忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編 作:noanothermoom
時刻 期限
迫る終わり、逃げらぬ終焉
たとえそれを退けようとも再び迫るもの
自身が決めようと決めまいと
願おうと願うまいと
時は待ってはくれない
終わりが見えているだけ良いのかもしれないが
SIDE オッタル
「これも足りん...」
失望の溜息と共に刀身が振り下ろされ、ミノタウロスが灰に還っていく。
「この程度ではあの方の命を果たせん...」
ダンジョンの中、重々しくオッタルは呟く。
ダンジョンに存在するモンスターはみな一様に、ダンジョンより産まれる。
同じような姿、同じような習性。
だが、僅かばかりの
その僅かな差異の中から見どころのある個体を探す為、ダンジョン内ひたすらミノタウロスを狩り続けているのだが、未だ鍛えるに足るモンスターはいなかった。
このままでは、
余りに見どころのあるモンスターを見出すのに手間取れば、灰達にもこの計画は露見するだろう。
そうなれば間違いなく何かしらの妨害がある。
灰との再戦を誓った身としては、灰達と戦うのは望むところだが、そのために主神からの命を果たせないのでは本末転倒だ。
「ブモオォォォォォォ」
いっそどこかで妥協するべきか、悩むオッタルの傍の壁より、また新たなミノタウロスが産まれる。
目の前の存在が同族を虐殺したことを察したか、或いはモンスターの本能か。
生まれたばかりでありながら、咆哮と共に手にした斧を叩きつけるミノタウロス。
しかしながら、相手は【
並みの冒険者ならば、否ミノタウロスを相手取ることに慣れた冒険者であったとしても、受け止めた勢いのままに叩き潰されるだろう一撃は、ミノタウロスの方を見ることもなくオッタルが無造作に出した二本の指によって止められた。
余りの出来事に思わず動きを止めるミノタウロス。
「いいぞ...お前ならば合格だ」
ダンジョンに獰猛なオッタルの笑いと、ミノタウロスの悲鳴が響く。
SIDE ベル・クラネル
ギルドの入口を通る。
ヘスティア・ファミリアに入団してから、ほぼ毎日通って来た慣れ親しんだ場所。
だが数日通らなかっただけで、ビックリする位の懐かしさを感じた。
これまでは、ソロでのダンジョンということと、アイズさんとの訓練の後ということもあって、ダンジョンに潜るにしてもちょっと潜ったら帰ってきていた。
だが、リリの方の用事もある程度のめどかついたということで、またダンジョンに一緒に潜れるようになる日も近いとのこと。
なら本格的にダンジョンに潜るようになる前に、ここの所ダンジョンで変わったことが起きてい無いか、情報収集をしにギルドに来たのだけれど、僕の目に映るのは人、人、人。
一面の人の海。
「なんだかこうしてギルドの人波にもまれていると、帰って来たって気がするなー」
人でごった返すギルド。
アイズさんとの訓練や、ちょっと潜ってすぐ帰って来たことで、結果としてギルドが最も混む時間帯を避けていたから、こうして人の海に溺れるのも久しぶりだ。
普通なら不快なはずの目的地に進むのにも苦労する程の人込みに、懐かしさすら感じる。
ほんの少し前、それこそ一ヶ月半ぐらいまでは小さな村でおじいちゃんと一緒に暮らしていたのが嘘みたいだ。
...というか僕がオラリオに来てからまだ一ヶ月半ほどしか経っていないの?嘘ぉ!?我が事ながら信じられない。そのくらい濃い時間がオラリオに来てから過ごしていた。
オラリオに来てからの記憶を振り返る。
オラリオに来なければできなかった...というか、オラリオでもなかなか出来ないような体験の数々。
お爺ちゃんの残した言葉に従い、オラリオに来たのは間違いじゃなかった。
柄にもなく、しんみりした気分になる。
「お...?おお!ベルじゃないか」
「マノさん!!」
人混みから離れた壁際で、少し物思いにふける。そんな僕に声をかける人がいた。
顔を上げるとダンジョンで出会ったパーティーのリーダーさん、マノさんだった。
「聞いてるぞ、もう10階層まで進んでるんだって?こりゃあ俺達もうかうかしてられないな」
「いやあ、10階層の恐ろしさを思い知った所で...」
こうしてマノさんと顔を合わせるのは、【怪物祭】で立ち寄った焚べる者さんのお店以来だ。
久しぶりに会った顔見知りに挨拶をして、互いの近況を話し合う。
マノさんが言うには僕が10階層まで進んだのは、見る目のある冒険者の中では大ニュースだとか。
なんだかそんな風に噂になっていると思うとちょっと恥ずかしい。
「そういやサポーターと組んだって聞いたけど...どうやら一人みたいだな?今日はいないのか?」
「ええ、ここの所どうしても外せない用事があるそうで、僕一人で上層に軽く潜っていたんです。
でも用事というのが、ひと段落したとかで、もうすぐまた一緒に潜れる予定なんです。
だから本格的に潜る前に、最近のダンジョンについて調べておこうかなと思いまして」
僕が契約したサポーター、リリについて聞かれるが...どこまで話していいものか。
マノさんを信頼していない訳じゃないが、僕が迂闊に漏らした情報が周り巡って、リリに迷惑がかかるといけない。
詳しく聞かれたらどうしよう、と心配していたが、マノさんはそれほど深く聞くこともなく、「一度挨拶しておきたかったんだが、いないのなら仕方がない」と流してくれた。
「マノさんは何かダンジョンであった事とか聞いてませんか?」
「ダンジョンで何かか...」
そうだ、せっかくマノさんと出会ったんだし、ダンジョンで何か変わったことが無かったか聞いておこう。
マノさんは僅かに考えこみ、9階層で【怪物進呈】しようとした冒険者がいて、まだその時のモンスターが残っているかもしれないだとか、18階層、安全階層と呼ばれる階層に作られた町でごたごたがあったらしいとか、色々と教えてくれる。
「あとは...これはまだ確定した情報じゃないんだが、ロキ・ファミリアがまた遠征する予定だって噂もあるな」
「え...遠征ですか?」
「まあ、ゴブニュ・ファミリアに預けられていたロキ・ファミリアの武器の修理が終わったとか、ロキ・ファミリアの団員が物資を買い集めているとか、色々噂になっているから、ほとんど間違いないとは思うが」
ロキ・ファミリアが遠征をする。
そのこと自体は驚きでもないだろう。
前回の遠征は不幸な出来事によって中断され、不本意ながら地上へと戻って来たと僕も聞いている。
アイズさんとの訓練の合間に聞いた話では、ロキ・ファミリアの幹部達も今度こそダンジョンの未知を明かさんと気炎を上げているらしい。
何処のファミリアが遠征をするのかということを気にする冒険者は多い。
いや、冒険者じゃない
冒険者と関わりが無い人にとって遠征とは、冒険者の実力とダンジョンの悪意がぶつかる、物語の生まれる舞台だ。
オラリオに来る前の僕も遠征を舞台にしたお話が大好きだった。
冒険者向けのお店をしている人にとって遠征とは、特別な需要が生まれる稼ぎ時だ。
ダンジョンに潜る為にパーティを組んだとしてもその人数は5人程、あまりに多い人数だとモンスターに気がつかれたり、
同じ冒険者にとって遠征とは、好機であると同時に危機だ。
遠征隊という大人数がダンジョンの中を一方向に進むことでモンスターが違う場所に現れる、そこを狙う冒険者も居れば、遠征隊という大勢の冒険者がダンジョン内を移動することで、ダンジョン内が普段とは違う様子を見せることを嫌う冒険者もいる。
だからどこかのファミリアが遠征をする、というのはよく噂になるらしい。
「...ベル?大丈夫か、顔色が悪いぞ?」
「えっ?あっはい...大丈夫です」
僕が初めてマノさん達と出会った日。
僕が調子に乗ってダンジョンを進み、ミノタウロスと出会い死にかけたあの出来事。
その原因の一つが、深層から帰って来たロキ・ファミリアの遠征隊である。
僕はロキ・ファミリアとその遠征隊を恨んではいない。
あの時僕が死にかけたのは、僕が馬鹿で、調子に乗った、向こう見ずな新米だったからだ。
それでも顔色が悪いと心配してくれているということは、僕にとって【ロキ・ファミリアの遠征】という言葉がトラウマになっているとマノさんは思っているのだろう。
だけれど、僕の頭の中に巡る考えは一つだけだ。
アイズさんから訓練のお誘いを受けたあの時言われた言葉。
「...とりあえず、次の遠征が決まるまでは暇だから、訓練してあげる」
SIDE ???
オラリオの中心にそびえたつ巨大な塔バベル。
そのバベルの下に何があるのかを知らない者はいないだろう。
冒険者の街オラリオと呼ばれる理由、オラリオが冠する迷宮、ダンジョンが存在する。
だが、バベルの下について知るものは多くとも、上について知る者は少ない。
製作系ファミリアの店舗が並ぶ商業エリアならば、それなりに知られているだろう。
ファミリアの団員ならば、神々の居室がその上にあることも知っているかもしれない。
だがその上は?
バベルは巨大な塔だ。塔であるのならば頂点が存在する。
冒険者が
ある意味ではバベルの構造は、このオラリオの構造と同じになっているのかもしれない。
...だがその上は?ありとあらゆる神々の上に存在する者は一体誰なのか。
すなわち、オラリオに存在する神々の中で最も貴き神は誰なのかということだ。
実に恐ろしい問いだ。
神々の宴、それも美しさを司る女神が集う宴に、【もっとも美しい女神へ】と書いたリンゴを投げ入れる様なものだ。
知ろうと思うことすら危険な、否その疑問を抱くことすら恐ろしい問い。
その答えを知るものは、神かギルドの極僅かな人物だけである。
「ロキ・ファミリアの【剣姫】は期待に応えたようだが、面倒なことも同時におきたようだ。...新種のモンスター、宝玉、レヴィスと名乗る怪人、おまけに...」
「
バベル最上階。
ローブを目深に被った人物が報告するはダンジョン24階層で起きた出来事。
【剣姫】とヘルメス・ファミリアが向かった
ダンジョンの異常、迫りくる新種のモンスター、謎めいた宝玉、超常の強さを持つ怪人、過去から蘇った因縁、そして冒険者の覚醒。
未だ見ぬ
だが、それを聞いた神の顔は暗い。
面倒な、と呟いたのはどちらだったのか。
ローブを纏った奇妙な人物、フェルズか、それともバベル最上段に座する神、ウラノスか。
冒険者達がその輝きで神々の目を楽しませ、人々を惹きつける。そうして冒険者達に近づこうとした人々の影は冒険者達が輝けば輝くほど暗くなる。
目も眩むような成功があれば、目も当てられない悲劇も存在する。
その悲劇から生まれたオラリオの闇、闇派閥。
闇派閥の者らは総じて落伍者だ。
上位の冒険者からすれば数にもならないような存在である。
彼らの軽い一振りで何十何百を打ち倒すだろう...
ダンジョンでモンスターを相手にするのではない、言葉が通じ、意思疎通もできる人を殺すのだ。
常日頃、闇派閥に恨みを持ち殺意を滾らせる人物であっても、いざ殺そうとすれば躊躇し、自身より弱い相手に敗北することはままあった。
闇派閥はダンジョンで、地上で、或いは路地裏で、ただ目の前に立ち塞がるだけではない。
冒険者の親しい人物を、冒険者の買う物資を、或いは冒険者の通うギルドを狙い、悲劇を起こす。
そうして引き起こされた悲劇からまた闇派閥が生まれる。
終わらない輪廻、人と神の愚かさから生まれる呪い。
遂にはオラリオの秩序を砕くその一歩手前まで至った闇派閥は、冒険者達の尽力によって打ち倒され、闇派閥は消えた...そう思われていた。
だが、オラリオがオラリオであるがゆえに、冒険者の輝きが人々の目を眩ませる限り、この街に悲劇は無くならず、闇派閥も消え去ることは無い。
無力でありながら打ち倒せず、確かなる姿を持たないがゆえにどこにでもいる、終わりの無い悪夢。
「...一つ打つべき策はある、悪夢には...悪夢だ」
「悪夢...まさか!?」
しばしの間考え込んだウラノスは重い口を開く。
躊躇いながらも放たれた言葉に、フェルズは驚愕する。
「考え直せ、いや考え直してくれ。彼等を動かすとなれば...」
「どれだけの被害が出るか分からない...か?」
「そのことが分かっていながら何故!!」
「彼等はすでに過去の彼等ではない。彼らの主神と後輩によってな...
それともそれ以外の手があるのか?彼等よりも早く、確実に、闇派閥を探し出し、皆殺しにする、そんな手段が」
「...」
「どうやら無いようだな、ならば
「了解した。ウラノス」
ウラノスの意志を翻させることが出来ないと悟ったフェルズは、ギルドへと向かう。
それでもなお呟くことはやめられない。
「上手く行くことを祈るべきだろう...
どうも皆さま
後書きに書くこと何も思いつかない...私です
いやまあ後書きなんてほとんどの人は飛ばしているでしょうし要らないと言えば要らないのですがね
一度そういう形式にした以上何も書かないのも気持ちが悪いんですよ
息抜きに書いた分を整えて今日か明日ぐらいに
ちょっとしたおまけとして投稿するかもしれません
楽しみにして頂ければ幸いです
...期待は裏切らないようにします
それではお疲れさまでしたありがとうございました