忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編 作:noanothermoom
灰達が書いたダンジョンについての本
ギルドの資料を基に灰達がベルの為に書き記した教本
オラリオでも最上位の冒険者である灰達が書いたそれは凄まじい価値を持つが
中身は主観と偏見に満ちており資料としてはギルトの物に遅れを取る
しかしながらこの本には灰達の想いが詰まっている
誰かを想い助けたいと願ったその意思に価値を見出す者もいるだろう
誤字報告いつもありがとうございます
ヴェルフに短刀を作ってもらってから数日。
僕はヘスティア・ナイフと牛若丸の二刀流で戦っていた。
狩人さんの様に二刀流を十全に使いこなせているという程自惚れてはいないが、速さ重視の僕にとって手数が増える二刀流は相性は悪くない。
ヴェルフとの連携も上手く行っているし十分な戦力が揃ったと考えた僕は、エイナさんへとダンジョン中層に潜る許可を取りに行った。
急ぎ過ぎていると言われてしまえば反論できない。
灰さん達が帰ってくるのを待ってから挑戦すればいいなんて気持ちもある。
だけれど、灰さん達がいない間に中層まで進み、びっくりさせたいという気持ちの方が大きかった。
リリは「悪くありませんね。あくまでリリの見た限りですがこのパーティは中層に進めるだけの力量を持っていますし、灰様達の鼻をあかしたいと言うのはリリも思っていましたから」と同意してくれたし、ヴェルフも「ベルなら問題なく中層に行けるだろうし、俺達も足を引っ張るだけじゃない。それに俺の名前を世界に轟かせるというのなら灰達の予想位上回らなくちゃいけないだろ?」と同意してくれた。
エイナさんは無理だけはしないようにと再三忠告してはいたものの、最後にはクーポン券を渡して必ずサラマンダー・ウールを装備する約束と共に中層へ潜る許可を出してくれたのだった。
エイナさんがクーポン券をくれてまで僕達に用意させようとしたサラマンダー・ウール。
せっかくだからとリリとヴェルフと一緒にお店へと買いに来た。
クーポン券を使うことでお得に買うことが出来た、と本来の値段を見ながらお店の人が提示した値段を支払おうとしたのだが、それを聞いたリリが待ったをかけ商談を始めてしまった。
「仕立てはこちらでしますのでその分を差し引いて...」「ならこちらのモンスター除けをお付けして...」
「リリスケの奴、イキイキしてるな」
お店の人と壮絶なやり取りをしているリリを見てヴェルフがうんざりしたような声で言った。
気持ちは分からないでもない。商談が始まってすでに一時間は経っている。
前何かの本で女性の買い物は時間がかかると読んだ気がするが、間違いなくこういう事ではない。
だがこういう時に男に出来ることなどただ待っているだけと書かれていたのは本当だった。
かくしてヴェルフと一緒にリリの商談が終わるのを待っているのだ。
LV.2になったとはいえ僕は未だ
僕も薄々
棚に置かれた商品を見たり、窓から外を眺めたり。とにかくリリが早く帰ってくることを願いながら時間を潰していればようやく終わったようだ。
リリはほくほく顔で、お店の人は恨めしそうな顔でこちらへとやってくる。
...リリが駆け引きをしているのを見ていただけなのにひどく疲れた気がする。
「それで、この後はどうするんですか?」
「今から中層に突入...って訳にはいかないんだろ?」
お店から少し離れた所にあるベンチに座って休んでいると、リリとヴェルフがこれからどうするのかを聞いてくる。
準備はできた、パーティも揃っている、なら今からダンジョンに突入だ...なんて無謀なことは流石の僕もしない。
ダンジョンに潜るにしても微妙な時間帯。かといって今から
「それなんだけど。これを一緒に読まない?」
「なんだこれ...【ダンジョン覚書】...?」
元々は買い物が終わった後の時間を潰す為にと用意した本を取り出しリリたちに見せる。
見ただけで手作りの本だと分かるぼろぼろの本の表紙に書かれた文字を読んだヴェルフは胡散臭い物を見るような目を本に向け、リリはまたそんな無駄遣いをみたいな視線を僕に向ける。
ダンジョン完全攻略だとかダンジョン白書みたいなダンジョンの攻略本と銘打った胡散臭い本は、オラリオではちょっと細い道に入れば幾らでも売られている。
当然そんなものは適当に書かれた物でしかなく、ギルドはそういった怪しい本に注意するように警告しているし、ほとんどの冒険者からも無視されている物だ。
しかし僕達の様にこれから新しい階層に潜る人が藁にも縋る気持ちで買うことはある。同じように中層に潜る不安からそこらへんで売っている怪しい本を買ってきたと思われたらしい。
この本が胡散臭いと言うのは否定できない、だがこれは信用できる本だ。
「ちょ、ちょっと待ってください。それまさか灰様達が書いた本ですか!?」
「灰って火の無い灰か!?」
胡散臭そうに本を見ていたリリが目を見開き驚愕する。そしてその言葉にヴェルフも驚く。
灰さん達が書いた本と知っただけにしてはちょっと大げさにも思える反応だが、よく考えればそれも当然だろう。
同じファミリアという事もありだらしがない姿ばかり見ているせいで忘れそうになるが、灰さん達はオラリオの中でも十本指には入る冒険者。オラリオにいる冒険者の中でも上澄みの中の上澄み、最上位の冒険者達だ。
そんな人達が書いたダンジョンについての本。
そこいらの路上でギルドから隠れるように売られている胡散臭い本とはわけが違う。
灰さん達は「俺達が鍛えてやれない間これでも読んで勉強しておけよ」と言って僕にくれたが、内容について考えればこの本はそんな簡単に渡していいものじゃないはずだ。
...よくよく考えれば灰さん達っていつもそんな感じだった。
つらつらと意味のない事を考えながらぺらぺらとページをめくると【中層について】と書かれたページが出てくる。
中層
ダンジョンの13階層から24階層までを指し示す。
上層と比べモンスターの強さ、遭遇率が格段に上がり、更にモンスターも徒党を組み数で押してくるもの、遠距離攻撃を行ってくるものなどさまざまな種類が出現し、ギルドでは
こんなところで死んでちゃ【英雄】なんて夢のまた夢だぞ。
代表的なモンスターは次項より。
文章の中明らかに浮いている文字があったが、灰さんが後から書き足したものだろう。
未知への期待と不安の中灰さんの足跡に触れた気がして少し笑いが生まれる。
「中層のモンスターか。何がいたっけな」
「有名どころではヘルハウンドですかね。中層での冒険者様の死因の殆どがその火炎放射だとか。他にはミノタウロスとかあとは...」
リリとヴェルフの会話を聞きながらページをめくる。
ヘルハウンド、ヘルハウンド...
ヘルハウンド、小牛程の大きさを誇る真っ黒な体と赤い目が特徴の狼型のモンスター。
その爪や牙による攻撃だけでなく口から火を吐いて攻撃することもある、しかもその射程距離は非常に長く、獣型であることもあり機動力と殲滅力に優れた恐るべき【放火魔】の呼び名を持つモンスターだ。
近距離での直接攻撃と距離を取ってからの火を使った遠距離攻撃を使い分ける強敵であり、リリの言う通り中層での死因の第一位、とにかく出会ったなら真っ先に倒す必要のある強敵。
エイナさんとの勉強会で学んだ知識を思い出しながらいくつかページを捲れば、目当てのページを見つけることが出来たようだ。
ヘルハウンドが赤い瞳でこちらを睨みつけている挿絵が書かれている。
まず最初に目に入ってくるのは【獣だ殺せ】とおどろおどろしい字体で書かれた注釈。
「これは狩人様が書かれた文字でしょうか...」
「あー...凄ぇ獣嫌いだと聞いたことがあるな...と言うかこのページの注釈全体的に殺意に満ちすぎてないか!?」
その文字からでも分かる獣への殺意にヴェルフが少しひくが、このページに書かれた注釈はどれもこれも抑えきれない殺意に満ちた物だった。
【犬だ、つまり無慈悲の時間だ】【素早い敵だ、つまり素早い攻撃が有効だ】【犬を許さない】...
ヘルハウンドが強敵であると言ってもあくまで
灰さん達にとっては苦も無く倒せる相手のはずだが、何か嫌な思い出でもあるのだろうか。
「...他のモンスターの項目には何が書かれているんですか?」
「そ、そうだね...えっと...」
何とも言えない感じになってしまった空気を変えるようにリリが声を張る。
それに乗って僕もページを捲る。灰さん達の過去を気にする余裕なんてない、今僕達が気にするべきは目の前に迫った中層攻略のはずだ。
とは言え僕達の方から力が抜けたのも事実。
まさか灰さん達はこれを狙って...いやないな。
間違いなく
「それじゃあ神様、九郎行ってきますね」
「うん、だけど...」
「日の下で見ると目立ちますねその装いは」
廃教会の前。僕を見送ってくれる神様と九郎に挨拶をする。
僕が身に纏うは昨日買ってきたサラマンダー・ウールでできたマント。
真っ赤なそのマントを今一度見直すと派手過ぎて悪目立ちしているような気がする。
昨日の夜は自分の部屋でマントを着ていつか読んだ英雄譚の登場人物みたいだ、なんて浮かれていたけれど日の光の下で見ると身の丈に合っていない装備を身に着けているような、衣装に着られているような気分になる。
とは言えこれは火属性耐性に優れた装備で、中層に潜るのなら絶対に装備しなさいとエイナさんに強く言われた装備だ。
幾ら恥ずかしくても装備しないなんて選択肢は無い。
「いいですか“べる”。貴方は既にLV.2になった期待の新人なのです。恥ずかしがることなく胸を張っていれば良いのですよ」
「そう...かな」
「確かに君はLV.2になった、だけれど無理は禁物だよ。どんなに無様でも生きてボク達の家に帰ってくるんだ。いいね?」
「分かりました神様」
弱気になった僕を励ましてくれる九郎と、生きて帰ってくればそれだけでいいと命を大切にするように言ってくれる神様。
二人の言葉を聞いて改めて僕は本当に周りの人に恵まれて、支えられていると思う。
胸がいっぱいになって泣き出しそうになってしまい今すぐ出発したくなる気持ちと、温かいこの人達ともっと一緒にいたい気持ち。
反対の二つの気持ちを押し流す為に「行ってきます」と力強く宣言し出発する。
リリとヴェルフと一緒に必ず戻ってくると心に誓い、僕は二人が待っているだろう噴水へと走り出した。
「お二人ともいいですか、あそこを潜ったら13階層、つまりは中層に突入します」
ダンジョンの中リリが周囲を警戒しながら僕とヴェルフの顔を見て言う。
だが、中層まで進めば話は変わる。
モンスターの質、数、ダンジョンの地形、罠。ありとあらゆる悪意が冒険者達を襲う。
それに抵抗するための準備は出来る限りのことはした。それでもなお不安は付きまとう。
だけれど。
「ふふ...」
僕の口から微かな笑いが漏れだした。
それを見たリリに「緊張感が足りませんよ!」と怒られてしまうが、仕方がない。
「リリ、ヴェルフ。
僕はそう思ったらなんだかわくわくしてきてつい笑っちゃたんだ」
信頼できる仲間と力を合わせて困難に立ち向かう。
そのわくわく感は不安を吹き飛ばしてなお有り余るものだった。
「ふ...ははは!そうだな男なら、冒険者ならこんな時ワクワクして笑う物だな」
「ヴェルフ様まで!?全く...まあ分からないとは言いませんよ」
僕の言葉を聞いて楽しそうに笑うヴェルフと、全くと渋顔を作るがわくわくを隠し切れないリリの顔を見ていたら不安なんてどこかに行ってしまった。
そうだ僕は一人じゃない、仲間がいる。
この仲間達とならどんな困難にも立ち向かえると確信できる仲間達が。
「それじゃあ行こう。ダンジョン中層へ!!」
声を張り胸を張って道を進む。
この先にある冒険へと。
SIDE エイナ・チュール ギルド
ギルド職員は冒険者に入れ込むべきではない。
ギルド職員になって初日に言われた言葉であり、今では私が後輩へとかける言葉でもある。
冒険者と言うのはいつ死んでしまうか分からない危険な仕事だ。
そんな人達に入れ込んだ結果、その死に強いショックを受けて仕事を辞めてしまったり、冒険者を心配するあまり仕事でミスをしたりするのを防ぐための言葉だ。
何より多くの冒険者と接するギルド職員が特定の冒険者と仲良くしていれば、そこに癒着や不正のにおいをかぎ取る人も出てくる。
だからこそギルド職員、その中でも受け付けは冒険者に寄り添い親身になって対応することと、一定の距離を保つ必要がある。
だから私がベル君にあれこれと世話を焼くのは個人的感情ではなく、将来有望な冒険者に対する投資なの。
...なんて言い訳を自分でも信じれないくらい私はベル君に入れ込んでいる。
うさぎを思わせる可愛い外見、一度決めたら曲げない強い心、たった1ヶ月半でLV.2になった才能。担当者として入れ込む理由は幾らでもある、だけれど私が入れ込んでいる最大の理由はベル君の愛嬌だ。
ベル君は慎重だ。
黙って5階層に潜ったり、サポーターに唆されて10階層に潜ったり、LV.2になってそれほど経たないうちに中層に潜りたいと言ったり。
他の人が聞けば間違いなくどこが!?と言うでしょうけれど、灰さん達と比べればそれは可愛い物だ。
そもそも灰さん達なら事前に許可を取るなんてことをしない。
終わった後に報告があれば万々歳、こちらが訊ねて答えてくれれば上々、問い質したとしてもすっとぼけたり隠したりなんて日常茶飯事。
表に出てきてないだけで隠しているやらかしは間違いなく10や20を超えると長年の付き合いから察している。
それを思えばベル君の無茶なんて可愛い物。
だけれどギルド職員になってから、同僚が担当していた冒険者の死に悲しんでいる姿や、打ちのめされている姿は幾度となく見てきた。
だから私は出来る限りのサポートをベル君にする。それが担当アドバイザーの仕事なのだから。
どうも皆さま
私です
UA140000、お気に入り数1100突破ありがとうございます
何時も言っていることなのですがこの小説が続きますのも皆様のおかげです
そんなことを言っているのに今回もまた短い更新です
申し訳ありません
書きたいところまで進まないんです
書きたい場面まで長いんです
なんていつもの弱音を口にしつつ
気がつけば三月ももう終わり、新しい年度になりますね
花粉が辛い季節です
どうか新年度もこの小説と私をよろしくお願いします
それではお疲れさまでしたありがとうございました