいつの間に…!?」
音もなく姿を消した梨璃がいつの間にか現場まで到着しており、CHARMを掴もうとする楓を止めた。
速い…!いつの間に野次馬達の群れを潜り抜けたんだ…?
「中々すばしっこい奴じゃな。」
「「じゃな…?」」
「じゃが、一歩間違えれば斬られかねんぞ。」
俺が振り向くと、そこにはハンマー型のCHARMの上に乗って現場を見ている少女がいた。少女は古い語尾を付けて呟いていた。二水の頭には彼女の薄紫色のツインテールの一部が乗っかっていた………ん?二水?なんで鼻血出してるんだ…?
「って、こうしてる場合じゃねぇ…俺も…」
ゴーン!ゴーン!ゴーン!
刹那、学院内に警鐘が鳴り響いた。何かあったのか…!?
「貴女達、何をなさっているのですか!?」
決闘寸前になったところで、一人の少女が騒ぎを聞いて現れた。茶髪の一つ結びが特徴で、その背中には亜羅椰と同型の黒いCHARMがあった。
「えっと…あの方は…?」
「あのお方は出江史房様。百合ヶ丘女学院における“三役”の一角、ブリュンヒルデの称号を持つ、多くのレギオンを管理する総司令官です。」
ブリュンヒルデ…戦神オーディンに仕える三人の戦乙女の一人……そうなると、この学院の生徒会役員はみんな戦乙女に由来する別名が付けられるのかな?
それにしても総司令官か…“やたら鳥に弱かったり”、“死なないけど爆発したりする”というのを聞いた事があるような…。
「遊んでいる場合ではありません。先程、校内の研究施設から生体標本のヒュージが逃走したと報告がありました。出動可能な皆さんに捕獲の協力していただきます。」
どうやら標本用のヒュージが脱走したらしい。逃げたヒュージを撃破するため、戦えるリリィに捜索を依頼しにきたようだ。だけど何だろう、嫌な予感がするな…。
史房様の捜索依頼に、まず夢結様がヒュージ捜索に名乗り上げた。続いて、史房様は一人では危険だと楓さんを捜索に参加させた。どうも標本用のヒュージには擬態能力があるらしく、いくら腕利きの夢結様とはいえ、単独では危険との事だ。
そして梨璃がお役に立ちたいの一心で自ら名乗った。楓さんが捜索チームに割り当てられた際、夢結様は足手纏いは必要ないと言っていたが、史房様の一言に思うところがあったのか、もしくは夢結様と梨璃に面識があったかどうかは知らないが、あっさりと快諾。三名でヒュージ捜索に向かう事になった。ちなみに、亜羅椰は緑髪の少女に連行されていった。なんでこんな緊急事態に決闘を優先しようとするんだよ…。
「そこの貴方。」
「あ、はい!」
「この学院にいるという事は、貴方もヒュージと戦う事が出来るという事ですね?突然で申し訳ないけど、貴方も行ってくれないかしら?」
「分かりました!」
ここで、史房様と目があった俺もヒュージ捜索に参加する事になった。転生早々ゼロワンの力を使う時が来たようだ。
俺は了承すると、ヒュージ捜索へ向かう三人の後を追った。
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