忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

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火継ぎの大剣

火のない灰が持つコレクションの一つ
かつて火の時代において王たちの化身が振るっていた武器

これは不死者たちの第二の故郷ともいわれる篝火に刺さっていた
死亡し失われていく不死者の魂を繋ぎ止める篝火に突き刺さっていた為か
或いはこの螺旋の剣が突き刺さっていた為に篝火は魂を繋ぎ止めえたのか

どちらにしろこの螺旋剣は陰り消えようした火を繋ぎ留め
その火を一時的とはいえ大きくすることが出来る
だが繋ぎ止めるべき火は最早失われこの剣の意義は火のない灰のみが知る

てお様、六色ダイス様、誤字報告ありがとうございます


遺物

 「灰の方、まだ私の声が、聞こえていらっしゃいますか?」

 ────火の時代火のない灰が聞いた最後の言葉 発言者 火守女

 

 

 

 

 「随分とご機嫌ですね?」

 

 オラリオの中心に建つ塔バベル。

 その中にある自身の主神の居室へと続く道を進む中、オラリオ最強の冒険者【猛者】オッタルは自身の主神へと思わず疑問を投げかけていた。

 自身の主神が最近とあるルーキーにご執心なのも、そしてその()に対してちょっかいをかけていたのも、オッタルは知っている。

 だがなぜそれほどまでにその冒険者に執着するのか、冒険者になってわずか一ヶ月にも満たない冒険者がいったい何を主神へ見せ、これほどまで上機嫌にさせたのか、これはわからない。故にその理由が分かればと思い主神へと問いを投げかけた。

 

 「あら、妬いてるの?」

 

 「ご冗談を。私の心は貴女の物、ですが貴女の心は貴女の物。

 ただこれだけ大きな騒ぎにする意味があったのかを知りたいだけです」

 

 だがその心を読んだように、或いは神故の心眼によってその心を読んだのか、その言葉を投げかけられた主神────フレイヤはくすくすと笑いながら嫉妬しているの?と楽しげにオッタルの瞳をのぞき込む。

 美男美女だらけの神の中でも、なおひときわ輝くフレイヤの美貌にオッタルは揺らいだ様子も見せない。

 

 オラリオの、いやこの地上に降り立ったすべての神は、気まぐれで騒動を起こし、下界を揺らす。だが今回の騒動はあまりにも大きいものとなった。

 それこそ後ろにいたのがフレイヤだと知られれば、他の神々によって天界へと帰されかねない程に。

 あまりにも他の神々の恨みを買っただろう、その恨みとフレイヤが見たがっていたルーキーの()()

 それはフレイヤ様の中で釣り合っている物なのかを知りたいだけです、とオッタルは返す。

 

 「ええ、素晴らしい物だったわ。本当にいくつも手間をかけた甲斐があったというものだわ」

 

 フレイヤはいまだ自身の体内に巡る熱を吐き出すように答える。

 何処までも透明な魂の持ち主、その魂の輝き。

 それを見たいがためにわざわざ遠回りをした。

 例えばガネーシャ・ファミリアが【怪物祭】の為に用意したモンスターの他に、フレイヤの眷族によって捕えたモンスターもオラリオに放ったのもその一つだ。

 

 ガネーシャ・ファミリアが用意したモンスターだけでは、量的にも質的にも彼ら(灰ら)がその気になればすぐに討伐できるだろう。だがそれでは意味が無いのだ。

 だからこそモンスターの量を増やしより強力なモンスターを地上へ運んだ。すべては窮地でこそ輝くだろう彼の魂の輝きを見る為。

 その遠回りの間にその輝きが濁っているのを見たときは、彼らも詰まらないことをするものだと落胆した。

 だが彼は窮地に追いやられた時これまで以上の輝きを放った。

 

 その素晴らしさはこれまでの苦労や、今回の出来事の黒幕(フレイヤ)に対して向けられるだろう神々の恨みなど、気にもならない程の物であった。

 未だにその興奮が冷めやらぬフレイヤは祝杯をオッタルと共に上げるべく、バベルの居室へと共に歩いているのだ...或いは酒でもその熱を冷ませなかった時の為に。

 

 熱に浮かされたような自身の主神を見て、オッタルは心のどこかでその冒険者もいい迷惑だと考える。

 だが神とは、神の寵愛を受けるとは、そういうもの(不条理である)と一人納得し、悪いのはそれを跳ね飛ばせるだけの力を持たない彼の方だと結論を出す。

 

 オッタルが考えることなどその冒険者が、フレイヤからの溺れんばかりの期待に応え、オラリオ最強ともいわれる自身へと追いつき、並ぶほど強くなる、そんな未来ぐらいのものだ。そうなればいいと本当に思う。

 少なくとも意中の神物が、自分以外の人物に対して愛を囁いている現実について考えるよりも、来る可能性が低くとも素晴らしい未来を想像する方がずっとましだ。

 

 そんな風にして彼ら主従がバベルの中を歩いていると、フレイヤの居室へと到着する。

 オッタルはその扉を開き、主神の後に続き室内へと入る。

 そうして目に入ってきたのは、素晴らしい家具や美術品によって、美しい調和が満たされた部屋と、その部屋の中で我が物顔で酒を飲んでいる部外者()だった。

 

 

 

 

 

 「よう、随分とご機嫌じゃあないか。何かいいことでもあったのかい?

 良ければ聞かせてくれないかな、酒のつまみぐらいにはなるだろう」

 

 「...随分と作法を知らないのね。普通自分の部屋にいた不審者とは楽しくおしゃべりするものではないのよ?

 ストーカーか何かだと思われる前に消えたら?」

 

 「おやおや随分とまあ嫌われたものだ、俺もお前ら(神々)が大嫌いだから別に気にせんがね。

 だがストーカーとやらはお前の方じゃあないのか?()()()()()()()()殿()

 

 灰は部屋に入ってきたのがフレイヤだと認識すると、片手をあげて挨拶をしてくる。まるで自身がこの部屋の主であるかのように。

 フレイヤは灰より投げかけられた非礼の数々を受け流し、『さっさとこの部屋から出て行け』と言外に告げる。

 だが灰もまたその言葉を笑い流し、さらにフレイヤへと侮辱の言葉をぶつける。

 

 「貴様...それ以上続けるのなら「オッタル」ハッ...」

 

 自身の信奉する主神への侮辱に、オッタルが怒りを抑えきれずに声を上げる。

 だがフレイヤが名前を呼ぶことで怒りを収め、再びフレイヤの後ろへと下がる。

 そんなオッタルに対して面白い物を見つけた、とでも言いたげに灰は挑発を続ける。

 

 「おやどうしたんだい、それ以上続けるのなら何だ。

 言ってごらんよ()()()()()()()()()()()()()()殿()

 ...なあんだつまらない。オッタル殿は猪人だったと記憶していたが、実際には犬人(神のワンちゃん)だったか。ほらわんこならワンって鳴いてみな」

 

 「...」

 

 こぶしを握り締めて耐えるオッタルに、幾度か犬の鳴きまねをして分かりやすい挑発を続ける灰。

 だが幾ら怒りに打ち震えようとも、フレイヤから押えるよう指示された以上オッタルが自身の体の中で暴れまわる感情を開放することは無い。

 しばらくオッタルをおちょくろうとしていた灰だが、反応が無いことに飽きたのかその口を閉じる。

 部屋の中に満ちた沈黙を破ったのはフレイヤだった。

 

 「それで?まさかオッタルをおちょくる為だけにここに来たとは言わないでしょう?何の用なのかしら」

 

 「んー?ああそうだ忘れていた。まあ挨拶と礼と忠告...いや警告をちょっとな」

 

  フレイヤの『何の用かしら(用件を済ませてとっとと帰れ)』という言葉に対して、灰は指を三つ立ててフレイヤの顔の前に出す。

 

 「まず一つ目はこれまでについてだな。

 狩人は友好関係にまで口をはさむ気はない、なんて物分かりがいいふりをしていたが、俺はそんなことするつもりはないからな。

 おまえに娘はやらんとまでは言うつもりはないが...おっと娘じゃなくて息子だったな。

 とにかく見つめてるだけじゃあ伝わらないものもあるんだ、ちゃんと言葉にするべきだろうさ神と人ならなおのことな。

 まあつまりうちの子(ベル)が欲しいのなら挨拶に来いよ、なに来れない?ならこっちから行くぞということだ」

 

 そして灰の口から放たれた言葉に室内に緊張が走る。

 フレイヤはその言葉にとぼけることにしようかとも思ったが、灰は返事を求めているわけでもないようで、フレイヤの方を見ることもせずに話を続ける。

 

 「二つ目は今日の騒動についてだな。

 うちの他の奴らはお前がこの騒動の犯人だと知れば怒り狂うだろうが、俺としてはそれほど人に対して責任を負うつもりもない。それに過程はどうあれ今回の騒動によってうちの新入りはまた一つ新しい強さを手に入れた。

 ああいう心の強さってやつは俺たちみたいなの(死なない奴ら)じゃ、どれだけ頑張った所で伝えられるものじゃあない。そう言う意味ではあいつに得難い経験を積ませてくれたといえる。その礼だ」 

 

 自身の主神を無視して話を進める灰にオッタルは軽い殺気を放つが、そんな物を気にも留めず灰は馬鹿げたような言葉を口にし続ける。

 

 今回の【怪物祭】での騒動の黒幕であることを知られている。

 そのことにオッタルが先ほどまでの戯れのような殺気を収め、目だけでフレイヤへと、この場で灰を殺すことの伺いを立てるが、フレイヤはそれを手で止めて灰へと次の言葉を促す。

 

 「三つ目は今後についてだな。

 さっきも言ったが、正直お前が何をしようと俺としてはどうでもいいんだ。

 お前ら()によって受けた被害についてあれこれ言う権利は今を生きる人にしかないからな。

 試練によって人は成長できる、神によってもたらされた騒動にどのような評価を付けるのは、その当事者だけが出来ることだ。

 今回はうちの新入りを鍛えてくれたことに免じて、うちの奴らについては俺が押さえておいてやるよ

 

 だがな調子に乗るなよ、幾ら俺が今に関わろうとしないとはいえ限度というものがある。

 おまえが今後もうちにちょっかいをかけ続けるのなら、こっちにだって考えはあるんだぞ

 

 ...まあそんなところか」

 

 フレイヤたちが部屋に入ってきたときから浮かべていた笑み────正確にはヘルムを被っているのだから笑っているような雰囲気だが────を消し、どすの利いた声で脅すようにヘルムの奥からフレイヤを睨む。

 その瞳の圧に押されるようにフレイヤが一歩下がるのを見て、満足したように笑う灰。そのままフレイヤとオッタルの横を通り部屋から出ていこうとする...がフレイヤによって止められる。

 

 「あら、お喋りするだけお喋りして帰ってしまうの?あなたの話を聞いたのだから、今度は私の話を聞く番じゃないかしら」

 

 フレイヤのその言葉を聞いた灰はしばらく顎に手を当てて考えた後頷き、再びフレイヤへと向き合い身振りで話を始める様に促す。

 

 

 

 

 

 「そうね、あなたの言う通りあなたの所の新入りにちょっかいをかけたのは私だし今回の騒動も私が起こしたものよ。

 だけどそれは彼だけの為じゃない、あなたと内緒の話をするためよ」

 

 「ふーん、そりゃあ至極光栄に存じます...とでも言えば良いか?あんた等みたいな頭のいい奴らは一つの物事にいろんな意味を込めるなあ。俺みたいなのは一つの物事について行くだけで精いっぱいだよ」

 

 神々の中でもひときわ輝く美貌を持つフレイヤからの口説き文句とも取れる言葉に灰はめんどくさそうに返す。

 その様子に気分を悪くすることもなくフレイヤは話を続ける。

 

 「【古い時代、世界は灰色の大樹と朽ちぬ古龍のみであった】

 ...神々ですら忘れてしまった古い古い伝承の一節よ。ご存じかしら」

 

 「さあな、それで?」

 

 「さっきも言ったのだけど、この伝承はあまりにも古すぎてそのほとんどが失われてしまっているわ、だからその全てを知ることは今となってはできないの。

 だけどそれでも語り継がれたものはあるわ、それが【始まりの火】と【暗い魂(ダークソウル)】よ」

 

 それまでやる気がなさそうに聞いていた灰がわずかに反応する、その様子を見て笑ったフレイヤはさらに続ける。

 

 「ええあなたの二つ名でもあるわね、【最も古き伝承の終わり(ダークソウル)】...これはただの偶然かしら?」

 

 「俺の二つ名について聞きたいのなら俺に聞くよりも名付けた神にでも聞けばいいだろう?」

 

 「随分と下手なごまかしね。【神会襲撃事件】を忘れられるわけないわ。

 あの騒動によってあなたたちは二つ名を自分で付ける権利を得た。貴方の二つ名を付けたのは貴方でしょう?

 教えてくれるかしら、私達()ですら忘れてしまった物語の言葉(ダークソウル)

 なぜあなたがその言葉を知っていたのか。」

 

 灰はその話はするべき相手(名付けをした神)にしろ、とフレイヤの話を断ち切ろうとする。

 だがフレイヤは話すべき相手(火のない灰)にしてるのよ?と話を続け、遂には確信に迫る。

 何故ダークソウルという言葉を知っていたのか、そう聞かれた灰が舌打ちをする。

 

 フレイヤは確信する、今度こそ灰が常に被っている笑顔の仮面をはぎ取れたと。

 オッタルは驚愕する、常に軽薄な空気を漂わせ減らず口をたたき続ける灰が間違いなく押されていると。

 

 その時部屋の中を一陣の風が吹く。

 ただの風ではない、大きな炎によってまき散らされる風のように、乾きすべてを焦がす熱を孕んだ風だ。

 

 そのことに気が付いたのはオラリオ最強と言われ、数多の戦いの果てにただの勘ですら未来予知めいたものとなったオッタルか、はたまた女神として、地上のありとあらゆるものを見通すとまで言われるフレイヤか。

 どちらにせよ一人と一柱が気が付いた時には、室内には()()()()ならば目を開けていることすらできないような風が吹き荒れていた。

 

 「面倒くさいことを言うんだな女神様(グダグダ面倒なことをしゃべるなよ糞が)

 だが地上にはあんたが知らないことが(地上全てを知っているわけでもないのに)沢山あるだろう?(訳知り顔で語る)

 だからこそ神々は(天界で満足できなくなって)地上に降りてきたんだから(地上に降りてきた身で)

 そんなに俺が気になるのかい(それで一体何が知りたいんだ)...それとも別のの何かが気になるのか?(俺についてかそれとも別か)

 どっちでもいいが女神サマ、(どっちだろうと興味はないが)あんた藪蛇って言葉知ってるかい(暗い闇に潜んでいる物を暴こうとするな)

 藪から出てきた蛇にかまれないと良いな(それ以上探ろうとするのなら殺すぞ)。」

 

 灰の纏う空気が一変する。

 今までの笑いを伴なったものではなく、冷たい水底から見上げている()()()のような冷たいぬるついた気配。

 それに気が付かなければ、そこに何かがあるということすら気が付かない程の。だが気が付いてしまえば、最早気のせいだと思い込むことすらできない圧倒的な、絶望的な、桁違いの存在感。

 

 そのことにオッタルが気が付くと同時に二つの思考が生まれる。

 【これには勝てない】

 何をどうした所でオラリオ最強の冒険者と言われるオッタル(自身)でさえ勝てない、否戦いにすらならない。

 戦士としては恵まれた体格ではない灰が大きく見える。

 実際に大きくなったわけでもない、あまりのその威圧に大きく感じているだけだと分かっていても、抑え込むことのできない恐怖を感じる。

 

 【これは殺さねばならない】

 だがそうだとしてもこれ()は神の天敵だ、ならば殺さねばならない。

 たとえその行いが自身の主神の怒りを買うことになったとしても、相手がこれまで自分が戦ってきた何よりも強くとも、自身の主神(フレイヤ)を害しうる存在ならば殺す。そう覚悟する。

 

 だがそう決めたオッタルが武器を抜こうとすると同時に風が止む。

 

 「...まあつまりはお前が知らない物事だって幾らでもあるだろう?それと一緒だ。

 おまえが知らないだけでその伝承とやらを知っていたやつらだっているんだよ。そういうことだ」

 

 大きく見えていた体が元の大きさに見える(決して大きくない体を小さく縮めた)灰はどこかきまり悪そうに話す。

 その内容が先ほどフレイヤがした質問の答えだと、灰の豹変に呆然としていたフレイヤ達が気が付ける訳もないのだが。返事が無いことに会話は終わったと思ったか、灰は恥ずかしそうに扉を出ていく。

 

 

 

 

 

 部屋に残された一人と一柱が正気に戻った時には、すでに灰はその影すらなく。先ほど見ていた物は白昼夢か何かだったのでは無いかと疑うほどであったが、互いの様子がそれを否定する。

 

 「...あれが火のない灰の底にあるモノなのかしら」

 

 「...なんにせよあれが御身にとって良いものとは思えません」

 

 フレイヤが口にしたのは先ほどまでの灰の様子についてだ。

 オッタルはフレイヤの身を案じた言葉を返し、とりあえず先ほどの風によってめちゃくちゃになった部屋を片付け始める。

 

 もともとオッタルと一緒に祝杯を挙げようと思っていたフレイヤだが、先ほどの出来事で最早そんな気分ではなくなっていた。

 何をするでもなく部屋が片付いていくのを眺めていたフレイヤは、ふと祝杯として開ける予定だった【神酒(ソーマ)】が無くなっていることに気が付く。

 否、無くなったのではない。部屋に入った時に、灰が飲んでいた酒こそが神酒ではなかったか。そう気が付き、オッタルにもともと神酒を置いておいた場所を探させると一枚の紙が出てきた。

 

 『これは迷惑料としてもらっていくぞ────火のない灰』

 

 そのメモを読むと同時に「あいつやっぱり一発殴ってきます」と灰を追いかけようとするオッタルを引き留め、フレイヤの口から笑みがこぼれる。

 嗚呼やっぱりあの男(火のない灰)は傲慢で、ふてぶてしく、他人を怒らせるのが上手い。だがそうではなくては。

 フレイヤは心の中を爽やかな風が通り抜けた様にすっきりとした気持ちになる。

 ...それはそれとして、今度彼の主神(ヘスティア)に会ったなら文句を言おうと決めたフレイヤであった。

 

 

 

 

 

SIDE火のない灰

 

 「ああ~やっちまったなあ。今からでも無かった事に出来ないかなあ。無理だな」

 

 灰はバベルの外を歩きながら頭を抱える。

 先ほどまでバベルの中で行っていたフレイヤとの対話において、灰は思わず怒りを感じ、その身に宿る始まりの火の残り熱を開放してしまった。そのことは灰にとって頭を抱える理由に成りえた。

 

 そもそも何故火のない灰がフレイヤに会うためにバベルへと来たのか、それを語るには【怪物祭】の朝にまで話を戻す必要がある。

 

 

 

 

 ヘスティア・ファミリアホーム【廃教会地下】 ─ベルが出発した後

 

 「うん?何だったかなこの気配。どこかでも感じたような?あれはどこだったかな。

 ここ(オラリオ)だったような、(ダンジョン)だったような、(火の時代)だったような。...いや少し違うな?

 俺の知っている()()とは違う...気になるな」

 

 ヘスティア・ファミリアのホーム廃教会の地下に、一人ぶつぶつと呟く鎧姿の男────火のない灰がいた。

 ベルを【怪物祭】へと送り出した後は、今日一日ホームで武器の手入れでもしようかと思っていた灰。

 だが、オラリオの街の下より()()()()()を感じた灰は、その持ち前の好奇心を抑えるという気もなく、その気配の元を探し回っていた。

 

 好奇心は猫をも殺すと言われるが、不死者である灰にとってそんなものは脅しにもならない。

 それどころか火の時代、不死者同士においては、殺すぞ何て言葉は非常につまらない冗談として扱われていた。

 

 閑話休題(話が逸れた)

 ともかく気配を探りながらオラリオの街を歩き回っていた灰は、下水道の先に気配の元があることに気が付いた。

 用が無ければ近づきたい場所でもない下水道が目的地だと気が付いた時点で、灰としては見なかったことにして帰りたかったのだが。明らかに何かあるにも関わらずそれを無視して進むと、大抵後から碌な目に合わない、と経験で知っていた灰はトラウマ多き場所(下水道)をいやいや進んだ。

 

 曲がり角や分岐が来るたびに、死角へと石を投げて何もないことを確認し、時としてネズミの群れが出てきて悲鳴を上げながら逃げ出したり...。

 そんな苦難を乗り越えてようやく下水道の奥にあった部屋へとたどり着いた灰。

 だがその先にあった物はもぬけの空になった部屋と天井に空いた穴、そしてその穴からさす光だった。

 

 ええぇぇ...と思わず困惑の声を上げながら穴から上を覗く灰。

 どうやら奇妙な気配の持ち主はすでに地上へと出て、暴れているようで、振動が地下にいる灰にも伝わってくる。

 苦難を乗り越えてたどり着けば、すでに奇妙な気配の持ち主は地上に出ていたという事実に、ただでさえ少なくなっていたやる気が根こそぎ無くなっていくのを感じる灰。だがここまで来て何も無しでは帰れない、と地上に戻る。

 地上に戻った灰が見た物は、オラリオの街中をモンスターが暴れまわってる光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 オラリオ街中【ダイダロス通り】 ─ベルたちがモンスターに追いかけられていた頃

 

 こうなっては最早、奇妙な気配の持ち主を探すことは不可能だろうと灰は諦め、ホームへと帰ることにした。

 帰り道を大変だなあと他人事のように(事実灰にとっては他人事なのだが)考えながら歩いていると、自身の主神が走っている(何かから逃げている)気配がした。

 一応眷族である以上は助けるべきだろう。

 そう思い、ヘスティアの気配を追いかけた灰が見たものは、

 心の奥に秘めていた思いを吐き出す後輩(その心が折れたベル)と、それを受け入れなお奮い立たせる主神(へスティア)であった。

 

 「はっはっは、やるじゃあないか」

 

 必要なら助けに入るか、とモンスターからもヘスティア達からも見えない場所で観察を続けていた灰。

 だがベルは再び立ち上がり、自身よりも格上のモンスター相手に戦い、勝利した。

 灰から見れば無様とすら言えるその戦い。だがそれを見ていた灰は上機嫌であった。

 

 不死者というものは為りたての内は死を恐れ、人であったころの記憶を失うことに恐怖する。

 だが不死者として生きる────幾たび死のうとも篝火にて蘇る不死者が生きているといえるかは別の問題として────内に失う恐怖を忘れる。

 そもそも死んだとしても次があるという考えがどこかにある以上、()()()()()()()()()()()()()というものは不死者には無いものだ。

 

 不死者にあるのは命を投げ捨てた戦いだけであり、ベルが見せた命を懸けた必死の覚悟とは近いようでありながら、両者の間には深く、広い、埋め難い溝がある。

 

 遥か昔

 灰が灰として目覚める前、人として生きていた時代。或いはその後のただの不死者であった時代には、灰も持っていたのかもしれない覚悟。

 だが灰が【火のない灰】として三度目覚め、ロスリックを冒険するうちにそれを忘れて久しい。

 

 だがあの後輩(ベル)は心が折れながらも再び立ち上がり、一度しかないその命の限り輝きを放ち、遂には勝利した。

 

 灰は不死者であることを誇らない。

 だが一度も死ねない()()()()に対して不便だなと思うことはある。そんな灰をして枯れ果てたと思っていた心が動く。

 師が目をかけていた弟子の成長を感じた時にも似た気持ちになりながら、灰はこの出来事を覗いていたのが自身だけではないことに気が付き、イラッとした。

 

 好奇心を満たすことが出来なかったことによって悪くなった機嫌を、自身の後輩が見せた輝きによって直した灰にとって、イラっとしたというのはケンカを売りに行くのに十分な出来事であった。

 更には覗き見していた存在こそが、ベルと接触した時に自身やベルを覗き見ていた犯人であろうと推測し、一言文句でも言ってやるかと、地上に戻ってきたときには尽きていたやる気が満ち溢れる。

 

 「さて、それでは覗き見さんを覗き返すかね。

 『汝深淵を覗く時深淵もまた覗き返しているのだ』...だったか?」

 

 灰は自身のソウルに溶かしていたコレクションの中から【ささやきの指輪】を取り出し指にはめる。

 灰が火のない灰として目覚めた時には、もはや失われていた物の一つであり。本来ならば灰は()()の存在を知ることすら無かっただろう。

 しかし灰が正統騎士団の大剣に酷似した武器(亡者狩りの大剣)を持っている、と知った焚べる者がそれと交換に灰へと渡した数々の装備の中の一つであり。今では灰のコレクションの一つだ。

 

 この指輪の効果は、指にはめることで一部の敵の声を聴くことが出来るというものであり、実際のところ使い道があるという訳ではない。

 だが王たちの化身を倒し、ただの不死者という枠すら外れた灰が使うことで、距離に関係なく自身が敵対視している存在の言葉を聞くことが出来る。

 最も灰としては効果そのものよりも、『すでに失われていた物』という点に価値を見出していた為、滅多に使う事の無いものなのだが。

 

 「ん~?ふんふん、なるほどなるほど、へえ~想定通りというべきか、なんだつまらんというべきか。まあどっちになるかは相手の出方次第かね」

 

 指輪の効果によって耳に届いた囁きを聞いた灰は一人頷きながら目的地を定める。

 オラリオの中心に建つ巨塔バベル、その一室へと。

 

 

 

 

 

 バベル内【フレイヤの居室】─フレイヤ達が居室へと帰ってくる少し前

 

 「お邪魔しま~す。...おや誰もいないのか、まあ知っていたけど。」

 

 オラリオを包む混乱故にか、明らかに警備が手薄なバベルの中を【見えない体】を使用しながら我が物顔で進む灰。

 そのまま目的地であるフレイヤの居室へと侵入するが誰もいない。

 最もそのことを知っていたからこそ灰は忍び込み、そのうちに帰ってくるフレイヤを待ち構えることにしたのだが。

 

 どうするか、灰は考え込む。

 ローリングで家具を壊して役立つ物が無いか探したり、扉の後ろに隠れて部屋の主が帰ってくると同時に【糞団子】を投げる、といった火の時代の流儀でフレイヤ達を出迎えるのも悪くはない。

 悪くはないが、流石にそこまですれば【戦争遊戯(ウォ―ゲーム)】待ったなしになるだろう、それはちょっと困る。故に家探しをする程度に収めておく。

 

 そうして見つけた酒を飲みながら、暇をつぶしていれば部屋の主たちが帰ってくる。

 部屋へと戻ってきたフレイヤへと声をかけ、ついでにオッタルで遊ぶ。

 そうして会話の主導権を握った灰は自身の要件を畳みかける。

 

 灰の推理を元に話をしたが、それが真実フレイヤの行いを言い当てているのか、それを聞いたフレイヤがどう反応するのか、など興味はない。

 灰とてオラリオ(この世界)に来てそれなりになるが、灰にとっての常識は依然火の時代のものであり続けている。

 かの世界において会話とは良くて自身の意思を相手に伝える物であり、悪ければ自身の意図を押し付けるものでしかない。灰にとって会話とはその程度のものでしかない。

 

 警告をしてフレイヤの怯えた姿を見たことで、溜飲を下げた灰はそのまま帰ろうとする。だがフレイヤに引き留められて今度はフレイヤの話を聞くこととなった。

 それが間違いだった。

 

 フレイヤの話は面白いものではあった。

 事実灰に関係のない話ならば、「おひねりは十ヴァリスで良いか」と惜しむことなくチップを恵んだだろう。 

 だがその内容が火の時代に関する物であったことは、フレイヤにとって不幸な出来事であった。

 灰の数少ない逆鱗(許すことのできない事柄)に触れてしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 灰の歩んできた道筋にどれ程灰の意思が存在したのか。

 まるで思春期の子供が抱える悩みのような問い。

 だが火のない灰、いや不死者にとっては意外と笑い飛ばせない問題だ。

 

 不死者には語り継がれる、ある使命がある。

 火継ぎの旅をして火を継ぎ、世界を救うという使命が。

 しかし火継ぎとは火の時代を存続させる為に、また()(小人)に課した枷より外れた不死者を処分する為に、その輝きで人の目を曇らせる為に、でっち上げられた偽りの使命。

 だが【火のない灰】として起こされた者らは、全てその火継ぎの旅の途中で、心が折れた者であり、火継ぎを成し遂げられなかった者らだ。

 

 呪われた印により人としての生を失い、偽りの使命を求めるうちにその呪われた生すら失う。

 火の時代にありふれた呪われた者(不死者)の人生。

 だが【火のない灰】として目覚めさせられた者らには、眠りすら許されず。三度の目覚めが与えられた。

 

 全ては火の時代を、始まりの火を繋ぐ為。

 灰とて最初は喜んだ。何も為せなかった自分にも、まだ為せることがあるのだと。

 だが不死者としての記憶すら失った灰が見たものは、末期という言葉ですら生ぬるい世界。

 

 そもそも【火のない灰】の使命とは、一度始まりの火を継ぎ、二度目の火継ぎを拒否し逃げ出した薪の王達────火が陰り世界が闇に覆われそうになった時、再び火継ぎを行えるだけの強大なソウルを持つ者ら────()()()()()()()()()()を集め、火のない灰(薪にすらなれず灰になった者)を僅かな間でも火継ぎに耐えうる存在へと鍛え上げ、火継ぎを行うこと。

 

 最早世界は一度薪とした者の燃え残り(薪の王達)と、薪にすらなれなかった者(火のない灰)、に縋ることでしか繋ぐことが出来ない所まで来ていた。

 

 だが灰はそれでも良かった。

 なにも為せなかった自身でも何かを残すことが出来るのだと、そう信じて始まりの火を継いだ。

 

 

 

 

 

 だが四度目覚めた(しかし安らかな眠りは与えられなかった)

 火のない灰として目覚めた時と何一つ変わらない石棺。

 その中で目覚めた灰は何が起きたか理解できず固まった

 

 自身の気が狂ったのかとも思ったが、道を進めば自身の知る通りの世界が現れ、自身の知る敵が現れ、自身の知る出来事が起こる。

 つまるところ自身の旅がやり直しになったのだと理解した時、灰の口から奇妙な笑いがこぼれていた。

 

 その後の灰はありとあらゆることをした。

 旅で出会う人物全てと仲良くしようとした。

 出会う人物全てを殺し尽くした。

 必要な人物を除き人と触れ合わなかった。

 幾たびも世界を続けさせようとした(火を継ごうとした)

 幾たびも世界を滅ぼそうとした(火を簒奪しようとした)

 幾たびも旅そのものを投げ出そうとした(そもそも旅から逃げ出そうとした)

 

 だがどのような道筋を辿ろうとも自身の終わり(石棺と目覚め)は変わらず。

 狂気としか言いようのない火の時代の終わりの中でさえ、気の狂ったと言わざるを得ない行いの果てに灰は一つの結論を出した、否認めざるを得なかった。

 

 世界は最早どうしようもなく終わってしまっていると。

 

 だから終わりにすることにした。自身の旅を、火継ぎを、始まりの火を、火の時代を...火の時代に住む人の営みを。

 それはかつて持たざる者と言われ、過去の出来事を何一つ思い出せない自分が唯一誇れる自身の過去だ。

 

 だが目の前の神(フレイヤ)再び火の時代をもたらそうとしている(自身の行いを無に帰そうとしている)

 灰の怒りに火を付けるには十分な行いであった。

 

 ...そんな訳はない。

 火の時代の出来事は最早遠い伝承の中の出来事、神々ですらその伝承を忘れている。そんな時代において何が出来るだろう。

 そもそも火の時代において、始まりの火はいつの間にか生まれた物。決して神が生み出したものではない。故にただ虫食いの伝承を聞いただけの神に何かが出来るような代物でもない。

 そう考えが追いついた為、灰の頭は冷えた。

 だが始まりの火の残り熱によって熱された部屋の空気はそうはいかない。

 

 故に気まずい空気から逃げるように、言葉を吐き出し部屋から出た。後から追いかけられないように願いながら。

 だがバベルから出て歩くうちに、これからについて頭が回るようになると、自身の目の前にはあまりにも問題が積み重なっていることに気が付き、灰は頭を抱えながら道を歩く。

 自身のホーム(帰るべき場所)へと。

 

 

 

 

 

 火守女

 火の時代を繋げるための旅をする不死者に仕える巫女

 篝火を護り火継ぎの巡礼の手助けをする者ら

 

 その瞳はあるべきでは無い新たなる時代を見るとされ

 その火の時代への裏切り故に全ての火守女は瞳を失っている

 

 薪の王の一人エルドリッチは深海の時代と呼ばれる何かを見出し

 故に神喰らいを行った

 

 では火守女の瞳は一体何を映し得るというのか

 それを知るものは最早いない

 

 

 




どうも皆さま

疲れました、無茶苦茶疲れました、書いても書いても終わらないこの話に疲れてしまったのです...な私です

いや本当にまだまだ書きたいことがあったんですがとりあえずは遺物の章終了ということで

戦闘描写の練習と銘打って始めたこの一連の短編、否短編になるはずだったものですが
書き終わって分かったことは戦闘描写は細かくすると長くなるということです
...当たり前ですね 

まあ何にも考えずにこの小説を始めた私ですので
少し考えればわかるようなことも実際やらなければわからなかったりするんです
こんな作者ですがもう少しお付き合いいただければありがたいです

これより下は私の独り言...創作上のメモです
つまるところ見なくても問題ない奴です
お暇な方はお読みください暇つぶしぐらいにはなるでしょう
そうでない方はここでお戻りください
それではお疲れさまでした、ありがとうございました

火のない灰

武器 火の時代の武器 焚べる者より譲り受けた武器 オラリオに来てから手に入れた武器 何でも使う

行動理念 退屈を潰す 楽しいことを探す

戦闘力 この小説最強の存在 鍛え上げられ続けた魂とその肉体は最早ただの不死者の領域を超えており故に灰が使用する魔術・奇跡・呪術は既存のそれを大きく超えている 灰に匹敵する存在は神の力を十全に振るう神ぐらい

メンタル面 現役の人物へと好き勝手言う隠居した存在を思わせる、ある意味無敵。しかし心がどこかで折れているともいえるため実はフロム主人公勢では下から二番目

自身から人に対して 人に対して上位神の視点に近い見方をしており基本的には放置主義 人がどうなろうともいずれはまた人が生まれるだろうという考えは火の時代を終わらせ新しい時代が生まれるのを待ったという経験故か

オラリオの住人より ほとんどの住人からはなんか怖い人ぐらいにしか思われていないが鍛冶師などからは機会があればぼこぼこにしたいと思われている ある意味一番気さくに接されているともいえる
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