忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

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別れ

離れる事、訣別

どの様な出会いにも別れは付き物だ
人の流れは留まらず故に出会いがあるのだから

しかし別れが一時の物となるか永遠のものとなるかはその人次第だろう
望む結果を引き寄せようとするべきだ


独り立ちと支えの話
出会いと別れ


「それでは...ベルさんランクアップ&団長就任を祝って、カンパーイ」

 

「「「カンパーイ」」」

 

 楽しそうな笑い声が響く【豊穣の女主人】

 その中の一つのテーブルで僕達はささやかな宴を催していた。

 僕がランクアップし、ファミリアの団長に就任したことを聞いたシルさんがこの場を設けてくれたのだ。

 ...名目としては僕のランクアップと団長の就任だが実際にはあと一つ、リリがソウルの業を使えるようになったことのお祝いでもある。

 

 灰さん達がギルドからの冒険者依頼(クエスト)を受けたことで、灰さん達がダンジョン探索の準備をする合間にしか訓練を受けられなかったが、リリは頑張った。

 そしてついに灰さん達と同じようにソウルというものにアイテムを溶かし込むことで、幾らでもアイテムを持ち運べるようになったのだ。

 とは言え、ソウルの業は使い方次第では、世界すら壊しうる物らしい。そんなものを使えるようになったと知られるわけにもいかず、表立って祝う訳にもいかない。

 そんな時に、シルさんから受けた【豊穣の女主人】で僕のランクアップのお祝いをしませんかという誘いは、頑張っていたリリをねぎらうのにうってつけだった。

 

 机に山と積まれた...とまで言えば流石に誇張が過ぎるが、机にずらりと並べられたご馳走に「リリの普段の食事の何食分になるんでしょう」とリリが呟き値段を確かめようとするが、シルさんは「お祝いの場でそんなこと気にしちゃいけませんよ、さあどうぞ」とメニューに伸びたリリの手を遮り、料理をリリの口に詰めようとする。

 お酒は頼んでないから酔っていないはず──一度した失敗を二度もするつもりはない、もちろんちゃんとお酒じゃないことは確かめてある──なのに酔っぱらっているように陽気なシルさんの姿に、楽しく飲んでもらって気持ちよくお金を使ってもらう為には演技力が必要なんだろうと思う。

 ふと、なら僕の知るシルさんの姿はどこまでが本当で、どこまでが演技なのか、なんて考えるがそれこそお祝いの場でそんなこと気にしちゃいけないだ。

 とにかく料理が冷める前に僕もいただくとしよう。

 

「ダンジョン中層へと潜るのはまだやめておいた方がいい、どうしてもというのならばせめて新しい仲間だけでも募ってからにするべきだ」

 

 同じ机に座っているリューさんが僕とリリに助言をする。

 知り合いのお祝い(僕のお祝い)という事で、ミアさんが「存分に楽しみな」と忙しい中シルさんとリューさんを付けてくれたのだ。

 ...その分沢山食べてお金を落とせとも言われたのだけれど。

 

 料理を食べて、ジュースを飲んで、楽しくお話しする。

 そうしていても、話す話題がダンジョンについてになるのは冒険者の宿命のようなものかもしれない。

 とは言え、ありがたい助言だ。リューさんから言われた言葉に考え込む。

 

 灰さん達からも言われていたことだけれど、僕とリリだけでダンジョンに潜るのには限界がある。

 幾ら僕が強くなったところで、戦うのが僕一人ではダンジョンに潜るどころかリリの身も危険にさらされかねない。

 中層までいけばモンスターの数も、出会う頻度も何よりモンスターの強さその物も格段に上がるそうだし、やはり新しい仲間を探すべきだろう。

 とは言えなぁ...そう簡単に仲間になってくれる人が見つかるのなら苦労はしない。

 

「クラネルさん、謝りたいことが「おう!リトル・ルーキー。仲間を探しているのか?」」

 

「...誰でしょうか」

 

 何かいい案は無いかと考え込んでいるとリューさんが何かを言おうとし、その言葉を塗りつぶすように大きな声が響いた。

 見ると厳めしいひげ面の男の人がこっちを見ていた。

 僕に向ける視線は友好的なものを感じない。むしろその逆敵意に近い物を感じる。

 何か恨みを買うような真似をしただろうか。

 

「誰でしょうかと来たか。流石は今を時めく【未完の少年(リトル・ルーキー)】だ。俺みたいなのは知らないってか?

 しょうがねえな俺の名前はモルド。オグマ・ファミリアのLv.2の冒険者だ。どうだ?俺達のパーティに入らないか?」

 

 男の人が自己紹介する。

 オグマ・ファミリア?聞き覚えの無いファミリアだ。

 別の言い方をすれば特に悪評を聞かないファミリアという言い方もできるけれど。

 とは言え、LV.2の冒険者とパーティを組めれば中層だって潜れるだろう。

 

「いいんですか!?」

 

「ああ気にするな。代わりにそこの別嬪さん達を貸してくれりゃあいいぜ。仲間なら分かち合いだろう?」

 

「...お断りします。シルさんもリューさんも物じゃありません」

 

「へっ!お高く留まりやがって。...そこの別嬪さん達もそんな小僧より俺達の方に来ない「黙りなさい」なっ...」

 

 悪くない話だと思っていたが、交換条件として出されたものは受け入れられるものではなかった。

 そう思ったのは僕だけではなかったようで、シルさんとリリは冷たい視線を男に向けているし、リューさんに至っては話を遮り、取り付く島もない言葉を投げかけた。

 しかしモルドさんはリューさんに触れようと手を伸ばし、それを僕が遮る。

 

「手前!?」

 

「話は終わりなら帰ってください」

 

 相手の背後から仲間が立ち上がり、好戦的な目でこちらを睨みつけてくる。

 こちらもリューさんが立ち上がり、リリたちを庇うように僕と並ぶ。

 何かあればすぐにでも爆発しかねない空気に気がついた他のお客は、無邪気にヤジを飛ばしている。

 

 どうしよう。

 リリやシルさん達を守らなければと思って行動したけれど、僕はケンカなんてしたことが無い。

 しかも数の上ではこちらが不利だ。

 迂闊に手を出すこともできず、互いに睨み合っていると

 

 ドンッ!!

 

 凄い音がお店の中に響く。

 僕達が視線をやれば、女将のミアさんがカウンターを素手で叩き割っていた。

 

暴れるのなら他所でやりな。ここは酒を飲んで飯を食う所だよ!!

 

「お、おい。行くぞ!!」

 

 ミアさんから放たれるすさまじい威圧感に、モルド達は逃げ出すように店を出ていこうとし、「ツケはきかないよ!」とミアさんに怒鳴られていた。

 凄い。いや本当に凄い。

 あの威圧感はともするとダンジョンで戦ったミノタウロスのそれを上回りかねない。

 ただの女将さんに出せるものではないはずだが、ミアさんは一体何者なんだろうか。

 

 そんなことを思っているとシルさんに「なんだか白けてしまいましたね、座ってください。仕切り直しましょう」と座るよう促され、僕は席に座る。

 まあそれこそ()()()()()()()()()()()()()()()んだろう。

 ミアさんは【豊穣の女主人】の女将で、【豊穣の女主人】は酒を飲んで飯を食う所それでいいんだろう...僕はお酒を飲めないけれど。 

 

 

 

 

 

「これは違う...これも違う...」

 

 【豊穣の女主人】でお祝いをした翌日のこと。

 僕はエイナさんに教えてもらった、バベルの中のお店で装備を探していた。

 このお店で買ったウサギの刻印がされた軽装(ライトアーマー)がボロボロになってしまったのだ。

 

 思えばあの鎧を着て僕は10階層でオークと戦い、アイズさんとの訓練でぼこぼこにされ、灰さんとの手合わせの時もぼこぼこにされ、そして先日の9階層でのミノタウロスとの死闘を繰り広げたのだ。むしろ良く持ったと言えるだろう。

 間違いなくいい買い物だった。新しい鎧も同じ人が作った物が欲しいのだが...見つからない。

 

 エイナさんはここに置いてあるものは名前が売れていない鍛冶師の作品だと言っていた。

 あの鎧はとてもいい物だったことを考えると、作品がすでに売れてしまったか、作った人がここに作品を置かなくてもいいくらい名前が売れたのかもしれない。

 できればあの人の作った鎧が欲しかったんだけどな。

 お店の人に聞けば見つかるだろうか。

 カウンターの方へと向かうと怒っているような声が聞こえて来た。

 

「どうして俺の作品があんなところに!!」

 

「売れねえんだしょうがねえだろ、でかい口を叩くのは売れるようになってからにしろ...おや、お客さん何か用ですか?」

 

 タイミングが悪いことに赤い髪の人──多分鍛冶師なんだろう──がカウンターにいるお店の人と喧嘩をしていた。

 出直すべきかどうか悩んでいると僕がいることに気がつかれてしまったようだ。

 赤い髪の人は「ちょっと待てよ話はまだ...」と食い下がろうとするが、「売れてねえお前より客の方が大切だ」と一蹴されてしまう。

 とてもやりづらいものがあるが、赤い髪の人は項垂れて黙ってしまい、カウンターの人も僕のことを見ている。

 聞くだけ聞いてしまうべきだろう。

 

「えっと...ヴェルフ・クロッゾさんの防具が欲しいんですけど...ありますか?」

 

「!!なあ、あんたヴェルフ・クロッゾの防具が欲しいのか?」

 

「えっ、ええ」

 

「ならあるぞ、使ってくれるか?」

 

 僕の言葉を聞いた途端今まで萎れていたのが嘘みたいに生き生きとしだした赤い髪の人は、僕の答えを聞くと荷物の中から軽装を取り出し僕へと渡す。

 ほとんど無意識のうちに受け取った僕は鎧に刻まれた製作者の名前を確認する。そこには確かにヴェルフ・クロッゾの文字が刻まれていた。

 え?いや確かにヴェルフ・クロッゾさんの防具が欲しいとは言ったが、他の人の物を譲ってもらう訳にもいかないだろう。

 

「で、でもこれはあなたの物ですよね?」

 

「ああその通り俺の物(俺の作品)だ」

 

 僕は疑問を投げかけ、赤い髪の人はそれに答えた。

 だけれど、どこかですれ違っているような気がする。

 些細な違和感。それがのどに刺さった小骨の様に気になる。

 

「あーえっと、有難うございます?その、お名前は...」

 

「お?まだ名乗ってなかったか、せっかくのお得意様(ファン)だ、こういうのはしっかりしなくちゃな。

 俺の名前はヴェルフ、ヴェルフ・クロッゾ。ヘファイストス・ファミリアの下っ端鍛冶師さ」

 

 え、えええええええええええええええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「それでほいほい専属契約をして、一緒にダンジョンに潜ることになった、と...そうですね?」

 

「そう...だけど、リリなんか怒ってる?」

 

 昨日、防具を譲ってもらった後ヴェルフさん──名字で呼ばれるのは嫌いらしい、クロッゾという家名に何か嫌な思い出でもあるのだろうか──が語った所によると、鍛冶師同士の()()()()()という奴は僕が思っているよりも苛烈らしい。

 特に顧客という分かりやすく、そして最も得ることが難しい成果を得る為に、日々凄まじいしのぎの削りあいが起きているのだとか。

 そういった関係もあり、年の若いヴェルフさんは仲間外れにされていて、ろくにダンジョンにも潜れない日々が続いていたそうだ。

 

 ダンジョンに潜れなければ武器や防具の素材を手に入れる事が出来ないし、そもそも生活するためのお金を稼ぐことも出来ない。

 何より鍛冶のアビリティを得ることもできない。

 このアビリティが有るか無いかで、鍛冶師としての腕は大きく変わり、ヴェルフさんがダンジョンに潜れないでいる間に同僚には大きく差を付けられてしまっているそうだ。

 灰さん達がもっと無茶をしているから忘れがちだけれど、僕の様に──リリというサポーターを連れているとは言え──一人でダンジョンに潜ると言うのは、危険を通り越して無謀な行いだ。気軽に誰も一緒にダンジョンに潜ってくれないから一人でダンジョンに潜ろうとはならない。

 

 閑話休題(僕もいつの間にか染まってきてるなぁ)

 そこでヴェルフさんは【リトル・ルーキー】(今期待のルーキー)である僕と専属契約を結んで、僕のパーティに入ることでダンジョンに潜ろうとしていた。

 お気に入りの鍛冶師に武器や防具を作ってもらえるだけではなく、これまで頭を悩ませていたパーティの戦力問題も解決する願ってもない申し出だった。

 当然その申し出を受けた僕は、これから一緒にダンジョンに潜る仲間になったヴェルフさんをリリに紹介したのだが、リリの視線は冷たい。

 

「怒っている...というよりはベル様の警戒心の無さにあきれていると言うべきでしょうか。

 なんでリリと出会った時にひどい目に遭ったと言うのに、まるで懲りずにまた初めてあった人をパーティに入れているんですか!!

 ...いいですかベル様。パーティの仲間というのは信頼が大事なんです。初めて会った相手を信頼することが出来ますか?無理でしょう。

 なら初めて会ったにもかかわらず仲間になろうとするような人は、よほどの事情があるか、もう後の無い食い詰め者かのどちらかです!!」

 

「いやでも、ヴェルフさんは神様の知り合いの所(ヘファイストス・ファミリア)の冒険者で、神様も「ヘファイストスの所の子ども(眷族)なら安心だ」って言ってたし...」

 

「ヘファイストス様の所の...それなら信用できますが、なおのこと初めて会ったベル様のパーティに入る必要性が見えません。やっぱり何か事情があるんでしょう?」

 

「それはファミリアの同僚たちに仲間外れにされてダンジョンに潜れないからだって」

 

 神様が信頼していることを伝えるとリリも納得はしたようだが、やはり何か事情があるんだろうと怪しんでいる。

 僕もヴェルフさんが他の同僚たちから仲間外れにされている理由が、縄張り争い以外にも何かあるんだろうとは思ってはいる。

 しかし、事情があると言えば僕の方にも灰さん達の後輩という特大の事情がある。そのことを考えれば、ヴェルフさんみたいな装備を作ってくれる上に、自分でも戦えるなんて好条件の人はなかなか見つからないだろう。

 そのことを考えれば多少の事情には目を瞑ってでもヴェルフさんを仲間にするべきだと思う。

 

「おお、本当にサポーターとも話し合うんだな。これからよろしくなチビスケ」

 

「チビスケってリリのことですか!?リリにはちゃんとしたリリルカ・アーデという名前があるんです」

 

 リリの言葉にヴェルフさんが「じゃあリリスケだな」といいリリが「なんですかそれ」と嚙みつく。

 しかしリリは本気で嫌がっているわけでもなさそうだし、ヴェルフさんは僕達のパーティになじめそうだ。

 やはりヴェルフさんを仲間にするべきだと思う。

 

「リリが僕を心配してくれるのは嬉しいけど、僕このヴェルフ・クロッゾさんの作る防具が好きなんだ、だから出来る限りの「ちょ、ちょっと待ってください」...リリ?」

 

 リリを説得しようとするとリリは僕の話を遮るように手を前にする。

 僕の話を聞く気もないといった様子ではない、むしろ聞き捨てならない言葉を聞いたかのような反応。

 

「クロッゾと言いましたか?あのクロッゾ?没落した魔剣貴族のクロッゾですか!?」

 

「何それ?」

 

 リリは非常に興奮した様子だが、僕にはどこに興奮する部分があったのか分からない。

 首を傾げる僕へとリリは教えてくれる。

 曰くかつてクロッゾという魔剣を打つことが出来る鍛冶一族がいた。

 その能力に目を付けたとある国は彼らを貴族待遇で自分の国に取り込み、彼らの打った魔剣を装備した軍隊を作った。

 強力な魔剣で装備した軍隊はその力で周囲の国を圧倒し、巨大な帝国を築き上げる戦果を挙げた。

 しかしある日にクロッゾは魔剣を打つことが出来なくなり、彼らの魔剣に依存していた軍はたちまち弱体化。

 各地で起きた反乱軍によって散々に打ち破られて帝国は失われ、クロッゾもまた没落し各地に散り散りになった。

 

「そんな話が...それで、ヴェルフさんはその...」

 

「ああ、俺はその魔剣鍛冶師のクロッゾの一族の一人だが、もう昔の話だ。ただのヴェルフと見てほしい」

 

 ヴェルフさんの言葉が僕の胸を打つ。

 この人は僕と同じだ。

 時々僕を見る時に、(ベル・クラネル)ではなく、ヘスティア・ファミリアの(灰さん達)ベル・クラネル(の後輩)を見ている人がいる。

 そのことは仕方がないとは思う。灰さん達という強烈な存在はどうしても無視できない物だ。

 だけど納得はしていない。いつか灰さん達の後輩ベル・クラネルではなく、()()()()()()()()()()の名前を世に轟かせると決意した。

 それと同じだ。鍛冶の世界においてクロッゾの名前は無視できるものではないのだろう。きっとこれまでクロッゾだから、クロッゾなのに、と色眼鏡で見られてきたんだ。

 それでも心が折れることなく頑張って来たのだ。

 僕はこの人を見捨てられない、この人の頑張りを見ないふりをすることが出来ない。

 

 思わず口をついた言葉を聞いたリリが、しょうがないですねと言いたげな表情になる。

 このまま押せばいけるかもしれない。

 

「それにこの人は本当にいい装備を作るんだよ。見てよこの滑らかな曲線」

 

「結局はそこ(防具)なんですか!?

 灰様と一緒じゃないですか!!

 灰様の悪い所受け継いでるじゃないですかぁぁぁ!!!」

 

 リリの感動を返してくださいぃぃぃ!と天を仰ぐリリ。

 どうやら間違えてしまったようだ。

 それにしても灰さんと同じ扱いはちょっとひどい。

 灰さんと違って僕は装備の質にこだわる性質だ。武器や防具というその物に価値を見出す灰さんとはちょっと違う。

 しかし僕の抗議はリリに無視されてしまった。

 

「...ちょっと良いか?さっき話に出てきた灰さんってのはあれか?火の無い灰のことか?」

 

「...あ」

 

 置き去りにされていたヴェルフさんが「横から口をはさんで悪いが」と言って会話に入ってくる。

 しまった。オラリオの鍛冶師にとって灰さんの名前は禁句だ。

 どうしよう、灰さん達の後輩だと知られてしまえばパーティに入る話は無しになってしまうだろうか。

 

「いや、火の無い灰...ヘスティア・ファミリア?どうして気がつかなかったんだ【未完の少年】(リトル・ルーキー)あんたは灰達の後輩か...

 まあいいか。これからよろしくな」

 

「いいんですか!?」

 

 頭を抱えるようにしてぶつぶつと呟いていたヴェルフさんはこちらへと手を出し笑いかけてくる。

 頭を抱えているリリの声を聴きながらその手を取った。

 ようこそ僕達のパーティへそしてこれからよろしくね。

 

 

 

 

 

SIDE リリルカ・アーデ 灰達がダンジョンへと潜る前

 

「それでは行きますよ?」

 

 こちらを見ているベル様達へと声をかけ、リリは目を閉じます

 上に向けている手のひらに意識を集中し、自分の内側、ソウルを認識します。

 弱々しい光を放つ不安定な球体、リリが認識したリリ自身のソウル。

 そしてその中から先ほど溶かし込んだ短刀を見つけ出し、引き抜く。

 ...手のひらに僅かな重みを感じます。

 不安に震える体を叱咤し、瞼を開ければ先ほどソウルから引き抜いた短刀が手のひらの上に乗っていました。

 

「やった!!リリ成功したよ」

 

「...成功...した?」

 

 目の前の現実が認められなくて何も考えられずに呟くと、リリの手を握る人がいました。

 手から伸びている腕を辿っていけばそこには、ベル様が喜色満面の笑みで自分のことのように喜んでいます。

 成功した...?成功した!

 じわじわと成功した実感がわいてきました。

 

「よくやったなおチビ。これでソウルの探求、その深く長い道の入口に立つ準備をする決意を抱いた位にはなったな」

 

「先長すぎじゃないか!?」

 

 やった、やったと子どもの様にベル様と喜んでいると灰様が「俺達が出発する前に間に合わせるとはな」と言いながら褒めてくれます。

 ...褒めてくれているのですよね?あまりにも遠回りな表現に、褒められているのか確信を持てませんが、多分褒められているのでしょう。

 リリはソウルの業、その初歩の初歩である、アイテムをソウルに収納し取りだせるようになったのです。

 

 灰様はようやくよちよち歩きを始めた子どもを見るような目で見ますが、これとんでもないですからね。

 これがあれば世のサポーターは軒並み職を失う...いえその前に既存の物流がぶっ壊れます。

 ご禁制の品を持ち込むも持ち出すも思いのまま、しかもこんなの取り締まる方法すらありません。

 灰様はソウルの業は使い方次第では世界を壊せるとか言っていましたが、初歩の初歩だけでも十分に世界を壊せますよ!?

 

「私達がダンジョンへと向かうまでに使えるようになるとは...これをくれてやる」

 

「わっ、とっと...これは?」

 

 リリが今更ながらにソウルの業の恐ろしさに震えていると、狩人様が何かを投げました。

 手のひらの上にあった短刀をソウルにしまい、キャッチします...これは(ベル)

 ほとんど無意識のうちに、ソウルの業を習得する為の訓練で幾度となく行ったように、鐘のソウルを読みこみその情報を探ります。

 

 医療教会の上層「聖歌隊」の特殊な■■■

 音色が■■■跨ぐ■■■鐘を、彼らなり■■■■■■ 

 

 ■■■■■■■■■■は■■■■■■■■■...

 

 ...聖歌の鐘、医療教会、聖歌隊?

 

 駄目ですね、これはリリのソウルの業と啓蒙では読み切れない神秘が詰まっています。

 読み取れるのは断片的な情報のみ。

 だからこそこれがこの世界の物ではない(灰様達の世界の物)と分かります。

 狩人様が持っていた物ですから、狩人様の世界(ヤーナム)の物でしょうか。

 

「聖歌の鐘。鳴らすことで自分と同行者を癒すことが出来る。私からの祝いだ」

 

 首を傾げるリリへと狩人様が説明します。

 癒す...って、これ魔法の道具(魔剣)の仲間ってことですか!?

 

「魔剣...ああ、魔法が使える剣のことか。

 近しくはあるが差異はある。

 最も重大な違いとして聖歌の鐘は使う為の代償が重い。今のアーデでは一度使えば倒れる(マインドダウン)か、倒れなかったとしてもしばらくは動けなくなることを覚悟しておけ。使いどころを間違えるな」

 

 狩人様は総括していえば使い勝手が悪いと嘆息します。

 しかしながら今のリリでも一度だけとは言えベル様を癒すことが出来るというのは破格の効果ではないでしょうか。

 ...このような物を頂いても良いのでしょうか。

 リリではこの鐘を使いこなすことはできません。

 そして灰様達はこれからダンジョンへと潜ります。ならば狩人様が持っているべきではないでしょうか、灰様達とは言えダンジョンの中で不覚を取ることもあるでしょう、そんな時これがあれば危機を脱することもできるでしょうに。

 

「私達が怪我を負うなどありえん」

 

 リリの考えを読んだように──いえ、リリよりも啓蒙についてより深い知識を持つ狩人様のことです事実読んだのかもしれません──呟きます。

 その言葉に込められた自負と確信にリリは反論できません。

 

「だが、どうしても気にするというのならば。これは貸しておいてやる」

 

 リリの脳内に宿る啓蒙が狩人様の言葉の内容を囁きます。

 生きて帰ってこい(命を投げ捨てるな)

 

 分かりにくいにもほどがあります。一度心の中で呟き、頭を下げた後リリは手に持った鐘をソウルに溶かし込んだのでした。

 

 

 聖歌の鐘

 

 狩人がリリルカ・アーデへと貸した鐘。

 鳴らすことで同行者と自身を癒すことが出来る。

 しかしながら次元を跨ぐ鐘の音を模したこれを使用するにはそれ相応の対価が必要である。

 悪夢の辺境に隠されたこれを狩人は暴き出し、惜しみなくリリルカ・アーデへと渡した。

 

 どの様な道具であったとしてもそれにふさわしい人物の手に渡るべきだろう。

 少なくとも死なずである狩人の血塗られた手よりもリリルカ・アーデの未熟な手の方が似合うはずだ。

 

 




どうも皆さま

花粉で目がかゆい私です

この話を書いていて心底思ったのですが、ソウルの業ってチートですね
幾らでも物を運べるなんてテロをしようと思えば止めようないです
そんなことに気がつき震えていたリリ
彼女はまだ自分が無意識のうちに出来るほど反復させられたソウルを読み取ることが
神が人の魂を見てその言葉の真偽を見抜くものと同様の物だと気がついていません
いつの間にか神の領域を冒していたリリの行く末はどこでしょう

それではお疲れさまでしたありがとうございました




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