忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

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人間性(ヒューマニティ)

人を人足らしめる物
どの様な姿になろうと
どの様な道を行こうと
これを持ち続ける限り人は人である

それは
ソウルを貪るだけの亡者になった不死者が失った深淵を照らす篝火であり
血に酔い獣へと堕ちた狩人が失った安らかな眠りであり
降り積もる怨嗟によって修羅へと変貌した忍びが失った一握りの慈悲である

失った人間性を補うことが出来るのであれば化け物と化した者もまた人と成れるのだろう
その為に人を襲うのであればその姿はただの化け物でしかないのだが

誤字報告いつもありがとうございます


それぞれのこだわり

 

 拠点である【廃教会】その地下室で夕食を取りながら、今日あったことを神様や九郎に報告する。

 ちょっと前まではリリが泊まっていたこともあって、賑やかな食卓だったのがリリは自分の宿に戻り、灰さん達がギルドからの冒険者依頼(クエスト)によってダンジョンに潜ったことで、一気に寂しい食卓になってしまった。

 そんな寂しさを吹き飛ばす為に沢山話す。

 

「それで他の人達が来たから一休みしようとしたんですけれどインファントドラゴン、ああレアモンスターのことで上層に出てくるモンスターで一番強いモンスターのことです。

 それが出てきてリリに向かっていくので魔法(ファイアボルト)を使って牽制しようとしたんですけれど、いつもより強力なものが出たんですよ。

 それでインファントドラゴンは倒せたんですけれど...何だったんでしょう?」

 

 ヴェルフさんと一緒にダンジョンに潜った事、新しくヴェルフさんという仲間が増えたことでこれまで以上に戦いやすくなった事、【怪物祭】で戦ったシルバーバックにも遭遇したがランクアップしていたからか勝てた事。

 「うんうん」と相槌を打ちながら楽しそうに僕の話を聞いていた神様だが、ダンジョン10階層での出来事を聞くと「あっ!」と立ち上がり部屋へと走っていく。

 残された僕と九郎が「どうしたんだろう」「なにがあったんでしょう」と首を傾げていると何かを手に持って戻ってくる。

 

「ベル君のランクアップとか、灰君達の冒険者依頼(クエスト)とか、色々あったから忘れてた。

 ベル君、君に二つ...じゃなかった待望のスキルが発現したんだよ」

 

 「「なんですって!」ですと!」 

 

 神様は手に持った僕のステイタスを書き写した紙を見せてくる。

 驚きと共に見れば確かに、ステイタスの下に何か文字がある。

 人間性(ヒューマニティー)...?

 名前だけでは一体どういう効果なのか分からない。

 人間性?思い至るような言葉は無い...いや?

 

「人間性...確か灰殿がそんな言葉を言っていたような?」

 

「確か「諦めなければ負けではない、諦めずただひたすらに挑戦し続ける決意。それが人間性」...だったかな?」

 

 九郎の呟きに記憶が掘り起こされる。

 灰さんの言葉、相手に勝つために必要な物。

 あんまりと言えばあんまりな言葉。

 勝つまでやれば勝てる。

 訓練で倒れた僕へとかけられた言葉、それが人間性。

 とは言えそれだけでは僕のスキルの効果は予想できない。

 10階層での出来事から予想する。

 

「効果は諦めない限り“すていたす”の向上とかでしょうか?」

 

「インファントドラゴンの時は、上層最強の敵を相手に諦めず戦いを挑んだことで効果が発揮された...とかかな?」

 

「なんにせよ格上のモンスターを相手にする時に有効なスキルだろうね。とは言え無理はしちゃいけないよ?終わってしまえば終わり。死ななければ何度だって挑戦できるんだ」

 

 神様の言葉を心に刻む。

 諦めないという事は逃げないことと同意義ではない、むしろその逆。

 逃げない強さもあれば逃げる強さもある。

 深く頷く僕へと神様はそういえばと話す。

 

「ベル君の新しい仲間。ヴェルフ君についてボクもヘファイストスの所で調べてみたんだけれど。彼、魔剣が打てるそうだよ」

 

「えっ!?でもクロッゾ、ヴェルフさんの一族は魔剣が打てなくなって没落したって聞いたんですけど?」

 

「らしいね。けど彼は魔剣を打てるそれも強力な奴を、そして魔剣を打てるにもかかわらず魔剣を打たないらしい。それでいろんな妬みや僻みを受けているそうだよ。」

 

 魔剣。

 振るえば魔法を使える魔法の剣。

 持てば誰でも魔法を使えるようになる強力な装備。

 それを打てるにもかかわらず打たない同僚。

 容易く富も名誉も得られるにもかかわらずそれを打たない姿が同僚からどう見えるのかは、ヴェルフさんが仲間外れにされているという事実が物語っている。

 そして仲間外れにされても、なお打たない理由がヴェルフさんにはある。 

 

「訳ありという事ですね」

 

「“へすてぃあ・ふぁみりあ”に入っている時点で訳ありですので、まあ似た者同士という事で仲良くできればいいのですが」

 

 何かしらの訳があるのだろう。

 とは言え九郎が言うように僕にだって、ヘスティア・ファミリアの冒険者という()がある。

 たとえどんな理由があったとしても、僕はヴェルフさんを見捨てるような真似はしないと決意する。

 そんな僕達を見て神様は「いやまあこのファミリアが評判が良くないのは事実だけれど、事実だけれど!そんな会話をしなくてもいいじゃないか...」と黄昏ていた。 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなぁ。チビスケは今日は休みか」

 

「ええ、急な話で申し訳ないんですけれど」

 

 僕はいつもの噴水の傍でヴェルフさんを待っていた。

 先ほどリリが来たのだが、なんでも泊っている宿屋のノームの親父さんが病気になってしまったそうで、今日はお休みにして欲しいといったのだ。

 リリは自分の都合で休みにするなんてと申し訳なさそうにしていたが、いつもお世話になっている相手だ、出来る限りの恩返しをしたいと思うのは普通だろう。

 ヴェルフさんには僕から言っておくからリリは先に帰ればいいよとリリを帰らせ、ヴェルフさんに事情を説明する為に僕が残っていたのだが話を聞いたヴェルフさんは顎に手をやって少し考えると僕の顔を見て口を開く。

 

「それじゃあ今日は予定が無いんだろ?俺にお前の時間をくれないか」

 

 特に予定もないしヴェルフさんに付き合うのに何の問題もない。だけれど何か用事があるのだろうか。

 首を傾げる僕へとヴェルフさんは笑いながら言う。

 

「パーティに入れてもらう時に約束しただろ装備を作ってやるって。お前専用の装備をなんだって作ってやるぜ。勿論無料でな」

 

 ヴェルフさんは僕の為に装備を作ってくれるつもりのようだ。

 約束とは言え、そもそもがヴェルフさんが弱っている所で結んだ約束だ、あまりいいものではない、ないが...

 僕専用の装備...いい響きだ。

 僕はヴェルフさんの誘いに頷きヴェルフさんの後についていった。

 

「ここがヴェルフさんの工房...」

 

 ヴェルフさんは「見ても面白いもんでもないだろ?それより悪いな汚い場所で」と言うが、物語に出てきた工房を実際に目にすることが出来た感動で胸がいっぱいだ。

 床に置かれた金床、壁に掛けられた鍛冶道具、物語で読んだその通りの物が目の前にある。きょろきょろと工房の中を見回す僕に苦笑しながらヴェルフさんは座るよう椅子を進めてくれた。

 

「それで何か使いたい武器なんかはあるか?」

 

「...やっぱり悪いですよ、僕はこの間譲ってもらった鎧だけでもいいです」

 

 専用の装備という響きに惹かれてついて来てしまったが、(冒険者)が夢と命をかけてダンジョンに潜る様に、ヴェルフさん(鍛冶師)もいろんなものをかけて作品を作っているはずだ。

 そんなヴェルフさんの人生の成果とでもいうべき作品をタダで貰うなんてフェアじゃない気がする。

 今更ながら躊躇しだす僕を見てヴェルフさんが真剣な表情になる。

 

「最善の装備を整えるのも冒険者の義務だろ?」

 

「それはそうですけれど...」

 

 ヴェルフさんの言葉は正論だ。

 もしここに僕じゃなくて灰さんがいれば遠慮なく装備を作ってもらうのだろう。

 だけれど僕はヴェルフさんのファンだ、この人の作品を譲ってもらうのならともかく対価もなしに受け取るのは心が咎める。

 悩む僕を見てヴェルフさんは笑う。

 

「本当に魔剣を欲しがらないんだな」

 

「え?」

 

「聞いているんだろ?お前の所の主神、ヘスティア様から俺が魔剣を作れること」

 

 何か笑う所があっただろうかと思っているとヴェルフさんの真剣な声が耳に入る。

 魔法を使えない人でも魔剣を持てば魔法を使えるのだから魔剣は強い。

 僕はもう魔法を持っているけれど、振るうだけでマインドダウンの危険性もなく魔法が使えるのならそれに越したことはない。

 だけれど、ヴェルフさんが魔剣を作れるのに、魔剣を作れば名声も地位も手に入るのに、それでも魔剣を作ろうとしないのならばその意志を曲げさせてまで魔剣を作ってもらおうとは思わない。

 僕の言葉を聞いたヴェルフさんは顎に手をやり少しうれしそうにする。

 

「そっか...っと、話は何を作るかという所に戻るんだが...()()はミノタウロスの角か?」

 

 ヴェルフさんの言葉に考え込んでいた僕のベルトに挟んであるミノタウロスの角に気がついたヴェルフさんは、手に取るとしげしげと眺める。

 僕が9階層でしたミノタウロスとの死闘。

 僕は最後には気を失ってしまったのだが、ミノタウロスが倒れた後にはこの角が残っていたらしい。

 それを拾った灰さんから「お前が勝った証拠だ。大切にしろよ?」と渡された物だ。

 

 魔石よりも高値で売れるドロップアイテム、それもLV.1では到底勝てない、いやLV.2の冒険者パーティでも倒すのが難しいミノタウロスのドロップアイテムだ。

 持っていくところに持っていけば、高値で引き取ってくれるのは分かっていたのだがどうしても手放す気になれず、リリからも「ベル様が御自分で得た物ですどうぞご自由に」と言われたことでお守り代わりに持っていた物だ、と僕の言葉を聞いたヴェルフさんはにやりと笑うと「ならそれを使うか?」と聞いて来た。

 

使()()?」

 

「その角を素材にして装備を作るんだ。どうだ?俺の鍛冶師の勘が良い物が出来ると言っているぜ」

 

 使うという言葉の意味が分からず首を傾げるが、ヴェルフさんは装備の材料として鉄や鉱石を使うのではなくドロップアイテムを材料とするのは珍しい事じゃないと教えてくれる。

 むしろドロップアイテムを材料として作った装備は、普通の物より高性能なものになったり、特別な効果を持つ物が多いそうだ。

 手放す気にならず、かといってこれと言った利用方法を思いつかなかった所にいい話を聞いた僕は当然ヴェルフさんの言葉に頷いた。

 

 真っ赤に熱されたミノタウロスの角をヴェルフさんは叩いて形を整えていく。

 淀みないその手さばきはいっそ美しさすら感じる。

 ヴェルフさんが装備を作る姿に見とれていた僕へと、ヴェルフさんが「装備が出来るまでの間、ちょっと俺の話を聞いてくれるか?」と声をかける。

 断る理由が無い。喜んでと答えた僕へと呟くようにヴェルフさんは話し始める。

 

「俺はな魔剣が嫌いなんだ。店でお前と会った時に初めての客って言ったけどな、本当は客は腐る位いた。

 俺がクロッゾで、魔剣を作れると知って、魔剣を作れと言ってくるようなやつらばかりだがな」

 

 ぽつりぽつりと、ともすれば鍛冶の音にかき消されそうな小さい声で。だけれどはっきりとした口調でヴェルフさんは語る。

 

「自分が有名になる為の武器として、自分の持つにふさわしい格を持つ武器として、なんて言いながらな。

 差し出される対価もいろんなものがあったぜ。俺が魔剣を作りたがらないと聞いていたんだろう。

 鍛冶師としての名声、貴族としてのクロッゾの再興、魔剣の代金としても法外な代金」 

 

 僕に聞かせていると言うよりかは、思い出していると言うべき呟くような声はだんだんと大きくなっていく。

 

「だが俺は作らなかった。ただの一本も打たなかった。

 ...なあ知ってるか?魔剣って言うのは必ず使い手を残して壊れちまうんだ。

 使い手がどうあろうと関係なしに力を振るい、使い手がどうあろうと関係なく砕ける。そんなもんは武器じゃねえ。俺の目指した鍛冶師が魂を込めて打つ装備はそんな物じゃない」

 

「でも装備が壊れてしまっても、生きていれば何とかなることもありますよ?」

 

 ヴェルフさんの瞳が暗くなっていくのに耐え切れず、思わず声を出す。

 使い手を残して壊れてしまうと言えばひどいが、装備が壊れても生きていたと言えば冒険者にとっては幸運だろう。

 何時しか僕のことも忘れてしまっていたのか、僕の声に初めて僕の存在に気がついたようにヴェルフさんは目を開き「そうだな」と呟く。

 

使う側(冒険者)にとって装備が壊れてしまっても生きていれば問題は無いんだろう。

 だけどな、作る側(鍛冶師)にとってはそうじゃない。鍛冶師が、俺達が、俺が作るのは使い手の半身だ。

 使い手がどんな窮地に立たされていて諦めてしまったとしても、装備だけは使い手を裏切らない、裏切っちゃいけない」

 

 先程までの暗さはないが、寂し気に口にする。

 僕はこれまで多くの格上の相手と戦い、勝利してきた。

 その結果装備を壊してしまう事も少なくなかったが、それは僕の未熟が原因だ。

 僕の装備達は最後まで諦めたりしなかった。僕より先に折れてしまうことはなかった。

 小さく頷き「分かります」とだけ口にする。

 

「ありがとな...だから俺は魔剣が嫌いだ。使い手を置いて必ず壊れてしまう魔剣が嫌いだ。

 そんな魔剣をありがたがっている冒険者も、そんな魔剣を受け入れている鍛冶師も。魔剣にまつわる何もかもが大嫌いだ。

 だから俺は魔剣を打たない」

 

 呟くように、宣言するように、いつの間にか短刀の形になっていたミノタウロスの角を水の中に入れながらヴェルフさんは喋る。

 じゅうううううと熱されたミノタウロスの角、いやミノタウロスの角から作られた短刀が水を蒸発させる音が響き、蒸気が立ち上る。

 ヴェルフさんが水から引き上げるとそこには、ほれぼれするような美しい短刀があった。

 

「素材が良かったんだな。間違いなくこれまでで一番の出来だ」

 

 いつの間にか傾いた太陽に照らされてオレンジ色に染まる短刀に僕が見惚れていると、ヴェルフさんも「こんなに綺麗な作品が作れたのは初めてだ」と感慨深そうに眺める。

 それほど広いわけでもない工房の中、僕達が短刀を見つめていると「いつまでも見つめている訳にもいかない。これに名前を付けてやらなくちゃな」とヴェルフさんが呟く。

 

「ミノタウロスと【未完の少年(リトル・ルーキー)】だから『牛若丸』...いやミノタウロスの短刀だから『ミノたん』か...?」

 

「いやそこは最初の方の名前でいいですよ!?」

 

 先程まで工房の中に漂っていた神聖な空気とでも言うべきものが吹き飛んでいってしまった。

 どうやらヴェルフさんの名前のセンスは鍛冶の腕程ではないようだ。

 納得していないような表情で「じゃあ『牛若丸』だな」と短刀に命名し、ヴェルフさんは鞘に納めた短刀、いや『牛若丸』を僕に手渡す。

 

「ありがとうございます。ヴェルフさん」

 

「ヴェルフさんか...なあ、俺達は出会って数日だ、全部ひっくるめて信頼してくれなんて言わないし、言えない。

 でもリリスケみたいに俺とも気楽に話してくれてもいいんだぞ」

 

「そうです...いやそっか。じゃあこれからもよろしくねヴェルフ」

 

 夕焼けに照らされた工房の中僕達は握手する。

 ごつごつとした硬い手の感触。

 きっとヴェルフさん、いやヴェルフはこれまでいろんな苦労をしてきたのだろう。

 その苦労によって磨き上げられた技と力を預けてくれるんだ、その信頼に背かないようにしないといけない。

 僕はもう一度覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 牛若丸

 

 ベルが倒した片角のミノタウロスのドロップアイテムを材料にヴェルフが打った短刀。

 自身が倒した相手の一部を使い新しい装備を作る、或いは相手の装備を継承することは火の時代からあった由緒正しき戦いの作法だ。

 その素材となった強敵の意志が込められているかのように、それらの装備は強力な力を有する。

 自身が勝利した死闘を汚さぬ様に、何より強敵の名を汚さぬように常に戒めるべきだろう。

 




どうも皆さま

私です

ようやくわかったのですが私戦闘場面とかギャグとかの方が筆が進むんですね
今回は少し短いですが難産でした

ベル君の新しいスキルをどうしようか悩んだ果てに人間性なんて名前を捻り出しました効果そのものは原作とは大して変わりません

尽きない人間性を持つのならば
幾らでも挑み続けられるのだろう
そんなことが出来る存在は人外か英雄だけだろうが
みたいな文言もどこかに入れたかったんですけれど入れられませんでした

それではお疲れさまでしたありがとうございました

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