忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編 作:noanothermoom
未来、未だ至らないそれを考える事
ただ考えるだけでなく経験を積み、より広い物事を知ることで
正確な予想を行うことが出来るようになる
だが、予想が正確になればなるほど僅かなずれが大きな違いへと至る
大きなものが壊れるとき、始まりは些細なものであるという言葉は
これにも当てはまるらしい
思いがけない言の葉
「ごめんなさいベル様。しばらくダンジョンには潜れません」
色々あって、リリとサポーター契約を結びなおした翌日。
うん...まあ、昨日は色々あった、本当にいろいろあった。
けど、リリとパーティを組むことが出来たのだから、
今日からまたダンジョンに潜って沢山稼ぐぞ!
という僕の意気込みは第一歩からつまずいた。
頭を下げるリリに、頭を上げるよう言いながら事情を聴けば、リリは自分が死んでしまったことにしたいそうだ。
リリの所属しているファミリア、ソーマ・ファミリアはというのは、ヘスティア・ファミリアとはまた違う方向性で問題の多いファミリアで、何をするにしてもお金のかかるファミリア、はっきりと言ってしまえば金の亡者が集うファミリアらしい。
お金は大事だが、ソーマ・ファミリアのそれは常軌を逸しており、ついて行けないと思ったリリはファミリアを抜けようと決意した。
しかしながら、ファミリアを抜ける為には【
幾ら気持ちでヘスティア・ファミリアの一員となっても、【改宗】しない限りリリはソーマ・ファミリアの一員であり続ける。
しかし、団長の同意を得るためのお金というのは、リリや僕では支払うのが難しい額だ。
灰さん達が力づくで...という選択肢もあるにはあるのだが、それはリリが断固として拒否した。
傍から見れば愚かな選択かもしれないが、僕がリリに武器を盗まれてもリリを見捨てれなかったのと同じで、リリには譲れない何かがあるのだろう。
リリを見捨てないという意志を貫いた僕には、リリの選択を否定することはできない。
しかし、ソーマ・ファミリアのリリルカ・アーデであることが、僕の足を引っ張らないかと心配していたリリは、冒険者が引き起こそうとした【
リリが僕からナイフを盗み、その後僕が駆け付けるまでの間に、リリは同じファミリアの冒険者に脅され、持っていたアイテムを奪われた上に、【怪物進呈】するために連れてきたキラーアントから逃げる為の囮にされてしまったそうだ。
しかしながらその冒険者達は自分で連れてきたモンスターから逃げきれず、囲まれて死んでしまった...
流石の僕でも、その冒険者達に持っていかれたはずのリリのアイテムを狩人さんがリリに返していれば、リリをモンスターの群れの中に置き去りにした冒険者達に何があったのか想像はつく。
そしてオラリオに流れる噂の数々を知っていれば、灰さん達がとある冒険者達の情報を集めていたという話を聞いた後に、その冒険者達がダンジョンの中で死んで、死体はモンスターに食べられてしまったのでありません、なんて話をそのまま受け取る人はいないだろう、僕でも信じられない。
ましてやギルドの職員、特に情報を提供したエイナさんからすれば
うん...これ以上考えるとギルドの闇を覗きそうなのでやめておこう。
とりあえず僕に言えることは、冒険者というのは引き際が肝心ということだ。
冒険者が死ぬような規模の【怪物進呈】が行われようとした、という事実に乗じて【怪物進呈】に巻き込まれてリリルカ・アーデは死んでしまったということにして、ソーマ・ファミリアとの縁を一時的に切り、お金がたまったら改めて縁を切る、というのがリリの計画だ。
ファミリアの主神なら、団員が死んでいるか生きているかぐらい分かるのでは?と思ったが、そのことを尋ねた途端死んだ魚のような目になったリリ曰く「ソーマ様は未来永劫眷族のことに興味なんて持ちませんよ」とのことだ。...どうしてギルドの闇から目を逸らした先にファミリアの闇が待ち構えているのだろう。
とにかく、リリが死んだという噂が流れた上で、リリの【
その為にも、これまで寝床としていた宿屋など、生活していた地域から離れ、新たな生活拠点を作る必要がある。
寝床が必要なら
新しい生活の準備はある程度できていますから大丈夫です、と言って立ち去ったリリを見送り僕は考える。
僕に出来ることは何だろうか。
リリは新しい生活の準備を、しっかりとしていたようだ。
少なくとも、世間知らずのお上りさんと言われてしまっている僕が手助けできることは無い。
ならパーティを組む組み続けることをエイナさんに言っておいて、何かするべきことがあるか聞いておくべきだろう。そうしておけばリリの準備が終わった後、同じパーティとして活動するのに都合がいいはずだ。
...エイナさんかぁ。
正直、今の僕はエイナさんに会いたくない。
今回のことでエイナさんに思う所があるわけではない、むしろ反対だ。僕がエイナさんに負い目を感じているのだ。
10階層での激しい戦闘、そしてリリを探して9階層を駆け回り、キラーアント相手に大立ち回りした、そのどこかでエイナさんからの贈り物であるプロテクターを落としてしまったのだ。
ダンジョンから帰ってきたときにそのことに気が付き、エイナさんに謝り倒したのだが、むしろエイナさんは「私の贈り物が、ベル君の身代わりになったと考えれば嬉しいわ」と怒ることすら無かったのだが、贈り物を落としてしまうなんて...。
どうにかダンジョンの中を探そうとも思ったのだが、灰さん達からは「ダンジョンで落としたものなんて、とっくの昔にモンスターとの戦闘に巻き込まれて壊れたか、他の冒険者に持っていかれているだろう」と言われ、リリからも「本気でダンジョンで落とした装備が帰ってくると思っているのですか?リリが盗んだ装備が帰ってきたのでも奇跡と言ってもいいんですよ」と呆れたような視線を向けられてしまった。
気は進まないが、エイナさんが気にして居ないのに、いつまでも僕が気にしていても仕方がない。
覚悟を決めて、ギルドへと向かおう。
「すいませーん。ヘスティア・ファミリアのベル・クラネルですけど、エイナさんはいま...ヴァ!?」
ギルドの中で、エイナさんを探す。
今は来客の対応をしているらしく、応接用の机を示される。
果たしてそこにはエイナさんと、僕に背を向けているお客さんが座っていた。
僕の声に反応したのか、エイナさんがこちらを見る。
そしてエイナさんの様子から、お客も自分の後ろに誰かが来たことに気が付いたようだ。
後ろを振り返ると、美しい金髪から黄金色の瞳が覗き、形の良い口が僅かに形を変える。
その人の顔を見た僕の口から、奇妙な声が漏れると同時に僕は逃げ出そうとし、他の冒険者にぶつかってしまった。僕がまごまごしている間に回り込んだお客さんと、エイナさんに挟まれ、逃げ道を封じられる。
「急に逃げ出すなんて、何をしているのよ?」
「えっ!いやっ!...あのっ!ええっと?ど、どうしてヴァレンシュタインさんがいるのでしょうか?」
「ヴァレンシュタイン氏は君に用があるのですって」
エイナさんに怒られるが、僕はお客さんがなぜギルドでエイナさんと話しているのかの方が気になって仕方が無かった。
支離滅裂な言葉の果てにようやっと絞り出した疑問の答えはお客さん────アイズ・ヴァレンシュタインさんが僕に用があるというものだった。
ギルドの応接用の机。さっきまでエイナさんとアイズさんが座っていた机に、今度は僕とアイズさんが座る。
...正直目も合わせられない。
こうして向かい合って座っているだけでも、ドキドキしてしまう。これまでのアイズさんとの記憶が頭の中をよぎる。
ミノタウロスから助けてもらった時の、いっそ見惚れる様な美しい戦い方。
【豊穣の女主人】で見かけた時の、どこか陰のある姿。
僕が
最後にアイズさんと会った時の記憶が頭の中に浮かびそうになり、必死にかき消す。何を考えているんだ僕は!?
「ええっと、その何の御用でしょうか」
「...これ、エイナさんに尋ねたら君のだって聞いたから」
僕の頭の中に浮かんだ
未だ混乱の収まらない僕の頭の中のことなんて知る由もないアイズさんは、プロテクターを机の上に出す。
エイナさんから貰った僕のプロテクター!?
思わず手に取り確かめる。間違いない僕のプロテクターだ。
お礼を言いながら、どうして貴女が...と尋ねるとアイズさんは事情を話してくれた。
僕がリリと初めて10階層に潜った日に、アイズさんがエイナさんと出会って話をしたこと。
リリが何かしらのたくらみに巻き込まれていることを知って、エイナさんがアイズさんへと僕を助けてくれるようお願いしたこと。
アイズさんが10階層へとたどり着いた時にはもうすべて終わっていたけれど、そこでプロテクターを見つけたこと。
エイナさんへと報告をするついでに拾ったことも報告すると、それが僕に送った物だと答えたこと。
「そうだったんですね。ありがとうございます!!」
「...本当はもっと早く謝ろうと思っていたし」
ダンジョンの中で無くしてしまったからには、もう僕の元に戻ってくることは無いだろう、と灰さん達やリリに言われていたから半分諦めていたから、とても嬉しい。
喜びに満ちている僕にアイズさんは首を振ると、酷く落ち込んだ声でもっと早く謝ろうとしていたと口にする。
「...謝る?」
「そう。君が弱虫とか言われた原因は私たちが逃がしたミノタウロスだから。だから...ごめんなさい」
立ち上がり頭を下げようとするアイズさんの言葉を聞いた僕は、ほとんど無意識のうちに反論していた。
「違います!!あれは僕が覚悟していなかったのが悪くて!!というかヴァレンシュタインさんは僕の命の恩人で!!だから謝るべきなのはろくにお礼もせずに逃げた僕の方で!!ごめんなさい!!!」
同じ様に立ち上がり、勢いのままに頭の中に浮かんだ言葉を口にする。
ミノタウロスとの戦いで無様を晒したのは、僕が冒険者としての心構えが出来ていなかったから。あの時アイズさんが助けてくれなければ、ダンジョンの染みになっていて。...あれ?そんな命の恩人相手に逃げ回って、お礼も言っていなかった僕って割と最低なのでは?
未だに助けられたお礼もしていないことに気が付き、勢い良く頭を下げる。
...返事は何もない。恐る恐る頭を上げると、アイズさんはびっくりしたように目を見開いていたが、少し笑うと「うん」とうなずいてくれた。
アイズさんの謝罪を僕が受け入れ、僕の謝罪をアイズさんが受け入れてくれた後。
僕達は机に座りなおす。少しの間アイズさんも僕も何も言わず、だが穏やかな空気が漂う。
「ダンジョン探索頑張っているんだね。エイナさんに聞いたよ、10階層まで潜ったんだって?...冒険者になってまだそんなにたってないのに凄いね」
「いえ...まだまだです。失敗ばかりで、灰さん達と比べれば素人と変わりないですし...も、目標にもまだまだ手が届かなくて...」
先に口を開いたのはアイズさん。
僕が頑張っていると褒めてくれるが、僕の頑張りなんてまるで足りていない。強くなったと言っても、灰さん達から見れば誤差みたいなものに過ぎない。この間もミスをしてリリに助けられて...。僕のこれまでを振り返っていると、まったく成長できていないような気がしてきて落ち込みそう。
「灰さん...火の無い灰が君を鍛えてくれているの?」
「ええ...はい。灰さんだけじゃなくて、狩人さんや焚べる者さんや狼さんも。まあ...いつもぼこぼこにされているんですけどね」
僕の言葉にアイズさんが疑問を投げかけてくる。
いつも稽古は灰さんと焚べる者さんの部屋、広くて灰が降り積もったあの場所でしてもらっているが、誰に稽古をつけてもらうかでその内容は大きく変わる。...最後にはぼこぼこにされて終わるのは変わらないけれど。
強くはなっているはずなのに、まるで変わらない灰さん達との稽古を思っているとアイズさんがとんでもないことを言った。
「じゃあ私とも稽古...する?」
「え...?」
どうも皆さま
年末年始は投稿をお休みする予定だったはずが、むしろいつもより沢山投稿していた気がする...私です
お気に入り登録数が700を超えました
ありがとうございます
何も考えずに始めたこの小説が沢山の方に見ていただける様に成り、より一層精進していきたいと思います
全く関係の無い話になるのですが
前話で出てきた【贈り物】は
死んだあとぐらいはまともに扱われるべきだよねという善意7割
首を送り付ければ分かりやすい警告になるだろうという打算2割
死体の処理めんどくさいし相手に送り付ければいいかという手間省き1割で
構成されています
それではお疲れさまでしたありがとうございました