忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

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ベルのヘスティアメダル

ベル・クラネルが持つヘスティアメダル
彼はダンジョンに潜るとき常にこれを首から下げている

ヘスティアメダルは友神の思いを聞きファミリア結成のお祝いにと
鍛冶の女神ヘファイストスが作り上げた物だ

その神業は女神の想いをメダルの中にも込めた
その為かこれを握りしめると仄かに暖かい

それは母の腕の中の様なぬくもりをもたらし
己が一人ではないことを思い出させるのだ

誤字脱字報告いつもありがとうございます


選ぶべき選択

 13階層への道を歩くと僕達を待ち受けていたのは9階層までのような洞窟の様な光景だった。

 霧と枯れ果てた草原が広がるこれまでの階層とは違い、13階層からは再び洞窟の様な風景になるのだ。

 ただ部屋(ルーム)部屋(ルーム)を繋ぐ通路と部屋(ルーム)の広さは上層とは比べ物にならない程に長く、広い。

 

 とは言え霧に包まれた10~12階層と比べれば視線が通り遠くの敵にも気がつきやすく、モンスターの奇襲を受けにくい。むしろ10階層なんかより戦いやすいと言えるだろう。

 しかしそれは僕達(冒険者達)ばかりに有利に働くわけではない。

 これまでの階層のモンスターと違い中層のモンスターは遠距離攻撃をしてくる。

 視線が通るという事は射線が通るという事なのだ。

 目の前の敵ばかり意識していれば遠くの敵に撃ち抜かれてしまう。

 

 周囲を警戒しながら歩いていると僅かな足音と共に黒い影が僕達の前に現れる。

 黒い毛並みに赤い瞳、ヘルハウンドだ。

 

「ヘルハウンドです!!」

 

 中層に潜るうえで一番警戒するべきモンスターの登場にリリが警戒の声を上げて、手にしたクロスボウを放つ。

 弱点を狙う(ダメージを優先する)のではなく胴体を狙った(当てることを優先した)一撃をヘルハウンドは獣ゆえの軽快なステップで避け、避けた先に先回りしていた僕の一撃を受けて灰に還る。 

 

「お見事!」

 

「リリのおかげだよ。ありがとう」

 

 中層において警戒するべき強敵(ヘルハウンド)を一体だけだったとは言え、素早く倒した手並みにヴェルフが口笛を吹きながら称賛の言葉をかけてくる。

 とは言えこれだけ上手くヘルハウンドを倒せたのは、予めヘルハウンドにどう対応するかを相談しておいたからだ。

 

 ヘルハウンドと相対した時、最も気を付けるべきなのは代名詞ともいえる火炎放射である。

 それは間違いない。

 だからこそ接敵した時は他のモンスターを無視してでも接近戦に持ち込み、真っ先に倒さなければならない、さもなくば黒焦げになることだろう。

 しかしながら火炎放射の脅威が周知された所為で、それ以外の脅威については忘れられがちだ。

 

 先程のリリの攻撃を避けた時の動きからも分かるようにヘルハウンドは動きが素早い。

 それこそLV.2の冒険者の攻撃であったとしても簡単に避けてしまえる俊敏性。

 その恐ろしさは速さを武器にしている僕が最もよく知っている。

 究極の所を言ってしまえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。 

 

 灰さん達が僕にくれた【ダンジョン覚書】。

 大量の主観と偏見が混ざった非常に偏りのある本ではあったが、学べる点も沢山あった。

 そしてその本にはヘルハウンドの素早さについてもしつこいくらいに書かれていた。

 そこでヘルハウンドに出会った時はまずはリリが攻撃を加え、避けるなり迎撃するなりで足が止まった所に、僕が切り込むと対応を決めておいた。

 とは言えこれだけ上手く行くとは僕ですら思っていなかったが。

 

「...しかし思っていたよりも簡単に避けられてしまいましたね。やはりリリではモンスターにダメージを与えられそうにないです」

 

「そこは俺とベルが頑張るぜ」

 

 折角クロスボウを新調したと言うのに当てられなかったリリは少し不満そうだ。

 そんなリリをヴェルフが慰め僕達は進む。ただ長い通路に立っているだけではいい的だ。早く部屋(ルーム)に入るべきだろう。

 周囲を警戒しながら小走りで部屋(ルーム)に走りこむ。

 10階層の霧と草原の色味が無い光景よりも、よほど見慣れた洞窟のような景色が僕達を迎え入れてくれる。

 

 ダンジョンと言うのは地下にある大穴だ。

 当然ながらダンジョンの中に太陽の光は届かない。

 それでも僕達がダンジョンの中で暗がりに悩まされることがないのは、それぞれの部屋に光源があるからだ。

 例えば壁に掛けられた魔力によって光る灯りや壁に張り付いている発光する苔。

 それらがダンジョンを照らし、冒険者を導いてくれる

 

 ダンジョンと言うのは基本的に冒険者を拒む。

 険しい地形、仕掛けられた罠、そしてモンスター達。

 しかしながらまるで冒険者達を導くように灯りがその暗闇を照らす。

 それはか弱い人間へと向けられた慈悲なのか、それとも愚かな侵入者を誘う罠なのか。

 見慣れた光景にふとギルドで読んだ本に書かれていた一文を思い出す。

 駄目だ。今僕は中層にいるんだ。気を抜いていては死んでしまう。

 軽く頭を振って周囲に意識を向ける。

 !

 

「リリ、ヴェルフ。何か来る!」

 

 微かな足音に二人へと警戒するよう声をかけると同時に足音の主が現れる。

 赤い瞳に白い毛並み。頭から伸びる長い耳は地上を指し、黒い鼻は周囲を嗅いではひくひくと動いていた。

 ...まあつまりはそこにいたのはウサギだった。

 

「これは...ベル様が二人ッ!?」

 

「ちょっと目を離した隙に随分と小さくなったな?」

 

「二人とも遊んでないで!モンスターだよ!!」

 

 白々しくリリは一体どちらが本物のベル様でしょうか?などと首を傾げ、ヴェルフもこれは鎧から打ち直しだななんて言っているが、一見可愛らしいこのウサギもダンジョンに出てくるという事はれっきとしたモンスターだ。

 緊張でがちがちになるべきだとは言わないが、気を抜きすぎる訳にもいかない。

 二人へと気を引き締めるように言って僕はウサギへと攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

「ぐっ...この!」

 

「む...これはちょっと不味いかもしれませんね」

 

 ウサギに攻撃を仕掛けた僕達だったが、想定外の苦戦を強いられていた。

 理由は簡単、攻撃が当たらないのだ。

 ウサギのモンスター、アルミラージはヘルハウンドと違い小さいモンスターだ。

 的が小さければ当然当てにくい。

 速さも力も他のモンスターと比べれば弱いモンスター。

 だがぴょんぴょんと跳ねて攻撃をかわし、気がつけばその数は僕達を囲むほどになっていた。

 

 数は力だ。

 しかしまだ僕達の捌き切れる範疇。

 大きな傷を作ることなく突破できる包囲に過ぎない。

 尤もアルミラージ達だけならの話だが。

 このままアルミラージに手古摺っていれば、他のモンスターそれこそヘルハウンドなんかが寄ってくるだろう。

 そうなれば話にしか聞いた事の無いヘルハウンドの火炎放射の威力と、それに対抗するためのサラマンダー・ウールの効果を実際に試すことになる。

 

「仕方がない使()()よ!!後ろはお願い!」

 

「任されました!」 

 

 そんなのは御免だと僕は奥の手を切る。

 ...とカッコ良く言ったけれど、実のところヘスティア・ナイフとヴェルフの作ってくれた短刀(牛若丸)の二刀流を解禁するだけだ。

 

 武器を両手に持てば攻撃速度は二倍、敵を殲滅する速度も二倍...な訳はないけれど、今の僕に出来る一番強い戦い方だ。

 ではなぜこれまで二刀流を使わなかったのかと言えば、答えは簡単。

 武器を振るう方に集中しなければ使いこなせないからだ。

 

 アイズさんとの訓練で、僕は戦いの時に視界を広く持つ大切さを知った。

 相手を見ることで相手の動きの予兆、相手の狙い、とにかく沢山のことが分かる。

 それは重要なことだ。しかし今の僕では二刀流を使いながら周囲に気を配る余裕はない。

 ダンジョンで周囲を見ていなければ奇襲される決まっている。

 だから僕は使わなかった。だけれど今は使わざるを得ない不味い状況だ。

 だけれど僕には仲間がいる。

 

「...キキッ!」

 

「やらせねえよ」

 

「ベル様3時の方向から新手です!!」

 

「分かった!」

 

 アルミラージの包囲網へと切り込んだ僕の無防備な背中へ別のアルミラージが攻撃を仕掛け、それをヴェルフが止める。

 新しいモンスターがやってくるが、リリがその存在を教えてくれる。

 そう。僕一人ではどうしようもないこの状況も、仲間と一緒ならば切り抜けられる、仲間と一緒に切り抜けて見せる。

 

「うおおおおお!!!」

 

 さらに気合いを入れて僕はモンスターへと突っ込む。

 僕達はもっと先に行くんだ!!

 

 

 

 

 

SIDE 第三者視点或いは“神”の視点

 

 ベル・クラネルとその仲間が戦いを続ける13階層において、最初に()()に気がついたのは周囲を警戒していたリリルカ・アーデだった。

 

(ソウルの反応が近づいてきています。五人?いえ今にも掻き消えそうなくらい弱っていますがもう一人いますね。六人、パーティでしょうか。そしてその後ろからモンスターと思われるソウルの反応が多数)

 

 未だソウルの底知れぬ深淵を覗き込むことすら敵わないリリルカだが、その未熟なソウルの業でも周囲のソウルの反応を探ることはできる。

 ダンジョンに潜ってからずっと続けていた警戒に引っかかったソウルの反応に眉をひそめるリリルカ。

 ソウルが弱まっているという事は何かしら傷を負っているという事だ。

 それも今にも消えそうな反応を見れば命に係わる傷である可能性が高い。

 おまけにその後ろから続く歪なソウルの反応は間違いなくモンスター達の物だろう。

 

(不味いですね。今のリリ達に他のパーティを助けるだけの余裕はありません。いっそ別の方角へと行ってくれればいいのですが)

 

 助けを求められたとしても助けるだけの余裕はない。こちら側に来ずに無関係のまま過ぎ去ってくれないだろうかと考えながらベルの援護をするリリルカ。

 

 かつてのリリルカ・アーデならば、世界に絶望し冒険者を憎んでいたリリルカ・アーデであったのならばその可能性に気がついたはずだ。

 だが、ベルと出会いダンジョンに潜るうちにリリルカの持つ悪意は弱まり、その可能性から目を逸らさせた。

 

 リリルカ・アーデは狩人より【啓蒙】を授かり、思い込みの霧をその瞳から拭い去った。

 しかしながらあくまで【啓蒙】は真実をそのまま見せる力。

 【啓蒙】を持つ者が常に正しい選択をするわけではないことは、ヤーナムに流れた血と積まれた死体が証明している。

 故にこそ彼女の警告は自分達を見つけた六人のパーティが、自分達に向かって走ってくるまで発されなかった。

 そのタイムラグは防げたそれを防げないものにするに十分すぎる物で。

 だが、彼女の警告は致命的な状況を改善するに足りる物であった。

 

「ッ!【怪物進呈(パス・パレード)】です!!擦り付けられました!!」

 

 

 

 

 

(流石はベルだ。LV.2への最短記録を持つだけのことはある)

 

 リリルカの叫びを聞くと同時に動きの変わったベル・クラネルの姿に、ヴェルフ・クロッゾは脳内で称賛の言葉をかける。

 新しいモンスターを押し付けられたことで戦況は変わった。

 それに呼応するようにまたベルの動きも変わる。

 これまでのアルミラージを一か所に集め逃がさないようにする動きから、一転突破の包囲を食い破る動きへと。

 (ベル)の攻撃を避けようとしたアルミラージは、先程までよりも二歩は踏み込んだベルによって切り捨てられ、そのことに周囲のアルミラージが動揺した隙にさらに何体か切り倒す。

 

「リリスケ。先に行け!!」

 

「お言葉に甘えて!」

 

 その素早い動きよって包囲網に空けられた穴を武器を振り回すことでさらに大きい物にしながら、リリルカへと先に行く様促し脱出させ、その後をヴェルフも追う。

 当然ながらアルミラージと【怪物進呈】によって押し付けられたヘルハウンド達もその後を追いかけてくる。

 

 最後尾を走るヴェルフは追いすがるモンスターを時に弾き、時に切り捨てる。

 しかし追いかけてくるモンスターの後方、ベルもリリルカもヴェルフも手の出せない場所にいるヘルハウンドが火を噴く予備動作をしているのに気がつく。

 今から走った所で間に合いはしない。だが...

 

(ベルもリリスケも自分の仕事を全うしているってのに、俺だけ出来ませんなんて言える訳ないだろ!)

 

「っ!燃え尽きろ、外法の業ウィル・オ・ウィスプ!!」

 

 使用するのは彼の魔法、ウィル・オ・ウィスプ。

 それは対魔力魔法。相手が魔力を使おうとするタイミングで使用することでその魔力の流れをかき乱す魔法。

 

 魔術師の運用として前衛が時間を稼ぎ、その間に狙いをつけ詠唱をすると言うのが普通だ。

 それは魔術師という者が総じて前衛程のステイタスを持ち合わせていないこと、魔法の詠唱に時間がかかること、そして魔法の使用には高い集中力が必要だからだ。

 魔法を使う際に集中が途切れてしまえば魔法は発動しないだけでなく、最悪魔力暴発(イグニス・ファトゥス)と呼ばれる暴発を起こす。

 その結果がどうなるかは、彼の魔法によって内側から爆発したヘルハウンドを見ればわかるだろう。

 

 冒険者にとって切り札足りえる魔法でありながら、相手が魔力を使おうとしたタイミングでしか使えない、威力は相手の魔力に依存する使いにくい彼の魔法。

 しかしながら相手の魔力に干渉するだけである為かそれほど集中する必要が無く、魔力の消費も軽い。

 故にこそヴェルフは追いすがるモンスターを倒し続けることが出来た。

 

 

 

 

 

 ベル・クラネルとその仲間達は最善を尽くしモンスター達に対応した。

 包囲網を切り抜け、なお現れる敵を切り裂き続けたベル・クラネル。

 周囲の警戒をしながら、辿るべき道を案内するリリルカ・アーデ。

 そしてそんな仲間の背中を守り続けるヴェルフ・クロッゾ。

 だがそれでも次々と現れるモンスターを相手に戦い続けることで、息を整えることもできず走り続けることで、じわりじわりと疲れが溜まっていく。

 

 本来ならば、万全ならば、僅かでも休めたならばなんて事のない障害が重くのしかかる。

 真綿で首を締められるように僅かに、だが確実に弱らされていく。

 そうして、気がついた時にはもう遅い。

 ダンジョンはその悪意を剥き出しにして襲い掛かって来た。

 

「っ!上から!?」

 

「ダメです、間に合いません!!」

 

「ふざけろっ!」

 

 追いかけられ、追い込まれ、日ごろからつけている装備が、否自身の手足さえ耐え難いほどに重く感じるようになった所での上から(空飛ぶモンスター)の奇襲。

 それに対応することなどできるはずもなく。

 彼らはダンジョンに空いた暗い大穴へと飲み込まれていった。

 

 何が悪かったのだろうか。

 準備が足りなかったのだろうか、力が足りなかったのだろうか、仲間が足りなかったのだろうか。

 否、否、否。

 彼らは出来る限りの準備をして挑んだ、十分な実力を備えた上での挑戦だった、十全な連携が取れる仲間達だった。

 今回の出来事に理由を求めるのであればたった一つ。

 ()()()()()()()()

 

 どれだけ準備しようとも、どれだけ力を付けようとも、どれだけ良い仲間がいようとも。

 たった一つ、運がないだけですべてはひっくり返る。

 それは火の時代でも、ヤーナムでも、葦名でも、そしてオラリオでも変わらない不変の真実。

 

 だが、それでもなお、生き延びる為に戦い続けた彼らにはそれ相応の結果が与えられる。

 

「...ぐっ...みんな無事?」

 

「なんとか...生きてるぜ」

 

「無事...とは言えませんが生きています」

 

 それは幸運なのだろうか、更なる苦しみに直面するだけではないのだろうか。

 だがたった一つ確かなことは彼らはまだ生きている、その心はまだ折れていない。

 ならばまだ彼らは負けていない。

 

 

 

 

 

SIDE 桜花

 

 背負う千草の命が傷口から流れ出るのが分かる。

 早く、早く、気ばかりが焦るのを何とか押しとどめる。

 

「気をしっかり持て千草!」

 

「ごめん...なさい」

 

 気を失わせてはいけないと仲間が声をかけるが、返ってくるのは今にも途切れそうな弱々しい声。

 

 別にそう珍しい事じゃない。

 ダンジョンの中でよくある不運。

 偶々モンスターと戦っている時に別方向からモンスターが現れ、偶々それに対応している時に体勢を崩し後衛へとモンスターを通してしまい、偶々モンスターの攻撃を受けたのが一番弱い荷物持ち(千草)だった。

 ただそれだけの話。

 

(何がリーダーだ、何が武神男児(マスラタケオ)だ、何が葦名流免許皆伝だ)

 

 ともすれば自責の念に押しつぶされかねない程の後悔が押し寄せてくる。

 どれだけ強くとも、どれだけ鍛えようとも今苦しんでいる仲間を助けることすら出来ない。

 

「桜花殿、この先のモンスターは排除し終わりました」 

 

「そうか!お前達先を急ぐぞ!なんとしても千草を助けるのだ!」

 

 ひたすらに自身を責めていると声をかけられた。

 先行していた命だ。

 だが中層ではモンスターの湧きが早い。急がなければ再び足止めを受けることになるだろう。

 仲間達に声をかけダンジョンの中を駆け抜ける。

 

「大丈夫か千草、もうすぐ中層を抜けるそうすれば手当てを...「桜花殿!!ヘルハウンドが!」」

 

 予めモンスターを排除しておいたかいがあった。

 凄まじい速さで中層を駆け抜ける。これならば手当ても間に合う、そう思った時だった。

 後方からヘルハウンドが現れた。

 

「命!遅れるな」

 

「承知!」

 

 駆ける、駆ける。

 先程までよりもさらに速く。

 命が殿を務めモンスターを足止めしてくれているが、それでも時間の問題だ。

 どうすればいい。どうすれば仲間を救える。

 

「!他の冒険者達のパーティか...」

 

「このままでは巻き込んでしまいます」

 

 飛び込んだ部屋(ルーム)にはアルミラージに囲まれた冒険者達の姿があった。

 悪魔の囁きが聞こえる。

 

「ッ!...このまま突っ込むぞ!」

 

 主神(タケミカヅチ様)の顔、仲間の顔、そして厳しくも優しい師の顔が浮かぶ。

 躊躇したのは一瞬だった。否一瞬も躊躇したと言うべきか。

 仲間の命と顔も知らない誰かの命。天秤にかけるまでもない。

 

「そ、それでは彼らを」

 

「ああ、【怪物進呈(パス・パレード)】をする。罵りたいのならば腐るほどしてくれて構わない。ただ生き延びた後にしろ。俺はお前たちの方が大切だ」

 

 命は何とか引き留めようとしたが、会話を打ち切り俺が突き進んだことで諦めたようだ。

 相手のパーティが【怪物進呈(パス・パレード)】されたことで悲鳴のような声を上げ、俺達を罵る声が聞こえる。

 ああ罵ってくれ。お前達にはその権利がある。

 だが俺には為すべきことがある。

 

 仲間を生かして地上に帰す。

 それがリーダーとして仲間の命を預かる俺の為すべきことだ。

 振り返りもせずに部屋(ルーム)を走り抜け、上層へと続く道を走りながら俺は心の中で謝ろうとして止めた。

 この責任はすべて俺にある。

 ならば俺には彼らに謝る権利もないのだから。

 

 

 

 

 

 

SIDE 火の無い灰達 ダンジョン??階層

 

 火の無い灰達がギルドから冒険者依頼(クエスト)を受けた。

 少しでも灰達のことを知る者からすれば、血と絶望が吹き荒れる凄惨な事件が発生することを想像するだろう。

 それは彼らの後輩であるベル、主神であるヘスティアであったとしても変わらず、また真実起こりうる出来事だ。

 だがその予想を裏切り彼らはダンジョンの中を地道に探索していた。

 

 ギルドからの依頼を受ける際に出来る限り穏便にと条件が付けられていたが、それを守るとはギルド側ですら思っていなかっただろう。

 ギルドとしては被害が出た時に「被害を出すなとは言われていない」と責任逃れを防ぐためにあらかじめ釘をさしておく、ぐらいの物であり、当然灰達が似合わない真似をしているのもギルドの出した条件が理由ではない。

 

 この依頼を受けたことはベルやヘスティアに知られている。

 と言うよりかは灰達が知らせたのだが、とにかく知られている以上依頼で被害を出せばそのことを責められるだろう。

 幾ら灰達とは言え主神(ヘスティア)後輩(ベル)に責められたくはないと思うだけの人間性は持ち合わせていた。

 いや、人間性が生まれたと言うべきか。

 ベル・クラネル、あの小さな甘ちゃんに感化され穏便な手段を取るようになったのだから。

 尤も今更が過ぎる想いであるかもしれないが。

 閑話休題

 

 とにかく灰達は実に似合わないことにダンジョン内で起きた騒動の現場へと足を延ばし、地道な探索を繰り返していたのだ。

 

「...駄目か。ソウルは既に消失している」

 

「こちらも駄目だ。血は既にモンスターの(はらわた)の中だ」

 

「...痕跡もすでに辿れない程に薄れてしまっている」

 

 しばらく周囲を歩き回った焚べる者が首を振りながらどうしようもないと諦めたような言葉をこぼし、血痕を探していた狩人も、痕跡を探していた狼もまた諦めの言葉を口にする。

 ギルドからの情報を元に極彩色の魔石を持つ新種のモンスターとそれを操るテイマーがダンジョンで引き起こした一連の事件。

 その事件が起きた現場を調査してきたが、幾ら何でも変貌するダンジョンの中で時間が経ち過ぎていた。

 血はモンスターの胃に収まり、痕跡は冒険者やモンスター或いはダンジョンの変動によって失われ、ソウルもまた失われていた。

 

 啓蒙を持ち脳に瞳を得た狩人は血を取り込むことでその血の持ち主について知ることが出来、不死者である焚べる者も死者のソウルからその人物についての情報を知ることが出来る。そして忍びである狼もまた痕跡より情報を読み取ることに長けている。

 例えば彼らを前にしてせめてもの抵抗として自害し、情報を渡すまいとした所で、狩人相手であれば死血を取り込まれ情報をすべて吸い出されるだろうし、焚べる者と言うよりも不死者相手であればソウルを奪われて情報を根こそぎ奪われるだろう。狼はそういった異能の力を持ち合わせていないが、熟練の忍びたる狼にとって残された痕跡より情報を得ることは難しい事ではない。

 

 実に恐ろしい事実だ。せめてもの抵抗ですら彼らの前ではまるで意味をなさない。

 彼らにとって死は終わりではない。そしてその事実は敵対する存在にも適応される。

 だがあくまで追跡できるのはソウルなり血なり痕跡なりが残っていた場合だけだ。

 いくら彼らが僅かな情報からだけでも情報を探り出し、狙い続ける追跡者であったとしても、その僅かな情報ですら手に入らないのであればどうしようもない。

 

「まぁたハズレか...しょうがないとはいえどうにかしないとな」

 

 一人調査に参加せずに周囲を警戒していた灰がぼやく。

 ギルドから提供された事件の現場を当ってみたがすべて外れ。

 手がかりすらつかめていない現状に流石の灰もどうするべきかと悩む。

 

「...ん?」

 

「どうした。何か気付いたことでもあるのか」

 

 いっそ狙いの闇派閥(イヴィルス)の情報が手に入るまで怪しい(気に入らない)ファミリアへと襲撃を繰り返すかと、できれば取りたくない手段を検討し始めた時、灰が何かに気がついたかのように小さく呟く。

 ぶつぶつと呟いている灰の姿に何か気になる点でもあったかと問えばゆっくりと自身の考えを纏めるように灰は喋る。

 

「ギルドが言っていたレヴィスとかいうテイマーは【怪物祭】で暴れた新種のモンスター、食人花(ヴィオラス)...だったか?

 それを従えていたんだったな?そいつらの居場所ならわかるかもしれん」

 

 降ってわいた獲物への手掛かりに詳しく説明しろと瞳だけで伝えた狩人へと灰は説明する。

 【怪物祭】の時、ふと奇妙な気配に気がついたこと、その気配の元を探って下水道にたどり着いたこと、しかしそこには地上へと続く穴しか無かったこと。

 前後の出来事を考えるに、その奇妙な気配と言うのは食人花(ヴィオラス)だと考えられること。

 そしてあれだけ奇妙な気配だ、恐らくはダンジョンの中でも探ろうとすれば探れないこともないということ。

 

「んー、んん?...おいおい...いやもう一人(一柱)?...他にも何人かいるな」

 

 失敗しても怒るなよと言って目を閉じ、ダンジョン内の気配を探る灰。

 しかし漏れ出る言葉は困惑の物であり、ヘルムの上からでも百面相をしているのが分かる。

 

「おい、何があった。食人花(ヴィオラス)の居場所は分かったのか」

 

「いや...分からなかったが余計なことは分かったと言うか解らないと言うか」

 

 詰問するように問う狩人へと困惑していることを隠そうともせずに灰は向きあう。

 一体何事かと周囲を警戒していた狼と焚べる者も周囲に集まり、灰の言葉を聞きそして困惑する。

 

「ヘスティアがダンジョンにいる」

 

「「「...は?」」」

 

「いや待て。ベルの奴の反応も大分下にあるぞ?これは中層か?

 おまけに九郎の奴の反応もある。どういうことだ」

 

 

 

 

 

「今使者を使って様子を見てきたが、ベルとリリルカ、あと一人見慣れない赤髪の男が中層に一塊になっていたそうだ」

 

「...こちらもへスティアメダルを使い確かめたが、確かに九郎様はダンジョンの中にいる」

 

「おいおいおい。何がどうなったらそうなる?」

 

 僅かな間混乱に呑まれたが、すぐに持ち直しそれぞれ情報を集める。

 しかし灰の感じた気配が事実だと分かっただけで、何故?という疑問が解決されることはない。

 

「どのような理由があろうとも、異常事態が起きたのは間違いがない...戻るべきだろうな」

 

 話を纏め焚べる者が撤退、少なくともベル達と合流することを提案する。

 未だ手がかりの一つも見つかっていないと言うのに撤退することに、拒否感を待たないと言えば嘘になる。

 だが所詮ギルドからの冒険者依頼に過ぎない。そんな物よりも家族(ヘスティア達)の方が大切だ。

 各々装備を纏め上へ昇る準備をする。

 

「闇派閥のクズどもは後回しか」

 

「そういうなよ。それにベルのことだ。何か事件に巻き込まれていて、そこに闇派閥の奴らが関係しているかもしれないぞ?」

 

 狩人がポツリとこぼした呟きに反応して、灰が冗談めかして言う。

 そんなことはあり得ないだろうと鼻で笑おうとし、後輩がこれまで巻き込まれた騒動を思い出し、「否定できないな」と呟く狩人。

 どちらにせよ自分たちは五年間待ったのだ。今更少し待ったところで何も変わらない。

 

 闇派閥は鏖だ

 

 準備を整え出発する。

 目指すはダンジョン18階層。安全階層と呼ばれる階層だ。

 

 




どうも皆さま

エイプリールフールのネタを書くのに必死過ぎて本編を書くのが遅れそうになった作者がいるそうです...つまり私です

1つの不運でどれだけ強くとも死ぬときは死ぬことをフロムは教えてくれました
そして啓蒙を得た所で失敗をしなくなるのならばヤーナムはあんなことにはなりませんでした
そしてどんなに強くなっても傷ついた仲間を助けることはできないのです
ですが準備をして、強くなれば足掻くチャンス位は貰えるでしょう
そんな今回の話です

そして運命は18階層に集う...とか書いたらカッコイイですね
18階層「ヤメテ!!」

それではお疲れさまでしたありがとうございました
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