忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

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訓練

困難に対処するための練習 稽古 特訓

幾ら訓練した所で実際にその物事に直面した時動けるとは限らない
真実それが身になるには経験こそが物を言うのだから

だが訓練なしに物事に直面するよりはましだろう
咄嗟の判断は経験こそが物を言うのだから



ヤマタク様、メントスの悪夢様、車椅子ニート(レモン)様誤字報告ありがとうございます


願ってもない訓練

 

 歩く街並みは未だ霧に包まれている。

 夜に咲き誇る、或いは蠢く者らはようやく布団に安息を求め、昼に生きる者らは迫る布団との別れを惜しみながら微睡む、夜明け前。

 オラリオをぐるりと囲む外周市壁上に、二つの人影(僕とアイズさん)がいた。

 

 「...おはよう」

 

 「おはようございます」

 

 なぜこんな時間帯に、人目を避ける様にこの場所(外周市壁上)に僕達がいるのかを説明するには、少し時間を戻す必要がある。

 

 「え...えーっと、そのどうしてそうなったのか教えてくれますか?」

 

 「?...君は強くなりたいんだよね?私はオラリオでも指折りの冒険者だよ。私の訓練を受ければきっと強くなれる」

 

 アイズさんからの「訓練のお誘い(私と訓練する?)」を聞いて、固まった僕はとりあえず、どうしてそうなったのかをアイズさんに聞く。

 正直な話、アイズさんからのお誘いは嬉しい。

 別に灰さん達の稽古に不満があるわけじゃ...いやある、かなり不満がある。

 まあそのことは置いておくとしても、憧れの人からの特訓のお誘いだ、嬉しくない訳がない。

 だが、あまりにも唐突過ぎる。

 

 僕とアイズさんの会話のどこに、訓練に繋がる話があったのだろう。

 アイズさんが、灰さん達が僕に稽古をつけてくれていることを確認したと思ったら、訓練のお誘いである。訳が分からない。

 いやそもそも、他のファミリアの冒険者であるアイズさんから訓練を受けていいものだろうか。

 アイズさんのファミリア(ロキ・ファミリア)僕のファミリア(ヘスティア・ファミリア)は神様同士の仲が悪いし、団員同士の仲もいいとは言えない。

 ...ヘスティア・ファミリア(ウチ)と仲がいいファミリアがあるのかと言われたら、沈黙するしかないのだけれど。

 とにかく、そんな中僕がアイズさんから訓練を受けるのは、良い事ではないのではないだろうか。

 

 「どう思います?」

 

 アイズさんへと疑問に思ったことを聞く。

 まあ、僕でも思いつくようなことをアイズさんが気付かないはずもない。きっと何か考えがあるのだろう、という考えは、僕の言葉を聞いてプルプルと震えているアイズさんを見て打ち砕かれた。

 もしかして何にも考えてなかったんですか!?

 

 「...だったらバレなければいい」

 

 「えっ?」

 

 「ばれないようなところで訓練すればいい」

 

 どこか拗ねたような口調でアイズさんは言った。

 ...かくして僕は人目を忍ぶように──いや本当に忍んでいるのだが──夜明け前から、市壁の上でアイズさんと訓練することになったのだ。

 

 

 

 

 

 「...」

 

 「...?」

 

 「...あ、あのーヴァレンシュタインさん。何を「アイズ」えっ...?」

 

 「アイズでいい、みんなそう呼んでる。...代わりに私もベルと呼ぶ...いいよね?」

 

 「えっ?あっはい...」

 

 僕がアイズさんへと挨拶をし、アイズさんも僕に挨拶をする、がそこで会話は途切れる。

 どうしたものか。

 この沈黙を心地悪く感じているのは僕だけなのか、様子を窺えばアイズさんは不思議そうに僕を見つめている。

 意を決してかけた声は想定外の方向へと転がっていった。

 

 アイズさんから言われたとはいえ、アイズさんと名前で呼び合う仲になってしまった。

 いや頭の中ではずっとアイズさんと呼んでいるけれど、実際口にするのとは別の問題で...いや?アイズさんから言われたのだから問題は無いのか?

 これからどうするのか、というそもそもの問題は何も解決していないと気が付いたのは、アイズさんの言葉に押されて了承した後だった。

 

 「えっとーアイズさん?それで、どうしましょう」

 

 「...どうしよう」

 

 「えっ?」

 

 もう一度アイズさんに声をかける。

 しかし返って来たのは、「どうしたらいいと思う?」という言葉だった。

 

 「...昨日から考えてたけど、何をすればいいか思いつかなかった」

 

 「そ、そうですか...」

 

 なんというか、これまでアイズさんのことを、凛とした気品あふれる人だと思っていたけれど、結構...いや例え僕の思っていた通りの人じゃなかったとしても、冒険者としての大先輩なのだからあれこれ言うべきじゃないだろう。

 ましてや僕は訓練してもらっている身なのだから。

 

 「...とりあえずやって(戦って)みる?」

 

 僕の考えを知ってか知らずか、アイズさんは打ち込んでくるように言う。

 打ち込めと言われても、アイズさんは武器を抜いても居ないのに、そんな人に攻撃するなんて。

 僕は困ってしまうが、アイズさんは「...いつでもいいよ」と言ったきり、僕の方をずっと見つめている。

 なら、行くぞ!...あっ

 

 アイズさんに「お願いします」と一言声をかけて、打ち込む。

 5M(メドル)程の距離を詰める僕の目に映ったのは、僕の言葉に反応して「うん...」と頷いて僕から視線を切ったアイズさんだった。

 

 えっ...これ不味いんじゃないだろうか。

 そう簡単にアイズさんに僕の攻撃が当たるとも思えないが、よそ見をしている以上変な所に当たって怪我でもさせてしまうかもしれない。

 冷静に考えている僕の頭とは裏腹に、体は今更考える必要もないくらい染付いた動きを行う。

 アイズさんとの距離を詰め切り、ナイフを振りぬく。

 

 しかし僕の攻撃は、いつ抜いたのか見えもしなかったアイズさんの武器に受け止められた。

 

 「...うん、悪くない...もっと打ってきて」

 

 「ッ!!」

 

 確かに迷いながらの一撃だった。

 それでもまるで最初からどこに来るのかわかっていたかのように受け止め、更に助言をするアイズさんの姿に、僕は勘違いに気が付く。

 

 そうだ、この人はアイズ・ヴァレンシュタイン。

 【剣姫】の二つ名を持つオラリオ屈指の冒険者。

 まかり間違っても、僕のような新米が怪我をさせてしまうことなんてありえない。

 それだけの実力差がある。

 

 ...ならボクのすべてをぶつける。

 僕の持つすべてを駆使して、本来ならその戦いを見ることすら難しい雲の上にいる、この人に挑める幸運を最大限生かす。

 今一度覚悟を決め、アイズさんへと攻撃を仕掛ける。

 

 だが、攻撃を当てるどころかかすりもしない。

 

 「...攻撃が素直すぎる」

 

 最短に、最速で、最高の一撃を叩き込む。

 打ち込む前から見切られていたかのように、容易く防がれる。

 

 「...狙いを変えようと意識しすぎて遅い」

 

 僕が出来る最速の一撃が防がれるのなら、僅かでも隙を狙う。

 隙に付け込むことが出来ない...どころの話じゃない。

 牽制の為の一撃すら容易く避けられる。

 

 「...攻めなきゃ勝てないよ」

 

 打つ手がない。

 最速の一撃も、僕に出来る駆け引きもまるで歯が立たない。

 攻めあぐねる僕へと、アイズさんが撃ち込んでくる。

 

 速い。

 防御がまるで間に合わない。

 避けるなんて考えることもできない。追い込まれると解っていても、直撃を何とか防ぐので精一杯だ。

 

 違う。

 速いわけじゃない。

 僕の意識外。

 僕が意識していない、意識させないようにされた方向から、攻撃が来ているだけ。 

 

 重い。

 防御することが出来ない。

 ガードの上からでも撃ち込まれた衝撃で、体勢が崩されている。じわじわと体幹が失われているのを感じる。

 

 違う。

 重いわけじゃない。

 僕の防御外。

 僕が重心を動かした、動かされた時に、攻撃が来ているだけ。 

 

 どうしようもない。

 防いでいても、勝機はない。

 なら、無理やりにでも攻めに転じる。

 あえて攻撃を受けて、僅かに生まれた隙へと攻撃を差し込み...気が付けば手の中に感じていた重みが無くなり、目の前にアイズさんの武器が付きつけられていた。

 何が起きたのか。

 

 「こ、降参です」

 

 「うん...」

 

 僕の武器はどこかに行ってしまって、目の前にアイズさんの武器が付きつけられている。

 何をどう言い繕ったとしても、誤魔化すことの出来ない負けだった。

 負けを認めた僕の言葉にアイズさんが頷いた後、ナイフがカランと音を立てて落ちてきた。

 その音を聞いてようやく、僕の攻撃が弾かれ、その弾かれた衝撃でナイフが手から弾かれてしまったことを理解する。

 

 

 

 

 

 

 「...ちょっと借りていい?」

 

 「えっ、あっはい...どうぞ...」

 

 落ちたナイフを拾い様子を確かめる。

 流石はヘファイストスブランドの超高級品。歪んだ様子もない。

 僕がナイフの調子を確かめていると、アイズさんからナイフを貸してほしいと言われ渡す。

 

 「...こう?...こっち?...こうしたら?」

 

 僕からナイフを受け取ったアイズさんは...あれは何をしているのだろう。

 多分、構えを試している...のだと思う。

 だけど正直、奇妙な踊りを踊っているようにしか見えない。

 

 うすうす気が付いていたけれど、アイズさんて...結構天然?

 

 どこか気を抜いたことを考えている僕の背筋に、悪寒が走る。

 一体何が?なんて考えるより先に体が反応する。

 その場から飛びずさり、悪寒の原因から距離を取る。

 

 僕の視線の先には、僕がさっきまで立っていた所に突き刺さるように、ハイキックを放ったアイズさんがいた。

 

 「えっ?...えっ!いったい何を...」

 

 「うん...分かって来た。...ベルは痛いのに慣れてないんだね。それに臆病でもある」

 

 「そ、それは...」

 

 アイズさんの言葉になんと言えばいいのかわからず、言葉に詰まる。

 

 痛いのは怖い。

 灰さん達は痛みなんてそのうち慣れる、なんて言っていたけれど、痛いものは痛い。

 だけど、そうやって痛みに怯えているから、強くなれないんじゃないか。

 痛みに怯えていては先に行っている人たちに追いつけないんじゃないか。

 痛みに怯える僕は臆病なんじゃないか。

 幾度も悩んだ、幾度悩んでも答えは出なかった。

 

 「...悪く言ったつもりはなかったんだよ...臆病なことは悪い事じゃない...危険に気が付けるから」

 

 「そう...でしょうか...」

 

 「うん...私の攻撃に気が付いたよね...それも臆病だから気が付けた」

 

 少なくとも気を抜いているLV.1じゃ対応できないような攻撃だったよ、とアイズさんは続ける。

 

 「だけど...防ぐことも、避けることも、上手じゃない...防御が苦手なんだね」

 

 「それは...そうです」

 

 防御が苦手。

 アイズさんに言われて、うすうす気が付いていた弱点を直視する。

 

 僕の戦闘技術は灰さん達との訓練で教わった物だ。

 灰さん達の攻撃は恐ろしい、強力なものだ。

 とてもじゃないが僕では防ぐことはできない。

 だから避けてからの攻撃を心掛けていた、だけど...

 

 「うん...その選択は間違っていない...だけど防御が疎かになっている...」

 

 その結果、戦闘中攻撃ばかりに意識が行っているようになった。

 防御が出来ない訳じゃない。

 だけど、防御を意識すると動きがぎくしゃくする。攻撃をする時ほど体を滑らかに動かすことが出来ない。

 

 「だから...攻撃を防がれると出来ることが無くなる」

 

 さっきのアイズさんとの戦いもそうだ。

 攻撃を防がれ、避けられ、打つ手が無くなった。

 そこに来たアイズさんの攻撃に焦り、視界が狭くなった。

 

 終わった今だからわかる。

 あの時僕が作ったと思ったの隙は誘い。

 僕はまんまと作られた隙に誘われて打ち込み、弾かれた。

 

 「落ち込まないで...弱点が分かっているのなら直せばいい...ベルはもっと強くなれる」

 

 「はい」

 

 「私にできるのは体に教え込むことだけ...つらいよ。それでも諦めないでね?」

 

 「ッはい!!」

 

 アイズさんの言葉に気を取りなす。

 弱気になっている暇はない。もっと強くなるためには、憧れ(アイズさん)に追いつくためには、弱い所を直視した位でへこんでいる暇はない。

 力強く返事をした僕に僅かに微笑みアイズさんは言う。

 

 「じゃあこの訓練が終わるまでの間ひたすら打ち込むから...頑張って防いでね」

 

 ...マジですか。

 

 

 

 

 

SIDE アイズ・ヴァレンシュタイン

 

 アイズ・ヴァレンシュタインにとってウサギのような彼、ベル・クラネルはとても気になる存在だ。

 

 最初は、自分達がした失敗の被害者に対する罪悪感だったはずだ。

 ダンジョン上層でモンスターを相手にしている、それも冒険者になってすぐの新米。

 到底勝てる訳もない強敵(ミノタウロス)と戦わさせられてしまった、不運な冒険者。

 それが、(ベル・クラネル)への認識だった。

 

 だが、遠征の打ち上げから抜け出し向かったダンジョン。

 その入り口で火の無い灰とミラのルカティエル(絶望を焚べる者)に背負われた彼を見た時。

 彼が、あのヘスティア・ファミリアの新入りだと知った時から好奇心がそこに加わった。

 

 あのヘスティア・ファミリアの冒険者が、あの火の無い灰達が、先輩として世話を焼こうとする。

 一体どんな出来事があればそうなるのか。

 一体どんな人なら彼等(灰達)と同じファミリアに所属して居られるのか。

 間違いなくこれまで自身が出会った事の無いタイプの人間だ。

 

 次に関わったのは彼の担当アドバイザー、エイナさんと出会った時。

 彼が10階層へと潜っていると聞いて感じたのは何だろうか。

 ミノタウロスに怯え、何もできなかった無力な冒険者はいなかった。

 無力さに打ちのめされることなく、恐怖を乗り越え成長した冒険者がいた。

 

 なんだか悔しかった。

 だから灰達の教えを受けた彼へと、訓練を施すことにした。

 

 

 

 

 

 灰達による訓練と聞いて私の頭によぎったのは「灰達にそんなことできるの?」という疑問だった。

 多分ロキ・ファミリアの...ううんオラリオの誰に聞いても同じ感想が帰ってくる。

 そんな当たり前の疑問は、ベル(ちゃんと名前で呼んでいいか聞いた)の攻撃を受けたことで解消され、そして深まった。

 

 ベルの一撃。

 私がベルから視線をそらした一瞬を見逃さず放たれた、その一撃は到底LV.1の冒険者が放てるものでは無かった。

 LV.2...いや攻撃の鋭さだけならLV.3にすら届きかねない凄まじい一撃。

 これをLV.1の、それも冒険者になって一ヶ月とちょっとしか経っていない新米が放つ、ティオナ達に言ったのなら下手な冗談だと思われるだろう...受けた私ですら嘘だと思うような出来事だった。

 

 納得する。

 ベルは間違いなく灰達の後輩だ。

 灰達の教えを受けたのなら、こんな新米が生まれるのだろう。

 灰達の教えを受けられる新米なら、これだけ強くなれるのだろう。

 

 納得できない。

 ベルの成長は歪だ。

 攻撃、それも隙や弱点を見つけることに関しては、LV.3冒険者にすら肉薄できる。

 その反面。防御は非常に下手だ。

 

 いや下手というのは間違い。

 経験(LV.1)相応というべきか。

 むしろたった一ヶ月とちょっとで、これだけ【守り】が出来れば上出来だろう。

 

 上出来だった。

 ベルがダンジョンを進む速度を考慮しなければ。

 攻撃面ばかり成長し、防御面がついて行けていないのは新米にはよくあることだ。

 だがこのままダンジョンを進み続けるのならば、モンスターの生まれる速度に倒す速度が間に合わない。或いはベルの一撃でもモンスターを倒しきれないようになるだろう。

 

 その時何が起きるのかは、容易に想像できる。

 

 (...そんなのは駄目)

 

 モンスターに群がられ、或いは強大なモンスターに叩き潰されてしまうベルを想像し、酷く嫌な気分になる。

 

 (だから...厳しくいく)

 

 想像できる未来を回避する為に、ベルには今よりもっと強くなってもらう。

 ベルは攻撃と防御の両方を同時にこなすのが苦手なだけで、危険に対する嗅覚はむしろ普通の人より鋭い。

 なら守りの経験を積めばすぐ上達するだろう。

 

 明確な受けが弱いという弱点を克服できれば、ベルは更なる高みへと至ることが出来る。

 それこそが自分の出来る贖罪だと信じて、私はベルへと武器を振るう。

 

 

 




どうも皆さま

ブラボの癖で追い込まれると×連打してしまう私です

これまでのベル君をフロムで例えるのなら
序盤で最大強化された武器を貰ったのでいかに不意を衝くかに特化した戦い方をするようになりました
最初に獣狩りの斧を選んだが為に銃パリィを習得するのに時間がかかった狩人は多いと聞きます
つまりはそういうことです

最後に灰より一言
「ぶっちゃけベルの成長速度は俺らも想定外」

それではお疲れさまでしたありがとうございました


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