忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

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初めにこのお話はギャグです
時間軸とか、力関係とか、統合性とか、そういった物は全て投げ出したお話です
頭を空っぽにしてお読みください


リリルカ・アーデの憂鬱或いはヘスティア・ファミリアの日常

 あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!

 

 オラリオの街に奇声が響く。

 一体何が起きたのかと周囲を見渡した人々は、その出所に気がつくと何もなかったかのように日常に戻る。

 物事には聞くべきでない物、見るべきでない物、知るべきで無いものが存在する。

 好奇の熱に突き動かされ、甘い秘密を暴こうとしなかった彼らは、正しくそして幸運だ。

 

 だが、世の中には幸運な人物ばかりではない。

 

 

 

 

 「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!」

 

 「リ、リリ...?だ、大丈夫...?」

 

 奇声の出どころ、廃教会にて怯えながらリリルカ・アーデに声をかけた、ベル・クラネルは間違いなく不幸な人物だ。

 

 床にひっくり返り、手足を振り回しながら泣き叫ぶ。

 リリルカの幼い容姿と相まって、まるで子供が駄々をこねているかのようだ。

 だが、小人族(パルゥム)であるリリルカはその外見と実年齢が一致しておらず、自身よりも年上であることを知るベルからすれば、ドン引き物であった。

 いや、仕方がないだろう。

 その豊富な経験を活かし、ダンジョンでは自身を先導し、地上では金銭を任されるほどにしっかりとしている仲間の醜態だ、ちょっとぐらい引くのも無理はない。

 

 「...気が狂ったか」

 

 「狩人さん!?」

 

 ぽつりとつぶやかれた言葉に絶叫するベル。

 さらりととんでもないことを呟いた狩人は「案ずるな」とベルを落ち着かせ、さらに言葉を続ける。

 

 「ヤーナムの神秘を追い求める者らにとって、気の狂いはありふれた症状でありその対処法も確立されている。

 ...そう濃厚な人の血は気の乱れを沈める」

 

 しかしながら言葉と共に狩人が取り出したのは、常に狩人が纏う匂い(濃厚な血の香り)が漏れる小瓶。

 絶句するベルをしり目に、暴れるリリルカへと小瓶の中身を飲ませようとする狩人。

 絵面だけならば、凄惨ないじめの場面にしか見えないが、困ったことに狩人は善意100パーセントである。

 

 ようやくベルが正気に戻り、止めようとした時には小瓶の蓋は開けられ、その中身がリリルカの口に触れようと...したその瞬間リリルカの腕が動き、小瓶を掴み部屋の隅へと投げ捨てる。

 

 「な、なにを飲ませようとしてるんですかあぁ!!!」

 

 「鎮静剤だが?」

 

 「この世界の!何処に!あんな血生臭い鎮静剤があるんですか!!!

 いやそもそもどんな頭していれば、人の血を飲もうと思うんですか!!!

 頭の中に脳みその代わりに何が入っていればそんな発想に至るんですか!!!」

 

 「...海水じゃないか?」

 

 「んんんんんん!!!」

 

 奇しくも血生臭さに正気を取り戻したリリルカは、掴み掛らんばかりの勢いで狩人に迫るがその程度で怯むようでは、あんな血生臭い鎮静剤がある所(ヤーナム)で狩人などしていられない。

 自身の答えを聞いて、顔を真っ赤に染め上げ怒りに満ちているリリルカを、元気になってよかったなと軽く流し、部屋の隅に投げ捨てられた鎮静剤を拾いに行く。

 場を荒らすだけ荒らして自分はさっさと離脱した、とベルが狩人の行動に戦慄していると、落ち着くように声をかける人物がいた。

 

 「おいおい、おチビも落ち着けよ。そんなに興奮すると体に毒だぞ?」

 

 「灰様...元はと言えば全部アンタの所為ですからね!!!」

 

 声の主、火の無い灰はどうどう、とリリルカに落ち着くようにジェスチャーする。

 その甲斐あってリリルカは落ち着いた...ように見えたが、掴んでいた手紙を灰へと投げつける。

 

 「これは!

 灰様の!!

 ツケの領収書です!!!

 なんですか!この額はあああああ!」

 

 「お?...落としたか。拾ってくれてありがとな、俺が燃やしとくわ」

 

 そこに書かれていたのは5千万ヴァリスという値段と、それが支払われたと言う文面。

 そのとんでもない値段に驚愕し、朝から発狂したのが事の顛末だと語るリリルカに対して、灰は軽く礼を言い、投げつけられた手紙を手のひらに生み出した火球で燃やし尽くす。

 

 「何燃やしているんですか!それ燃やしとくと書いて証拠隠滅と読むやつでしょう!?もおおおおおお!!!」

 

 その光景を見て頭を抱え、再び絶叫するリリルカ。

 しかし、そんな絶叫で怯んでいては、火の無い灰などしていられない。

 

 「いや、マジで今回は良い買い物だったんだって。見てみろよこの美しい曲せ「ふんっ!」...何をするんだ」

 

 「何をするんだ、じゃないですよ!大体灰様はもう一杯武器を持っているじゃないですか!!そんなに武器ばっかり買った所で使えないでしょうが!!!」

 

 「いや、武器だけじゃない、防具も買っている「なお悪いです!!!」」

 

 反撃するために買った武器を見せ、この武器がいかに良い物かを説明しようとし、そんな灰の行動に更なる怒りに駆られたリリルカは、目の前に出された武器を引っ掴み放り投げる。

 恐れ知らずなその行動に、思わずリリルカのお説教を正座して聞く灰。

 何とか説教を終わらせようと、口をはさむが余計に怒らせてしまうだけであった。

 

 「まあまあ、灰殿が浪費家なのは今に始まった事でもありません。そのように怒らずとも...」

 

 「関係ないみたいな顔していますけどね、九郎様。あなたも灰様と同じぐらい浪費してますからね!()()が何よりの証拠です!!」

 

 「「「なんだって!?」」」

 

 その言葉に驚く一同。

 リリルカが指さしていたのは、テーブルの上に置かれたお茶の入ったポット。

 オラリオで広く飲まれている紅茶では無く、緑茶が入っている。

 

 「いつもしれっとした顔で飲んでますけど、それ極東から輸入している高級品ですからね!!」

 

 リリが口にした緑茶の値段に、今まさに緑茶に口を付けていたヘスティアが思わず吹き出す。

 

 極東。

 文字通り東の果て、海の向こうにあるという島国であり、狼や九郎のいた日ノ本に似た文化を持つ国である。

 或いは彼の地に葦名は存在するのかもしれない、と思い調べようとしたが海の向こう側である関係上、流れてくる情報も断片的な物しかなく、諦めたという過去がある。

 

 極東からの輸入品は高い。

 島国であるがゆえに物を運ぶのに船を使うしかなく、天気や海の状況に左右されるというのもある。

 だが一番の理由は、オラリオの遥か東にある極東から物を運ぶということは単純に、それだけモンスターに襲われ易いためだ。

 海の上でモンスターに襲われれば、どう足掻いたところで逃げ出す術はない。

 つまりは商人たちは命がけで品物を運んできているのだ。

 輸入品の値段は商人たちの命の値段、安いわけがない。

 

 「なんと...」

 

 「なんと...じゃないんですよ!というか九郎様はお金について適当すぎるんですよ!!どんぶり勘定にも程というものがあるでしょう!!!」

 

 「それは申し訳ありませぬ...」

 「素直に謝られるとそれはそれで調子が狂うと言いますか...そこの関係ないと言わんばかりの顔しておはぎを食べている狼様!あなたも何か言ったらどうですか!!」

 

 「言えぬ...」

 

 リリルカの言葉を聞き素直に謝る九郎。

 調子が狂いそうになったリリルカは怒りの矛先を狼に向け、いつも通りの狼の言葉に頭を抱える。

 

 「んあああ!?何なんですか!もう!」

 

 「ミラのルカティエ「ハイ!来ると思っていましたー!!来ると思っていたのでその名乗りはキャンセルです!!!」...むう」

 

 遂におかしなテンションになったリリルカの叫びによって、名乗りが中断された焚べる者は一瞬怯む...

 

 「ならば語ろう。ミラのルカティエルの伝説シリーズ新刊発売を!」

 

 こともなく元気に宣伝し始める。

 

 「何なんですかほんとに。何なんですかホントにいいイイイ!!!」

 

 新刊の宣伝をしている焚べる者の手から本を奪い取り、部屋の隅へと投げ捨てるリリルカ。

 

 「新刊ではミラのルカティエルがロスリックで大冒険だ。世界の危機に過去の英雄たちが復活し、それぞれの意志を貫かんとする...」

 

 だが、そんな程度で揺らぐのならば、絶望を焚べる者はヘスティア・ファミリア最狂などとは呼ばれない。

 新しい本を取り出し、宣伝を続ける。

 

 「ああああああああ!!!なんなんですか!なんなんですか!!なんなんですかあああ!!!」

 

 「おい

 

 余りの不動っぷりに頭を抱え発狂するリリルカ。

 そんな彼女に、地獄の底から響くような声音で声がかけられる。

 

 「狩人さ...どうしたんですか、それ!?」

 

 見れば狩人が頭から大量の血を流しながら立っていた。

 思わず叫ぶベル。

 

 「鎮静剤を拾うためしゃがんでいたら頭に()()が突き刺さってな。危うく目覚めをやり直す(死ぬ)所だった。おまけに輸血液を使った後に、これも飛んでくる始末だ」

 

 「あっそれは灰さんの...」

 

 「いやいや!?投げたのはおチビだろ!?俺悪くねーよ!?」

 

 狩人が手に持っているのは、リリルカが投げた灰の武器と焚べる者の本。

 ぽつりとつぶやいたベルの言葉に反応した狩人に睨まれ、灰は慌てて弁解する。

 

 

 

 

 

 「なんですか。リリが悪いというんですか。上等ですよ!追い込まれた小人族の恐ろしさ刻みつけてあげます!!」

 

 睨みつけられたことでついに限界に達し、狩人へと襲い掛かるリリルカ。

 

 「おー、いいぞー、やれやれー...ヘぶっ!!」

 

 始まったケンカに無責任にヤジを飛ばしていると、狩人に殴り掛かられた火の無い灰。

 

 「元はと言えば貴様に責任があるのだろうが!!」

 

 怒りも露に灰の顔に拳を叩き込む狩人。

 

 「ならば語ろう。ミラのルカティエルの伝説を!!」

 

 何故か分からないが、ケンカに参加する絶望を焚べる者。

 

 「うわっ!部屋の中で暴れないでくださ...うわあ!!」

 

 必死にケンカを止めようとするも、巻き込まれてしまうベル。

 

 「ふう。朝から元気なことです。狼、怪我をする前に止めなさい」

 

 その様子を見て、狼へと止める様に言う九郎。

 

 「...御意」

 

 我関せず、と言わんばかりに食事を続けていたが、九郎の言葉を受け愛刀を片手に乱入する狼。

 

 自身の眷族たちの狂乱を見ながら、ヘスティアは手元の湯飲みから茶を啜る。

 値段を聞いたときは思わず凄い目で見てしまったが、狩人の鎮静剤よりもお茶の方が遥かに気を静める効果がある。

 

 ふう、と息を吐いて空を仰ぐヘスティア。

 地下室故その瞳に映るのは、薄汚れた天井だけだ。

 しかしながら、その先にあるだろう青天を幻視し呟く。

 

 「今日も平和だなー」

 

 そうこれは、オラリオの住人が知れば発狂するような、しかしヘスティア・ファミリアの団員達からすれば、なんてこともない日常の一ページである。

 




どうも皆さま

リリを虐めたい欲求もといリリの出番を書きたい欲求に勝てなかった私です

元々この話のプロットはベル君が灰達の日常にツッコミを入れていくものだったのですが、ベル君が思ったより馴染んでいるのでツッコミ役がリリになりました

頑張れリリ、負けるなリリ、ヘスティア・ファミリアのツッコミは君の両肩にかかっているぞ

それではお疲れさまでしたありがとうございました
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