忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

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楔丸
狼が振るう九郎より授けられた愛刀

九郎はこの刀が忍びゆえに人殺しの定めなれど
狼が人より離れぬ楔となることを願った

忍びはこの刀が幾たび黄泉へ落ちるとも
必ず九郎のもとへと戻る楔となることを願った

その願いを刃が汲んだかはたまた業物故か
どれほど強大な敵であろうともその攻撃を防ぎ弾きその肉体に刃を通す
故に狼は勝ち続けたその心折れぬ限り


誇り

 「葦名も、内府どもも、この国ごと喰ろうてくれるわ。我、薄井右近ざえ...」

 ────あり得ぬ世界 選ばなかった世界の一幕 発言者不明

 

 

 

 

 

 「...九郎様」

 

 「どうした、おおか...っ!!」

 

 【怪物祭】の出店として【食事処 葦名】の屋台で働いておりました私(九郎)は、我が忍び(狼)より話しかけられたことに驚きました。

 いつも寡黙で自分より口を開くことの少ない狼が自分より話しかけてきた、ならば無駄口を叩く為などということは無いでしょう。何か問題でも起きたかと思い、問おうとすると私の耳に聞きなれた音が届きました────人々の悲鳴、打ち壊される建物、戦乱の音です。

 

 「何事です!」

 

 よもやこの平和な街“おらりお”で最早聞くことのないだろうと思っていた音。それに動揺して、何があったか見てくるよう狼に命じようとした時でした。

 

 「...何か来ます、九郎様あちらへ」

 

 「...頼んだぞ狼」

 

 狼はある方向を向くとポツリと何かが来ると言い、私を近くの細い路地へと逃がそうとします。

 それに逆らうことはせず、今日の売り上げが入った袋を持ってその道へと入ります。狼に無理はしないように言いながら。

 

 その道を僅かばかり進むと突き当りにぶつかりました。行き止まり、袋小路と言うものです。

 迫りくる何(・)か(・)から逃げるために入った道で起きてはならないことでしたが、私は僅かばかりも動揺することはありませんでした。

 

 行き止まりと言うことは、逆に言えばこの場所に来るには私が歩いてきた道を進む以外の方法がないということです、そしてそこには我が忍び狼がいるのです。下手にどこかに繋がる道に入り、向こう側から何(・)か(・)がやってくることや、あのままあそこにいて戦いに巻き込まれることを考えれば、行き止まりというのは安心できる場所でした。

 

 「...九郎様」

 

 「狼よ何があったのです」

 

 「モンスターです、ダンジョンに出るあれらが街に出ました」

 

 「っ!!...狼よ何が起きているか知りたい、頼めるな」

 

 「...御意」

 

 少し時がたつと私の鼻は僅かな血の香りを捕らえました、その香りの元を探るといつの間にか狼が道の片隅に跪いていました。

 何(・)か(・)を討った狼に何があったのかを聞けば“だんじょん”に出る“もんすたあ”が街に出たというではありませんか。私は何が起きたのかこの目で確かめるべく、狼の腕にこの身を預けて周囲で一番高い建物を指さします。狼はわずかな逡巡の後忍義手より鍵縄を出し、建物を上りすぐに屋根へと至りました。

 

 「これは...なんという...よもや戦が...」

 

 「...いえ、違いましょう。...火薬の匂いがしませぬ」

 

 建物の屋根に上り落ちないように狼に支えられながら私が見たものは、逃げ惑う人々と街を壊しながら疾走する“もんすたあ”でした。

 私の故郷葦名が内府に攻められた時のことを思い出し、まさか何処(いずこ)かが“おらりお”へと戦を仕掛けたのではないかと思いましたが、狼はそれを否定しました。火薬の匂いがしないと。

 

 確かに狼が言う通り特徴的な火薬の臭いもせず、こうして高所から見下ろしても幾筋も黒煙が立ち込めているのが見えるという訳でもありません。いえ火災は起きています、ですがその勢いは弱く、付け火されたものとは思えません。

 

 「ならばこの騒ぎは何処かが攻め入ったのではないと?」

 

 「...おそらく」

 

 戦に火は付き物です。

 燃え盛る炎は攻められた側に恐怖と混乱をもたらし、攻め入る側に興奮と狂乱をもたらします。

 

 ですが今この“おらりお”において起きている火災はいまだ小さくか弱いもの、あれは意図して着けられた火では無く、大方“もんすたあ”より逃げる時の混乱によって失火したものでしょう。

 ならばこの騒ぎは誰かが意図したものではないか、或いはこの騒ぎを起こしたものは“おらりお”を壊し尽くそうとは思っていないのでしょう。

 

 「ならば狼よ、この町に住むものとしてこの騒ぎを治める手伝いをしなさい」

 

 「...しかしそれでは九郎様の身が」

 

 「私はここにいます、見えるところにいればそなたも安心できるでしょう」

 

 「...御意」

 

 【怪物祭】に参加していた冒険者達でしょうか、幾人の者らが暴れまわる“もんすたあ”に立ち向かっていますが、“だんじょん”に入る時とは違い装備がない為に苦戦しているようです。

 仕方のないことです、彼らにとって武器とは日常に持ち込む物ではないのでしょう。

 

 この騒動を収束させるために、またこの町に住む一人として私は狼に手伝いをするよう命じました、しかし狼は私の身を案じているようです。

 狼が私の身を案じてくれるのは嬉しいのですが、今はそんなことをしている場合ではありません。高い所にいれば“もんすたあ”に襲われることはないでしょう、それに狼の目の届く所にいれば何かあった時駆けつけることが出来る、そう私が説得すれば狼はわずかに躊躇した後下に降りていきました。

 

 狼と別れ一人になった私は下で何が起きているかを見ます。

 建物の屋根の上にいる今の私には“おらりお”が見渡せます。

 “もんすたあ”から逃げ惑う人々、その人々を救うため危険を顧みず“もんすたあ”に立ち向かう者ら、逃げる際に怪我をしたのか苦痛に顔を歪める人々、自分も危険にさらされながらもその人々に手を差し伸べる者ら。

 いま私の眼下で一つしか無い命を輝かせながら人々は生きています。

 

 もう終わったことです、たとえその気になったとしても、最早あ(・)れ(・)ら(・)を集めることは狼でも無理でしょう。

 ですがこうして人々がその限りある生を必死に生きているのを見ると、どうしてもこの身に宿る【竜胤】を疎ましく感じます。

 

 狼、我が忍び、彼はいつも私の願いをかなえてくれます────その命を犠牲にしてでも。

 だからこうして人の輝きを見ると考えてしまうのです。もしあの時平田屋敷で狼と主従の約定をしなければ、もしあの時死にかけた狼に回生の力を授けなければ、もし、もし、と。

 私は狼を無限に続く地獄へと誘い込んだだけなのかもしれない、そう思うと己の行動を顧みてより良い行いが出来たのではないかと、そう何時も後悔するのです。

 

 「...九郎様」

 

 「狼か、終わったようだな」

 

 「はっ...九郎様におかれましては何かしら憂慮されている様に見えます...いかがなされました」

 

 私が自分の後悔に沈んでいると、狼が私に声をかけてきます。

 視線を下にやると私たちの“ふぁみりあ”の仲間である狩人殿と焚べる者殿が“もんすたあ”を追い詰めています。

 それだけではありません、あれは“ろき・ふぁみりあ”と“がねえしゃ・ふぁみりあ”でしょうか、恐らくは高名な冒険者たちが中心となって組織的な動きをしているようです。もう“もんすたあ”が“おらりお”から駆除されるのは時間の問題でしょう。そう思い下に降りようと狼に声をかけようとした時、狼が私に問いかけます。

 

 ありえないことではありますが、もし狼に見捨てられたならば私はこの“おらりお”で【竜胤】を隠しながら生きながらえる自信はありません。

 もし【竜胤】のことが知れ渡れば、神々は私で想像もできないような遊(・)び(・)をするでしょう。

 何が起きるのでしょうか、痛いのでしょうか、苦しいのでしょうか。浅ましいことです、狼には幾度となく苦痛を味合わせておきながら、いざその苦痛が自分の身に降りかかるやもしれない、そう思うだけで私の身は竦みます。

 ですが私などよりも遥かに人の心を覗くことに長けた狼に、私の苦悩と恥を隠し通せる自信もありません。

 いえ、常に私に仕えその命をこなしてきた狼に隠し事をすること自体が浅ましい恥なのかもしれません。

 

 「私がそなたに回生の力を与え、終わらぬ地獄へと引きずり込んでしまったのではないかと。そなたの命の輝きを失わせてしまったのではないかと、そう思っておったのだ」

 

 「...」

 

 己の罪と恥を口にします、狼は何も言わずただ唸りました。

 ただただ、沈黙だけが私たちの間に流れます。

 今更口にした所でどう仕様も無いことを口にしたことに後悔していると狼はその低い声で呟くように語り始めます。

 

 「...私は上背も無く、戦いの才もありませぬ。葦名においては幾らでも私より上を行く者は居りましょう。ですが私が遂には、やり遂げられたのは九郎様と回生の力故です。

 

 回生の力があったから幾たびでもやり直せた、九郎様が信じてくださったから、心折れず幾たびでもやり直せたのです。

 そうでなくば葦名の地にて打ち捨てられた骸の一つとなったでしょう。九郎様のおかげなのです。九郎様が成さねば俺(・)は何物にもなれず平田屋敷で、あの井戸の底で物言わぬ屍となりました。

 だからこそ私のすべてを賭して九郎様に仕えるのです。」

 

 何時も寡黙で、その心を覗かせる事の無い狼の心を剥き出しにしたような言葉でした。

 これほどまでに心を曝け出した言葉を聞くのは葦名にて狼が最後に口にした言葉。私に人として生きてほしいという言葉以来でした。

 

 嗚呼、私は果報者です。これほどの忠臣を得ることが出来るなど、私のような者には過ぎた幸運です。

 そう思っていると目頭が熱くなります、鼻奥がつんっと痛くなります。

 

 「...」

 

 「!?狼よ、一体何を」

 

 「ここは風が強うございます、御身が冷えるといけませぬ。これより拠点に帰ります、周りは警戒しますからご自由に」

 

 いけません、泣くなど狼の主にふさわしい行動ではありません。そう涙をこらえていますと狼が私を自分の服の中に隠します。いきなり何を、と問うと狼はご自由にと言い私の体を揺れが襲います...どうやら走り出したようです。

 誰にも見られない温かな狼の服の中、私は溢れる涙を堪え切れませんでした。

 

 

 

 

 

SIDE狼

 

 「...では御前失礼致します」

 

 九郎様へ一礼を行い建物の屋根から体を躍らせ、そのまま下にいたモンスターの首を貫く。

 致命の一撃を受け近く灰へと還るだろうモンスターの首を搔き切り、その魔石を抉りだす。今の自分にゆっくりとモンスターが死ぬのを待つ暇はない。

 モンスターに追いかけられていたのだろう、周囲にいた者らが困惑の声を上げるがそれには構わず次の獲物を目指してその場から走り去る。

 

 逃げ惑う人々を追いかけるモンスターなど幾らでも付け入る隙がある。その隙に楔丸を突き立て魔石を砕いていく、それが十は数える。

 

 (おかしい、幾ら何でもモンスターが多すぎる)

 

 考えが頭をよぎる、幾ら【怪物祭】とは言え調教できるモンスターの数には限りがある。

 だが自身が切り伏せたモンスターだけでも十は超える、しかし未だ混乱は収まらず、悲鳴もまた収まらない。

 

 何故?そう頭に浮かんだ考えをどうでもいいと一蹴し、新たなモンスターを見つけそれを灰に還そうと一撃を放つ。

 忍殺────忍びの業の極み、忍びの相手の弱点を見抜く目と、その戦闘術、そして命を奪うことに僅かな動揺も生まぬ心によって放たれる致命の一撃。

 

 だがその一撃を受けたにもかかわらずモンスターは健在だった。

 モンスターは忍びの一撃を受ける、その瞬間に僅かに体を捻ったことで致命となることを避けた。そのことを見ていた忍びは即座にモンスターの体を蹴り、その腕の届かぬ距離へと下がる。

 

 忍殺は致命の一撃だ。

 忍びの戦い方により隙を作り、その隙に忍びの目により防ぐことも耐えることもできぬ弱点へと、その相手が何者であろうと揺るがぬ心で放たれる一撃は不可避の黄泉への誘いだ。

 だが忍びの戦った中でも類稀なる強者はその強靭な肉体(一撃では死なぬ生命力)故に、幾千の戦いの果てに得たカン(致命だけは避ける本能)故に、或いはその精神力(気合い)故に避けられないはずの一撃を避け、受け切れない一撃を受け切った。

 故に忍びの頭によぎるのは驚愕ではない戒めだ。自身が僅かといえども目の前の敵(モンスター)より気をそらしていたこと、それを行った自身の慢心に対する戒め。

 

 忍びとモンスターが向かい合う。

 クマのようなモンスターは今死にかけたとは思えない程、否だからこその闘志を燃やしていた。

 モンスターが咆哮と共に放った一撃は例え鎧を纏い、盾を構えていたとしても、その守りごと叩き潰されてしまうだろう強力な一撃だ。だがその一撃が忍びに届くことは無い。

 忍びはその一撃を避けることもせず、受けることもまたしなかった。忍びの行ったことはモンスターの攻撃を愛刀で“弾いた”それだけだ。

 

 

弾かれた爪と忍びの刀の間で火花が咲く。

 

 攻撃を弾かれどモンスターの闘志は衰えず、むしろ燃え盛る。

 モンスターは上から、右から、左から、時にはフェイントすら入れて連撃を放つ。

 だがその攻撃は一つも忍びへと届くことは無く、全て弾かれただ忍びとモンスターの間に火花が咲き続ける。

 永遠に続くかとも思われたモンスターの連撃。だがそれはモンスターが急に体勢を崩したことで終わりを迎える。

 

 忍びにとって”弾き”とは、ただ相手の攻撃が過ぎ去るまで身を守り続けるための物ではない。

 相手の攻撃に合わせて力を加えることで、相手の力によって相手の体幹を削り、遂には致命的な隙を晒させる攻めの守り。

 相手は攻め立てていた筈でありながら、気が付けば自身が打ち倒されている。

 影に纏わりつかれるように、毒が気の付かぬ間に体に回る様に、そこには目を引く派手な一撃などない。

 だが確実に、着実に相手を殺す。これこそが忍びの戦い。

 

 そして戦いの最中に晒された隙を忍びが見逃すわけがない、今度こそ致命の一撃(忍殺)を放ち激闘を制す。だが忍びは勝利に喜ぶそぶりも見せず、再びモンスターを探し回る。

 

 

 

 

 

 

 そうして街の中を走り続けると地の底が揺らいだ。

 思わず足を止め足元を凝視し...わずかな停止の後、近場の建物に鍵縄を引っ掛け、上空へと逃げ出す。

 一瞬遅れて先ほどまで立っていた場所より花が咲く。

 

 地面より咲いた巨大な花(巨大な植物系モンスター)は極彩色の花を持ち、それを覆うように黄緑色の蔓が蛇を思わせる様にうねりながら伸びており、更にはその頭部には醜悪な口腔が獲物を待ち受けている。

 その姿を空中で観察した忍びの行動は早かった、鍵縄を近場の建物へと伸ばし、即座に逃亡を図る。

 

 狼が逃亡を選んだ理由は二つ、1つは忍びの戦闘技術が凡そ対人であること。

 二本の足で立ち二本の腕で攻撃してくる────忍びが戦った強敵にはこの定義に当てはまらない存在もいるが────相手にはめっぽう強いが、そうでない相手には選択肢が無くなる...とまでは言わないが、有効な手札は著しく減る、故に撤退する。

 

 敵から逃げることは忍びにとって恥でも何でもない。それを見た者から投げかけられる嘲りも何の意味も持たない。

 そもそも忍びにとって名誉なぞ何の役にも立たないのだ。言いたいのなら言わせればいい、軽んじたければ軽んじればいい、そう忍びは思う。

 

 しかし忍びが逃亡を選んだとしてもそれを相手が許すかは別の問題だ。

 事実地下より咲いた花────仮に食人花と呼ぼう────はその蔓を伸ばし、空中にいる忍びへと攻撃を加えようとした。

 しかしここで忍びが逃亡を選んだ二つ目の理由が空(・)よ(・)り(・)降(・)っ(・)て(・)き(・)た(・)。

 

 「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

 

 着弾の衝撃と共に喉も潰れよと放たれた悍ましい咆哮が食人花の動きを止める。

 自身が巻き上げた土埃を切り裂き、飛び出してきたのはその狂気を剥き出しにした狩人だ。

 

 その様子を見れば忍びが窮地に陥っているのを見て救援に来た、という訳ではないのが一目でわかる。だが仮にも味方が来るのを感じながら忍びが逃走を図ったのには理由がある。

 

 凡そヘスティア・ファミリアの存在は共闘と言うものが苦手だ。

 例えば灰、狩人、焚べる者は三人でダンジョンに潜っているが、それも共闘するというよりも、それぞれがばらばらに戦いモンスターが殲滅される、その結果辛うじて共闘の体を為していると言うべきだろう。もともと足並みをそろえて、だとか他者の窮地に手を伸ばすといった行動が得意ではないのだ。

 故に忍びに狩人に加勢するという選択肢は無い。そもそも今の狩人に加勢というものが理解できるかは疑問だが。

 

 何より狩人が普段あれだけ内に秘めている物を曝け出しているのだ、あの食人花を逃すことなど万に一つもない。

 なら別の所にいるモンスターに対応した方がいいだろう、という判断により忍びは逃亡を選んだのだ。

 

 空中で鍵縄を建物に引っ掛けることで狩人と食人花より離れ、オラリオの上空を移動する狼の視界に新しいモンスターが映る。その上に舞い降り、モンスターの首に刃を通す。

 そうしてまた戦い(駆除)を始める。

 

 

 

 

 

 「...九郎様」

 

 「狼か、終わったようだな」

 

 「はっ...九郎様におかれましては何かしら憂慮されている様に見えます...いかがなされました」

 

 それほど時間が経たないうちにオラリオの冒険者たちは混乱より立ち直り、統率された動きを取り戻していた。

 ならばモンスターがオラリオの街から排除されるのも時間の問題だろう、と主の元へと戻ると主が何かひどく悩んでいるのが見て取れた。

 自身にできることなど所詮戦い殺すことだけだ、だが話を聞きその苦悩を和らげることはできるかもしれない。僅かであっても自身の主の苦悩を軽くしたいという思いから放たれた言葉に九郎は虚を突かれたように目を見開き沈黙する。

 

 「私がそなたに回生の力を与え終わらぬ地獄へと引きずり込んでしまったのではないかと、そなたのその命の輝きを失わせてしまったのではないかと、そう思っておったのだ」

 

 「...」

 

 主が再び言葉を発するまでの間、跪きながら待っていた忍びに掛けられた物は後悔の言葉だった。

 

 な(・)ん(・)だ(・)そ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)か(・)

 一言でその時の忍びの考えを言ってしまえばそうなるだろう。忍びにとって回生の力とそれに伴い葦名或いはオラリオで幾たびも死したことは大した事ではない。

 

 死んでしまったのは自身が未熟であるから。

 主より命じられておきながら、おめおめと死んで主の命を果たせないことの方が忍びにとって重きを置くことだ。

 故に幾たび死のうと、命の輝きとやらが曇らされようと忍びは気にしない。

 だが葦名にいたころから抱えていた主の苦悩は、例え忍びがそう断言したとしても断ち切られるもので無いことはわかる。

 

 故に忍びは常動かしている腕でなく滅多に動かさない口を動かす。

 自身に戦いの才は無いと、回生の力が無くば何物にも為れなかっただろうと、炎に包まれた平田屋敷で或いはあの枯れ井戸の底で物言わぬ死体となっていただろうと、だが主が自身に回生の力を与えたからこそ、主がこの身を信じてくれたからこそ自身はここにいる。忍びとして、狼として、ヘスティア・ファミリアの冒険者としてオラリオにいるのだと、だから気にする必要などないのだと。

 

 忍びは滅多にしない、考えを他者に伝えるという行動に苦戦しながらも主へと自身の思いを伝える。

 

 自身の言葉を聞いた主が涙をこぼしそうになり、それを堪えようとする。

 涙を見られたくないのならば影(忍び)が隠せばいい、そう思った忍びは主を自身の服の内側に隠す。

 下を見れば先ほどまで暴れまわっていたモンスター達も倒され自身の仲間達もまたその姿を消し始めている。ならば自分たちもホームへと帰ろうと服の中に隠した主を抱き上げ忍びは駆ける。主へと不器用な言葉をかけて。

 

 狼(・)はオラリオの街の中を駆ける、その胸に九郎の温かさを感じながら。

 名誉だとか称賛だとかそんな物よりもこの温かさこそが最も大切なものだと。

 終ぞ自身の仲間達(灰、狩人、焚べる者)が護ることのできなかった温かさを感じながら狼はそう思う。

 

 

 

 

 

 

 大忍び 梟

 狼の義父であり忍びとしての師

 自身の野望の為に幾度となく九郎を狙い

 遂には狼に敗れた、その顔は安らかなものだったという

 

 狼の心に刻まれたその生きざまは

 しかし当人には満足できるものではなく

 故に葦名と内府の戦乱の発端となった

 

 或いは彼を動かしたのはその野心だけでなく

 日ノ本を包んだ戦が終わるそのことを

 戦乱を生き抜いた梟雄としての嗅覚が嗅ぎ取ったからなのかもしれない

 




どうも皆さま

前話の時点で二万字を超えていたので分けることにした私です
信じられますか?構想の時点ではそれぞれ三千字程度の一万二千字ほどの短編予定だったんですよ?

やたら滅多ら文字を伸ばすのは私の悪癖だと思っているのになかなか治せません
まあ取り合えずこの話を書いている時点では今週と来週二週間の間土曜と日曜に一話ずつ投稿する予定です
信用して頂けないかもしれませんがご理解いただければと思います

誇りもとい狼と九郎編終了です
いま一度自分の中のキャラクターを見つめなおすために書いている
この話ですが狼と九郎は書くのが大変なんです

九郎は特殊な喋り方をするし気を抜くとすぐのじゃのじゃ言い出すんです
狼は喋らないし気を抜くとすぐモノローグだけで済まそうとします

そんな九郎と狼ですが
九郎は終わらない永遠の任に狼を捕らえてしまったことに後悔していて
狼はそんなことよりも九郎が生きていることが嬉しいそんな感じです

まあ生きて再び主に会えて茶屋エンドをしている以上
フロム勢の中で一番幸せになっているのは狼ですからね



これより下は私の独り言...創作上のメモです
つまるところ見なくても問題ない奴です
お暇な方はお読みください暇つぶしぐらいにはなるでしょう
そうでない方はここでお戻りください
それではお疲れさまでした、ありがとうございました

狼

武器 楔丸 忍び義手に仕込まれた忍具

行動理念 主の為

戦闘力 他のフロム主人公勢より火力の面において劣るが対人の業において比べ物にならない程高くモンスターのような異形相手には一歩下がるが冒険者相手ならば頭が一つ抜ける
単純な火力では最も低いが戦闘がそもそも無駄なく行うことを目的とした物である為であり他が頭の悪いインフレしているだけとも言える

メンタル面 意外と図太い所がありフロム主人公勢では上から二番目

自身から人に対して 特に感じていない、彼が尊ぶものは主とその周辺だけであり人そのものに対してなどあまりにも大きすぎる物事である

オラリオの住人より 寡黙でいかめしい顔つき故に恐れられていたがファミリアの他がよっぽどなので旦那と呼ばれ親しまれている
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