忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

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リリのバックパック

リリルカ・アーデが背負うバックパック
彼女の身の丈以上の大きさを誇るかばんはそれ相応の収納量を誇る

かつて彼女はこのかばんの中に冒険者を騙す為の道具を紛れさせていた
今ではソウルの業によるアイテムの出し入れを誤魔化す為にこれを背負っている

このかばんは秘密を隠しているのだ
これまでもそしてこれからも

誤字脱字報告いつもありがとうございます


リーダーとしての器

 

 目の前で僕が灰さんに負けて悔しそうに転がっている。

 

「また負けた...僕って本当に強くなっているんでしょうか」

 

「強くなった、強くなった。俺が保証するさ」

 

「...そうでしょうか」

 

 これは夢だ。灰さんが僕の手を取って立たせるのを見ているうちに気がつく。

 何時しか灰さんと特訓をした時に負け続けて、つい弱音が零れた時の夢。

 

 すっかりしょげかえった僕を見て灰さんは酷く楽しげに笑う。

 

「笑わないでくださいよ」

 

「いやあ、すまんすまん。俺相手に勝とうとし続けるのがおかしくてな」

 

「む、確かに僕は弱いですけれど、いつか灰さん達と同じくらい、いえ灰さん達よりもっと強くなりますからね!」

 

 僕の宣言を聞いた灰さんは思わず吹き出す。

 それを見て更に怒る僕を宥めながら灰さんは小さく呟いた。

 

「大丈夫だよ。お前はきっと強くなる。俺達がそうだったように。

 お前が諦めない限りな。なあベル...って言うのも才能...」

 

 

 

 

 

「あれ...?」

 

 意識が浮上する。

 最初に感じたのは痛み。

 体のあちこちが痛い。

 

 目を開いて自分の体を確かめようとして、僕は首を傾げる。

 見覚えのない天井...というより天幕?灯りが差し込む窓がついているテントの中で僕は寝ていた。

 

「えっと...確か中層に潜って、【怪物進呈(パス・パレード)】されて、それから...!」

 

 痛む体を起こせば僕が寝ていたのは持ち運ぶことを前提とした布団(探索用の寝具)

 冒険者にとっては慣れた物ではあるが、これにも見覚えがない。

 どうしてここに居るのか、これまでのことを思い出していき気がつく。

 

「リリ!!ヴェルフ!!」

 

「...起きたの?おはよう」

 

 仲間(二人)はどうなったのか。

 体のあちこちが軋むのを無視して無理やり立とうとすると、誰か入口の布を捲って入ってきた人がいた。

 布のこすれる音にそちらに目をやり驚愕する。

 あ、貴女は。

 

「ア、アイズさん!?ど、ど、どうしてここに?」

 

「私はファミリアの遠征の帰りだよ。18階層を歩いてたらベルが倒れてたの、びっくりした」

 

 そこにはアイズ・ヴァレンシュタインさんが目を丸くして僕を見ていた。

 よくよく周りを見ればロキ・ファミリアの道化のシンボルがこのテントの中にも刻まれていた。

 そうだ、僕は17階層を抜けたんだ。

 そして18階層で誰かに助けを求めたんだ。

 あの時は極限状態で相手が誰かなんて分からなかったけれど、アイズさんだったのか。

 

「リリ...ヴェルフ...」

 

「仲間...だよね。大丈夫、リヴェリア達が治療したから」

 

 落ち着いてテントの中を見渡せば、僕と同じく寝かされていた二人の姿があった。

 アイズさんが言うように、二人の体のあちこちに包帯やガーゼが当てられ治療されているようだ。

 意識こそ戻っていないが危険な状態ではないことに安堵して体から力が抜ける。

 良かった。

 二人が無事で本当に良かった。

 

「あっ、本当にありがとうございます。助けて頂いて」

 

「ううん。...体調も問題ないみたいだし、フィン...私達の団長に連絡するように言われてるから、一緒に来て」

 

 お礼もまだだったことを思い出し、頭を下げる。

 ダンジョンでアイズさんに助けられたのはこれで二度目だ。

 オラリオ()で訓練を付けてくれたことも考えれば大恩人なのだから失礼が有ってはいけない。

 

 アイズさんは立てるか聞いて僕が「問題はないみたいです」と答えると、ついてくるように言って入口の布を捲って外に出ていく。

 とりあえずその後について外に出る。

 

「ふわぁ~」

 

 外に出た僕の口から気の抜けた声が零れる。

 テントの外。ダンジョン18階層はダンジョンの中とは思えない程に綺麗で光に満ちていた。

 そんな僕の様子をアイズさんに見られていたことに気がつき、ごまかすように僕は尋ねる。

 

「ここってダンジョンの中ですよね?どうしてこんなに明るいんですか?」 

 

「そっか、初めてだもんね。...ついて来てちょっと寄り道するよ」

 

 ダンジョンは地下であり太陽の日は射さない。

 だけれどそれぞれの階層には光源になる物があり、それを頼りに冒険者はダンジョンに潜る。

 それはあくまで弱々しい光でしかなく、その階層全てを照らし出すには足りない物だ。

 事実灯りの届かない暗闇からモンスターに奇襲されることもある。それを嫌って冒険者の中にはランタンの様な自前の光源を持ち込む人もいる位だ。

 だがこの階層(18階層)ときたら隅から隅まで光が行き渡っている。

 何も知らない人が見たのならば地下(ダンジョンの中)の光景だと思わず、地上の光景だと思うこと間違いない。

 

 僕の疑問に答えてアイズさんが連れてきてくれたのは小高い丘。

 そこから見上げた天井にはいくつもの光り輝く()()()があった。

 あれって...

 

水晶(クリスタル)ですか?」

 

「そう、あれがこの階層を照らしているの。時間が来ると明かりが消えてこの階層には『夜』も来るんだよ」

 

 アイズさんの言葉を聞き再び僕の口から「ふわぁ~」と気の抜けた声が零れる。

 ダンジョンの中なのにこれだけ明るいのにもびっくりだが、それどころか『夜』すらあると言うのだ。

 自然の神秘というか、ダンジョンの神秘というか。とにかく()の手が届かない自然の雄大さとでもいうべきの物に圧倒される。

 

 しばらくばかみたいに口を開けたまま水晶(クリスタル)を眺めていたが、アイズさんから目的地に向かうことを言われ正気に戻る。

 きっとここに連れてきてくれたのは、不器用なとこがあるアイズさんなりの労いなんだろう。

 だけれどいつまでもこうしてはいられない。

 

 

 

 

 

 アイズさんの後に続いて入った先にはアイズさん達の団長さん(ロキ・ファミリアの団長さん)がいた。

 ここで僕が無様な姿を晒せば僕だけじゃない、同じパーティの仲間(リリやヴェルフ)ファミリアの先輩達(灰さん達)、そして主神(神様)まで見くびられてしまう。

 冷静に、落ち着いて、しっかりとしなければ。

 一度深呼吸し、口を開く。

 

「こ、この度は助けて頂き、ありご、ありがとうごじゃ、ありがとうござましいた」

 

 ...ダメだった。

 

 言い訳をさせてほしい。

 相手はロキ・ファミリアの団長さんだ。

 つまりは【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナさんだ。

 オラリオ最強の槍使いの呼び声も高い、押しも押されぬ大英雄。

 そんな人を相手に緊張しないで喋ることなんてできるだろうか、いや無理だ。

 

「そんなに気を張らなくてもいいよ。ダンジョンに潜っている以上は同じ冒険者だ。ちょっと聞きたいことがあるから呼び出しただけだからね」

 

 羞恥心で真っ赤になった僕へとディムナさんは優しい言葉をかけてくれる。

 冒険者としての実力、ロキ・ファミリアという大派閥の団長を務め切る実務力、その上失敗した僕をフォローしてくれる人格者でもあるなんて、凄い人だとは思っていたが想像以上だ。

 本当に人としての器が違うと言うか、元々憧れの冒険者の一人ではあったけれどファンになりそうだ。

 

 なぜ僕を呼んだのかと思っていたが、ディムナさんが言うには、片角のミノタウロスとの死闘(9階層での死闘)の際ディムナさん達にリリが助けを求めていて、僕が気絶した後ディムナさん達もあの場所に来ていたらしい。

 ミノタウロス相手に苦戦するような冒険者(LV.1の冒険者)がどうして中層にいるのかというのが、ディムナさんが僕を呼んだ理由だった。

 まあ無理もない。ロキ・ファミリアの遠征隊が遠征に向かった後にランクアップを果たし、LV.2になったなんて想像もできないだろう。

 

「...という訳で僕達は18階層に来たんです。ロキ・ファミリアの皆さんが助けてくれなければどうなったか...改めてありがとうございました」

 

「事情は分かった。君たちを客人として迎え入れよう」

 

 ここまでの経緯を話せばディムナさんは頷き、僕達を受け入れてくれるようだ。

 有難いことだが、ロキ・ファミリアにも予定があるだろうに大丈夫なのだろうか。

 僕の考えを読んだようにディムナさんは首を振る。

 

「実は遠征自体は上手く行ったんだが、帰ってくる途中で面倒なモンスターとかち合ってね。幾名の仲間が毒を貰ってしまったんだ」

 

「毒って、大丈夫なんですか?」

 

「幸い今すぐ命がどうこうというものではないが、そんな仲間にダンジョンを進ませるわけにはいかないだろう?

 足の速い仲間を地上に走らせて、解毒薬を買ってきてもらっているんだ。その間僕達はここで留守番という事だよ」

 

 命にかかわるような毒ではないと聞いて安心するが、そんな時にも関わらず僕達というお荷物を受け入れてくれたことに感謝して頭を下げた所で、ディムナさんとの面談は終わった。

 

 

 

 

 

「それでは客人と遠征の成功に乾杯!!」

 

 ディムナさんの音頭に合わせてあちらこちらから杯を打ち鳴らす音がする。

 アイズさんが言っていた通り、18階層の水晶(クリスタル)は時間と共に光を失い『夜』が訪れた。

 代わりにあちらこちらに光源としてたき火が起こされて、その周りにはロキ・ファミリアの人たちが料理と飲み物をもって座っている。

 

 なぜこれだけ盛大な宴が催されているのか、それを語るには僕が割り当てられたテントに戻った時まで遡る必要がある。

 

「そうですか、リリ達が寝ている間にそんなことが」

 

「申し訳ねえ。結局ベルに任せっきりになっちまった」

 

 僕がテントに戻ると同じくらいに、リリとヴェルフが意識を取り戻した。

 あらかじめ治療してもらっていたこともあり、特に後に残るような傷もない事にほっとしていると、一体何があったのかと二人に聞かれた。

 17階層で二人が気絶した後何があったのかを説明すると、ヴェルフが僕に頭を下げる。

 僕が18階層を目指すと決めたのだから責任は僕にある、それに誰か一人でもいなければ18階層までは来られなかった。

 そう言って互いに笑いあう。

 生き延びたのだ。笑顔になることはあっても辛気臭い顔になる事はない。

 

「しかし、ロキ・ファミリアの皆様が...ならこれはチャンスでは?」

 

「おいリリスケ。悪い顔になってるぞ...なにする気だ?」

 

 にやりと仄暗い笑みを浮かべるリリにヴェルフがツッコミを入れる。

 それに対して「うるさいですよ」と言ってリリが取り出したのは...聖歌の鐘(狩人さんの鐘)だった。

 

「実はこの鐘怪我の回復だけじゃなくて、毒なんかも回復するんですよ。これを貸し出すんです。

 ロキ・ファミリアの皆様は仲間が治るし、リリ達はロキ・ファミリアに恩が売れる。誰も損をしないいい計画だと思いますが?」

 

 リリの計画というのを聞いた感想は悪くないかもしれないという物だった、

 ロキ・ファミリアには助けてもらった恩がある。

 それなのに迷惑がかかるような真似をするつもりなら止めるつもりだったが、リリの言葉を聞く限りはそんなこともなさそうに思えたし、助けてもらっておきながら何もできないことを歯がゆく思っていたのだから何かできるのならば、止める理由はなかった。

 

 ただ一つ懸念したのは、部外者である僕達が聖歌の鐘(狩人さんの鐘)を出してこれで回復できます、なんていったところで信用してもらえるかだった。

 しかしディムナさん達は聖歌の鐘(狩人さんの鐘)が使われるのを見たことがあったようで、僕達からの提案を受け入れてくれた。

 

 出来るだけ魔力が豊富な人が使った方がいいかもしれないと言うリリの助言に従い、オラリオ最強の魔導士【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴさんが聖歌の鐘(狩人さんの鐘)を鳴らすと、たちまち毒に侵され横になっていた人達は元気になった。

 ロキ・ファミリアの人達と僕達はいやあ良かった良かったと喜んでいたが、納得がいかないと言うか、感情の持っていきどころがないのが地上に解毒薬を取りに行った人達だ。

 仲間が治ったことは喜ばしい、しかし助ける為とは言え苦しむ仲間を置いて地上に戻り急いで帰って来たと言うのにすでに解毒薬は必要ないと言われれば喜び以外の感情が生まれるのも仕方がない。

 

 そんな彼等の憂さを晴らす為、仲間を助けてくれた客人──つまり僕達のことだ──を称える為、何より仲間が回復したお祝いの為に、毒によって足止めされていた間切り詰めていた分の物資を使って宴が開かれたという訳だ。

 

 ディムナさんから「君達がいなければ仲間達はまだ苦しんでいただろう、いわばこの宴の主役だ」と言われてみんなの前に引き出されたが、この宴の参加者はロキ・ファミリアの冒険者、それも遠征に駆り出されるような精鋭達だ。

 冒険者として僕のはるか前を走ってきた人達、いわば雲上の人達に見つめられ、お礼さえ言われとなると流石に恥ずかしい。

 出来る限り小さくなって耐えていればようやく人波が途切れた。

 その機会を逃さず僕は逃げ出した。

 

 

 

 

 

 宴の中心と違い今いる端の方は騒ぐと言うよりゆっくりと過ごしている人たちが多いようだ。

 リリかヴェルフがいないかと探しているのだが、せっかくの機会だロキ・ファミリアの人達とも交流をしたい気持ちもある。

 そうしてしばらく彷徨っているとなんとアイズさんがたき火の傍に座っているのを見つけた、しかも一人だ。

 こ、これは絶好のチャンスというやつではないだろうか、と勇気を振り絞り隣に座ってもいいか聞いて、許可が得られたところまでは上手く行った。

 だが...

 

「おっ!アルゴノゥト君じゃん。ねーねーお話聞かせてよ」

 

「えっ、あ、あの!?アルゴノゥトって僕のことですか!?」

 

 僕は今ロキ・ファミリアの冒険者達に絡まれている。

 ぐいぐいと迫ってくるこの人はティオナ・ヒリュテ。

 【大切断(アマゾン)】の二つ名を持つ高名な冒険者。

 

「あ、気にしないで頂戴。この馬鹿が勝手に言ってるだけだから」

 

「え、あ、はい...?」

 

 そんなティオナさんをそれとなく諫めるこの人はティオネ・ヒリュテ。

 【怒蛇(ヨルムガンド)】の二つ名を持つこれまた高名な冒険者。

 

 近くにいるアイズさんを含めて冒険者達の中ではアイドルの様な扱いを受けている、実力と美しさを兼ねそろえた女性の冒険者。

 きっと今の僕の立ち位置と変われるのならば幾らでもお金を払う人、いや神様だっているはずだ。

 ...僕だって嬉しいと思う気持ちがないわけではない。

 それでも僕が滝のような汗を流して視線を彷徨わせているのは、ティオナさんとティオネさんの服装に原因がある。

 

 ティオネさんとティオナさん。

 お二人はアマゾネスと呼ばれる人たちであり。

 アマゾネスの人達はみんな女性でありながら良い戦士で──無論人によって程度の差はあれども──よく戦いよく生きることを人生の目標とする人達だ。

 それ故ダンジョンという天然の闘技場があり、強者が集うオラリオではしばしば目にする人達ではある。

 だが、彼女たちは皆非常に...その、目のやりどころに困る(露出度の高い)服装を好む。

 

 それはティオネさんとティオナさんも例外ではなく。

 そのお二人に挟まれている僕は右を見ても左を見ても、健康的な小麦色の肌が目に入り大変困っているという訳だ。

 おまけにすぐそばにはアイズさん(憧れの人)までいる。

 いや傍にアイズさんがいなければこの状況が嬉しいという訳でもなくて...

 いやこの状況が嬉しくない訳でもなくて...

 誰かに弁解する訳でもないのに一人頭の中で弁解していると、ふと物音が聞こえた気がした。

 

 宴の音に掻き消されそうな位の小さな物音。

 最初は気のせいかとも思ったが、段々と大きくなってきた。

 ならば気のせいであるはずがない。しかも物音は17階層へと続く道の方から聞こえるのだ。

 

 幾らここ(18階層)安全階層(セーフティーエリア)であったとしても、ダンジョンである。

 この階層ではモンスターは生まれないが、他の階層で生まれたモンスターがこの階層にやってくることはある。

 そして今僕がいる場所は宴の中心から離れた、17階層へと続く道にほど近い場所。

 まさかとは思うが、このタイミングでモンスターがやって来たとでも言うのだろうか。

 

 武器を手に取り17階層へと続く道の方へと近づく。

 

「ぁぁぁぁぁぁあぁああぁあああああああ...へぶっ

 くっそお...なんなんだあのデカブツは!!あんなのが出てくるなんて聞いてないぞ!!

 今度会ったら覚えてろぉ。焚べる者君にぼこぼこにしてもらうんだからな」

 

「ふむ。いざとなったら肉盾となる覚悟で居りましたが、あれだけ大きいと意味がありませぬな」

 

 ゆっくりとゆっくりと。傷は癒えたが万全の状況とは言えない。中層のモンスターを相手取るのならば奇襲からの一撃で仕留める必要がある。

 そんな僕の考えは漫才めいたやり取りが聞こえた時点で掻き消えた。いやこの声は。

 

「確かに君は傷つかないとは言え、吹っ飛ばされたりはするからね...いやその前にそんなことボクが許さないぞ...というかそれボクが狼君に怒られるやつだろ!?」

 

「はっはっはっ」

 

「はっはっはじゃないよ!君はいっつもそうだ笑えば誤魔化せると「神様!!」ベル君!?」

 

 ダンジョンでは(冒険者)の想像もできないことが起きる。

 ならば()()がダンジョンの悪辣な罠である可能性は否定できない。

 いや、そっちの方が神様と九郎がダンジョンに潜っているなんてことよりも可能性が高い。

 

 だが堪え切れず飛び出せば、そこには楽し気に笑う九郎とそんな九郎を揺さぶる神様の姿があった。

 二人を見ると同時に目頭が熱くなる。

 それほど離れていた訳じゃない。体感にして1日程。気絶していたことを含めても二日ほどでしかない。

 どうして二人がここに居るのか、どうやってここまで来たのか、気にするべきことはもっとたくさんある。

 だけれど、そんなことが気にならないくらいどうしようもない懐かしさと安心感が僕の心を覆う。

 

「...神さ「ベル君!!」うわっぷ!?」

 

 神様と僕が互いに見つめあう。

 堪え切れなかった心の動きが口から零れようとした時、急に視界が黒く染まった。

 何か柔らかくていい匂いのするものが僕の口と鼻をふさぐ。

 い、息が出来ない。

 

「ベル君、ベル君!ベル君!!心配したんだからな!!」

 

「“へすてぃあ”様そのへんで...“べる”の首が折れますよ」

 

 何が起きたのかと目を白黒していると九郎の声が聞こえる。

 なるほど今僕の顔に張り付いている()()は神様か。

 いやそんなことより段々と息が出来なくて苦しくなってきた。このままでは死ぬ。

 中層のモンスターからも、【怪物進呈(パス・パレード)】からも、17階層の階層主(ゴライアス)からも生き延びたのに、こんなところで死ぬ。

 

「か、がみざま、ぐ、ぐるじ...」

 

「ベル君!!そんなに暴れたって離さないからな。今日という今日はたっぷりお説教だ!!」

 

「“へすてぃあ”様!?“べる”の顔が、顔が真っ青です」

 

「アルゴノゥト君急に立ってどうし...わっ。何事!?」

 

 周囲が騒がしくなるのと裏腹に段々と意識が遠くなっていく。

 最後に僕が思いだしたのは、「知ってるか?人が死ぬとき最後まで残るのは聴覚なんだぜ(死ぬぎりぎりまで音は聞こえる)」という灰さんの言葉だった。

 あっ、流石に限界...

 

 

 

 

 

「全く、ヘスティア様は全く!!」

 

「まあまあ。感動の再会という奴ですよ。そんなに怒らず」

 

 意識を取り戻すとリリに怒られて小さくなっている神様と、そんなリリを宥めている九郎がいた。

 一体どういうことかと聞けば意識を失った僕は神様達とロキ・ファミリアの人達によって借りているテントへと運ばれ、しばらく眠っていたらしい。

 僕としては被害に遭ったのだから何か文句を言ってもいいと思わないでもないのだが、神様達に大変心配をかけたと言う負い目もある。

 結局リリのお説教が終わるまで待つことしかできなかった。非力な僕を許してください神様。

 

「そんなことよりもかれらを紹介させてくれないか。ボク達がここまで来れたのは彼らのおかげだ」

 

「逃げましたね...まあいいでしょう。お説教はいつでもできます」

 

 延々と続くお説教から逃げる為か神様は同行者を紹介させてほしいと言う。

 見ればテントの入口の方に一塊となってこちらを見ている人たちがいた。

 

「この度は大変申し訳ありませんでした!」

 

「そ、そんな...頭を上げてください」

 

 開口一番見覚えのある人は頭を床に付けて謝罪する。

 この人はヤマト・(みこと)

 13階層でボク達にモンスターを押し付けたパーティの一人。

 つまりは僕達がこんな所にいる原因ではあるのだが、それこそ腹を切れと言えば本当に切りかねない勢いで謝られると何もそこまでと思う。

 だけれどそう思っているのは僕だけの様だ。

 

「謝れば許されるとでも?こっちは死にかけたんですよ」

 

「そう簡単に許せるわけないだろ」

 

 リリは冷たい視線を送り、ヴェルフも納得しているとは言えない表情だ。

 リリ達の想いも分かる。

 【怪物進呈(パス・パレード)】は生き延びる為の最後の手段として扱われている。事実ギルドも【怪物進呈(パス・パレード)】を禁じては居らず、緊急事態の最終手段として習った。

 だがされた側としてはたまったものではない。

 しかしひたすらに頭を下げる(みこと)さんと千草さんを見ていると、これ以上責めるのも気が引ける。

 

「責めるのなら俺を責めろ。あの時【怪物進呈(パス・パレード)】をすると決めたのは俺だ、命令を下したのもな。その権利がお前達にはある。

 だが俺はあの時の決断を間違えたものだとは今でも思っていない」

 

「...言葉に気を付けろよ大男。今からやる(戦う)ってのか」

 

「なんとでも言え。だがリーダーの最大の仕事はパーティを活かして地上に帰すことだ。その為ならどんな手段も、犠牲も厭うべきではない」

 

「御大層な言葉だがな。よくそいつを俺達(犠牲にされた側)の前で言えたもんだな?」

 

 口を開いたのは(みこと)さん達のパーティのリーダー、桜花さんだった。

 自分の選択は間違えていなかった、受け取り方によっては僕達を犠牲にしたことを反省していないとも取れる言葉に、ヴェルフの瞳に剣呑な光が宿る。

 だが、桜花さんは言葉を撤回するどころか、むしろ煽っているような言葉で応酬する。

 遂にヴェルフは耐えかね掴みかかろうとするが、それを制して僕は口を開く。

 

「僕も、僕も仲間の命が、リリとヴェルフの命がかかっていたら同じ決断を下したかもしれません。

 いえ、同じ決断を下そうとしたかもしれません。仲間の命がかかっているんです、決断しなければいけないんです。ですが決断しきれませんでした」

 

 考える。

 もしも13階層で【怪物進呈(パス・パレード)】された時、他に誰か【怪物進呈(パス・パレード)】するのに丁度いいパーティがいたのなら、15階層に落ちた時に他のパーティを犠牲にすることで安全に進めたのなら、僕はその選択を取らないでいられただろうか。

 答えは出せなかった。

 

「ベルは他人を犠牲にするような真似は出来ねえよ」

 

「そこで決断しきれないのがベル様のいい所です」

 

 リリとヴェルフはそれでいいと言ってくれるがパーティのリーダーとして、決断するべき時は決断しなければいけない。

 15階層で18階層へと向かうことを決断したように、誰も見捨てないと決めた時のように。

 だけどできなかった。

 

「だから、僕はあなたを尊敬します。仲間の命の為に決断できたあなたを、そして恨みません」

 

「...ベル様に感謝してくださいね」

 

「うちのリーダーが決めたのならそいつを受け入れるさ。だが納得はしてねえぞ」

 

 僕の言葉を聞いてしぶしぶと言った様子だが、リリとヴェルフも桜花さん達の謝罪を受け入れたようだった。

 僕は桜花さんに手を差しだし、桜花さんもまたその手を受け入れ固い握手が結ばれた。

 

 

 

 

 

 

SIDE フィン・ディムナ

 

「戻ったぞ」

 

「お帰り。どうだったかな」

 

 毒を受けた仲間達の様子を見にいっていたリヴェリアが帰って来た。

 アイズが拾ってきた白髪の彼とその仲間達。そのうちの一人が滞在の対価として僕達に貸し出す提案をしたのが、僕達も9階層でその効果を体験した狩人の鐘だ。

 出来るだけ精神力が豊富な人物が使った方がいいと言う小人族(パルゥム)の少女の言葉に従い、リヴェリアが鐘を鳴らせばあれだけ仲間を苦しめていた毒は嘘の様に掻き消えた。

 そのお祝いを先程までしていたのだが、リヴェリアは「体調が急変するかもしれない」と一人仲間の様子を見にいっていたのだ。

 

「何もなかった。それこそ毒を受けたのが夢だったのではないかと思う程にな。流石は狩人の持ち物だと言うべきか?」

 

 こちらの思惑は外れてしまったな?とリヴェリアは僕にからかうような視線を向けてくる。

 何も善意だけで白髪の彼(ベル・クラネル)とその仲間を受け入れたわけじゃない。

 彼らに恩を売るという下心があったからこそ、仲間が毒を受けて忙しいこの時に彼らというイレギュラーを受け入れたのだ。

 無論たかがLV.2の冒険者達(ベル・クラネル達)に恩を売りたいわけじゃない。

 僕達が恩を売りたかった相手は彼らの先輩(灰達)だ。

 

 思えば前回の遠征の帰りで一緒に地上に戻ってから、灰達は()()()()()行いが多くなった。

 これまでなら灰達が地上にいれば引き起こした騒ぎの噂が日に三回は聞こえてきたのに、精々三日に一回。

 それもあそこで灰達を見たという目撃証言ばかり。

 灰達を変える()()があったのだと噂されるのに時間はかからなかった。

 

 そうして情報を集めていれば一つ耳を疑うような噂が手に入った。

 

 ヘスティア・ファミリアに新入りが入ったらしい。

 

 はっきり言って荒唐無稽な噂としか思えない。

 ()()ヘスティア・ファミリアだぞ?

 ()()灰達だぞ?

 いやこの目で確かめなければ今でも疑っていたに違いない思いは、ダンジョンで僕達(ロキ・ファミリア)と敵対することすら厭わない灰達の姿に打ち砕かれる。

 

 ロキ・ファミリア、オラリオの二大派閥に喧嘩を売るような真似はするだろう。

 だが、ただの一人も死者がいない、いやそれどころか傷を癒すことすらしたのだ。

 明らかにこれまでの灰達ではありえない行動だ。

 新入りの存在をその理由とすることは的外れではないはず。

 

 そんな新入りが僕達の手のひらの中に転がり込んできたのだ。

 どうするべきか。僕は酷く悩んだ。

 下手に手を出せば灰達の逆鱗に触れるかもしれない。

 かといってそのまま放り出せば間違いなく灰達の怒りに触れる。

 故に僕の出した答えは出来る限り関わらず手助けはすると言うどっちつかずの物。

 

 無闇に灰達に怒りを買わずに、恩を無理なく売り灰達の行動を制御できたらいいなぁと言う目論見は失敗。

 仲間を助けてもらった分でとんとん、或いはファミリアの規模を考えればこちらが恩を感じるべきなのかもしれない。

 だが...

 

「そう悲観する物じゃない。個人的には彼のこと好きだよ」

 

 実際に会って話してみた感想としては思っていたよりは普通だった。

 パーティのリーダーとしての責任を果たそうと、精一杯の背伸びをしている姿は好感が持てた。

 

「人の人格と肩書は常に釣り合う物ではないが...いや、この場合はむしろ釣り合っている方が恐ろしいか?」

 

 僕の感想を聞いてリヴェリアはボヤくように首を振る。

 灰達の後輩に相応しい(灰達みたいな)性格をしている人物がこれ以上増えるなんて考えるのも恐ろしい。

 そんなことを言いながら色々と仕事をする。

 

 元々地上に向けて移動する予定だったが、どうしても細々とした問題は出てくる。

 そんな時ふと思い出したかのようにリヴェリアが呟く。

 

「そういえば。ティオナ達が彼らと一緒に明日リヴィラの街に行くそうだ」 

 

 彼と団員が交流して仲良くなると言うのは悪い事ではない。

 ファミリアとして恩を売るのは成功したとは言い難い、しかし個人的な付き合いをしていけばあの甘い性格だ。

 似たような結果が期待できるだろう。

 しかし向かった先がリヴィラの街とはね

 

「何もないと良いけれどね...」

 

 呟いた言葉が叶うとは思っていない。

 どれだけ安全だったとしてもここ(18階層)はダンジョン。罠がひしめく危険な迷宮なのだから。

 

 

 

 

 

 

 




どうも皆さま

私です

UA170000
お気に入り登録数1300突破ありがとうございます

いっつも言っていることですが
こんな作者と小説が続いておりますのも皆様のおかげです
いつもありがとうございます

小説を書いているときは構想からどんどんずれていってしまうのが悩み物です
今回もフィンとの対談時にベル君には灰さん達とは大違いだみたいなこと言わせる予定だったのに
どうしていつもこうなるのでしょう

それではお疲れさまでしたありがとうございました
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