忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編 作:noanothermoom
太陽が沈んだ後 休むべき時間
太陽が無い闇が迫る時間帯であり
灯りを持たないのならば活動するべきではないだろう
だが暗闇にこそ咲く花もある
例え誰にも見られないとしても
誤字脱字報告いつもありがとうございます
量が多すぎて私でも判断できなくなったので一括してお礼申し上げます
世界が暗い。
何も見えない。
何も聞こえな...前もこんなこと有ったな。
いや、前と違う所が一つある。
僕の後頭部に温かく、軟らかい何かを感じる。
前もこの感触を感じたことがある、あの時は...っ!!
「目が覚めた?おはよう...」
「お、オハヨウゴザイマス」
目を開くと目の前にアイズさんの顔。
僕は何時ぞやの様に膝枕されており、アイズさんは覗き込むようにして僕の顔を見ていた。
僕としてはすぐにでも起き上がりたいのだけれど、アイズさんは挨拶をした後、黙って僕の髪を撫でまわしている。
...今僕の中ではある誘惑が産まれてる。
アイズさんがなんで僕の髪を撫でまわしているのかは知らないが、このままでいれば合法的にアイズさんの膝枕を堪能できるというものだ。
いや、忙しいアイズさんが時間を割いてくれているんだ、今すぐ訓練に戻るべきだ。それが貴重な時間を割いてもらっている事への、恩返しになる。
恩返しというのなら、アイズさんが満足するまで髪を触らせるべきだろう。それともちょっと髪を触らせることもしないくらい僕は恩知らずなのか?それにこうして膝枕されていると、訓練で打ち据えられた体が癒されていくのを感じる。これは効率よく体を休めているだけだ。
嘘をついてはいけない、それはアイズさんをだしにして、膝枕を堪能しようとしているだけだ。それにアイズさんに膝枕されていると癒されていく以上に、こう僕の自尊心だとかプライドだとかが削れて行く気がする。
だが、あのアイズさんの顔を見ろ、どことなく嬉しそうな表情が見えないのか?僕がちょっと我慢するだけで、アイズさんは僕の髪を満喫でき、僕もアイズさんの膝枕を堪能できる。誰も損をしないステキな選択肢だ。
黙れ黙れ、なんだかんだ言って膝枕を堪能したいだけだろうが、僕はそんな誘惑には負けない、僕はそんな欲望には負けない。消えろ!よこしまな欲望を持つ僕!!
...はあ、はあ、辛うじて僕の理性が勝った。
当然ながら、僕の中での争いなど知る由もないアイズさんは不思議そうな顔をして、黙った僕の顔を見ている。
「...どうかした?」
「あー...いえ、そのーえっと...遠征の日程が決まったんですよね?」
「うん...だからベルに訓練してあげられるのも残り僅か。その分頑張ってね...」
アイズさんの純粋な瞳が僕を突き刺す。
そ、そんな目で見ないでください。
僕は、僕は、そんな目で見てもらえるような人間じゃないんですううううううううう。
「今日は気合が入ってたね...」
「ええまあ、頑張りまし「ぐー」」
夕日に染まった。オラリオの街をアイズさんと並んで歩く。
いつもならお昼前には訓練を終わりにするのだが、もうすぐロキ・ファミリアの遠征がある。
こうしてアイズさんと訓練する日々も終わりかと思うといつもより熱が入り、気がつけばこんな時間になってしまった。
リリの用事が終わっていないから予定が無い僕と違って、アイズさんには予定もあるだろうにと焦ったが、アイズさん曰くファミリアのみんなは遠征の準備に忙しく、アイズさんは自分の分の準備が終わっているので暇だったから問題ないらしい。
そんなこんなで、アイズさんと一緒に歩いていたのだが、空気の読めない僕のお腹が空腹の音を響かせてしまった。
思わず僕のお腹を押さえるが、鳴った後に押さえた所でどう仕様もない。
僕の顔が夕日で誤魔化せないくらい、赤く染まっていく。
は、恥ずかしい。
しかしアイズさんはクスッと笑うと「頑張ったもんね...何か奢ってあげる」と言ってくれた。
「ジャガ丸くんでいい?」
僕はアイズさんの言葉に頷き、驚愕する。
それはアイズさんが頼んだジャガ丸くんの味が小豆クリーム味だったからでもなく、いつの間にかアイズさんに奢られることを受け入れていた僕に気がついたからでもなかった。
アイズさんの追加注文を聞いている屋台の店員さん、その人いやその神に見覚えがあったからだ。
「か、神様ぁ!?」
「ベル君!?」
...というか思いっきり
オラリオの街を歩く。
先程まで街を染め上げていた夕日は沈み、夜の闇があたりを包み始めている。
僕の隣にはアイズさん。
そしてその反対側にはアイズさんに威嚇する神様。
あの後は大変だった。
屋台を乗り越え、僕に跳びかかった神様は「よりにもよってロキの所の女と!」だとか「ベル君の浮気者!」だとか叫んだのだ。
ちょっとした...と言うか普通に騒ぎになり、お店の人が出てきて、仲裁してくれた。
そして僕が神様の眷族だと知ると「ヘスティアちゃんの新しい家族だね、迎えに来てくれたのかい?ならもう上がっていいよ」とバイトを早上がりさせてもらったのだ。
とにかくバイトが終わった神様を連れて、人通りの少ない道に入った僕達は、事情を説明した。
最初は聞く耳を持とうともしなかった神様だったが、懇親丁寧にアイズさんが罪滅ぼしの為に訓練を付けてくれたこと、訓練を受けて僕が強くなっていること、ロキ・ファミリアの遠征までの約束だからもうすぐ終わることを説明すると、しぶしぶアイズさんとの特訓を受け入れてくれた。
しかし、神様を説得している間に日は落ちて、月が昇ってしまった。
夜のオラリオは危険だと言うアイズさんの勧めで、【
最初は難色を示していた神様だが、襲われるかもしれないという言葉で受け入れてくれた。
...確かに危険だ。襲われる僕達じゃなくて襲った側の方が。
灰さん達によって報復としてどんな目に合わせられるのか。想像するだけでも震えが止まらなくなる。
そういう訳で、僕をはさんで神様はアイズさんと並んで歩いているのだが、随分とアイズさんを警戒している。
僕は必死にアイズさんは良い人だと神様に伝えようとするのだが、その度に「ちっとも安心できないよ」だとか「ボクのいない所でそんなことまで!?」とむしろ警戒を強めている。
困った。
「...」
「どうしたんだいヴァレン何「神様」...ベル君?」
アイズさんが足を止めたことで、怪訝そうな表情をしている神様の手を引っ張り僕の後ろ、すぐに庇える場所へと誘導する。
僕達の目の前、今から足を踏み入れようとしていた裏路地、街の光が届かない暗い道から、ダンジョンでモンスターが発する
「前は私が片付ける。後ろをよろしく...」
「わ、分かりました」
まさかモンスターが?僕が暗がりの様子を窺おうとすると、アイズさんが武器に手をかけながら小さく呟く。
その言葉に僕が頷くと同時に、自分たちの存在に気がつかれたと察したのかローブを纏った男達が現れる。
「...ベル君!」
「大丈夫です!!」
アイズさんが男達へと突っ込んでいくのと同時に、後ろからもローブの男たちが現れ、先頭の男が突っ込んでくる。
その速さに神様が、悲鳴のような声で僕の名前を呼ぶが、大丈夫だ。
速いことは速いが、見えない程じゃない。狼さんやアイズさん程ではない、なら問題ない。
落ち着いて男の手にしている武器を打ち払う。
「なっ...くっ...」
武器が弾かれたことで、バランスを崩した男が驚愕の声を上げる。
隙だらけの腹へと追撃の蹴りを叩き込む。
蹴りをまともに受けた男は飛んで...いや飛び過ぎだ。あれは僕の蹴りによって飛んだんじゃない、自分から後ろに跳んでダメージを軽減したんだ。
僕を甘く見た相手の不用意な攻撃に合わせたカウンター。
格上であろうフードの男を倒せるチャンス、それを焦って無駄にした。男はもう迂闊な攻撃はしないだろう。だが問題ない。
僕の狙いは、僕が欲しかったのは距離、僕が魔法を使う為の時間。
手を前に突き出し、男に向かって魔法を使う。
「ファイアボルト!!」
「な、ぐっ!!!」
僕の手から放たれた炎が闇を切り裂く。
男が炎の光に目を焼かれ、苦悶の声を上げる。
警戒すらしなかった一手否、僕を警戒していたからこそ刺さる一手。
更なる追撃を加えれば、勝利を引き寄せることもできるだろう状況。
だが、僕は神様を庇えるこの場所から離れない。
灰さんとの手合わせの時のように、勝とうとして危険を冒すことはもうしない。
こうして時間を稼いでいるだけでも十分だ。アイズさんが前にいた男達を倒せば、どうあれ天秤はこちらに傾く。
焦る必要はない。
「詠唱無しでの魔法だと!?」「これほどの成長とは...」「あの方も喜ばれるだろう」
だが、僕が焦っていないのと同じように、フードの男達も焦っていなかった。
それどころか、むしろ僕が予想外の戦いをしたことを喜んですらいるようだ。
分かってはいたことだが、相手は全力で向かってきているわけではない、むしろ手加減しているのだろう。
何故、襲ってきた男たちが嬲るような戦い方をしようとしているのか、答えは分からない。
「もう十分だ。引く「見 つ け た 」ッ!!」
僕が男達とにらみ合い、硬直状態になる。
男達が徐々に後ろに下がり、逃げようとするその時、海の底に引き込もうとするような恐ろしい声が聞こえ、闇から滲み出るように人影が現れた。
「っ貴様!?」
「喚くな生まれるべきで無かった、哀れな人の膿が。
どうせ同じことしか喋らない貴様らの言葉に価値など無い、否貴様らの存在そのものに価値などない。
穢れた獣より、愚かななめくじより、なお存在を許せない貴様らが何故存在している?許しなどありえない。
価値無き貴様らなど生きている意味も無い。今すぐ殺してやる...
悍ましい死に様が、貴様らの同族への警告となるだろう。貴様らの生まれてきた意味などその程度だ」
狩人さんだ。
元々激情の人というか、カッとしやすい人ではあるが、今は僕でも見たことが無いくらい怒り狂っている。
それこそ、身に纏う目に見えるほどの血の匂いすら薄れるほどの怒り。
「狩人だと!?想定外だ。今すぐ撤退する「遅い」...ッ!!」
狩人さんを認めた男たちは即座に撤退しようとするが、狩人さんはそれより早い。
一体いつ抜いたのか、それも分からない程に早く抜かれた歪な刃、それがフードの男の血に濡れていた。
フードの男たちが狩人さんに動揺した隙に、狩人さんが近づき攻撃した。
それが僕に見えた──全然見えてないけど──全部だった。
だけど、無防備に切られたように見えたフードの男は、辛うじて防御に成功したようで、狩人さんが切りつけた首筋では無く、腕から血が噴き出す。
「撤退、撤退だと?ふふふ...吠えたな虫が。いいだろうやってみろ。この私相手に逃げられるというのならば逃げてみろ」
攻撃を防がれた狩人さんは、顔を下げながら手にした刃を掲げ...刃が二つに分かたれた。
二刀流だ。
武器が二本になったことで、手数は倍になる。
...とまでは言わないけれど、手数が増えるのは事実だ。
その分使いこなすには難易度が高くなるが、使うのは狩人さんだ。間違いなく十全に使いこなすだろう。
「どれだけ逃げようと、どれだけ隠れようと。私は貴様らを追いかけ、暴きだし、息の根を止めてやる。あれだけ私の恐怖を刻み込んでやったというのに、この五年間で忘れたようだな?いいだろう悪夢は巡り覚めぬものだ。貴様らを...なに?」
距離を取るフードの男達を睨みつけ、狩人さんは怒りの言葉をまき散らす。
聞いているだけで、否近くにいるだけでも精神を削る狩人さんの激怒。
それが急に揺らぐ。
フードの男達の行動は速かった。
何かを袖から落とす。
丸い何かだと認識すると同時に、僕は神様を押し倒すようにして庇う。
神様と僕が地面に倒れこんだすぐ後に、オラリオの街を包む闇が閃光によって押し返される。
真っ白に染まった視界が元に戻った時には男達の姿はなく、血の跡だけが残されていた。
「神様大丈夫...」
「べ、ベル君?確かに君の気持は嬉しいよ?だけどもっとムードとか必要なものがあるだろう?
いや、君がどうしてもというのなら僕も受け入れるのは吝かではないというか...だけどせめて初めては室内が良いと言うか...」
男達が撤退したことを確認した後、神様の無事を確認する。
大丈夫でしたかと言おうとした僕の言葉は、真っ赤な顔をしながら何か早口で喋っている神様の姿にかき消された。
え?これどうするんです?
「大丈夫...ベル...?」
僕が神様をどうすればいいのか分からず固まっていると、アイズさんも様子を見に来て固まってしまった。
本当にどうすればいいんですかこれ。
「...何をしているんだお前達は...」
固まる僕とアイズさん。僕の下で早口で何か妄想のようなものを垂れ流している神様。
異常な状況へとツッコミを入れたのは狩人さんだった。
狩人さんが声をかけてくれたことで、正気に戻った僕は神様を立ち上がらせる。
それでも神様は「急に抱きしめるなんて...」とか言っていたが、狩人さんのチョップで正気に戻った。
「礼を言おうアイズ・ヴァレンシュタイン。神ヘスティアを守った事、ベルを鍛えてくれたこと。そのどちらも大きな借りだ」
「別にいいよ...特別なことをしたわけじゃない。当たり前のことをしただけだよ...」
「それでも、いやだからこそだな。もう一度礼を言おう」
狩人さんはアイズさんへと頭を下げている。
僕も急いで頭を下げる。
僕が戦ったフードの男。
間違いなく、僕一人では勝つことが出来ない相手だった
アイズさんとの訓練が無ければ、何もできないままに負けてもおかしくない、間違いなく僕よりも遥か高みにいる冒険者の一人だった。
そんな相手と曲がりなりにも戦えていたのは、アイズさんとの訓練のおかげだ。
アイズさんは狩人さんと僕からのお礼に少し恥ずかしそうにしている。
狩人さんという迎えも来たことだし、アイズさんと別れ【廃教会】へと向かう。
「そういえば...狩人君。君あの男達について知っていたのかい?」
道を歩いていると、神様が狩人さんへと疑問を投げかけた。
確かに、狩人さんは見つけたと言っていたし、前にもあったことがあるような口ぶりだった。
あの時の狩人さんの様子から、友達とかそういう関係で無いのは分かるが、なら一体どういう関係なのだろう。
疑問に思って僕も狩人さんを見つめる。
「あー、その...だな、はっきり言うが勘違い...つまり人違いだ」
ひどく言いにくそうに、あちらこちらへと視線を彷徨わせた狩人さんの口から語られたのは人違い。
人違い、人違い?えっ?人違いってあの人違い?
えっ?えっ?
「「ええええええええええええええええ!!!」」
僕と神様の声が夜のオラリオに響いた。
ひ、人違いて、人違いって、それはないでしょう。
なんかもう可哀そうだ。
襲われた側の僕が言うのもなんだが可哀そうだ。
人違いであんな殺気をぶつけられた、あの男達が不憫でならない。
口には出さなかったが、というか口に出さなくても分かる。
僕と神様の視線を受け、狩人さんが言い訳するように口を開く。
「仕方ないだろう。私が獣よりも、
最初は勢いよく、だが僕達の視線に耐え切れなかったのか、段々と声は小さくなり最後には手で顔を覆うようにして狩人さんは語った。
思えばさっきの戦いで、不自然に狩人さんの心が揺れた瞬間があった。
きっとあの時人違いに気がついてしまったのだろう。
もし僕が同じ立場になったらどうするべきだろう、考えてみる。
思いっきり因縁の相手のような台詞を言いながら、その実人違いだった。しかも知り合いの前でそれをやるのだ。
これは酷い。
「うんまあ、そんなこともあるよ。あまり気にしないでいこう」
神様も同じようなことを考えたのだろう。
慰めるように狩人さんの背に手を置いている。
遠くに見慣れたほの暗い【廃教会】の明かりが見える。
帰るべき家の明かりを見た途端、どっと疲れが噴き出した気がする。
それでも、軽い足取りで僕は家へと帰ったのだった。
ボクに内緒にしていた灰君を一発殴ってやると駆けだしたヘスティアと、そんな彼女を追いかけているベルの背中を見ていた狩人は、視線をフードの男達が逃げた方向へと向ける。
探していた人物とは違い、あの時は面を食らったが、それでもあいつらも自身の探していた人物ではある。
「覚えたぞ...獣共が...」
小さく呟かれた言葉は誰の耳にも届かず消え去った。
どうも皆さま
本当に話を進めたいのに書かなきゃいけないことが多すぎる...私です
いや本当に、そういう所の取捨選択がうまい他の作者様はすごいと思います
後書きに書くことが思いつかないと書いたた所
いただいた感想よりちょっとした小ネタを書いてみることにしました
お気軽にどうぞ
お疲れさまでしたありがとうございました
【名前】
「“さぽおたあ”殿少しこちらに来ていただけますか?」
廃教会の中。九郎に呼ばれたリリルカ・アーデは奇妙な顔をする。
「九郎様、リリの名前を呼んでくれますか?」
「“さぽおたあ”殿の?ええいいですよ。“りりるか・ああで”でしょう?」
名前を呼ばれたリリは更に奇妙な顔をする。
「九郎様は...その発音が特徴的ですよね」
「申し訳ありませぬ。直そうとはしているのですが何分昔からの癖というのはなかなか直らず...」
「いや、攻めているわけじゃなくて...そうだ区切って発音してみてはいかがでしょう」
頭を下げる九郎へと慌てるリリ。
リリの後に続いてくださいと言って自身の名を口にする。
「リリ」
「リリ」
「ルカ」
「ルカ」
「アーデ」
「“ああで”」
途中までは上手く行ったが、やはり特徴的な発音になってしまったことに首をかしげる九郎。
とは言え上手くできたことに喜ぶリリ。
「それじゃあこれからはリリのことはリリでいいですよ」
「分かりました“りり”殿」
「結局出てます!!」