忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

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魔法

ある種族が生まれつき持つ力或いは神の力によって花開く人が内に秘めた力

前者が人々の研鑽によって受け継がれ磨き上げられた宝珠であれば
後者は自身という存在を世界に表現するための自己表現である

この違い故か神の力によって得る魔法は千差万別無数の姿を持つ

だが大した違いではないのだ
詰まるところは使い方次第
ただ戦う為の手段の一つに過ぎない


新しい力

 ダンジョン37階層

 下層を乗り越えた冒険者達に立ち塞がる深層(新たなる絶望)の入口。

 その地にて階層主と一人の冒険者が対峙していた。

 深層へと歩みを進めた冒険者達を迎える、【迷宮の孤王(モンスターレックス)】ウダイオス。

 下半身を持たず上半身のみが地面より生えているようなモンスターであるが、LV.4のモンスタースパルトイを無尽蔵に生み出し、自身もまた視界の中に黒剣の剣山を無限に生やす強敵。

 それに立ち向かうのは【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

 ギルドの定めたウダイオスのLVは6、対するアイズのLVは5。

 自身よりも強いモンスター相手に一人で立ち向かうだけならばアイズとて経験はある、だが本来階層主とは複数の冒険者で討伐する物。

 まかり間違っても、一騎打ちをするような相手ではない。

 だが、そんな常識に縛られていては()()()()()()()()へは届かない。故に同じロキ・ファミリアの冒険者リヴェリアに見届け人を頼み、前人未到の挑戦へとアイズは挑む。

 全ては己が願いを叶えるだけの力を求めるが為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うう...あたまがいたい...」

 

 「今回はうちのバカ娘どもが申し訳ないことを...ほらアンタらも謝りな」

 

 【豊穣の女主人】の奥、店員さんたちが寝泊まりしている部屋の一室で、僕は横になっていた。

 目の前ではこの店の店主であるミアさんと、アーニャさんが謝っている。

 

 「みゃーが間違えたのも悪いけど、こいつが気が付かなかったのも悪...痛いにゃ!!」

 

 訂正、ミアさんによってアーニャさんが謝らされている。

 

 「大丈夫ですかベルさん。何があったか、はっきりしていますか?」

 

 こちらを気遣ってくれるシルさんの言葉に、僕は記憶をたどる。 

 ダンジョンに潜った後、先日リューさんに助けてもらったことのお礼を言いに【豊穣の女主人】に来た。だがあいにくリューさんはお使いだとかでお店には居なかった。

 そうなんですか、じゃあさようならと帰ろうとした僕だが、ミアさんが「酒場に来て何も頼まずに帰る気かい?」と、圧をかけてきた。

 その言葉に一番安い料理とジュースのセットを頼んで、少し変なにおいのしたジュースを飲んだところまでは、はっきりと記憶しているんだけど...その後はよく覚えていない。

 なんだかふわふわした気分になり、日ごろの悩みをシルさんに愚痴ったような気がする...。

 

 「っ!!シルさん!僕何か...いったあ...」

 

 ふわふわしたままシルさんへと話した夢。あれが夢じゃなかったとしたら。

 恐ろしい可能性に思い至り、今の自分の状況も忘れてシルさんへと聞こうとすると、ひどい頭痛に襲われる。

 

 「大丈夫ですか?そんなに急に動いちゃダメですよ?...ゆっくりとこのお水を飲んでください」

 

 「うう...ありがとうございます。何があったんでしょうか」

 

 シルさんが、ベッドから降りようとした僕を押しとどめ、水を手渡してくれる。

 手渡された水をゆっくりと飲みながら、いったい何があったのかを聞く。

 ため息をついて言いにくそうな表情をしながら、語ったミアさんによれば、僕に出された変なにおいのジュース。あれは本当は他の人が頼んだお酒だったらしい...それも慣れていない人が飲めばひっくり返る位、強いお酒。

 ミアさんに怒られているアーニャさんが、忙しさのあまりうっかり間違えてしまった結果、僕の元へとやってきて、僕はそれに気が付かず飲み干し、倒れたそうだ。

 

 「ええっと、ミアさん。僕が気が付かなかったのも悪いんですし、お説教はそのくらいで...」

 

 「そーにゃ、そーにゃ、お説教はもううんざり「あんたは黙ってな」...はい」

 

 アーニャさんが悪いのはそうだが、気が付かなかった僕も悪い。 

 僕の言葉に後押しされたように、アーニャさんはミアさんに反旗を翻そうとして、一喝される。

 「気分が良くなるまでは、そこで寝てな」と言ってミアさんは、アーニャさんを連れてお店の方に戻る。シルさんもお店の方へと戻るのかと思ったが「さっきまで酔っていた人を、一人で寝かしておくなんてできませんよ」と言われてしまう。「...それに、ここはお店の奥の店員たちが過ごしている部屋なんです。ベルさんが悪いことしないか見張っておかないと」とも。そんなことしませんよ!?  

 

 「その...シルさん...僕酔っているときに何か言っていましたか?」

 

 水を飲んで頭痛が少し落ち着いたこともあり、先ほどの疑問を再び口にする。

 ふわふわとした感覚の中、はっきりとは覚えていないが、

 リリと契約してダンジョンに潜るようになってから、毎日誰かしら一人がギルドで待っていること、

 そして僕の無事を確かめるとリリに僕を頼むと言葉を残す事、

 確かにファミリア外の人とダンジョンに潜るのは初めてだけど、何時までも子ども扱いしてほしくないこと、

 そんなことを考えていたらダンジョンでミスをしてしまい、リリに助けられたこと、

 こんなんじゃ何時まで経っても憧れの人(アイズさん)に追いつけないこと。

 そんなことをグチグチ愚痴ったような記憶がある、しかもシルさんに泣きついた記憶まで。

 

 「あー...えっとー...内緒にしておきますね?」

 

 もしかしたらすべては酔っぱらった僕の見た夢だったかもしれない、という僕の期待は苦笑いと共に告げられた言葉で打ち砕かれた。...頭も痛いし美味しくもないし、お酒なんて二度と飲まない。

 

 

 

 

 

 「シルさんご迷惑をおかけしました」

 

 しばらくベッドで横になっていると、楽になって来た。

 まだ少しふらつくけれど、いつまでも誰の物かはわからない人のベッドで寝ているというのも気が休まらないし、シルさんをいつまでも僕のお世話させているわけにはいかない。

 起き上がってシルさんへとお礼を言う。本当ならミアさん達にも一言言っておくべきなんだろうけど、お店の方からたくさんの笑い声と賑やかな話声が聞こえる。

 今僕が行ったら邪魔になるだろう。

 

 「迷惑なんて...それはこちらのセリフですよ。...私の勝手な意見ですけど、ベルさんはここの所少し根を詰めすぎているように思います」

 

 ミアさん達にもよろしく言っておいてくれるようにお願いすると、シルさんはこちらこそ迷惑をかけて、と頭を下げる。

 頭を上げたシルさんは少し心配そうな表情になると、僕が頑張りすぎじゃないかと僕の顔を覗き込む。

 確かに【怪物祭】の後、久しぶりにダンジョンに潜れるようになったことと、ヘスティア・ナイフの力もあって、どんどん強くなっていくのが自分でも分かったことで、この所ダンジョンに潜りづめだった。

 

 「そうですか気分転換にこれなんてどうでしょうか...お客様が忘れていったものなんですけど」

 

 僕の答えを聞いたシルさんは、一冊の本を差し出してくる。

 とりあえず受け取り題名を確認する。【ゴブリンでも分かる、現代魔法】?なかなか攻めた題名だ。

 他のお客さんの忘れ物を持っていくのは気が引けるけど、魔法の使い方という題名にかなり惹かれる。

 

 【魔法】

 冒険者にとっての切り札。

 詠唱の必要がある、詠唱の間は隙だらけである、使いすぎれば【マインドダウン】と呼ばれる気絶を引き起こす、と様々な欠点があるが、それを補ってなお有り余る火力という長所を持つ物だ。多くの英雄譚においてとどめの一撃として、相手を牽制し隙を作る小技として、手の届かない距離への一撃として、逆転の一手として、登場する。

 その特徴から、単なる戦闘手段以上の価値を見出している冒険者も少なくない。かく言う僕もそのうちの一人だ。

 だがそのことを灰さん達に言ったら全裸がどうの、禿がどうの、ナメクジがどうのと言っていた。

 灰さん達の言っていることは、たまに僕でも分かる位ズレていることがあるが、あれもそうだったのだろう。...しかし魔法と禿に一体何の関係があったのだろうか。

 閑話休題

 魔法に憬れる冒険者が多い一方で、習得するのにも一苦労であり、本を読んだだけで使えるようになるのなら苦労しない。

 それでも、魔法の使い方なんて題名には抗えない魅力がある。

 結局僕はこの本を借りることにし、読み終わったら返してもらえればいいというシルさんへと頭を下げて【豊穣の女主人】を後にする。

 

 

 

 

 

 ありえないとは思うけど...魔法か~。

 魔法を使えるようになった僕が、華麗にモンスターを討伐し、窮地に陥っていた他の冒険者を助け、お礼を言われる。そんな妄想をしながら歩いていると、急に声をかけられた。

 

 「おや?そこにいるのは、ひょっとしてヘスティアの眷族ベルではないかな」

 

 「えっ...?はい、僕はベルですけど...貴方は一体?」

 

 声がした方へと振り向くと、そこには夜明け前の空のような、黒とも藍とも言い難い髪色をした男神様が手押し車を押していた。

 ...珍しい。

 僕はこの白髪が目立つ為か、よく絡まれる。

 しかしほとんどの人、というか神様と人は僕がヘスティア・ファミリアの冒険者であることを知らないから絡んでくるようで。

 厳つい顔をした人が僕に絡んできて、僕がヘスティア・ファミリアの冒険者だと知ると、子犬のような顔になり一目散に逃げていく、なんて光景は見慣れたものだ...見慣れたくないけど。

 

 だけどこの神様は僕のことを神様の眷族(ヘスティアの眷族)と呼んだ。 

 どうして知らない()が僕の名前を知っているのか、どうしてオラリオでも恐れられているヘスティア・ファミリアの冒険者に声をかけてきたのか。

 いつぞやのように、灰さんあたりがこの神様のファミリアのお店でツケを作って、その支払いがまだだったりするのだろうか。何気なく入ったお店の人に追いかけ回された苦い記憶を思い出しながら、男神様へと疑問を投げかける。

 

 「ん?ひどく警戒されている気が...おお、そうだ。まだ名乗っていなかったな。

 我が名はミアハ。オラリオで貧乏ファミリアの主神をしておる。

 ここであったも何かの縁、家で取り扱っているポーションを一つ進呈しよう」

 

 「はあ、それで何の御用でしょうか」

 

 「まあ用というほどの物でもないのだ。ただヘスティアが言っていた()()()()()()というのがどのような者か見ておこうと思ってな」

 

 僕が男神様へと警戒しているのを見て、首をかしげている神様は自己紹介を始める。

 ミアハ様。それがこの目の前にいる神様の名前らしい。とりあえず差し出されたポーションを受け取る。

 警戒を解かないまま何の用かと尋ねる僕に、ミアハ様は用があったわけではないと笑う。どうやら借金取りの類ではないらしい。

 しかし、貧乏ファミリアの主神を名乗るのならば、無料でポーションを配るような真似はしない方がいいんじゃないだろうか。それに神様が言っていた...?

 僕が首をかしげるのを見ると、笑いながらミアハ様は押していた手押し車を指さす。その中には...神様ぁ!?

 

 「私とヘスティアは先ほどまで飲んでいたのだ。だが何か嫌なことでもあったのか、今日はやけに酒の進みが早く、酔いつぶれてしまっってな。それをそのままにしておく訳にもいかず、こうして運んでいるのだ」

 

 「それは、ありがとうございます」

 

 時折「にゅう...ベル君...」なんて言いながら泥酔した神様が押し車の中で眠っていた。

 詳しく話を聞けば、ミアハ様は神様と一緒にお酒を飲んでいたのだが、今日の神様は妙にやけっぱちというか、自棄酒のようにぐびぐび飲んだものだから酔いつぶれてしまったらしい。「うむ、その後は...流石にあれは言わんほうがいいだろうなぁ」と口を濁されてしまったが、神様の醜態はまだあるようだ。酔った神様に絡まれたにもかかわらず、潰れた神様をホームまで運んでくれている心の広さに感謝する。

 他のファミリアの主神様に、いつまでも運ばせる訳にはいかないだろうと思って変わることを提案したのだが「見れば不調であるようだ、そのような有様の子ども()荷物(ヘスティア)を運ばせるわけにはいかんよ」と断られてしまい、手伝うのならば大体の場所はわかるが道までは詳しくない、先導を頼む、と言われホームまでの道案内をする。

 

 

 

 

 

 「神様、神様!起きてください」

 

 「ううん...うるさいよ、ベル君。どうせなら目覚めのキスを...」

 

 「何言っているんですか!他の神様(ミアハ様)もいる前で!」

 

 ホームにたどり着き、手押し車の中で寝ていた神様を起こす。

 しかしまだ目覚め切っていないのか、寝ぼけ眼の神様は僕に抱き着くようにして顔を近づけてきて...!?思わずそのほっぺたを押して顔を遠ざける。ミアハ様もいる前で、と言えばようやく目が覚めたようで、ありがとうとお礼を行ってふらふらとホームの中へと入っていく。その危なっかしい足元に、僕もミアハ様へと頭を下げた後、神様を支えるためにその背中を追いかける。

 

 「それじゃあおやすみなさい、神様」

 

 神様を部屋へと支えながら連れて行き、ベッドに眠らせる。

 すでに半分夢の世界に旅立っている神様へと、お休みの挨拶をした後、普段食事をとっているテーブルに座る。【豊穣の女主人】で寝たからだろうか、まだ眠くもない。

 灰さん達がいれば軽い稽古をつけてもらったりできるんだろうけど、今日は誰もいない。

 珍しいことに、九郎さんも仕事先である【食事処 葦名】の用事で今日は帰りが遅くなるそうだ。

 

 どうしようか、このまま眠くなるまで何もしないというのもなぁ。

 僕が何をしようか考えていると荷物の中に一冊の本を見つける。

 そうだ、せっかくだしシルさんから借りた本を読んでみよう。

 

 なになに、魔法とは種族的に先天的に身に備わるものと、神の恩恵によって引き出されるものにわかれ...

 

 

 

 

 

 気が付けば僕の前に僕がいた。

 僕は僕に尋ねる。

 

 「僕にとっての魔法とは何?

 

 それは力。

 奥の手、切り札、窮地でなお奮い立つ為の支え。

 弱い僕を塗りつぶし強い僕へと変えてくれる力。

 ぽつぽつと、僕に聞かれた言葉に答えていく。

 

 「僕にとって魔法とはどんなもの?

 

 それは消えない火。

 揺らめく炎、猛々しく燃え盛る炎、すべてを浄化する火、暗闇を照らす篝火。

 おじいちゃんが話してくれたお話に出てきた、英雄を照らし、闇を退ける希望の象徴。

 

 「魔法に何を求める?

 

 それは早さ。

 狼さんのように影も見えない速さ、狩人さんのような誰にも追いつかれない速さ、そしてあの日見たアイズさんの剣戟の光のような速さ。

 その速さに負けないくらいの早さ。僕よりもずっと先にいるあの人たちに追いつくための早さ。

 

 「それだけ?

 

 僕が僕を覗き込む。

 僕も僕を覗き込む。

 僕の望みは...まだある。

 英雄に成りたい。

 昔読んだお伽噺に出てきた、誰かを導けるような、誰もが認めてくれるような、辛い時見上げることで誰かの心に火を灯せるような、そんな英雄に成りたい。

 魔法がそんな英雄に成る為の力になって欲しい。

 

 僕が答えると僕が微笑む、そして手を僕に差し出してくる。僕もその手を掴もうと「...殿」

 誰かの声がする。

 

 「おーい...よく寝てるとこ...が寝るなら...」

 

 「起こさなくとも...連れて...やればいいだ...」

 

 「嫌だよ、俺だって疲れて...」

 

 「...う時はこうするのが...」

 

 「待たれよ、...殿そんなことをしては...が...」

 

 灰さん達の、僕のあこがれの、どうしようもないけれど、それでもいい所が沢山ある、僕の大好きな家族たちの声が聞こえる。

 

 「う...ん?灰さん...達帰って来たんですか?」

 

 その声に反応して僕が目覚める。

 目覚めるということは、眠っていたということ。

 僕の頭の下には、シルさんに借りた本が挟まっていた。どうやら本を読んでいるうちに寝てしまったらしい。

 軽く頭を振りながら、灰さん達を見る。

 

 「寝るのなら部屋で寝ろよ」

 

 「...疲れていたのか?」

 

 「ただいま戻りました、“べる殿”」

 

 「さっさとそれをしまえ」

 

 「ミラのルカティエルです...」

 

 口々に喋り始める灰さん達。一気に賑やかになった地下室。

 時計を見る僕と神様が帰ってきて少し経っていたらしい。

 

 「うう...お帰り...みんな...あぅ」

 

 「おお、ただいまヘスティッくっさ。お前酒臭いぞ」

 

 僕達の声に部屋で寝ていた神様も、体を引きずって出てきた。

 灰さんが神様に挨拶をし...途中で叫ぶように臭いと言い距離を取る。

 まあ、さっき神様の体を支えていた時も、神様の体の柔らかさや体温にドキドキする前に、お酒臭さにげんなりしたから臭いのは事実ですけど...もうちょっと言い方がありますよね。

 

 「灰君!ボクは君のいったあ...あたまいたい。はいくん...なんとかして

 

 「本当にどうしようもない神だなお前...はぁ、そら【大回復】を使ってやろう」

 

 神様も灰さんの言葉にカチンときて、怒ろうとしたが...自分で出した声が頭に響いたらしい、頭を押さえ灰さんに助けを求める。その姿に流石の灰さんも神様へと冷たい視線を向けてため息をつき、祈る様にタリスマンを握る。

 温かな光が地下室を満たし、気が付けば僕の体に残っていた、怠さが無くなっていた。

 

 「...こんなに馬鹿げた理由で使われた奇跡もないだろうな。おら!何時までもはしゃいでんじゃねえ、さっさと身支度済ませてもう一度寝ろ!!」

 

 灰さんの使った【大回復】の効力に驚いていると、神様は「ボク!完全復活!!」と大声を出し...哀愁を漂わせていた灰さんに後ろから蹴り飛ばされていた。

 あっ、寝る前にステイタス更新お願いしていいですか?

 

 「うえぇぇぇぇ!!」

 

 「うるさいぞ!今何時だと思っているんだ!!」

 

 「そ、そんなことより、これ見てよ。魔法だ、ベル君に魔法が発現したんだ!!」

 

 「「「「な、なんだってー!!」」」」

 

 せっかく神様が起きたのだから、ついでにステイタス更新をお願いしよう。何気ない僕の思い付きは、ステイタス更新をしている神様が奇声を発したことで大事になった。

 神様の大声に反応して灰さんが怒鳴り込んでくる。...こないだ同じように夜中に大声を出して、狩人さんに内臓攻撃をされていた人の言葉とは思えない。

 いや常識的に考えて夜中は静かにするものなのだから当たり前?いや常識的に考えて人に内臓攻撃なんてしない...常識とは一体。

 

 僕の答えの出ない考えは、灰さんに怒鳴り返すようにして、神様の口から放たれた言葉によって止まる。ベル君(ボク)に魔法が発現した。そうか、僕に魔法が発現したのか、それならあんな大きな声を出したのにも納得が...僕に魔法が発現したぁ!?  

 

 「ほわぁー。本当に魔法だ」

 

 「【ファイアボルト】それが君の魔法だ」

 

 何とか背中にあるステイタスを見ようと体を捩ったり、神様が鏡を持ってこようとしたり、ちょっとした騒ぎがあったが、狼さんに諭された神様が書いて僕に見せてくれた写しには確かに魔法の文字が。

 写しを見て感動の声を上げる僕へと神様が、僕の魔法の名前を告げる。

 【ファイアボルト】それが僕の魔法...。

 

 「先に言っておくが、今から稽古はつけんぞ」

 

 「えっ」

 

 感慨に浸っている僕を灰さんの一言が現実へと引き戻す。

 その言葉に驚き声すら出ないのは僕だけのようで、他のみんなは「まあもう夜も遅いし」だとか「別に明日でもいいだろう」とか「急がなくても魔法は逃げないぞ」と言いながら頷いて賛成している。

 そ、そんな~

 

 

 

 

 「灰さん達ごめんなさい」

 

 そうして解散した後。

 灰さん達が寝静まったころを見計らって、僕はベッドからこっそりと抜け出し、音を出さないように気を付けながら、教会から出ていく、目的地はダンジョン。

 確かに明日ダンジョンで試せばいいだけのことだ、だけど今の僕にはひと眠りする時間も惜しかった。ちょっとダンジョンの中で試し打ちしてみるだけ、ちょっとモンスターと戦ってみるだけだから。自分に言い訳しながら、最初は人目を避けるように静かに歩いていたのが、ダンジョンにつく頃には駆け足になっていた。

 

 「...いた」

 

 ダンジョンに潜ってしばらく歩くと、ゴブリンが一匹通路に立っているのを見つける。

 そのままの勢いで突っ込みそうになり、一旦止まり深呼吸する。こんな状態で戦ったと灰さん達に知られたなら、とんでもなく怒られてしまう。

 

 

 落ち着いてゴブリンを観察する。どうやら周囲に仲間はいないようだ。

 息を大きく吸い、吐く。

 心を落ち着かせた僕の脳内に、神様の言葉が蘇る。

 

 「この記述によると、どうやら詠唱が必要がないみたいだね」

 

 どうすれば使えるのかは、ステイタス更新をした時からどこか分かっていた。

 指先に集中し、ゴブリンに向けて呟くように口にする。

 

 ファイアボルト

 

 疑っていた訳ではない、使えると確信していた。

 それでも僕の指からうねるようにして火が放たれ、ゴブリンを焼くのを見た僕が絞り出した言葉は「本当に出た...」というものだった。

 燃え盛る炎はゴブリンを焼き尽くし、そのまま消える。ゴブリンの残した灰だけが、僕が魔法を使ってゴブリンを倒した証拠として残っていた。 

 

 「ふ、ふふふ」

 

 倒したゴブリンの残した灰を、呆然と見つめていた僕の口から笑いがこぼれだす。

 魔法だ、本当に魔法が使えるようになったんだ。実感がわくと同時に、もっと使いたいという欲望が起きる。

 

 「ファイアボルト...ファイアボルト...ファイアボルトォ!!」

 

 モンスターを探してダンジョンを進む。

 モンスターを見つければ魔法を使い、ほとばしる炎がモンスターを焼き尽くす。それを何度も繰り返し、ようやく興奮していた頭が冷えてくる。

 ...不味いんじゃないだろうか。灰さん達に止められていたのに、こっそり抜け出してダンジョンに潜って魔法を使った、なんてバレたならどうなるか。

 灰さんが凄い笑みを浮かべて「そんなに元気が有り余っているのなら、もっときつい特訓でもいいな」と言っている姿が頭に浮かぶ。...そんなことになったなら流石に死んでしまう。

 今から帰って狼さんをごまかせるだろうか、正直可能性は低いと思うが、出来なければ死ぬだけだ。とにかくホームへと帰る為に踵を返そうとし...視界が真っ暗になった。

 ...えっ?

 

 

 

 

 

 「リ...私...たい」

 

 「.なら...すれば...」

 

 「そんな...いい...」

 

 「私は少し...見て回って...」

 

 声がする。

 誰の声かわからない、だけど綺麗な声が。

 柔らかな感覚が頭の後ろ────いや体の感覚からして僕は今地面に横になっているのだろう、なら下と表現するべきか?────に感じる。

 覚えのない感覚(懐かしい感覚)

 昔まだお母さんがいた時にはこうしてもらったような...

 

 「お母さん...」

 

 「ごめんね?私はあなたのお母さんじゃない」

 

 えっ...?

 揺らぐ眠りから目を覚ます。世界が鮮明に映る。

 ここはダンジョン。僕はベルクラネル。そして目の前にいるのはアイズ・ヴァレッ!!

 

 「ドワアアアアアァァァ!!?

 

 今の状況を理解すると同時に僕は全身を使い逃げ出す。

 あいずさんがぼくを(アイズさんが僕を)ひざまくらしてあたま(膝枕して頭)をなでていた(を撫でていた)

 しかも装備がボロボロで露出が激しい姿で。

 

 オラリオの街のどこをどう走って来たかなんて、覚えてもいないけれど、気が付けば僕はホームの前にいた。

 

 「わ、忘れろ!忘れろッ!!」

 

 さっきまでのことが頭から離れない。

 温かな感触、アイズさんの美しい顔、...そして目を開いたときに見えた絶景(アイズさんのおっぱ...)

 

 「忘れろッ!!忘れろッ!!!」

 

 考えちゃだめだ、考えちゃだめだ。

 がむしゃらに素振りをする。

 

 「忘れろッ!!!忘れ「随分と元気だなぁ?」」

 

 ナニモ考えちゃだめだ。何も考えずにただ体を動かせ。

 ただただナイフを振るう僕へと声がかけられる。

 振り向けば灰さんがそこに立っていた。

 

 「聞けよベル。

 何でも新しい魔法を手に入れたが、訓練を明日からにするという先輩の言葉を無視して、ダンジョンに潜って勝手に魔法を使った後輩がいるらしい。

 おまけに先輩がどこに行ったか心配していたというのに、そいつは朝からホームの前で大声を出して素振りするぐらい、元気が有り余っているそうだ。

 ...そんな奴にしてやる訓練はとびっきりハードでいいとは思わんか?

 

 「...ハイ、ソウオモイマス」

 

 怒っている、凄く怒っている。

 これから自分の身に何が起きるのかを理解した僕は、最早悲鳴を上げることすら出来ず、ホームの中へと引きずり込まれた。

 

 

 

 

 

 

 ダンジョン ベルが倒れた後

 

 「きっとみんなビックリするだろう、まさか階層主を一人で倒すなんてな」

 

 「うん、ありがとうリヴェリア、ついて来てくれて」

 

 37層からの帰り道。

 私はアイズへと話しかける。単独での階層主の討伐。言葉にすればそれだけの、だがオラリオでも成し遂げたものなどいないだろう偉業。アイズはぼろぼろになりながらも、ついにその偉業を果たした。

 普段はいっそ冷徹とすら取られかねない、涼やかな顔に高揚が見られ、ホームへと向かう足取りも、心なしか急ぎ足になっている。

 大きく立派になったと思ったが、そんなところはまだまだ子供だな。なんてロキあたりが聞けば「そんなんやからママって呼ばれるんや」とでも言われそうなことを考えながら、地上へと戻る道を進んでいると一人の冒険者が倒れていた。

 

 思わず駆け寄り、無事を確認する。

 大きなけがはないようだ、症状からして恐らくは魔法の使い過ぎ(マインドダウン)だろう。

 私が倒れていた冒険者を診察していると、アイズが小さく声を出す。

 

 「あっ...この子」

 

 「どうした?知り合いか?」

 

 見た覚えのない顔だと思っていたが、アイズの知り合いだろうか。

 アイズに詳しい話を聞くと、前の遠征からの帰りに我々の不手際に巻き込まれた、例のウサギのような冒険者らしい。

 常にない表情で「この子に償いをしたい」というアイズに、どう助言をすればいいか悩む。

 その時、ロキの言っていた「アイズたんみたいな美女に膝枕されるのが、男の夢というもんや」という与太話を思い出す。

 そのことを伝え、周囲の探索をすると言ってその場を離れる。

 

 「何のつもりだ?アイズは気が付かなかったようだが、そんな殺気を垂れ流す必要があるのか?」

 

 「そんな怒るなよ、こんなの挨拶みたいなもんだろ?それにあんたに向けた殺気だ、他の奴に気取られるようなヘマ、今更俺がするかよ」

 

 少なくとも大声を出さなければ声の届かないだけの距離を開けて、先ほどから感じる、殺気の大元へと声をかける。

 ヘラヘラと笑うような声と共にダンジョンの陰から出てきたのは、全身に鎧を纏った男(火の無い灰)

 

 その姿をみて二つの考えが生まれる。

 一つはなるほど、という納得。

 いきなりダンジョン内で殺気を当ててくるような真似をするのは、こいつ()ぐらいのものだろう。

 もう一つは何故?という疑問。

 ダンジョン内で殺気を当ててきた理由は分かった。こいつ()ならば、そういうこともするだろう。

 だが、何故ここに居るのか、何故ダンジョンで殺気を当てて私を誘ったのか、という疑問の答えにはならない。

 

 「それで?今度は何を企んでいる?あの子(アイズ)と私を引き離して、何をするつもりだ?」

 

 「あ~っと、それなんだがな。ここに居るのは俺の意思じゃないのさ。

 あんたがさっきお連れと一緒に診てた白髪の冒険者。あれうちの新入りなんだがな、

 あいつ今日は休めって俺らの忠告を無視して、勝手にダンジョンに潜りやがったんだ。

 その後をこっそりついて行ったら、予想通り魔法の使い過ぎでぶっ倒れたから、回収しようとしたらあんたらが来たって訳。何か企んでるわけじゃない、偶々さ()()()()

 

 「そんな言葉で誤魔化されるとでも?さっさと用件を言え」

 

 「おー怖。

 そんな面倒な頼みごとをするつもりはないさ。あんたんとこの嘆きの壁に、ありがとなって言っておいて欲しい。そんだけだよ」

 

 灰を問い詰めるが、この男がすんなりと話を進めるはずもなく、話は二転三転する。

 話の進まなさに苛立ち睨みつければ、弁解するようにわたわたと手を動かす。

 こほんと空咳をした灰は、嘆きの壁へと感謝の言葉を与えてほしいと言う。

 

 嘆きの壁。  

 18層前に生まれる、階層主ゴライアス。そのゴライアスが生まれる壁のことを冒険者たちは、嘆きの大壁と呼ぶ。

 だが、どう考えてもそれとは関係がないだろう。前後の言葉から、灰の言う『嘆きの壁』が一体誰を指すのか思い至り、思わず叫ぶ。

 

 「ロキがお前に協力したのか!?」

 

 「なんだよ、そんなに驚くことかね。まあ確かに俺は神が嫌いだし、ロキの奴も俺とは仲良しこよしという訳じゃないが、頼み込めば協力位してくれるさ。

 まあとにかく伝言よろしくな」

 

 だが、灰は話すべきことはすべて話した、と言わんばかりによろしく、と言い姿を消す。

 【九魔姫(ナイン・ヘル)】と呼ばれる自身ですら、追いかけることもできない逃走に追跡を諦める。

 そもそも、アイズを置いてどこかに行くのは良い事では無いだろう。灰との会話で、どっと疲れたような気がして、肩を落とす。届くことはないのだろうと解ってはいても、思わず文句がこぼれる。

 

 「ロキを殺そうとしたお前が、ロキに協力を頼むこと自体がおかしいのだ...」 

 

 

 




どうも皆さま

切りのいいところが分からずひたすら話が伸びた私です

いっつもおんなじこと言ってますが今回も長かった
書かなくちゃいけないことを思いついて
そこに行くまでの道筋を書いて
それを書いたと思ったら何書くか忘れて
とりあえず話を進めて
そんなこんなでどんどん文字数が伸びます
こんな私ですがどうぞもう少しお付き合いください

それではお疲れさまでした、ありがとうございました
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