忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

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無銘

ヴェルフ・クロッゾが使っている武器

ヴェルフの手によって作られたそこそこの業物であるが
自身が使う物には無頓着なヴェルフはこの刀に銘を付けなかった

故に未だ何者でもないのだ
この刀も
その担い手も

誤字脱字報告いつもありがとうございます


地下への進軍

「まずは状況を把握しましょう。

 リリ達は【怪物進呈(パス・パレード)】を受けてダンジョンに空いた穴に落ちました。

 見る限りここは15階層。つまり2階層分落ちたことになります」

 

 「こういう時に慌てるのが一番危ない、まずは落ち着いて現状を確認するべきです」そう言ってリリは僕達の現状を確認する。

 落ち着いたその姿が頼もしい。小さい体が大きく見える。

 だけれど僕達の状況は良い物とは言えない。

 ダンジョンに空いた穴に落ちたことによって僕達は15階層にまで来てしまったようだ。

 

「2階層分落ちた割には大した怪我もねえ。ツイてたな」

 

「...ヴェルフ様を除いて、ですが」

 

 暗い顔をしていたからだろうか、ヴェルフが努めて明るい口調で幸運だったと言う。

 しかしそう言っているヴェルフの足には血が滲み、添え木がされている。

 折れてはいないがそれなりに深い傷だ。歩けない程ではないが走ることはできないだろう、ましてやモンスターとの戦闘なんて無理だ。

 

「なんて顔してんだ。...ダンジョンに潜ると決めた時から覚悟だけはしてた。俺を置いてお前達だけでも上に...」

 

「だ、駄目だよ!!そんなことしない。ヴェルフを見捨てるなんて」

 

「ベル、今お前がするべきは何だ?パーティのリーダーとしての責務は?

 仲間を無事に地上に帰す事だろ。だったら(足手まとい)は置いていけ」

 

 ヴェルフの言うことは正論だ。

 僕一人(パーティ最速)だけだったとしても、15階層から地上まで走り抜けることは無理だ。

 ましてや戦えない、走れない、そんなヴェルフを連れて地上まで戻るのは不可能。

 少しでもパーティが生き残る確率を上げるのならば、ヴェルフを置いてリリと僕だけで地上を目指すのが正しい選択肢だ。

 だけどそんなことはしたくない。せっかく仲間になった、友達になったヴェルフを見捨てるなんてしたくない。

 どういえばヴェルフの覚悟を撤回させることが出来るだろうか、考えているとリリが口を開いた。

 

「リリもヴェルフ様をここに置いておくのには反対です」

 

「リリスケ...らしくねえな。お前ならここから生き延びる為にやらなくちゃいけないことが分かってるはずだろ?」

 

 リリが僕と同じように考えるなんて思っても見なかった。

 ヴェルフはリリに「感情的になるな、冷静になれ」なんて言っているが、リリは首を振ると冷静な口調で話した。

 

「リリは冷静ですよ。

 考えても見てください。ヴェルフ様がいなくなったら、このパーティで戦えるのはベル様だけになるんです。

 たった一人で切り抜けられるほど中層は甘い階層ではありません。ヴェルフ様は怪我をしていても貴重な戦力なんです」

 

 「怪我した程度で休めると思わないでください」なんてリリはヴェルフに立つように言う。

 優しく、そして厳しい。実にリリらしい言葉だった。

 「手厳しいな」とヴェルフは笑う。その顔にさっきまでの諦めの色は無かった。

 

「とは言え、ヴェルフがいてもここから地上まで上れる見込みはないよね。どうしよう...」

 

 

 

 ヴェルフが生きる気力を取り戻したのは嬉しい。だけど先程から何一つ状況は変わっていないんだ。

 どうやって地上に帰るべきだろう。

 僕が頭を悩ませているとリリが指を地面に向けて言う。

 

「上が駄目なら下という手もあります」

 

 下?

 

「今はどうやって地上に帰るかって話をしてるんだ。下に行ってもどうしようもないだろ?

 それにダンジョンは潜れば潜るほどモンスターの数と強さが増えるんだぞ?むしろ危険が増すばかりだ」

 

「確かにただ下に潜るだけではどうしようもありません。ですから18階層を目指すのです」

 

 18階層?

 どこかで聞いた階層だ。大切だから覚えておいてとギルドの勉強会でも言われた気がする。

 何だったか...そうだ!

 

安全階層(セーフティーポイント)!」

 

「ええ、モンスターの湧かない階層です。そこまで行って地上に帰る他の冒険者様に同行させていただければ、安全に地上に帰ることが出来ます」

 

「だけど階層主はどうする。あれが出てくるのは17階層だ。あのデカブツをどうにかしなくちゃ18階層にはいけないぞ?」

 

「ロキ・ファミリアの遠征部隊が潜る際に倒しているはずです。遠征部隊が進む速さと階層主の復活する間隔を考えればぎりぎり間に合う計算です。

 どうしますか。どちらを選んだとしてもリリはベル様の選択に従います」

 

 リリとヴェルフは僕を見つめてくる。

 パーティの命を背負っているという重責を感じる。

 どうするべきか。

 

 ここ(15階層)から上層まで戻るには15~13階層を突破する必要がある。

 13階層でモンスターにてこずっていた僕達では、中層を3階層分移動するのは難しい。

 いやそれだけじゃない。

 たとえ首尾よく上層まで戻れたとしても、そこから12階層分移動する必要がある。

 それにたとえ上層だったとしても、地上に戻るまでの間に何か異常が起きる可能性だってあるんだ。

 

 逆に18階層に進む為には15~17階層を突破する必要がある。

 こちらも同じく3階層分移動する必要があるように思える。

 しかし17階層、ゴライアス(階層主)の出現する階層では他のモンスターは湧かない。

 ならば2階層だけの移動で済む。

 だがダンジョンは下に潜れば潜るほど生まれるモンスターの強さは強くなる。

 いやそれだけではない。もしもリリの計算が間違っていたのなら僕達はゴライアスと戦わなければならない。

 そうなれば当然全滅は避けられないだろう。

 

 俯き考える。

 誰か一人でも生き延びることを目指すのならば上を目指すべきだろう。

 だが、そうすればヴェルフは助からない可能性が高い。

 逆に下を目指し上手く行けばみんな助かるだろう。

 だが、上手く行かなければ誰も助からない。

 

 どうするべきか。

 迷い、悩む。

 僕に決断させたのはリリ達の目だった。

 澄んだ迷いのない目。自分の命を僕に託しているのにそこに不安の一かけらも見せない瞳に僕も覚悟を決めた。

 

「...18階層まで進もう。きっとそれが皆が生きて帰る道だ」

 

 僕の出した答えは18階層を目指す物だった。

 英雄とは強欲な者だ。

 何時しか何かの本で読んだ言葉。

 誰か(ヴェルフ)を見捨てて誰か(リリ)を助けるか、じゃないみんな(どっちも)を助ける。

 そうでなければならない。

 

 今から目指す18階層には迷宮の楽園(アンダー・リゾート)と呼ばれる街があったはずだ。

 灰さん達から貰った本(【ダンジョン覚書】)には最も美しいならず者の街とか書かれていた。

 ただ気になる注釈もあった気がするが、今はそんなのは後回しだ。なんにしても生き延びなければ。

 

「進むと決まったのならば()()の使いどころは今でしょうね」

 

「リリ、それって狩人さんの鐘!?」

 

 リリは小さな鐘(聖歌の鐘)を取り出すとそれを振る。

 周囲に小さく鐘の音が響き渡ると同時に、僕達の足元から光の玉が昇ってくる。

 一体何事かと思っていると、ふと気がつく。痛くない。

 15階層に落ちてきたときからずっと体中が痛かったのが、まるで嘘のように治っている。

 

「おいおい、俺の怪我が治っちまったぞ...」

 

「いける、いけるよリリ...リリッ!!」

 

 ヴェルフも自分の体を確かめ、足の怪我がきれいさっぱり治っているのを信じられないような目つきで見ている。

 万全とは言わないが、先程までの消耗しきった状態とは比べ物にならない程の状況。これならば18階層まで行ける。沸々と自信が湧いてくる。

 しかしリリの方を見た僕が目にしたのは地面へと崩れ落ちるリリだった。

 

「リリッ!リリッ!しっかりして!!」

 

「大...丈夫...ですよ。流石は...狩人様のアイテム。想像...以上の...消耗です。

 申し訳...ありませんが、ポーションを...カバンから...」

 

「分かった。これだね」

 

 駆け寄りリリを抱き起すと荒い息の間から声を漏らす。

 大丈夫とは言うが、荒い息に、滝のような汗、そして紙のように白い顔色を見ればとてもじゃないが大丈夫とは思えない。

 リリが言うように、バックパックからポーションを取り出して飲ませると呼吸が落ち着く。

 

「ふう、何とか落ち着いてきました。狩人様から消耗は激しいと聞いていましたが、想像以上です。二回目は無理ですね」 

 

「構わねえよ。こんだけしてもらってそれ以上を願うなんておんぶにだっこってやつだ。むしろリリスケこそベルにでもおぶってもらっとけ。まだ足がふらついてるぞ」

 

 ヴェルフの言う通り、立ち上がれるようになったリリだけど、その足元はまだ怪しい。

 リリをおんぶするなんてちょっと恥ずかしい。だけどリリは十二分に働いてくれた。

 なら今度は僕達が頑張る番だ。

 

 

 

 

 

「確かによお。俺はリリスケには感謝している。今度は俺達が気張る番だとも思っていた。けどよぉこの臭いは何とかならないのか」 

 

「その臭いが今のリリ達の生命線なんです。文句を言わずに持っていて下さうえっ...こっちに近づけないでください!!」

 

 僕の背中に背負われたリリが「ヴェルフ様にしか出来ない大切な仕事です」と言って渡した小袋。それをもってヴェルフは僕達(僕と背負われているリリ)の前を歩いている。

 リリが渡した小袋の名前は【強臭袋(モルブル)

 モンスター除けの一種でその名の通り凄まじく臭い(くさい)臭い(におい)を出す小袋だ。

 

 ただ臭いだけでモンスターを避けることが出来るのかと思っていたが、そんな考えは【強臭袋(モルブル)】の臭いを嗅いだ途端吹き飛んだ。

 臭い、臭すぎる、いや臭いとすら認識できず、何かの攻撃を受けたのだと感じるほどの臭い。

 例えるのならば、鼻から入って来た手に思いっきり脳みそを内側から殴りつけられたような。衝撃的な...というよりも衝撃その物の様なにおい。

 その効果は、先ほど通路の向こう側にいたヘルハウンドが臭いを嗅ぐと同時に「ギャイン!!」と悲痛な悲鳴を上げて逃げ出したほどだ。

 

 狩人さんの鐘によって傷が癒えたとは言え、元々13階層でもモンスターに囲まれて苦戦していた僕達だ。

 余り認めたくないことだけれど中層のモンスターを相手取るのはまだ早かった。

 ましてや15階層のモンスターに囲まれてしまえば今度こそ助からない。

 つまりこの臭いが失われた時が僕達の命が失われる時と同じだと言える。

 命綱、生命線。

 なんにせよ今の僕達にとって唯一縋れるものであることは確かだ。

 

「サラマンダー・ウールの買い付けの時に粘り強く交渉した甲斐がありました」

 

「いやまあそのおかげで助かってるのは確かだが...臭すぎるぞ」

 

 少し離れて歩いている僕達ですらえずきそうな悪臭。

 発生源を手に持っているヴェルフの鼻に届く臭いはどれほどの物か、想像もできない。

 「服に染み付いたりしないよな?」とヴェルフは心配そうに自分の着ている服を眺めているが、幸運なことに或いは不幸なことに、この臭いは一定時間たつと嘘の様に掻き消えてしまうそうだ。

 ならばこの臭いが保つ間に走り抜けてしまいたい所なのだが、そうもいかない。

 

 一つは臭いが広まるのを待つ必要があるから。

 ダンジョンの中にいるモンスターというのは群れを作ったり(複数で行動したり)一人で行動したり(単独行動をしたり)縄張りを作ったり(決まった場所を巡回したり)放浪したり(当てもなくふらふら移動したり)する。

 そんな中を臭いが十分に広まる前に走り抜けようとすれば、どこかでモンスターの群れとかち合いかねない。

 

「チッすまん、()()()

 

「はぁ!!...リリ大丈夫?」

 

「はい、ベル様が倒してくださったおかげで傷一つありませんよ」

 

 そしてもう一つが今襲われたように時々【強臭袋(モルブル)】ですら避けきれないモンスターに襲われるからだ。

 においの元が僕達(冒険者)だと理解して排除しようとしているのか、単純に臭いの刺激よりも冒険者に対する敵意が上回っているのか、はたまた臭いなんて気にならない程にお腹が空いているからなのか、それとも単に個体差なのか。

 答えは分からない。

 この問題を突き詰めていくと、そもそもどうしてモンスターは武器を持った危険な存在(冒険者)に襲い掛かるのか、モンスターという存在は何なのか、モンスターを生み出すダンジョンとは何なのか、とダンジョンについての根本的な疑問になるのでこれ以上考えるのはやめる。

 

「すまん、後ろに通しちまって」

 

「大丈夫だよ、ヴェルフは大丈夫?さっきから何回も魔法を使っているけれど」

 

「大丈夫さ、気にすんな。今俺達は出来ることをやるしかないんだからな」

 

 僕はリリを背負っているからあまり激しく動けない。

 その分ヴェルフが頑張っている。だけど幾度も魔法を使ってモンスターを倒しているのは心配だ。

 かといって急ぐわけにもいかない。

 時にモンスターと戦い、時にモンスターから隠れ、時に道を確認する。

 焦る気持ちとは裏腹に歯がゆくなるような速さでしか進めない。

 

 ダンジョンの全貌というのはダンジョンの底を見た人がいないので分からないが、今わかっている範囲での話ならば上の階層(地上に近い)ほど狭く、下の階層(地下に潜る)ほど広いとされている。

 15階層もその例にもれず、今まで僕達が潜ってきたダンジョンの階層でも一番広い。

 この階層を通り抜けるのに手間取っているのは進む速さだけじゃない、この階層の広さも原因の一つだ。

 

 そうしているうちに気がつく、気がついてしまう。

 

「臭いが...しない...?」

 

「ッ!ヴェルフ様!!」

 

「ああ、どうやら【強臭袋(モルブル)】はここまでの様だな...」

 

 ()()()()()()()

 鼻が馬鹿になった可能性を信じたかったが、現実は残酷だ。

 【強臭袋】の効果が切れた(時間切れだ)

 

 周囲から隠し切れないモンスターの気配を感じる。

 【強臭袋(モルブル)】が今の僕達の命綱だと理解していてもなお耐えられない悪臭。

 モンスター達からすれば自分たちの縄張りを荒らす許しがたい存在(冒険者)、それも耐え難い悪臭を振りまき、その存在をアピールしていた相手だ。

 その存在に気がついていながら悪臭故に、手を出せないでいる歯がゆさを想像するのは難しくない。

 遂にその守り(におい)が失われたのだ。ならば何が起きるかは火を見るより明らか。

 

「リリ、立てる?いやついて来て。僕が道を開く」

 

 背中に背負っていたリリを下ろし、武器を構える。

 リリもヴェルフも何も言わなかったけれど、その時に備えて走り出す準備をしているのが分かる。

 じわじわと僕達を包む敵意が膨れ上がるのを感じる。だけどそれに気がつかないふりをしながら、時間と距離を稼ぐ。

 

 その時はきた。

 怒りに満ちた咆哮と共に最初に襲い掛かって来たモンスターを切り飛ばし、ヴェルフとリリに走るように叫ぶ。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ...」

 

「どうやら、これ以上は追いかけてこないみたいです」

 

「ならこれからは出来る限り急いで...」

 

 幸いというべきか、出鼻をくじかれたモンスター達は深追いするのを諦めたようだ。

 息を整えながらリリにここが今どこなのか聞こうとした時だった。

 ピシッと何かヒビが入ったような音が響く。

 音の出どころはダンジョンの壁。

 

「嘘...でしょう...」

 

「ミ、ミノタウロス...」

 

「それも四匹だと...」

 

 聞きなれた音。

 聞きたくない音。

 それはダンジョンがモンスターを生む音。

 モンスターが壁から生れ落ちる音。

 

 ズシンと地響きと共に産み落とされたのは、鎧のような筋肉を纏った牛が二足歩行しているモンスター。ミノタウロスが四匹その武器を構えてこちらを睨みつけていた。

 

 ...躊躇している暇はない。

 こうしているうちに後ろからモンスター達から追撃されるかもしれない。

 こうしているうちに他にもモンスターが産み落とされるかもしれない。

 

 今僕のするべきことは何だ。

 ミノタウロス(トラウマ)の登場に怯える事か?

 違う。

 モンスターとの戦力の差に気圧されて時間を無駄にすることか?

 違う。

 今僕のするべきことはこいつらを倒して先に進むことだ。

 

「リリ達は逃げられそうなら何時でも逃げて」

 

「ベル様!?」

 

 僕の言葉にリリが驚いたような声を出すがそれ以上の答えを聞く前に僕は走り出した。

 

「ブモ!?」

 

 まさか僕一人が突っ込んでくるとは思わなかったのだろう。

 ミノタウロスが驚いたような声を出す、がそれは一瞬。

 馬鹿にするような表情を浮かべて武器を振りかぶり、愚かな獲物を叩き潰そうとする。

 だけど遅い。

 

「はああああぁぁ!!」

 

 地面をすべる様な低い姿勢から地面を蹴って跳躍する。

 ミノタウロスの顔程飛び上がった僕と驚愕に見開かれたミノタウロスの目が合う。

 だが手にした【牛若丸】を振るえば首から大量の血が吹き出し、首を掻き切られたミノタウロスの瞳から光が失われる。

 仲間をやられるとは思っていなかったのか、驚愕するかのように動きを止める他のミノタウロス達。

 まずは一体目。

 

 弱い、遅い、恐れるに足りない。

 アイズさんと初めて会った時に僕を追いかけ回したあのミノタウロス程の重圧も、9階層で死闘を繰り広げた彼(片角のミノタウロス)の様な技もない。

 いっそ怒りすら感じる無様な姿を晒すミノタウロスの内の一体へと、灰に還っていくミノタウロスを蹴り飛ばして近づく。

 

「ファイアボルトォ!!」

 

 迎え撃とうとするその顔に向けて魔法を放てば、武器も落として両手で顔を覆う。

 隙だらけのミノタウロスにヘスティア・ナイフを突き刺す。

 狙うのは弱点(魔石)

 僅かな抵抗の後、確かな手ごたえと共にミノタウロスが灰に還り始める。

 これで二体目。

 

「ゴアァァァァァァ!!」

 

「ぐっ!」

 

 だが、足の止まった僕目掛けてミノタウロスが攻撃を仕掛けてくる。

 回避は...間に合わない。

 武器で辛うじて受け止める。

 いやたまたま武器で受け止められて、ギリギリ吹き飛ばされなかっただけ。

 もう一度受け止めろと言われても無理だ。

 

 故に相手に引かせないように武器で押し続ける。

 狙い通り鍔迫り合いになるが、相手の方が身長も、体重も、腕力も勝っている。

 このままでは何時か押し切られてしまう。

 いや、その前にミノタウロスはもう一体いる。

 もう一体に攻撃されてしまえば今度こそおしまいだ。

 

「ゴアアアアア...ア!?」

 

 だからこそ力を抜きぎりぎりの所で保っていた均衡を崩す。

 急に支えが無くなって大きくたたらを踏んだミノタウロスは倒れこみ、仲間の攻撃に体を差し出すようにして受ける。

 怒りの声は苦痛の悲鳴と化し、その声で攻撃してしまった方のミノタウロスにも混乱が伝播する。

 

 僕と戦っていたミノタウロスは急に体勢が崩れたことと仲間から攻撃を受けたことで、もう一体のミノタウロスは僕が視界から消えたことと仲間を攻撃してしまったことで、混乱している。

 その隙をついてまずは味方に攻撃してしまった方のミノタウロスの魔石を砕く、混乱して僕の姿を見失っているのなら容易い。

 三体目。

 次いで攻撃された方のミノタウロスの味方から受けた傷にナイフを突き立てる。

 これで四体目。

 二体ともが灰に還るのを確認しながら、息を整える。

 

「はあ、はあ、はあ、...ふー」

 

「おいおい、ミノタウロスだぞ。それも四体。トンでもねえな...」

 

「そんなことより!ベル様大丈夫ですか!?なんて無茶を」

 

 僕でも勝てた、()()()()()()()()()()

 その事実に喜びと安堵、そして少しばかりの寂しさを感じていたが、リリとヴェルフの言葉に気を取り直す。

 まだまだ危機は去っていない。

 

「行こう、先は長い」

 

 

 

 

 

 地下に潜れば潜るだけモンスターは強くなる。分かってはいたけれど実際に戦えば強さの差がこれまで戦ってきたモンスターとは段違いだと理解できる。

 モンスターから逃げて、走って、戦って。

 もう喋るだけの元気もない。

 狩人さんの鐘で回復した体も全身傷だらけで、痛くない所がない。

 だけどその甲斐はあった。

 

「後は...この道を真っすぐ...行けば...17階層です」

 

 僕達の目の前に広がるのは広い大きな道。

 17階層に繋がる道。

 ここを越えれば17階層へと行ける。

 目指す18階層まではもう目と鼻の先だ。

 自然とリリとヴェルフの顔にも笑顔が浮かぶ。

 

「グルルルル...」

 

「そうは...簡単にいかない...みたいだな」

 

「もうひと頑張り...だね...」

 

 だけどそう簡単にはいかないらしい。

 新しいモンスターがこちらを睨みつけてくる。

 17階層まで走り抜けるには難しい距離。

 なら倒すしかない。

 ひどく重く感じる装備を構える。

 

 切り付け、弾き、避けてまた切りつける。

 いつも通りの戦い。

 足が動かない、腕が上がらない、息が苦しい、それがどうした。

 僕はこのパーティのリーダーだ。

 このパーティの命運を握っている。なら僕が倒れるのはモンスターをすべて倒してからだ。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 

 向かってくるモンスターがいなくなった。

 僕達は生き延びたんだ。

 しかし気が付く。

 さっきまで僕と肩を並べて戦っていた筈のヴェルフがいない。

 

「ヴェル...フ?...リリ、ヴェルフが...リリ!!」

 

 周りを見渡せば地面に倒れ伏すヴェルフ。

 驚きリリに助けを求めようとして気がつく、リリもまた地面に倒れ伏している。

 最悪の状況が頭をよぎるが、思い通りにならない体を引きずりながら二人の様子を診れば、気を失っている(マインドダウンしている)だけだった。

 

「くぅ...ふっ...」

 

 リリとヴェルフを担いで17階層へつながる道を進む。

 みんなで地上に帰る。それが僕の選択だ。

 

 人を二人担ぐ、そのうち一人が小人族(パルゥム)のリリだとしても僕の歩みは遅々としたものになる。

 だけど僕は諦めない、見捨てない。

 必ず助ける。

 のろのろと、万全の状況なら十秒もかからない距離をたっぷりと時間をかけて進む。

 

「っ!?うわああああああああ!?」

 

 前だけしか見ていなかった──いや周りを見る余裕なんてとっくの昔に無くなっていただけだが──それがいけなかったのだろう。

 17階層へと続く坂道を情けない悲鳴を上げながら滑り落ちる。

 内臓が浮かんでいくような気味の悪い浮遊感の後、下半身に衝撃を感じる。

 止まったようだ。

 この坂道を下りるだけの体力を温存できたのは不幸中の幸いだ。

 二人を担ぎなおして再び歩き出す。

 

「これが...【嘆きの大壁】」

 

 僕の目の前に一面の壁が立ちふさがる。

 一見すれば行き止まり(道を間違えた)と思うような重圧を感じる壁。

 これこそが【嘆きの大壁】

 ダンジョン17階層を象徴する特徴的な地形であり、17階層の階層主であるゴライアスを生み出す壁。

 

 その名の通り、そして物理的にも精神的にも()として冒険者の前に立ち塞がり、数多の嘆きを生み出してきた壁。

 ダンジョンの名所というには血生臭すぎるが、実際に目にすることが出来たことに感動する。

 だがすぐに歩き出す。

 心を動かしている余裕なんて今の僕にはない。早く18階層に行かなくては。

 

 ピシリ...ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 地鳴りのような音が静かな17階層に響いた。

 ()()があまりにも大きいので一体何なのか一瞬解らなかった。

 だが音につられて壁に視線を向ければ、否が応にも目に入る亀裂とその奥から僕を睨む瞳が何が起きたかを理解させる。

 

 ゴライアスだ。

 17階層の階層主であるゴライアスが、今ダンジョンより産み落とされようとしているのだ。

 

「邪魔を...するな!!」

 

 ゴライアスはその巨体が災いしてか未だ壁から生れ落ちてはいない。

 だが、亀裂に挟まれた不自由な体でありながら、腕を伸ばし僕を掴もうとする。

 僕ぐらいなら握りこめる大きさの手に捕まえられたらどうなるか、なんて考えるまでもない。

 

(走れ、走れ、走れ!!)

 

 いっそ笑ってしまいそうになるくらい遅い僕の足と、巨体故の遅い動きのゴライアス。

 傍から見れば滑稽な位遅い動きだが、僕達の命がかかっているんだ。【嘆きの大壁】に空いた穴、18階層に続く道目掛けて必死に走る。

 

 遂にゴライアスの手から逃れ穴へと飛び込む。

 だが、18階層に繋がるという事は下に続いているという事。

 17階層に落ちてきたときと同じように、いやさらに勢いがついて体が振り回される。

 今上を向いているのか、下を向いているのかもわからない。

 

 リリとヴェルフは大丈夫だろうか、神様と九郎は心配しているだろうな、灰さん達に知られたらきっと怒られる。

 知り合いの顔が浮かんではたわいもない物事を考える。

 そうしていると一際強い衝撃が僕を襲った。

 

 立ち上がらなければならない。

 立ってリリとヴェルフを回収しなければ、二人は無事なのかを確かめなければ。

 僕の頭とは裏腹に体はどれだけ力を入れても起き上がろうともしてくれない。

 それどころか視界がぼやけてきた。いけない気を失い始めている。

 何とかして抗おうとするが、元々限界ぎりぎりまで酷使していた体は暗闇からの声に応じて、意識を手放していく。

 

 辛うじて見えたのは目の前に立つ二本の足。

 それがモンスターなのか、それとも(冒険者)なのか。

 そんなことも分からず、僕はただ懇願していた。

 

「お願い、します。仲間を...二人を...助けて...くだ...さ...い。仲間を...」

 

「うん、わかった。助けるよ」

 

 言葉を口に出来ているのか、それともただそう思っているだけなのか。

 分からないまま消えていく意識の中。どこかで聞いた声が答えてくれたような気がした。

 

 




どうも皆さま

私です

急に暑くなったり寒くなったりしましたが元気でしょうか
私は暑いのが苦手なので大変弱りました

そんなことより本文です
フロムに限りませんが
回復ポイントを探し回りながらダンジョンを彷徨い歩き
隠れていた敵に奇襲されて悲鳴を上げるなんてのはよくある事ですよね
そしてとりあえず先に進んでしばらくした後アイテムとかを回収しに行くと
あの時あんなに怖かった相手が無茶苦茶弱くなっていてちょっとした悲しみを感じることも
...フロムの場合そこから囲まれてぼこぼこにされることもよくありますが

そんなお話です

それでは失礼いたします。
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