忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

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二つ名

神より冒険者へと与えられる呼び名

名前とは人が生まれて初めて送られる贈り物であり
物事を定義付けしその在り方を決めるものだ
曖昧な何かを名付けることで定義しそれを理解することで人は未知を開拓してきた

ならば神より授けられた名前は人に何をもたらすのか


為すべき事為さざるべき事

「うーこんなに広かったっけ?道間違えてないよね?」

 

 コツコツと長い廊下にボクの歩く音が響く。

 目指すは【神会(デナトゥス)】が行われる広間...なんだけど、あんまり参加しないから本当にこの道で会っていたか確信が持てない。

 こんな時に限って誰ともすれ違わないし、誰も見かけない。

 このまま進むか、それとも戻るか。ボクが歩みを止めて考えこもうとした時後ろから声がかけられた。

 

「よっ!ヘスティアじゃないか。珍しい、お前も【神会】に参加するのか?」

 

「タケ!」

 

 振り返ればそこには白い服を着た男神、タケミカヅチがいた。

 悲しいことにボクのファミリア、ヘスティア・ファミリアはその悪評から仲のいいファミリアが限られる、いや正直に言えば極々僅かなファミリア以外とは付き合いが無い。

 そしてタケミカヅチ、愛称タケのファミリアはその付き合いのある数少ないファミリアの一つだ。

 

 タケとの付き合いは狼君と九郎君が始まりだった。

 二人がいた所、葦名或いは日ノ本に酷似した文化を持つ極東、その場所について狼君が情報を調べている時に、元々その極東に拠点を置いていたタケと出会ったのだ。

 

 タケは武神、戦いの神であり、狼君の戦い方を見ただけで、様々な流派が入り混じっていることに気がつき、その中でも無骨に勝つことをだけを追い求めて生まれた葦名流という流派をいたく気に入り、その流派について狼君に聞きたがった。

 

 そして喋るのが苦手な狼君の代わりに九郎君が、知る限りの葦名流とその開祖葦名一心について話すと、その流派と人生を眷族の子ども達にも教えて欲しいと懇願し、狼君は了承したことで付き合いが始まったんだ。

 その後なんやかんやあって、窮地に陥ったタケとその眷族を助ける為に灰君達は大立ち回りを演じることになり、そのことをタケ達は深く感謝することになった。

 

 そういう縁もありタケミカヅチ・ファミリアとの関係は良好であり、つまるところはボクにとってタケは気の置けない神だという事だ。

 せっかく会ったんだし、目的地は同じなのだからと、一緒に歩いていく。

 

「聞いたよタケ、君の所の子ども結構頑張ってるみたいじゃないか」

 

「命のことか?まだまだだ、あいつはもっと強くなれる」

 

 まあ、ボク達()が集まって話をすることと言えば子ども(眷族)のことで、井戸端会議めいた話をしながら歩いていく。

 可愛い子ども達の話題に、ボクもタケも和気あいあいと話し合っていたのだけれど、タケが急に周囲を確認し声を潜めて聞いて来た。

 

「それで、あの話は本当なのか?...お前の所の子どもがLV.2になったというのは」

 

 LV.2へのランクアップというのは、その子どもが大成できるかどうかの試金石の様なもので、だから子どもがLV.2へとランクアップしたというのはボク達(主神)にとって特別な喜びになる。

 こうして仲の良い神との会話の話題としてはおかしなものでは無いが、話題を切り出したタケの様子は人目を避ける様なもので、何気なく聞いてきたようには見えない。

 

 それもそのはずだろう。LV.2への最短ランクアップ記録はロキの所(ロキ・ファミリア)【剣姫】(アイズ・ヴァレンシュタイン)が持つ11か月というものだったのだ。それだってファミリアに入って一年と経たないうちにランクアップを果たしたことで、非常な驚きをもって受け止められた。

 だけれど今回ランクアップしたベル君がボクのファミリアに入ったのは一ヶ月と半月前。剣姫が持つ記録を大幅に塗り替えたことになる。

 誤報か何かの間違いか、俄かには信じがたい話だろう。 

 好奇心よりもこちらへの心配が見て取れるタケへ、「まあね」と軽く返事をした所で見覚えのある扉の前につく。

 

「そんなことより、これからが正念場だぜ?お互い頑張ろう」

 

「そんなこととは...いやお前の言うとおりだな。今回ばかりは俺も本気で行く」

 

 ボクの言葉に何か反論しようとしたタケだったが、この扉の奥に何が待ち受けているのか思い出したのだろう、拳を作り気合いを入れて扉を開ける。 

 

 

 

 

 

「そんじゃあ今回の【神会】はうち、ロキが司会すんでー」

 

 広間の中心。

 広間の何処からでも見えるその場所に立ったロキへと「いいぞー」「よっ、待ってました!」「ナイチチー!」「かなりまな板だよこれ!」などなど、他の神々が歓声ともヤジとも取れる言葉を投げかける。

 

「うっさいわ!!話を進めるからちょっと黙れや!あと胸のこと言ったやつはあとでシメるからな!!」

 

 ロキが一喝するが、返ってくる言葉は「おかしい、ロキの声はするのにあるのは嘆きの壁だけ」「お前は目が悪いのか?そこにあるのは机だぞ」「まな板様のことロキって言うのやめろよ」等まともな返事ではない。

 余りの混沌ぶりに思わず遠い目になる。

 

「珍しいじゃない貴女が出てくるなんて...ちょっと、大丈夫?」

 

「...ヘファイストスかい。あー、うん。大丈夫だよ。ちょっと神様って何かなって考えてただけだから」

 

 いつの間にかそばにいたヘファイストスが心配そうにこちらを見てくる。

 会合の邪魔にならないようにとは言え、私語をすることに何も思わないと言えば嘘になるのだけれど、他の神々を見れば邪魔にならないようにしているだけ非常にお行儀が良いと言える事にまた頭痛を感じる。

 

 ボクがヘファイストスと話している間にも議題は進み、酒神(ソーマ)がギルドから罰を受けただとか、軍神(アレス)がまたオラリオに攻め込もうとしているだとか、それなりに重要な話題が上るのだが、まともな議論は行われない...というか、議論とすら呼べるものでは無く、あるのは各々が言いたいことを叫んでいるだけ。

 ...かつて灰君達はこの様子を見て、言葉を選んで言えば学級崩壊、選ばずに言えば動物園と称した。

 ボクも神だ、出来れば灰君達の言葉を否定したいんだけれど、このありさまでは返す言葉もない。

 本当にこれがオラリオの行く末を決める神々の会合【神会】の姿か?

 思わず額に手を当て頭痛を堪える。

 

「あ、あまりにも混沌とし過ぎている。こんなのでオラリオは行く末を決められていたのか!?」

 

「久しぶりの出席だから忘れてしまったのかもしれないけれど、【神会】なんて毎回こんなものよ。それに貴女にとっては今からが本番でしょ、しっかりしなさい」

 

 余りの緩さに、【廃教会】(ホーム)を出てきたときの気合いを忘れそうになるボクへと、ヘファイストスが気合いを入れてくれる。

 その言葉に気を取り直すと同時に、ロキは今までより大きな声を出す。

 

「もう他にはないかー?ないなー?...ならお待ちかねの【命名式】の時間やぁぁぁ!!

 

「「「「イェーーーーーーーーイ!!!」」」」

 

 その途端部屋が揺れるくらいの歓声が上がる。

 ある神は「このために【神会】に出席したんだ!」と不気味な笑みを浮かべ。

 ある神は「お願いします、お願いします、普通の、普通のでお願いします」と神に祈っている(周囲の神に懇願している)

 

 【二つ名】

 LV.2以上の冒険者に対して命名される、神が決めた名前。

 二つ名を持つという事は、LV.2以上の冒険者つまりは上級冒険者であるという事であり、二つ名を自身が神に認められた証であり、自分を表す象徴として誇る冒険者は少なくない。

 だけどそれは冒険者()からすればの話だ。

 

最終聖女(ラストヒロイン)!!」「†漆黒†!!」「や、やめてくれぇぇええええ」

 

 ではボク達()からすればどうなのか。

 嬉々として二つ名候補を上げていく神々と、上がる二つ名候補を聞いて頭を抱えて蹲る冒険者の主神の姿を見れば、神から見た二つ名という物のがどういう物なのかわかるだろう。

 子ども()からすれば神のセンスによってつけられたカッコイイ二つ名、しかしボク達()から見れば非常にイタい物だ。

 そのイタい二つ名を子どもたちが気に入り、名付けられることを喜んでいることはせめてもの救いなのか、それともより深い悲しみを生み出す呪いなのか。

 どちらにせよ【命名式】に手加減なんてものは存在しない。

 命名される冒険者の主神は嘆き、それ以外の神は日々の鬱憤を晴らすためにハッスルする。それが【命名式】だ。

 

「そんじゃあ次は...なんやドチビんとこのかいな」

 

 楽し気に命名式を進めていたロキの顔が歪む。

 手に持つ紙にはベル君の名前が書いてあった。

 

 「噂のウサギ冒険者!?」「あの命知らずか...」「生きていたのか」「むしろ死なせて貰えない可能性」「そんなこと...ありそうだなぁ灰だもの」「魂が肉体から離れてないからノーカウント(死んでない)とか言われそう」

 

 ベル君の名前が出た途端、【神会】の空気が変わる。

 かつて【神会】で大いに暴れた灰君達は、恐れ知らずの命知らずが集まる神々にすら恐れられている。

 そんな灰君達の後輩という事で、ベル君にも注目が集まっているようだ。

 

「てか一ヶ月でランクアップ?早過ぎね」「でもあの灰達の後輩だぜ、そりゃあ日夜凄まじい特訓を...」「それを言い出したら灰達の後輩になるだけでも偉業だろ」「何ならそれだけでもLVが二つぐらい上がりそう」

 

 僅か一ヶ月とちょっとでのランクアップ。

 明らかな異常な成長に何かしら言われるのではないかと思っていたが、灰君達の後輩という事で「まあ灰の後輩だしな...しょうがないだろ」みたいな空気が流れている。

 

 とは言えこれは【命名式】

 神々が手心を加えるのはロキの所の様な大派閥のみ。

 たとえ灰君達を有するボクのファミリアであったとしても、いや灰君達に対する日頃の鬱憤を晴らすべく、神々は酷い二つ名を付けようとするだろう。

 頭の中に非常に、痛々しい二つ名を嬉しそうに名乗るベル君の姿が浮かぶ。

 やらせはしない、やらせはしない。ベル君はボクが護るんだ!!!

 

 

 

 

 

SIDE ベル・クラネル 【廃教会(ホーム)

 

「“べる”殿?少しは落ち着きなさい。そのように焦った所で“へすてぃあ”様が帰ってくるのが早くなるわけでもないのですから」

 

「九郎様の言う通りです。お茶でも飲んでゆっくり待ちましょうよベル様」

 

「落ち着ける訳ないじゃないですか!二つ名ですよ!二つ名!!」

 

 お茶に手も付けずに立ったり座ったりを繰り返している僕へと、九郎さんとリリから呆れたような視線が向けられる。

 【神会】へと向かう神様を見送ってから何度言われたか分からない、落ち着けという言葉。

 だけど僕がランクアップを果たしてから待ち望んだ日だ、落ち着ける訳がない。

 

 お爺ちゃんと一緒に暮らしていた頃から、お爺ちゃんのお話を聞いた後想像していた、立派な冒険者になった僕の姿。その姿にまた一歩近づいただけじゃない。

 その時に僕が自分で考えたそれじゃない、本当に神様から二つ名を付けて貰えるのだ。

 興奮するなという方が無理だ。

 言い返そうとすると灰さんから「もうその話は聞き飽きた、耳にタコができる」と遮られて、無理やり机に座らされてしまう。

 

「そういえば灰様達の二つ名の時はどのようにして付けられたのですか?」

 

 有無を言わさず突き付けられたお茶を大人しく飲んでいると、ふとリリが言葉を漏らす。

 確かに、神嫌いの灰さん達が神様から大人しく名前を付けられるとは思えない。何か騒動を起こしたか、それとも大人しくする何かがあったか。

 問われた灰さんは「まずこいつが暴れた」と焚べる者さんを指さす。

 

「暴れたのは事実だが、同じく貴公も大暴れだったろう?まるで私一人だけが暴れたかのような言い方をするべきではないな」 

 

「被害の度合いで言えば狩人が一番大きかっただろ!?支払った賠償金もほとんどはあいつが暴れた分だったし」

 

「よく言う。確かに備品の損害数は私が一番だったが、一番意地の悪い暴れ方をしたのはお前だろうに」

 

 灰さんの言葉に黙っているわけにはいかないと焚べる者さんが反論し、灰さんがまた矛先をそらそうとしたことで、狩人さんも巻き込んで灰さん達は言い合いを始めてしまった。

 言い争う灰さん達を冷ややかな目で見た狼さんは「...まあ、こういう事だ」と話を締めくくる。

 あーうん、まあそうなりますよね。

 

「上等だ表に出ろ。ぼこぼこにしてやる」

 

「灰さん!?ちょっと落ち着いてくださいよ」

 

「いいだろう...ミラのルカティエルの伝説に新たな一幕を作ってやろう」

 

「焚べる者様も!というかどんな伝説を作るつもりですか!?」

 

 徐々にヒートアップする灰さん達のケンカ。

 遂に部屋を出て直接殴り合おうとする灰さん達を引き留める僕とリリ。

 だが、灰さんが急に立ち止まる。

 何とか引き留めようとしていた僕はバランスを崩して倒れこむ。

 一体何が起きたのかと思っていると、教会部分()を走る足音が聞こえる。そのまま階段を下りてきて地下室へと向かってくる。

 バン!と扉を乱暴に開けて入って来たのは僕の待ち人(神様)

 

「やった!やったぞ!!ベル君!!!」

 

「神様、やったってことは!!!僕の二つ名は...」

 

「ああその通り。普通だ!!!」

 

 えっ...?

 

 地下室に沈黙が訪れる。

 普通という言葉が返ってくるとは思わなかった僕と、そんな僕の反応が思いっきり想定外だった神様。

 僕と神様、互いにおかしなテンションで話していたせいで、すぐ目の前に神様の顔がある。

 普段なら恥ずかしくなってしまう程の近距離。

 だけど今の僕の頭の中には神様の普通という言葉が踊っていた。

 

 普通。普通?

 え?僕の二つ名は普通?

 僕の頭の中で映像が流れる。

 

 英雄譚の様に、人々を追いかけるモンスターの前に一人の冒険者が立ち塞がり、流れるようにモンスターを倒していく。

 先程まで窮地に追いやられていた人々はその姿に覚えがあることに気がつく、そうあれこそは【普通】ベル・クラネル!!

 モンスターを倒し終えた僕へとかけられる「流石は【普通】だな!」という言葉。

 そして巻き起こる【普通】コール。

 

 え?え?ええええええええええええええええええええええ。

 

 静まり返った地下室に咳払いが一つ響く。

 見れば狼さんが非常に居心地の悪そうな顔で、口元に拳を当てていた。

 その姿に正気を取り戻した僕がどういうことなのか神様に問おうとするが、僕の口から洩れたのはぐえっというカエルの鳴き声のようなうめき声。

 後ろを見れば「ちょっと落ち着け」と灰さんが僕の襟を捕まえていた。

 そして神様へと「ヘスティアもとりあえず中に入れ」と部屋の中に入れて、扉を閉めた。

 

「えー、それではこれからベル君の二つ名の発表を行います」

 

「「い、イェーイ...」」

 

 部屋の中に入り、普段の服装になった神様が胸を張り高らかに宣言する。

 先程までの醜態を無かった事にしようとするその宣言に乗ったのは、僕とリリだけ。

 他の人達は「発表も何もすでに【神会】で発表されているだろうに」だとか、「ちょっと黙れ、今女神ヘスティアが自分の醜態を必死に無かった事にしているんだ。眷族としてここは素直に見逃してやるべきだろう」だと好き勝手話している。

 

「うるさいぞ!...コホン。ベル君、君の二つ名は【未完の少年(リトル・ルーキー)】だ」

 

 【未完の少年(リトル・ルーキー)

 それが僕の二つ名。

 カッコイイ二つ名が欲しいと言っていた。だけれど、例えば灰さん達みたいな二つ名を付けられてしまえば、名前負けにしかならない。

 そんな心配がなくなったことの安心感と、もっとカッコイイ二つ名が良かったという気持ち。二つの感情で揺れ動く僕へと灰さんが声をかける。

 

「何とも言い難い表情をしているところ悪いが、俺達からもお前に告げるべきことがいくつかある。その為におチビを呼んだんだからな」

 

 リリが不思議そうに自分を指さす。

 僕の二つ名を発表するから、リリがいたんだと思っていたがそうじゃないらしい。

 一体何が起きるのかと思っていると九郎さんが前に出てくる。

 

「まずは私ですね。...“べる”殿、あなたにこのファミリア、ヘスティア・ファミリアの団長の座を譲ろうと思います」

 

「え!?」

 

 九郎さんの言葉に僕は驚くが、神様も灰さん達も特に驚いている様子はない。

 最初から知っていたのだろうか。

 いやそんなことより、僕がファミリアの団長!?

 

「む、無理ですよ。僕がファミリアの団長なんて、無理です、相応しくないです。それの急にそんなこと...」

 

「いえ、前から思っていたのですよ」

 

 辞退しようとする僕へと九郎さんは落ち着いた声音で語る。

 

「以前から戦う力の無い私では無く、実際にダンジョンに潜り戦う者がファミリアの団長の称号を背負うべきだと思っていたのです」

 

「だ、だとしても灰さん達がいるじゃないですか。なんで僕に」

 

「そもそも私がこのファミリアの団長をしていたのは他の者が辞退したから。選ばれたのは消去法という奴なのです」

 

 消去法で団長を選んだ!?

 驚いて灰さん達を見ると頷いている。

 「そういう難しいの俺に向いてないだろ?」と灰さん。

 「私が表に立つなど笑い話にもならない」と狩人さん。

 「忍びは潜む者...」とは狼さん。

 「私はやる気だったが、全会一致で否決された...」と焚べる者さん。

 ...確かにこうして見るとこのファミリアで団長とか出来そうなの、九郎さん位しかいない。

 

「何も九郎の奴だって、団長の責務から逃げようとしているわけじゃない。これはお前へのランクアップ祝いみたいなものであると同時に、俺達がお前を一人前と認めた印みたいなもんさ」

 

 「それでも...」と続けようとした僕の言葉を遮るように灰さんが語る。

 一人前、僕は本当に一人前になれたのだろうか。

 灰さんの言葉に頭によぎった不安が表情にも出ていたのだろう。

 灰さんは優しい声で続ける。

 

「自分で言うのもなんだが、俺達はベル、お前をかなり可愛がっている。

 かつての俺達なら、死ぬところまででチュートリアルとでも言っただろうがな。

 まあ何が言いたいかというと、俺達はお前に対して少々過保護だったという事だ。

 

 だがな、お前は強くなった。お前は俺達の想像すら超えてなお成長をし続けた。

 胸を張れ。もうお前は俺達に守られているだけの子どもじゃない。自分の足で行くべき道を進める一人前の冒険者だ」

 

 灰さんの拳が僕の胸を軽くたたく。

 強く大きな拳。

 その拳に叩かれたところからじわじわと熱が生まれていく。

 そうだ。僕は英雄になるんだ。なら団長なんて地位に怯えている暇はない。

 

「分かりました。ヘスティア・ファミリアの団長の座。受けます」

 

「安心しました。“べる”殿に役目を引き継ぐことが出来て、これで肩の荷が下ります」

 

 僕の言葉を聞いて安心した九郎さんを見て思う。

 前からずっと思っていたけれど、九郎さんに殿と付けて貰えるほど僕は立派な人物じゃない。

 それになんだか他人行儀な気がする。

 

「それじゃあ団長命令です。僕のことはベルと、呼び捨てでお願いします」

 

「それでは私のことは九郎と呼んでください」

 

 せっかくの機会。団長命令なんてちょっとおどけて言ってみれば、九郎さんいや九郎も呼び捨てにするように言う。

 ずっとさんづけで呼んでいた人を呼び捨てにするのはなんだか気恥ずかしい。

 だが、互いに名前を呼べば距離がぐっと近づいた気がする。

 

「あー、なんだ。青春ってやつか?若い者同士で仲良くやっているところ悪いが、ベルが団長になった以上俺達の予定についてしっかりと話しておくべきだろう?

 実は俺達はギルドからの呼び出しを受けてな...言っとくが、日ごろの態度だとか、他所のファミリアとのケンカだとかが原因じゃない。

 

 ギルドは俺達四人に冒険者依頼(クエスト)を発令した。」

 

 灰さんの口にした内容に言葉も出ない。

 灰さん達4人に冒険者依頼を発注した!?

 

「ギ、ギルドは戦争、いえ国でも潰すつもりですか!?」

 

「そうだよ、灰君達4人を必要とするなんて一体どんな依頼なんだい」

 

 リリと神様が驚愕する。

 単純に戦力が必要ならば誰か一人でも事足りるどころかお釣りが返ってくる、いや灰さん達が暴れることを考えればよほどの理由が無ければ依頼なんてしないだろう。 

 僕もLV.2にランクアップしたことで強くなったと自負しているが、灰さん達と比べれば誤差みたいなものでしかない。

 にもかかわらず、ギルドは普段一緒にダンジョンに潜っている灰さんと、狩人さんと、焚べる者さんだけでなく狼さんまで含めた4人を対象とした依頼を出したというのだ。

 このオラリオで何が起きているというのか。

 

「ギルドからの依頼は単純なものだ。【闇派閥(イヴィルス)】の探索と殲滅」

 

ダメだ!!...そんなこと灰君達にはさせない。今から僕がギルドに行って断ってくる」

 

 実に俺達向けな事案だな?と灰さんは付け加えるが、神様は顔を真っ赤にして否定する。

 目の前で言い争う二人の注意をひかない様にしながらリリへとこっそりと聞く。

 

「リリ...【闇派閥】って何?灰さん達4人が集まる必要がある位強いファミリアなの?」

 

「その疑問には私が答えよう」

 

 明らかにそれ(【闇派閥】)って何ですかと聞ける空気では無かったので、こっそりとリリに聞いたのだが、いつの間にか後ろにいた狩人さんは聞き逃さなかったらしい。

 リリが答えるよりも先に【闇派閥】についての説明を始める。

 

「一言で言ってしまえばこのオラリオに巣食う寄生虫だ。

 このオラリオで失敗した敗北者、夢破れた者らの嘆きをクズども()が拾い上げたクズの巣窟。

 おおよそ5年ほど前の話になるがオラリオの秩序をひっくり返し、この街そのものを壊そうとした奴らがいたのだ。

 神の支配からの脱却という点では見るべきところはあるが、それ以外は語るのも忌々しい人の淀み。

 それが【闇派閥】というものだ」

 

 聞いているだけでも身が竦みそうな怒りを放ちながら狩人さんは語った。

 どうしてオラリオを壊そうとしたのか、どうしてその人達の主神はそんなことをしようとする人達に神の恩恵を与えたのか。

 狩人さんの説明を聞いてますます疑問が増える。

 そして何より、聞く限り【闇派閥】という人達は成功しなかった人達の様だ。そんな【闇派閥】を殲滅するのに灰さん達なら一人でも十分、いや他のファミリアの冒険者の方が余計な被害を出さないだろうし、手っ取り早いように思う。

 やはり灰さん達を4人も必要とするとは思えない。

 燃え上がる炎のようないつもの怒りでは無く、静かな、だがじわじわと沸き上がるような冷たい怒りを纏う狩人さんにどう聞けばいいだろうか、悩む僕の耳に神様の叫びが入ってくる。

 

「確かに灰君達は5年前に【闇派閥】と戦い、殲滅した!!

 だからって今回もまた灰君達が手を汚す必要はないはずだ!!」

 

「お前が俺達のことを心配してくれているのは分かる。だから手が汚れるのなんて今更だ、なんて言わない。

 ヘスティア、ベル、それにおチビいやリリルカ。俺はな、俺達はこの街が好きだ、平和なこの街がな。

 いい所ばかりじゃないのも知っている。この街に住む多くの人は平和の有難みを理解していない、平和ボケしていると言えるかもしれん。

 それでもな、それでも俺達の知っている滅びに怯える世界より、狩人の知っている狂気に怯える世界より、狼や九郎の知っているいつ攻め滅ぼされるか分からない世界よりこの平和な世界が良いと思うんだ。

 だからこの平和な世界を壊そうとするあいつらが許せん」

 

 激しい口調で詰め寄る神様、ひどく穏やかな口調で諭すように語る灰さん。

 どちらもいつもの神様や灰さんからは想像もできないような姿で、だからこそ本心なんだと理解する。

 

「俺達はこの依頼を受けるかどうか迷っていた。

 俺達が動くほどの事態とは思えなかったからな、むしろ何かしらの罠である可能性の方が高いとすら思った。

 だがな一番の理由は【闇派閥】が動き出したと言うのなら、ベルの身に危険が迫るかもしれんからだ。

 俺達はこれまでいつも遅れていた。守りたい奴が苦しい時に居らず、俺達がたどり着いたときはいつも全部終わった後だ。戦えばどんな障害だろうと打ち砕けるのに守れなかった、戦えなかった。

 ならベルを守るのなら四六時中張り付いておくべきだ、その為には長期間拘束されるだろうこの依頼を受ける訳にはいかないからな。

 

 だがお前は成長した、いやお前だけじゃない。

 おチビも俺達に頭を下げてまで新しい力を得ようとした。

 だからなベル、俺達はお前を信用する。お前とお前の仲間を信じて、俺達は俺達の為すべきことを為すんだ」

 

「灰君...」

 

 灰さん達に守られていたことを改めて自覚する。そしてその守りが無くなる心細さも。

 だけど灰さん達は僕が一人で立てる冒険者だと認めてくれた。そして頼れる仲間もいると教えてくれた。

 心細さと寂しさとそれを超える喜びと、渦巻く感情は僕の口から漏れ出る。

 

「行ってください...行ってください灰さん。灰さん達が成すべきことを為してください」

 

「ベル君!?」

 

「認めましょう“へすてぃあ”様。灰殿達には為すべきことがあり、“べる”(団長)はそれを受け入れた。ならば私達には何もできることはありません」

 

「ぐむむむ...だけどこれだけは譲らないからな!!灰君達!!無茶はしないように!!!」

 

 神様が驚いたように僕を見てくるが、今の僕の目には灰さんしか映らない。

 驚いたようにヘルムの奥の目を見開いた灰さんは楽し気に目を細め、

 「おう」とだけ返した。

 

 

 

 




どうも皆さま

私です

いやあ疲れた
ベル君をヘスティア・ファミリアの団長にすることと九郎様と互いに呼び捨てにすることは最初から決めていたのですがようやく書けて安心しました

本編には関係ないのですが人物紹介の章が昔書いたので読みにくいし無駄に長くなったしでいいことない気がしてきたので章の終わりに纏めようかと思います
そうすれば更新も忘れないでしょうし


という事で以降はこの章の人物紹介になります
この人物が書かれてない、あれはどうなったんだみたいなことを感想で頂けると書くかもしれません...書かないかもしれません
何にせよお暇な方はどうぞ
そうでない方はお戻りください
それではお疲れさまでしたありがとうございました


ベル・クラネル

ヘスティア・ファミリアの冒険者。
リリルカがダンジョンに潜れない間、憧れの冒険者であるアイズ・ヴァレンシュタインとの訓練を通して自身の弱点である防御面の弱さを補った。
その後ダンジョンで自身のトラウマであるミノタウロスと遭遇、リリルカを逃がす為に一人戦いを挑む。戦いを通してミノタウロスに奇妙な友情のようなものを感じ、自分がミノタウロスと戦うことを決意し、見事ミノタウロスに勝利する。

ミノタウロスとの戦いによってランクアップを果たし、Lv.2になったことで二つ名【未完の少年】を授かり、ヘスティア・ファミリアの団長に就任した。
...とは言え基本的に団長命令だったとしても従わない奴らばっかりだが

強くなるに従い戦闘狂の気が出始めているが、そのことを知っている人物は皆灰達の影響だと思っている。
しかし主神であるヘスティアだけはそれを否定しており
曰く「本当に(ベル君の戦闘狂化が)灰君達の影響なら(ベル君の戦闘狂化は)もっと酷い」とのこと。


ヘスティア
ヘスティア・ファミリアの主神
ヘファイストス系列の店でのバイトと、ジャガ丸くんの屋台でのバイトの二足の草鞋を履き忙しく働いている。
基本的に怠惰な性格でありながら日々仕事を続けているというのに、最愛の眷族ベルがいつの間にか恋敵であるアイズと秘密の訓練(意味浅)をしていたことや、灰達がギルドからの呼び出しの理由を隠す、など眷族達からの冷たい扱いに流石のヘスティアも怒った。
しかしながらもっとも怒るのが、ベルが無茶をして怪我をした時である辺りやはり善性の神である。

ベルのステイタス更新時に、見慣れぬ文字を見つけるがベルが逃げ出すようにダンジョンに向かったこととその後はミノタウロスとの戦闘で気絶していたこともあり未だ伝えられていない。

火の無い灰

ヘスティア・ファミリアの冒険者
後輩であるベル・クラネルが、アイズとの秘密の特訓によって強くなったことに感慨を受けたが、それはそれこれはこれと容赦なく叩き潰した。
狩人から持ち込まれた情報を元にダンジョンへと潜り、そこでミノタウロスと戦うベルを見つけ、ベルの決意を尊重し横槍を入れさせないために、アイズとオッタルを相手に戦う。
ベルが自分一人でミノタウロスを倒したことで身体だけでなく、心も強くなったことで一人前の冒険者と認め、保護下から離れる時が来たとベルを独り立ちさせた。

なんだかんだ自分のペースに持ち込むのが上手いことで、計算高く、策士家であると思われているが、実際には行き当たりばったりで何も考えていないことの方が多い。

月の狩人

ヘスティア・ファミリアの冒険者
自身の嫌う獣の匂いがする一方で、幼い少女の外見をしているリリルカを相手にどう出ればいいかわからず悩んでいる。
獣、特にモンスター嫌いだがベルの決意を尊重する程度には丸くなった。
主神と後輩を襲撃した冒険者を相手でも自分が探していた人物では無かったと知って動揺したり、獣人(ベート)との戦いでも殺すまでいかない辺りからもそのことが読み取れる。

狩人とはただ目の前の獣を狩ればいい存在であり、それが獣狩りの夜の歩き方だ
だが永い夜は終わりオラリオの街で太陽の下を歩いている。
ならば新しい生き方を知るべきだろう、狩人は幼年期が始まったばかりなのだから

絶望を焚べる者

ヘスティア・ファミリアの冒険者
狩人からもたらされた情報によってダンジョンに潜りロキ・ファミリアの冒険者と交戦した。
戯言の様な言葉しか吐かないことと理解できないミラのルカティエルの伝説を語り続けていることで信頼されていないがヘスティア・ファミリアでも上位の人格者である
逆に人格者であることをミラのルカティエルですべて台無しにしているともいえるのだが



ヘスティア・ファミリアの冒険者
狩人からもたらされた情報によってダンジョンに潜りロキ・ファミリアの冒険者と交戦した
好戦的な人物の多いヘスティア・ファミリアの冒険者の中でも唯一と言っていい戦いに否定的な立場をとる

主が無事ならばそれでいい。
ささやかなその願いが侵されない限りは狼の牙が剥かれることは無いだろう

リリルカ・アーデ

ベルのサポーター兼お目付け役。
自分を死んだことにして自身のファミリアから逃れようとしている。
9階層で出会ったミノタウロスに対して何もできず、ベルに逃がされたことを気に病み、鍛えてくれるように灰達に土下座した。
その結果【啓蒙】を得たほか僅かながら【ソウルの業】も習得した

ソーマ・ファミリアの冒険者リリルカ・アーデは死んだ。
ここに居るのはベル様のサポーターリリルカ・アーデだ

アイズ・ヴァレンシュタイン

ロキ・ファミリアの冒険者
単独で階層主の討伐を為し、LV.6へのランクアップを果たした
以前から気にかけていたベルの落とし物を拾ったことでベルと関わりを持ち、稽古をつけた。

ベルにとって悲報ではあるがあくまでベルに向ける意識はペットの動物に向ける物或いは弟に向ける物でしかない
ベルの髪がビックリするぐらいふわふわだと知っている人物の一人

ロキ・ファミリアの幹部

ダンジョンの遠征中にミノタウロスに襲われた冒険者を助け、ベルの戦いに横やりを入れられたくなかった灰達と戦った

結果として得難い戦いの経験を得た彼等の中でも若いベートやティオネ、ティオナはダンジョンの中で先を争うようにモンスターと戦っている
その姿は鬱憤を晴らしているようにも見えるとのこと

オッタル

ベルが越えるべき試練を鍛えるべくダンジョンに潜っていた
オラリオ最強の名を持っているがかつて軽くあしらわれた灰を倒さなければその名を名乗れないと思っている
灰と戦う絶好の機会と喜び勇んで参戦したが、適当にあしらわれた上に放置される妙に可哀そうな人

フードの男達

主神であるフレイヤ命を受けてアイズとベルを襲撃した
しかし狩人によって【闇派閥】の冒険者だと勘違いされ無茶苦茶殺意をぶつけられた
...やっていること自体を見ればそんなに間違えてはいないが、まさかそんな間違いをされるとは彼等も思わなかっただろう


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