忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編 作:noanothermoom
ヘスティアの持つヘスティアメダル
自身の持つメダル以外に
未だ誰の物でもないメダルもヘスティアは持つ
それはこのメダルを贈った神友が
その時の眷族の数よりも多い数を贈ったからだ
それは激励であると同時に信頼でありありがたい友との絆の証だ
...たとえそのメダルが役目を果たすまでに5年の歳月を要したとしても
誤字脱字報告いつもありがとうございます
SIDE ヘスティア
「はあ、はあ、はあ」
オラリオの街を走る。
「どうしたんですか、神様」なんてちょっとびっくりしたような表情でこっちを見てくるベル君を探して。
だけどボクの願いもむなしくベル君の姿はどこにもない。
「エ、エイナ君はいるかい!?」
ギルドの扉を乱暴に押し開けて飛び込む。
ギルドの中にいた職員や冒険者が一体何事かとこっちに視線を向けてくるが、それに構わずエイナ君を探す。
「女神ヘスティア!?一体何の騒ぎですか」
「ベル君、ベル君は帰ってきているかい?」
「!...クラネル氏がどうかしましたか」
ギルドではお静かにとエイナ君がボクをたしなめてくるが、そんな場合じゃない。
ボクがベル君を探していることを聞くとエイナ君は途端に表情を変え、個室へとボクを案内する。
「ベル君がまだ帰ってきてないからギルドならと思ったんだけど...どうやらいないみたいだね...」
「つまりベル君がダンジョンから帰ってきてないと...捜索の
「ああ、よろしく頼むよ」
僅かな期待も掻き消えギルドを後にする。
余りにも悄然としていたからだろう、エイナ君から「どうか気を落とさずに」と言葉をかけられる。
気を落とさずに...か。
分かってはいるのだ。
そしてダンジョンで
ベル君が生きている可能性は限りなく低いのだと分かってはいるのだ。
だけれど今朝あんなに元気にダンジョンへと向かったベル君が死んでしまったなんて、もう二度と会えないなんてボクには信じられない。
「“へすてぃあ”様!...その様子だと“べる”は...」
「ああ、ギルドにも帰ってきてなかった。ただ捜索の依頼は出して来たから、もしかするとそのうち見つかるかもしれない」
気がつけばこちらを心配そうに見ている九郎君が目の前にいた。
どうやらトボトボと歩いているうちにいつの間にか【
ボクはギルドに、九郎君はベル君の馴染みの店に、ベル君を探しに行ったのだがこちらを心配そうに見てくる様子を見ればその甲斐は無かったようだ。
九郎君は依頼を出したと言うボクの言葉に僅かばかり明るい顔をするが、捜索の依頼とは遺品の捜索の依頼だ。
ダンジョンの中で死んだ
だからこそ遺品を回収するだけでも冒険者に依頼する必要があるのだと知っているだろうに。
ボクを少しでも元気付けようとしてくれているのだろう。
とにかく【
ボク達を迎え入れてくれたのは入れ違いになることを期待して置いておいたベル君宛のメモだけ。
分かってはいたことだがやはりベル君は帰ってきてはいないようだ。
どうすればいいのだろうか。
「こんな時灰君達がいれば...」
つい零れた言葉に笑ってしまう。
灰君達がいればすぐにでもダンジョンに行き、ベル君達を探してきてくれるだろう。
何でもないように「全く」とため息を吐く姿が想像される。
だが、灰君達はいない。
こんな時にと思わないでもないが、
「...やっぱりだめだ。もう一度街の中を見てくる」
「“へすてぃあ”様...そうですね私ももう一度...」
誰も何もしゃべらない重い空気の中、そんな空気など知らないと言わんばかりに響く時計の音。
しかも響く割には壊れているんじゃないかと思う程にその針の進みは遅い。
遂に何もしていないことに耐え切れず、もう一度街に探しに出かけようとした時だった。
誰かが
「ベル君ッ!!...なんだタケか」
ひょっとしてベル君が帰って来たのかもしれない。
ベル君を探してオラリオ中を走り回ったから、ボクが大騒ぎしたことは今頃他の神に知れ渡っているだろう。
それが
だけどベル君が無事に帰ってきてくれるのならそんなことは大したことじゃない。
そんなボクの考えは何とも居心地の悪そうにしているタケの姿に打ち砕かれた。
一体何の用かと聞こうとして、タケの後ろに
なるほど、狼君との稽古に来たのか。
技を磨くだけの体系的な流派ではなく、実際の戦闘を念頭に置いた実戦的な流派だ。
その稽古は雨の日も風の日も、怪我をしてでも続けるのだから、日が落ちた後の暗闇も彼らには立派な稽古道具なのだろう。
「狼君と稽古に来たのかい?悪いけど今狼君は留守でね、それにちょっとごたごたがあって...」
「いや、今日はそのごたごたについて話が有ってな」
せっかく来てもらったのに悪いけど、と対応しようとしたボクの言葉を遮りタケは居心地が悪そうなまま話が有ると切り出す。
その様子にボクと九郎君は首を傾げた。
「...整理しましょう。13階層においてそちらの桜花殿が“べる”の“ぱーてぃ”に【
「そういう事だ...改めて申し訳ない!!」
「申し訳ないって言われても、うちの子達が帰ってくるわけじゃないのよ?...ヘスティア、どうするの?」
タケの話を纏めた九郎君の言葉にタケは頷き、【廃教会】の床に額を高々と打ち付ける。
その言葉を聞いて謝られたとしてもどうしようもない、と首を振るのはボクの友神のヘファイストス。
今この【廃教会】には
タケの話を聞いたボクは、もはやボク達だけの問題ではないとベル君の仲間であるヴェルフ君の主神であるヘファイストスを呼びに行き、その途中で出会ったミアハの「何かあった時の仲裁者がいた方がいいだろう」という言葉に甘えて一緒に来てもらったのだ。
タケへの言葉はヘファイストスにしては辛辣に思えるが、それも当然だろう
可愛い
だけれど目蓋を閉じて考える。
もし、もしもの話だ。
灰君達はそんなことにはならないだろうし、ベル君ならきっとしないだろう。
だけどもしもダンジョンでボクの
逆に窮地に陥ったボクの
それを思えばタケも、タケの
「...こうなると灰君達がいなかったのは幸いだね。
もし、もしベル君が戻ってこなかったら、ボクは君たちのことを死ぬほど恨む。
恨むけれど、憎みはしない。それは約束する」
さっきまでこんな時に灰君達が居ないなんてと嘆いていたけれど、むしろ幸運だったかもしれない。
間違いなくそれ相応の報いを与え、
逆に言えば灰君達がいない今こそが唯一の和解のチャンスだ。
「
ベル君は生きている。これは願望や思い込みじゃない、感じるんだベル君に与えた恩恵はまだ地上にある。ならベル君はまだ生きている」
だからこそタケ達に協力を要請する。
灰君達は今起きていることを全部無視してひっくり返すことはする。だけどもう起きてしまったことを覆そうとはしない。
それは諦めなのか、それとも過去からの経験なのか、或いはそれ以外の何かなのか。いずれにせよ協力していると言う事実を作ってしまえば、悪い事にはならないだろう。
「とは言え、
「もともと
「申し訳ないが、
「...
などと意気込んだものの、四つのファミリアが協力したとは思えない程に戦力不足だった。
ヘファイストスの所は規模こそ一番大きいが、元々製作系のファミリアという事もあって一部を除いてほとんどの
タケの所も、大派閥と呼べるほどの規模を持ち合わせている訳でもない上に、この騒動の原因となったダンジョンに潜った際の怪我がまだ治り切っていない子が殆どだ。
ボク達よりも貧乏で弱小の製薬系ファミリアのミアハ・ファミリアに、そもそも戦力を期待するのが間違いだ。
ボクの所も最大戦力である灰君達がおらず、ベル君達も居ないとなれば、あとは
...どうしよう。
ボク達が何かいい案が無いか考えていると男の声が聞こえた。
「その話オレも一枚噛ませてくれないかな」
それからしばらくして、未だ夜も明けないうちから人目を避けるようにしてダンジョンの前に集まる人影があった。
いや正確には
四ファミリアが協力して探検隊を作ると決めたはいいが、十分な戦力が無い。
そのことで悩んでいたボクたちに声をかけたのはヘルメス。ボクやヘファイストスにとって天界でのご近所さんという奴で、猫の手も借りたいボク達はその申し出を受けたのだった。
彼は同行することを条件に自分の
そのまま待ち続けると言う選択肢は一分一秒が惜しい今ではありえない訳で、それぞれダンジョンに潜る準備をすることで別れたのだった。
「ふふん!どうだい九郎君、このマント似合っているだろう?」
「そうですね...もう少しここを絞った方がいざという時に動きやすいかと」
「ねえ、貴女達本当にダンジョンに潜るつもりなの?」
準備をするとは言えボク達の出来る準備なんてたかが知れている。
灰君がどこかから買ってきた装備、それもしまい込み忘れた物の中から適当に装備できそうなものを選んで身に着け、ロープなんかを持ってきただけだ。
念のために九郎君と互いの装備を点検しあっているとヘファイストスが心配そうな声音で尋ねてきた。
まあそれも道理だろう。
これはギルドの定めた規律であり、ルールを守らない神々ですらおいそれと破らない絶対の法だ。
...逆に言えば時々
そもそも
タケの様な戦神ならばまだしも、ボクの様な戦う術を持たない神が入るべき場所ではない。
ましてや九郎君の様に戦うことが出来ない
「確かに常識的に考えれば無茶な行いだと理解しているよ」
「なら...」
「だけどね、ヘファイストス。ボクは
無茶に無謀にルール破りはお手の物ってやつさ」
「それに
ボクと九郎君の言葉にヘファイストスは口をつぐむ。
何を言っても止まらないと理解してくれたのだろう。
良かった、もしもギルドとかに告げ口されたらボク達はお手上げだった。
「分かったわ、貴女の
今度は
ヘルメスは「友達を放ってはおけない」と言っていたものの、ヘルメスとボクは
そんな奴が急に手助けすると言ってきたのだ。
というかボクも怪しんでいる。
「信用できるかできないかで言えば出来ないね」
「ちょっと!?」
「だけどベル君を救う為さ。ちょっとくらいのリスクは承知の上さ」
「貴女達は覚悟しているのね...ならこれを頼まれてくれるかしら」
「おっと、これは?」
「
ボクの言葉に九郎君も頷くのを見てヘファイストスはため息を一つ漏らす。
そうしてボクに手渡したのはヴェルフ君への届け物。
本当にベル君達が生きているか分からないだとか、ファミリアの主神として無謀な行いはできないだとか言っていた割に、
すました顔のヘファイストスがおかしくて忍び笑いをしていると睨まれてしまう。
お説教は御免だ。表情を取り繕う。
そんなことをしていると
手を振り迎えようとすると九郎君が鋭い視線を向けていることに気がつく。
一体何がと思い視線の先を見ればフードを被り、口元を隠した人影が一人。
「“へすてぃあ”様お気を付けて。あの方...強いです」
「ああ、彼女は助っ人という奴だよ」
警戒心を露にする九郎君へとヘルメスが説明する。
僅かにこちらへと会釈した彼女の顔に見覚えがあるような、ないような。
恐らく素顔を見れば思い出せるだろうが、この際放っておく。
よくよく考えれば顔を隠しているなんて怪しさ満点、私は何か隠し事がありますと言っているようなものだが...それを言い出すと灰君達もそうだし。
何より今するべきは彼女の正体を探る事じゃない。
「助かる...それじゃあ行こうか!」
揃った面々の顔を見渡し、一言出発の言葉を言えば小さい、だが確かな熱を感じる返事が返ってくる。
ベル君、今行くからね。
SIDE リュー・リオン
「どうして私が怒っているかわかってる?」
「...ええ」
シルがただの町娘の様な外見に似合わない威圧感を出しながら、私を咎めてくる。
彼女の怒りも当然だろう、謝りたいことがあるからクラネルさんを【豊穣の女主人】まで連れてきてほしいと願ったのは私だ。
果たして要領の良い彼女は私の願い通り彼を連れてきてくれた。
にもかかわらず私は自分の言葉を届けることが出来なかった。
言い訳をするのならば届けようとはしたのだ、ただ丁度その時クラネルさんが騒動に巻き込まれただけで。
いやこれは文字通り
真に謝罪の言葉を口にすることを望むのならば、あの後にも幾らでも口にするべき時はあった。
しかし己が願いを果たすことすら出来なかった、否果たそうとしながら土壇場で怖気づいた自分の情けなさに眩暈すらしてくる。
一体いつから私はこれほどに弱くなってしまったのだろう。
「ねえ、リュー。ベルさんは冒険者なんだよ、いつ死んでしまうかわからないの。言いたいことを言えないままで後悔するのはリューなんだよ」
「分かっています。分かっていますから、今度彼が店に来たときは必ず言います」
言えないままお別れになったら一番後悔するのはリューだよ?とこちらを見つめてくるシルの瞳に押され、次の機会には必ず言うことを約束する。
...ああなんて愚かな約束。
冒険者はいつ死ぬか分からない職業。嬉しそうにまた来るからなんて約束をしていたお客が次の日ダンジョンで死んだ、なんてよくある事だ。
なのに
「それって本当なんですか!?」
私がその情報を知ったのはそんなシルの叫びを聞いたからだ。
店の中に響く、否店の外にいても聞こえてくる声量に、ミア母さんに怒られる前に止めようとした私に知らされたのはクラネルさんがダンジョンから戻ってきていないと言う情報だった。
「“べる”が来ていないのならば良いのです。お手数をおかけしました」
そう言って丁寧に頭を下げ店を後にしたのは九郎“あの”ヘスティア・ファミリアの団長──否、正しくは前団長というべきか。数日前、シルに頼んでクラネルさんをこの店に呼んだ口実は彼がヘスティア・ファミリアの団長に就任したお祝いだったのだから──ならばクラネルさんがダンジョンから戻ってきていないと言うのは質の悪い冗談などではないという事だろう。
悲しみに暮れるシルを部屋へと連れ戻し一人にした方がいいだろうと、中庭に出て月明かりの下愛用の武器を振っていると、自然に後悔の言葉が零れた。
「...私は...どうしていつも...」
今の私の心を写したかのように月が雲に隠れる。
後悔、のちに悔いる事。
後悔に追いつく反省はないと言うが、全く言い得て妙だろう。
分かっていた筈だ。
冒険者はいつ死んでしまうか分からない職業だと。
分かっていた筈だ。
ダンジョンとは危険が潜む迷宮。無事に帰ってこられる保証などどこにもないと。
分かっていた筈だ。
なのに、どうして私は“次”があるなどと信じていたのでしょう。
余りにも愚か、あまりにも無様。
過去から何も学んでいない有様に、いっそ手に持つ愛刀を突き立てて
「おっと、そんなに思いつめちゃせっかくの可愛い顔が台無しだよ?」
「ヘルメス...様...」
声の方を見れば「やぁ」と片手を上げてあいさつしている一人の男性がいた。
否一人というのは正しくないでしょう。あの方はオラリオに降り立った神の一柱、ヘルメス・ファミリアの主神、ヘルメス様。
思い悩んでいたとはいえ、これほどまでに近づかれていながら声をかけられるまでその気配に気がつかなかったことに動揺しながらも向き合う。
「それで、一体何の用でしょうか。何時ぞやの様にデートのお誘いというのなら...」
「いや、それも魅力的な話だけどね。今回は【疾風】のリオンに依頼があるんだ」
優男風の外見に違わず
【疾風】
それは私が冒険者
現役時代と比べれば幾分かは錆び付いているだろうが、それでもアストレア・ファミリアの冒険者としてオラリオの平和を守っていた身だそこいらの冒険者よりも腕は立つ。
とは言え私はギルドより冒険者としての権利を剥奪された身、そんな冒険者に何か依頼する位なら他の冒険者に頼んだ方がずっと動きやすいはず。
「何故私に?」
「ファミリアのしがらみにとらわれずに動ける冒険者にして、二柱の神を庇えるだけの腕を持つ人物は君ぐらいしかいないよ」
「ふ、二柱の神を庇う!?一体何を、いえどこに連れていくつもりです!?」
当然の疑問に対する答えはとんでもないものだった。
出来るかどうかで言えば無論できる。
そもそもオラリオの警備を担当していたアストレア・ファミリアにとって、戦えない人物を背に守りながらの戦いは慣れた物。
だが、出来ることとすることは違う。
二柱の神を一体何から庇うと言うのか。
いや何故害されることを予測しながらその場所へと行くのか。
「...神へルメスの名において【疾風】のリオンに
場所はダンジョン。依頼内容は冒険者【
混乱と共に溢れた疑問への答えは更なる混乱へと私を陥れた。
神がダンジョンへと潜る!?それはギルドによって禁じられているはずだ。
否そもそもクラネルさんの捜索とは!?彼はすでに死んでいるのではないのか?
「...一つ確認したい。クラネルさんは生きているのですか?」
「少なくともヘスティア。彼の主神はそう信じているようだね。確かな証拠は出せないよ、
混乱する頭の中何とか絞り出した言葉への返答に更に悩む。
状況から考えればクラネルさんの生存は絶望的だ。
だがもし、もしも生きているのならば、もしも生きている可能性があるのならば、その可能性に賭けてみるべきだろう。
シルの泣き顔を思い浮かべ依頼の承諾をする。
待つなど消極的な姿勢が間違いだったのだ。
次また来れないかもしれないのならば、こちらから会いに行けばいい。
「クラネルさん。待っていてください。必ずこの言葉を届けますから」
見上げた月にはもう雲はかかっていなかった。
どうも皆さま
私です
UA150000突破ありがとうございます
お気に入り数ももうすぐ1200突破しそうです
思えば読みたい話の更新が止まる、無い!!
くそうみんなもっと書けよ
なんで誰も書かない?
なら私が書くよ!!
から始まっただけのこの小説も遠い所まで来たものです
別段節目でも何でもない話でこんなことを言っているのも
UA数をふと数えてみたら自分の思っている10倍あってびっくりしたからです
こんなバカな作者ですいません
この話も本当はベル君達側とくっつけて一話にする予定が
あれよあれよと話が伸びて単独になりました
どうしましょうかね
GWぐらいにはこの章も終わりにする予定なのですが
出来るかな...そのつもりで構成はしているんですけどね
なんて話をして今回は終わりです
それではお疲れさまでしたありがとうございました