忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編 作:noanothermoom
未知を明かす行為 危険を顧みず先へと進む行い
どれだけ未知が明かされようとも冒険は無くならない
危険が失われようと冒険は見いだせる
冒険に必要なのは何を解き明かす為か何の為にするのか
ただそれだけでいいのだから
余人に理解されずとも
ただ自分だけが納得していればそれでよい
「ふっ!はっ!」
「...」
アイズさんからの攻撃を弾く。
見える、見えてきた。アイズさんの攻撃が見えるようになった。
いや、周りを見る余裕が出てきたと言うべきだろう。
最初からアイズさんは、僕でも攻撃を見切れる程度には手加減をしてくれていた。
それを受け止められなかったのは、僕の落ち度だ。
だから全力で行く。
「やああああああ!!!」
「!」
小さく細かく弾いていた攻撃を大きく弾く。
アイズさんの目が大きく開かれる。
弾かれた武器を急いで戻そうとして...それより先に、僕のナイフがアイズさんの首筋に突き付けられた。
「はあ、はあ、はあ...」
「...ここからじゃ反撃できない...私の負け」
煩いくらい響いていた金属音が止んで、僕の荒い息だけが耳に届く。
見開いていた眼を細め、アイズさんが自身の負けを宣言する。
...勝った?手加減されているとは言え、アイズさん相手に一本取った?
未だ状況が呑み込めていない僕へ「強くなったね」とアイズさんは嬉しそうに微笑む。
アイズさんの笑みを見て、勝ったという実感がわいてくると同時に、訓練の日々が本当に終わってしまう事も実感する。
「...っあ、ありがとうございました!!」
終わってしまう寂しさと、強くなった喜びと、アイズさんへの感謝と、ぐちゃぐちゃになった心の中から言葉を探し出し叫び、頭を下げる。
優しい顔をしてたアイズさんは、僕の頭を一度撫でると「...じゃあまた...」そう言って立ち去る。
その背中、灰さん達よりも、ともすれば僕よりも華奢な、だが今の僕には誰よりも大きく見える背中へともう一度頭を下げる。
こうしてアイズさんとの訓練の日々は終わった。
「それで?ヴァレン何某との訓練は終わったんだね?」
「そう...ですけど...あの、神様ちょっと怖いです...」
【
アイズさんとの訓練があった時は、ダンジョンに潜るのもほどほどにしていたから、ステイタス更新をしていなかった分、どれだけ成長しているのか楽しみだ。
...と思っていたのだけれど、神様からの圧が凄い、というか近い。
思わず引き気味になりながらそのことを伝えると、「なんだいベル君まで」だとか「ボクは君たちの主神だぞ」とか言って怒り始める。
不味い。
僕の訓練も終わり、リリの用事も終わったことで、リリと一緒に今日からダンジョンに潜るのに、初日から遅刻したとあればなんて言われてしまうか。
「あ、あの、リリが待っているので、また今度聞きますね」
神様には悪いけれど、ここは逃げの一手だ。
アイズさんとの訓練で学んだことを活かして、逃げを選択する。
後ろから聞こえる神様の声に、心の中で謝りながら僕はいつもの噴水へと走った。
「あっちょっと、もう!
なんだい、なんだい、ボクは君たちの主神だぞ、偉いんだぞ!
それを灰君達といい、ベル君といい、もう!もう!!」
ベル君が逃げた後、一人残されたボクは地団太を踏む。
灰君達もギルドからの呼び出しがあった後から、ボクに内緒で何かしているみたいだし。
一体何の呼び出しだったんだい?と聞いても、
そんな所ばかりマネしなくて良いんだよ!?
なんて言ったところでここにはボク一人。返事が返ってくるわけもなく。
一人で怒ったって、空しいだけだ。
「はぁ、しょうがない。バイトにでも行くか...」
ヘファイストスの店のバイトに向かう為に、ステイタスを写した紙を片付けて準備しようとしたボクは、そこに見慣れない文字があることに気がつく。
「あれ?これって?」
「あっベル様。こっちこっち、こっちですよ」
「はあ、はあ、ごめんリリ、待たせちゃった?」
いつかリリに話しかけられた噴水へと走ると、既にリリがいた。
こちらへと手を振るリリへと待たせてしまったか聞くと、「久しぶりだから少し早く出てきてしまいました」と笑う。
ああ良かった。久しぶりに一緒に潜ると言うのに、待たせてしまったらどうしようかと思った。
僕が笑うとリリももっと笑う。
こうして僕達はダンジョンへと向かった。
「リリ、冒険って何をしたらいいと思う?」
「どうしたんですか急に...ってああ、【剣姫】ヴァレンシュタイン様ですか。
凄いですよね、LV.6ですもの。確か37階層だかの階層主を単独撃破したんでしたっけ?
ベル様がお世話になっていますから、こんなこと言うのはどうかと思いますけれど、ちょっとどうかしてますね。
...まあ灰様達と比べれば誤差みたいなものでしょうけど」
ダンジョンへの道すがら、リリへと何気ない風を装って聞いてみた質問。だが僕が本当は何を聞きたいのか、リリにはお見通しだったようだ。
アイズさんのLV.6へのランクアップ。今オラリオはその噂で持ち切りだ。
僕がそのことを知ったのはギルドでのこと。
壁に貼られたアイズさんの絵と、その下に書いてあった文を読んだときは、思わず大きな声を出してしまった。
ランクアップ。
神の恩恵を受けた冒険者が、偉業を達成した時、至る特別な成長。
神の恩恵を受けた冒険者と、受けていない普通の人との間には、大人と子供ほどの力量差が生まれる。
だが、ランクアップした同じ冒険者、例えばLV.1の僕とLV.2の僕の間にはさらに大きな差が生まれるらしい。
オラリオは冒険者の街だ。この世界で最も冒険者が多い街と言い換えてもいい。
だが、そのオラリオでもランクアップを果たすことすら出来ず、LV.1のまま終わる冒険者も決して少なくはない、むしろほとんどの冒険者はLV.1のままだ。
LV.2の冒険者はそれだけで上級冒険者として扱われ、ベテランとしてギルドに認識されるようになる。
ランクアップとはそれだけの偉業なのだ。
ランクアップをする為には何かしらの偉業を果たす必要がある...らしい。
らしい、というのはこれをすればランクアップできる、という決まった物が無いからだ。
偉業というのは【冒険】をする必要があると言い換えることもできる。だから何か凄いことをすればランクアップできるというのは分かっているらしい。
ギルドで話をしたエイナさんからは「ヴァレンシュタイン氏が特別なの。焦っちゃだめだよ」と言われた。
ギルドを出た後あったシルさんからは「必ずしも冒険をしなくてもいいんじゃないでしょうか」と言われた。
シルさんから押し付けられた皿洗いを一緒にしたリューさんからは「冒険者である以上自分だけの冒険がある。自分のする冒険の意味を考えるべきだ」と言われた。
それぞれの言葉に頷けるものがあり、それでも納得のいかなかった僕はリリにもそれとなく話を聞こうとしたが、リリはジト目でこちらを見てくる。
「
ベル様が悪意を持って聞いて来たわけじゃないのは知っていますけれどね?と前置きしてリリの言った言葉に僕はびっくりする。
確か
ならあの人はどれだけいばらの道を歩いてきたのだろうか。
「【
まあ別に嫌いじゃないですが、あの人も頭ちょっとおかしいと思います」
リリが僕の言葉に反応して、名前を出してくれる。
苦手なタイプですよと、リリは小さく呟く。
リリが過去してきた苦労には、ステイタスの成長が遅いと言う小人族への偏見もあったのだろう。
「今となっては昔の話です。とにかく、人によっては悩みの種を揶揄されたと思いかねません。」
リリがズイッと僕に詰め寄り、忠告する。
確かに人によってはケンカになりかねないかもしれない。
頷く僕へと満足そうによし、とリリは言ったあと、僕へと疑問を投げる。
「ランクアップというのなら、身の回りにいる冒険者...それこそ灰様達にでも聞けばいいのでは?」
「灰さん達はいろんな意味で参考にならなそうだなと...」
「...それもそうですね」
ちょっと微妙な空気になりつつも、僕達はダンジョンへと向かう。
「それじゃあ、もう一度確認です。今日の目的地は9階層。10階層までは潜らない。でいいのですね?」
「うん、この間潜ったときみたいに囲まれてしまったらどうしようもないし」
ダンジョンの入口。
いろんな冒険者がダンジョンに入っていく、或いは出ていく人の流れから離れた壁際で、リリと今日の目的を確認する。
アイズさんとの訓練で強くなった自覚はある。リリも居るのなら不意打ちされることもないだろう。とは言え、油断は禁物だ。
初日である今日は無理せず、9階層での探索を中心にする。
今の僕では10階層でモンスターに囲まれてしまえば、無事に突破する術はない。
例えば、もう一人前に立って戦う前衛や、魔導士みたいな後ろから援護してくれる後衛がいれば、また話は違うのかもしれないが。
リューさんの言っていた「仲間との協力」という言葉を思い出しながら考えるが、無い物ねだりという奴だろう。
最後に「リリもダンジョンは久しぶりだよね、無理はしないでおこう」と話を纏めて、ダンジョンへと潜っていく人の流れに合流する。
「...リリ、どう思う?」
「違和感は覚えますが...微妙な所ですね...」
9階層で周囲のモンスターを一掃した僕は、リリへと話しかける。
リリが眉をひそめて返した言葉通り、現状は微妙だった。
9階層にまで降りてきてモンスターと戦う。いつも通りと言えばいつも通りの光景。
だが、妙に冒険者とモンスターの数が少ない。
ではこれが異変かと言われればそうとも言い切れない。
アイズさん達ロキ・ファミリアの遠征部隊が、ダンジョンの深層へと出発するのが今日のはずだ。
冒険者達は、遠征部隊という大人数の移動によってダンジョンの環境が荒れるのを嫌って、モンスターは遠征隊という大人数との戦いで、数を減らしていることが考えられる。
僕達もそれを承知の上でダンジョンに潜っていた。
だが、それだけでないと言うか、妙に静かすぎると言うか。説明できない
僕だけでは判断しきれずリリに聞くが、リリもはっきりとは言えない違和感を覚えているようだ。
前に似たような状況でミノタウロスに襲われた経験から敏感になっている、と言われれば納得できるような些細な、だけど無視するには大きな違和感。
どうするべきかリリと相談していると、僕の背中に悪寒が走る。
何処からかは分からないが、間違いなく誰かが僕のことを見ている。
「リリ...誰か周りにいない?」
「...リリには見つけられませんでした...」
リリへと小声で見られていることを話し、周囲の警戒をしてもらう。
僕も気配を感じるのは出来るが、リリなら僕が気がつかない物にも気がつくだろう。
だが、リリは首を振り、何も見つからないと囁く。
...これは不味いかもしれない。一体何が起きているのか分からないが、何か起きているのは間違いない。
周囲を警戒しているリリへと撤退しようと声をかけようとした時、僕の耳に恐ろしい唸り声が届く。
「ブモオオオオオオ」
体が硬直する。
全身から汗が流れていく。
落ち着け、落ち着けっ。
僕は強くなった、僕は経験を積んだ、あの時とは違う。
無様に逃げることしかできなかった僕はもういない。
必死に自分に言い聞かせ、落ち着かせようとするが、息が荒くなっていくのが分かる。
「なんでこんな所にミノタウロスが!?」
リリが曲がり角の向こう側から現れた巨体を見て、悲鳴を上げるように絶叫する。
僕の気のせいだと思いたかった、僕がトラウマから幻聴、幻覚を見たのだと思いたかった。
だが、
「ベル様ッ!逃げなければ...ベル様!!」
「あっあっあ...あ」
リリが何か叫んでいる。
だが僕が感じるのは、あの日追いかけられた時に感じたミノタウロスの荒い鼻息。
ミノタウロスが僕達に気がついたのか、こちらへと向かってくる。
...逃げなくちゃ。
隣にいるはずのリリのことすら忘れて、僕の頭に浮かんだのは逃亡。
だが足が動かない。まるで凍り付いたかのように、ピクリとも足が動かない。
「ベル様!ベル様ッ!!」
逃げる。逃げなければ。逃げなければならない。逃げなければ、あの恐ろしいモンスターから逃げなければ。
だが、指の一つも動かせない。
いっそ何も見えなければいいのに、視界だけははっきりとしている。
ミノタウロスが僕との距離を詰めてきていることも、その手に持つ大剣も、盛り上がった腕も、片方の角が欠けていることすらはっきりと見える。
「ダメえええええええぇ!!!」
逃げられない、避けられない、死ぬ。
恐怖が僕の心を覆う。だがいやだからこそ、ピクリとも動くことが出来ない。
何もできず、ミノタウロスの武器が振り下ろされるのを見ていることしかできない僕を、衝撃が襲う。
衝撃に目を閉じることもできず、開いたままの僕の目に映ったのは、僕にタックルしたリリと、僕が一瞬前まで立っていた場所に突き刺さるミノタウロスの大剣。
そしてミノタウロスの攻撃によって飛んできた破片が、リリの頭に当たる光景。
「ありがとう、ごめんリリ...リリ!?リリッ!どこにいるの!?」
「べ、ル...様...」
「リリ!!」
地面にぶつかり、痛みで正気に戻る。
リリが動いてくれなければ、ミノタウロスの攻撃で叩き潰されていた。
リリへとお礼を言おうとして気がつく、リリがいない。
周囲を見渡せば、頭から血を流して倒れているリリの姿。
最悪の状況が頭をよぎる。だが、僕の声に反応して返事をする。
今すぐ助け起こしたい。その傷の手当てをしなければならない。
だが、ミノタウロスがそれを許さない。
起き上がり、ナイフを構え、ミノタウロスを牽制する。
武器を構えたことで警戒したか、動きを止めたミノタウロスを睨みつけながら叫ぶ。
「リリッ、逃げて!」
「い...や...ベル様...」
「逃げて、早く!!」
「リリは...ベル様を...」
「お願いだから逃げて...逃げろよ!!」
リリはどう考えても戦えない。いや、灰さん達との訓練、アイズさんとの訓練、そしてダンジョンでの戦闘経験によって強くなった僕でもミノタウロスと戦うことはできても、勝てないだろう。
なら、今するべきことは、リリを逃がすことだ。
リリは首を振り、僕を残して逃げるのをためらっていたようだが、僕が懇願するように叫んだことで、泣きながら逃げ出す。
これでいい。これで僕も逃げられる。
「ヴォオオオオオ!!」
「ッ!!」
リリが逃げ出したことで生まれた安堵。その心の隙をつくようにミノタウロスが攻撃をしてくる。
辛うじてその攻撃を弾いて理解する。
僕は今逃げ出すわけにはいかない。
逃げるだけなら、オラリオに来てすぐの僕でも逃げられたんだ、簡単に逃げられるだろう。
だがこいつは今、僕が安堵して気が緩んだのを見て攻撃してきた。
そしてその攻撃が弾かれると同時に、僕からの反撃を受けないよう距離を離した。
明らかに、本能だけの動きではない。
どうすれば相手を仕留められるのか、どうすれば相手の攻撃を受けずにいられるか、それを考え実行する能力がある。
こんな相手が、逃げ出した僕だけを愚直に追いかけてくれるとは思えない。
僕よりもリリの方が足が遅い。
例えリリが逃げた方とは別の方へと逃げたとしても、僕を見失ったこいつは
先程までの頭から血を流して倒れているリリの姿が、頭をよぎる。
絶対にそんなことさせない。
僕はリリが逃げ切れるまでこいつの足止めをする。その覚悟を決める。
「ッ!!うおおおおおおおおお!!」
気を抜けば震えそうになる足に気合いを入れ、僕はミノタウロスへと向かっていく。
「ああああああああああ!」
「ヴォオオオオオオオオ!」
相手の大剣と僕のナイフの間に火花が散る。
どれだけこいつの相手をしていただろうか。とっくの昔に、時間感覚なんてなくなっていた。
リリはうまく逃げられただろうか、逃げた直後は気が動転していただろうが、落ち着いたのなら傷の手当てをして一人で地上に帰れるはずだ。
幾度となく、ミノタウロスの攻撃を受け、硬いミノタウロスの肌へと攻撃を仕掛けた結果、手は痺れてナイフを取り落としてしまいかねない。
その反面、頭の中は妙にはっきりとしていて、どう動くべきか、どう避けるべきかが、直感的に分かる。
僕がこれだけミノタウロス相手に戦えているのは、アイズさんとの訓練で身に着けた【技術】のおかげであり、ミノタウロスが倒れていないのもまた、こいつが身に着けている【技術】のおかげだ。
いなし、逸らし、防ぎ、流す。打ち込み、叩きつけ、薙ぎ払い、牽制する。
互いに互いの隙を探し、自分の隙を潰す。
明らかにこのミノタウロスは普通にダンジョンから生まれた個体ではない。むしろ、誰かが戦うための技術を教え込んだかのような...僕がそこまで頭を回したとき、声がした。
「...ベル!?」
「...獣が...殺してやる」
「頑張ったなベル。今助けてやる」
焦ったような狼さんの声。
モンスターへの殺意を漲らせた狩人さんの声。
優しい灰さんの声。
良かった。灰さん達が来てくれた。これで助かる。
「灰さん達は手を出さないでください!!これは僕の戦いです!!」
だがそんな考えとは裏腹に、僕の口は灰さん達の助けを拒んだ。
灰さん達の登場で攻め時を見失ったミノタウロスと、灰さん達が驚くのを感じる。
いや、僕自身が一番びっくりしている。
何を言っているんだ僕は。
ああそうだ理解した。
立ち向かうべきは今だ。
僕が冒険するのは今だ。
今冒険しなければ、伸ばされた救いの手を取ってしまえば僕は英雄に成れない。
冒険者でいられない。
僕がする【冒険】は
これだけは誰にも渡せない。
「...それがお前の選択なんだなベル?」
「はい。僕は戦います。ミノタウロスと戦います。それが僕の願いです。僕の獲物を横取りすると言うのなら、灰さん達でも許しません」
助けに来てくれたと言うのに、こんなことを言われれば困ってしまうだろう。
だが、灰さん達の顔に動揺はない。
はぁ~と狩人さんが深いため息を吐く。
「理解しているのだろうな?それはお前よりも強い。逃がせば凄まじい被害が生まれるだろう。...分かっているのなら勝て」
意外だ。
自分で言っといてなんだが、狩人さんは僕の言葉なんて無視してモンスターを殺すと思っていた。
しかし狩人さんは呆れたような表情をしてはいるものの、手出しをするつもりは無いようだ。
狩人さんの言葉に頷き、ミノタウロスへと向かい合う。
「待ってくれてありがとう...僕はベル。ベル・クラネル。
ヘスティア・ファミリアの冒険者にして、英雄に成る女神ヘスティアの眷族」
「...ヴォ、ヴォオオ、ヴォオオオオオ!!」
灰さん達を警戒して動かなかったというのが普通の考えだろう。
だけど僕にはミノタウロスが待っててくれたように感じた。
ナイフを抜き名乗る。
これは作法だ。
戦いの作法。この戦いがただの殺し合いで無く僕とミノタウロスのぶつかり合いであることの、そしてどこまで突き詰めても殺し合いであることを証明するための作法。
何を馬鹿なことをと言われても仕方がない行動。
だが、ミノタウロスは名乗り返すように、咆えて切りかかって来た。
ミノタウロスの言葉が分からないのが少し悔しい。
僕が勝ったら、勇敢で強い君の名前を永遠に覚えておくと約束できないのがもどかしい。
そんな思考はすぐに掻き消える。
今大切なことは未来じゃない、今ここでしている戦いだ。
「ッ!ふっ!やっ!はああああ!!」
「ヴォオオ!ヴォオオ!ブオオオオオオ!!」
弾く、避ける、打ち込む。
弾かれ、避けられ、反撃される。
僕が攻めれば、ミノタウロスが受け、ミノタウロスが攻めれば、僕が受ける。
互いに殺意をぶつけあっているはずなのに、どろどろとした物を感じさせない、それどころか爽やかな物すら感じる戦い。
ミノタウロスが距離を取り四つん這いになる。角を使った突進。
見れば体は僕の攻撃により至る所に傷があり、血が噴き出している。
僕も頭に跳んできた破片を受けた所為で、出血して視界が悪い。
体に痛くない所はなく、今にも座り込んでしまいそうなくらい疲れている。
これ以上の戦闘は無理だ。
だからこそ、この一撃で決めるつもりなのだろう。
悔しい。僕がもっと強ければ、もっと戦えたのに。
「ヴォオオオオオオオオ!!!」
「ファイアボルト、ファイアボルト!ファイアボルト!!!」
たとえ万全の状況だったとしても、ミノタウロスの突進を受け止めることは無理だ。
だから突進してくるミノタウロスへと魔法を連射する。
だが止まらない。顔、足、腕、どこに撃ったとしても、どれだけ撃ったとしても止まることは無いだろう。
理解する。止める為に魔法を打ち込むのはミノタウロスじゃない、ダンジョンの床だ。
僕の放った魔法がダンジョンの床を抉る。
ミノタウロスはこのまま進めば倒れることを理解して、回避しようと僅かに迂回しスピードを緩める。
ここだ。この瞬間だ。
ゆっくりになった世界の中、ナイフをミノタウロスの残った角に添えるようにして弾く。
痛い。腕がもげそうだ。
だけど不安定な足場と頭を弾かれたことで、ミノタウロスは上半身を大きくのけぞらせて、隙だらけだ。
「お、おおおおおおおおおお!!!」
「ヴォオ...」
痛む腕を無視してナイフをミノタウロスに突き立てる。
分かる、これは致命傷だ。ミノタウロスの肉体から力が失われていき、大剣が手から滑り落ちる。
大剣が地面にぶつかり、カランと音を立て、その音が契機だったかのようにミノタウロスの体に力が満ちる。
分かっていた。このまま死ぬことなんてない事。
最後の最後。死んでしまうその時まで、全力で抗う事。
生きる為に必要なこと、相手を殺す為に必要なこと、戦った相手への礼儀。
もしも、僕が致命傷を受けたとしても、命が失われるその時、魂が肉体から離れるぎりぎりまで戦い続けるから。
ナイフを引き抜き更に攻撃することは無理だ。
最後の力で、抜けないように締め付けられている。
ナイフを手放し、距離を取る?
悪くない。だけど、ミノタウロスとの戦いの前にも魔法を使っていた僕はマインドダウンが近い。
遠距離からちくちく魔法で攻撃するだけでは、ミノタウロスを倒す前に僕が倒れる。
だからこうする。
ナイフに更に体重をかけ、より深く突き刺す。
暗くなっていく視界も気にせず、魔法を連発する。
大丈夫だ。突き刺さったナイフが支えになって倒れることは無い、これだけ密着していれば魔法が外れることもない。
後は、ミノタウロスと僕の気力のどちらが先に尽きるかの勝負。
「ファイアボルト!ファイアボルト!!ファイアァァボルトォォォ!!!」
相反する思考が頭の中に響き、ひたすらに魔法を打ち込む。
目の前も見えないままに続いた戦いの最後はあっけなかった。
急にナイフが軽くなり、支えが無くなる。
とっくに自分で立つこともできなくなっていた僕はそのまま地面に倒れ伏し、その衝撃で意識を失う。
消えていく意識の中考えたのは僕は勝ったのか、負けたのか。
ただそれだけだった。
どうも皆さま
セキロ楽しい...私です
UA10万、お気に入り800ありがとうございます。追記900超えましたありがとうございます
私もともとランキング覗く習慣なかったんですよ、前ランキングに乗って以来ちょこちょこ覗いているうちにステキな作品との出会いがあり、毎日覗くようになったのですが、日間ランキング8位?
(゚Д゚)Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)
みたいにリアルでなりました本当にありがとうございます。
この文章も、時間が経つと夢か幻を見たと思いそうなので、その場で書いています。
いや本当に、ありがとうございます。
これも感想、評価、そして見てくださる皆様のおかげです。
改めてありがとうございました。
とりあえず本文に戻りましょうか
おかしいですね?ベル君戦闘狂になってません?
予定では助けに入った灰達の背中にアイズの背中を幻視して奮い立つはずだったのですが
間違いなくこの部分書く前にセキロでゲンちゃん倒した影響ですね
この章も残す所2~3話でしょうか
もう一話この休みに更新できるよう頑張ります
それではお疲れさまでしたありがとうございました