忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

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漆黒兜(ハデス・ヘッド)

アスフィの手によって作られた黒い兜
魔道具であり被った者は姿が見えなくなる

戦いにおいて姿を見られないことがどれだけ有利になるかは今更説明する必要はないだろう
だがあくまで透明になるだけで攻撃は当たる
また気配まで消すわけではない

つまるところは使い方次第なのだ

誤字脱字報告いつもありがとうございます。






18階層の死闘 上

 

「...あれ?」

 

 何時しか見慣れたテントの中で目を覚ます。

 頭がガンガンして体中が痛い。

 これまでの経験からして間違いなく気絶していた。

 気絶からの覚醒に慣れ始めている僕自身に少しばかり怯えながら現状を把握しようとする。

 えーっと?

 どうして僕はまた気絶していたんだろうか。

 

「ベル君!!大丈夫かい?凄い戦いをしたんだろう?もう少し寝てた方がいいんじゃないかな」

 

「神様...戦い?」

 

 僕が目覚めたことに気がついた神様はコップに入った水を差しだしてくれる。

 美味しい。カラカラの喉に染み渡るような冷たい水をありがたく飲む。

 水を飲み干した僕を心配そうに見る神様の言葉に何があったのかを思い出す。

 

 レフィーヤさんに追いかけ回された先で闇派閥(イヴィルス)を見つけた。

 そして僕達はその闇派閥(イヴィルス)が操るモンスターと戦って勝利した。

 だけれどボロボロだった僕とレフィーヤさんへと闇派閥(イヴィルス)は更にモンスターをけしかけた。

 絶体絶命のピンチに助けに来てくれたのがリューさん。

 それから...どうしたんだったか。

 こうしてテントで横になっているという事は、僕は気絶しちゃったって事だと思うんだが。

 

「いやあ、びっくりしたよ。エルフ君が君を背負って運んでくれたんだ」

 

 神様は「心配したんだからな!」と怒りながら喋っている。

 多分だけれど、リューさんが助けに来てくれたことで安心して気絶してしまったんだろう。

 最近気絶してばっかりだな。

 そんなことを考えているとふと重要なことに気がついた。

 

「か、神様今日はいつですか、僕はどれくらい寝てたんですか!?」

 

「え?リヴィラの街に行った日の次の日だよ。今ロキ・ファミリア(ロキの子ども達)は地上に向けて出発準備で大忙しみたいだね。このテントは最後まで残しておいてくれるそう「っ!!」」

 

「あっ、ちょっとベル君!そんな急に起きたら...行っちゃった...もう!」

 

 神様の言葉を聞くと同時に飛び起きテントを飛び出す。

 急げ、急げ。

 解体されつつあるキャンプ地点を駆けていく僕を変なものを見るような視線が貫くが、関係ない。

 寝ていた(気絶していた)のに急に走り出したことで、体中から不満(痛み)が噴出するが、関係ない。

 走れ、走れ、走れ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、ア、アイズさん。よ、よかった...」

 

「...ベル?」

 

 そうして走っていると地上に向けて出発する準備の為忙しく人が走り回る中でも、燦然と光り輝く金髪が目に入る。

 僕の探し人。

 アイズさんだ。

 良かったまだ18階層(ここ)にいた。

 

「アイズさんはもう出発するんですよね?」

 

「うん。最初に出発する組に入ってるから」

 

 出発のための準備で忙しかったらどうしようかという僕の心配は、アイズさんの「もう私の準備は終わってるから...」という言葉で解消される。

 なんにしてもよかった。もう出発してしまっていたらどうしようと思っていた。

 

「その、挨拶をしようと思いまして。アイズさんが助けてくれなかったら僕は、僕達は、ダンジョンの中で死んでいた筈です。本当にありがとうございました」

 

「うん」

 

 思えばアイズさんには何度となく助けられている。それをいつか返せる日が来るのだろうか...

 いや()()()なんて言っていてはダメだ。必ず恩を返せるくらい強くなる。そう決意する。

 

「ベル・クラネル!またアイズさんに迷惑をかけて!!アイズさんは今忙しいんです!!!」

 

 急な大声に耳がキーンとなる。

 びっくりして耳を塞いで目を閉じると体が揺さぶられる感覚。

 何とか目を開けると鬼のような形相で僕を揺さぶるレフィーヤさんがいた。

 

「うわ!?...ああ、レフィーヤさんですか。レフィーヤさんは大丈夫だったんですか?」

 

「な!?ま、またそんなことを言って...げんきですよ」

 

 僕を元気に揺さぶっている姿には大きな怪我なんかは無いように見える。

 良かった。

 よく事情は分からないが僕とレフィーヤさんが危機的状況にあったのは確かだったのだから。

 気絶した僕が無事にテントで寝かされていたことから、僕が気を失った後に酷い事にはならなかったんだろうと思っていたがこうして無事が確認できて一安心だ。

 

「そういえば僕が気絶した後何があったんですか?

 あの闇派閥(イヴィルス)って何なんだったんですか?

 あの場所に何かあったんです「五月蠅ああああああい!!!」

 

 安心したら気になることが次々出てきた。

 話を知っていそうなレフィーヤさんに聞こうとしたのだが、余りにも次々聞き過ぎた所為だろう怒られてしまった。

 

「貴方はヘスティア・ファミリアの人間(ロキ・ファミリアの人間じゃない)でしょう!?

 そんな人に何でもかんでも知らせる訳にもいかないくらい分かりなさい」

 

「はい...」

 

 正論だった。

 ぐうの音も出ない正論だった。

 

「ああもう!!そんな顔して。放っておいたらまた無茶するんでしょう!?少しだけ教えてあげます。

 あの後仲間(アイズさん達)が来てあの周辺を調べましたが。

 ()()()()()()()()()()

 

「え...?

 ちょ、ちょっと待ってください、あの...僕達が闇派閥(イヴィルス)を追いかけた先の場所のことですよね!?

 何もなかったってどういう...」

 

「言葉通りですよ。

 何も見つけられなかったんです」 

 

 あまりにもしょげた顔をしていたからだろうか、レフィーヤさんは「無闇に吹聴しないでくださいね」と釘を刺しながらも教えてくれた。

 だけれど、何もなかった!?

 

 そんな訳ない。

 闇派閥(イヴィルス)があれだけモンスターを用意して、あの場所を隠そうとしていたんだ何もない訳がない。

 いや、そもそもあの場所までどうやってモンスターを運んだのか。

 あれだけのモンスターを移動させたのなら何かしらの跡が残るはずだ。

 それも見つからなかったと言うのか。

 

「言っておきますが、これはロキ・ファミリアの精鋭達が総出であの場所を探し回った末に出した結論ですからね。

 あなたが一人であの場所に行って調べたところで何か出てくるわけないんですから止めなさい」

 

「うう...はい」

 

 混乱している僕へとレフィーヤさんが鋭い視線を向けて言う。

 確かにロキ・ファミリアの人達ならば僕とは比べ物にならないくらい斥候(レンジャー)に長けている。

 そんな人達が探しても何も見つからなかったんだ。

 僕が探しに行ったところで何も見つからないどころか、あの場所に行く途中で迷子になるのがオチだろう。

 一分の隙も無い正論だった。

 

「...なんですかその顔は。

 勘違いしないでくださいよ。ロキ・ファミリア(私達)はあそこに何もないと思ったから地上に帰るんじゃないんです。

 なんの備えもなしに探し回った所で何も見つからないと思ったから、一度地上に戻るだけ...」

 

「レフィーヤ。話し過ぎだよ」

 

 レフィーヤさんは話している途中でアイズさんに窘められてしまった。

 しまったと言った顔をするレフィーヤさん。

 

 そうか。

 ロキ・ファミリアの人達は諦めたんじゃなくて更なる調査のために準備をする為に地上に戻るのか。

 なら僕も安心できる。

 

「う、う、うう~...と、とにかく。LV.2になったばかりのあなたの手に負える物ではありません。

 ロキ・ファミリア(私達)のような上級冒険者に任せて、無事に地上に帰ることだけを考えなさい」

 

「分かりました」

 

 尤もな言葉だ。

 それに僕だって身の丈に合わない事件に首を突っ込もうとは思わない。

 今僕が気にするべきは地上に戻るまでの安全の確保だ。

 

「...レフィーヤとベル。なんだか仲良しになった?」

 

「「えっ!?」」

 

「そ、そんな訳ないじゃないですか。こんなスケコマシ、女の敵、変態男と仲がいいなんて。

 アイズさんの勘違いです」

 

「酷い...」

 

「でもちょっと楽しそう」

 

 レフィーヤさんの言葉に頷いていると、アイズさんがビックリするような発言をした。

 レフィーヤさんは全力で否定するが、アイズさんは「これからもレフィーヤをよろしくね?」なんて僕に頼んでくる。

 僕としては同じ冒険者として仲良くしたいとは思っているけれど、この様子を見る限りレフィーヤさんは僕のことを嫌っていると思うんですけど?

 

 だけれどアイズさん曰く照れ隠しをしているだけだそうだ。

 そんなアイズさんの言葉にレフィーヤさんが反論しようとした時、キャンプ地点に笛の音が響いた。

 

「これは...?」

 

「出発の合図だね」

 

 出発の合図。

 それはつまりアイズさん達が地上に帰る時が来たという事。

 今でこそこうしてこうして親しく喋らせてもらっているが、本来ならばLV.2の冒険者()上級冒険者(アイズさん)

 この二つは交わるものではない。

 お別れの時間という事だ。

 

「あの...お気をつけて」 

 

 もっと言いたいことがあったはずだ。

 だけれど僕が絞り出した言葉はあまりにも陳腐な言葉だった。

 

 お気をつけてってなんだ。

 アイズさんを心配できるような身分じゃないだろ。

 心配されるべきは僕の方だ。

 口から出た言葉に後悔していると少し嬉しそうにアイズさんは頷く。

 

「うん...ベルも気をつけてね」

 

 アイズさんが行く。

 その背中は先ほどまで話していた距離と大して変わらないはずなのに、ひどく遠く感じる。

 どれだけ走っても、どれだけ追いかけても、追いつけないような。

 僕とアイズさんの間にある格差を見せつけられたようで少し寂しくなる。

 

「なんて顔ですか、全く。そんな様で私の好敵手(ライバル)のつもり「え?何時から僕レフィーヤさんの好敵手(ライバル)になったんです?」煩いですね。

 私は貴方には負けたくないんです。なら好敵手(ライバル)でいいでしょう」

 

 そんな僕の顔を見れた物じゃないとレフィーヤさんは罵倒する。

 というか何時から僕とレフィーヤさんは好敵手(ライバル)になったのだろうか。

 そんな僕の疑問は全く顧みられず、強引に好敵手(ライバル)と定められてしまった。

 

「...いいですか。一度しか言いませんからね。ありがとうございました。昨日のあの戦い、あなたがいなければ生き延びることは出来なかったでしょう。

 それとごめんなさい。私の振る舞いは礼儀を欠いた物でした」 

 

 呆然とレフィーヤさんの顔を見ていると、レフィーヤさんは頭を下げる。

 何か言わなければならない。

 だが何を言えばいい?

 

 僕の方こそと返すか?

 もうしないでくださいねとくぎを刺すか?

 頭の中がばらばらで考えが纏まらない。

 あ、とかう、とか声の断片を幾つも溢してようやく十分な言葉を口にする。

 

「ありがとうございました」

 

 そう感謝だ。

 ありとあらゆるものへの感謝。

 僕は未熟だ。

 だからありとあらゆるものを吸収して成長できる。

 だけど僕は未熟だ。

 だからありとあらゆるものに先導してくれる先達に感謝しなくてはいけない。

 

 ようやくまとまった言葉を口にした僕を眺め、レフィーヤさんは先に出発するロキ・ファミリアの隊列に入っていく。

 僕はその背中が見えなくなるまでずっと見送った。

 こうして短いようで長かった僕達とロキ・ファミリアの人達との生活は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 という訳でもなかった。

 そもそもさっき出発したのは最初に出発する精鋭と呼ばれる人達だ。

 その後に荷物を運ぶ人達(所謂荷物持ち)や、最初に出た人達以外の人達(所謂二軍)はまだ出発しない。

 そしてその人達が出発するまで、僕達に貸し出されているテントは使っていてもいいそうだ。

 このテント一つでも僕達ではどう頑張っても買えないだろうに、それをぎりぎりまで貸してくれるロキ・ファミリアの人達の太っ腹ぶりには頭が下がる。

 とは言え今日中にロキ・ファミリアの人達は全員出発する予定なのだから、テントの中を整頓しておく必要がある。

 

「戻りました、神様...神様?」

 

 話の途中でテントを飛び出してきっと怒っているだろうなという僕の考えとは裏腹に、テントに戻った僕を迎えたのは誰も居ない空間。

 幾らこの階層が安全階層(セーフティーエリア)と言えども、神様(ヘスティア様)はギルドによってダンジョンへの立ち入りを禁じられた神様(超越存在)だ。

 ふらふらと何処かへ行くような真似はしないはずだが?

 

「神様~?か~み~さ~ま~?

 ...いないな、どうしたんだろう?」

 

 何人も眠れる豪華な広いテントとは言え所詮はテント。

 その中の広さなどたかが知れている。

 幾度となく名前を呼べば当然聞こえているだろうに返事の一つもない。

 テントから出て周囲を探索するべきか?と思っているとテーブルの上に見覚えのない紙が一枚置いてあった。

 

「大変だ!」

 

 それを拾い上げ読むと同時に僕はテントから飛び出す。

 手紙にはこう書かれていた

 

リトル・ルーキーへ。お前の大事な女神様は預かった。返してほしくば一人で中央の大樹の真東。一本水晶まで来い

 

 本当ならロキ・ファミリアの人達かそれともヴェルフにでも相談するのが賢いのかもしれない。

 神様を攫った奴らがいったいどんな奴らかは知らないが、(超越存在)を傷つけるのはこの地上で最も重い罪だ。

 それこそ灰さん達でもなければ、おいそれとは犯さない罪。

 そんな罪を犯すとは思えなかったけれど、それでも一人で来いと書かれていたんだ。

 万一の可能性があるのならば僕はそれを恐れる。

 

 なんて言うのは後から付け加えた道理で。

 僕の頭の中は手紙の文面を見た時からずっと真っ白だった。

 

「はぁ、はぁ...大樹の真東...あれが一本水晶か」

 

 がむしゃらに走っていれば大きな水晶が地面から生えているのが遠くからでも見えた。

 そしてその近くに人が集まっているのも。

 あれが犯人の指定した一本水晶だろう。

 

「...待っててください神様。今行きますから」

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

「おう、リトル・ルーキー来たか。どうやら約束通り一人みたいだな?」

 

 大樹の根を登り屯っている人達をかき分けたどり着いた先に待っていたのは厳めしい顔つきの男。

 モルドだった。

 

「神様は」

 

「安心しろ。幾ら俺だって女神様に手を出すほど罰当たりじゃねえ。お前の女神様は無事だ」

 

 睨みつける僕に対して「怖い、怖い」とおどけるようにしてモルドは安心するように言う。

 やはり神様に危害を加えるまではするつもりはなかったらしい。

 

 だが、出発が近くてバタバタしていたとはいえロキ・ファミリアのキャンプ地点に忍び込み、神様を攫ったんだ。

 どう考えてもこのまま神様を返すという事はないだろう。

 それにモルドにロキ・ファミリアの人達の目を欺けるほどの技術があるとも思えない。

 何かカラクリがあるはずだ。

 気を抜くことは出来ない。

 

「それで?僕に何をさせようと?」

 

「大したことじゃねえ。俺はお前が気に食わない。お前も俺が気に食わない。

 冒険者ならやることは一つだ。

 決闘だ!!

 俺が勝ったらお前の身ぐるみ(装備)ひっぺはがしてやる」

 

「...じゃあ僕が勝ったら神様は返してもらいます」

 

 モルドは宣言する、一対一の戦い(決闘)だと。

 今僕達を囲んでいる人達がモルドを止めようとしないという事は、この人達もモルドと一緒(僕が気に食わない)という事だ。

 これだけの数に襲い掛かられたら流石に勝ち目はない。

 それを思えば僕にとっても都合がいい。

 ...一対一(決闘)という宣言がどこまで信じられるかは別の問題だが。

 

「だが勘違いすんなよ。今から始まるのは戦いじゃない。

 生意気なお前を嬲る見世物(ショー)だ!!」

 

「っ!...!?」

 

 僕が武器を構えると同時に大振りの一撃が飛んでくる。

 それを避けた僕は驚愕した。

 攻撃してきた相手(モルド)がいない。

 

 馬鹿な。

 確かに回避のために目を離した。

 だがそれは一瞬だけだ。

 到底どこかに隠れる時間など無かった。

 いやそもそも今僕がいるこの場所は開けたステージの様な場所。

 隠れるところなど、どこにもない。

 

「ど、どこに隠れた!?「こっちだ間抜け」ぐっう...!?」 

 

 背後(後ろ)頭上()も確認すしたがその姿は見つからない。

 周囲をどれだけ探してもどこにもモルドの姿はない。

 まさかこの場所から飛び降りたのだろうか。

 そんなありえない考えが頭をよぎると同時に()()()()()モルドの声がする。

 考えて動いたわけじゃない。

 体に染みついた反射で攻撃を防ぐ。

 

「へっ!流石はリトル・ルーキー様ってか!?」

 

(ありえない!?何もない所から攻撃されている!?)

 

 受け止め、弾き、避ける。

 何処にもいないはずのモルドからの攻撃をいなした僕は跳躍して距離を取る。

 追撃は無かった。

 どういうことだ。

 僕の視界の外(死角に潜んでいる)からの攻撃、などという領域ではない。

 確かに何もない目の前から攻撃を受けた。

 

 僕が困惑していても関係ないとモルドの声と攻撃は止まない。

 見えもしない攻撃にどう対応すればいい!?

 

(落ち着いて、焦らず相手の攻撃を避けることだけ考えなさい)

 

 昨日レフィーヤさんに言われた言葉がパニックになりかけた頭を落ち着かせる。

 そうだ一度避けられたんだ、もう一度できない道理は無い。

 

「どうした、どうした!?避けてるだけじゃあ俺は倒せないぞ!!」

 

 避ける、避ける、避ける、避ける。

 モルドの攻撃は土を巻き上げ、水晶(クリスタル)を砕く。

 だが僕を捉える事はない。

 姿が見えないという事で焦っていたが、落ち着けば見えないだけ、なんてない攻撃だ。 

 灰さん達との訓練の方がよっぽどつらい攻撃が飛んでくる。

 とは言えどうするか。

 モルドの言う通り避けていた所で相手を倒すことは出来ない。

 

 攻撃を避けて反撃する?

 何処にいるのかもわからない相手に?

 下手に攻撃すればそれこそ手痛い反撃を受けるだろう。

 戦う時は相手の動きをよく観察して動きを見切ってから攻撃をしろ、というのが灰さん達の教えだ。

 だが相手の動きが、いや相手が見えないときはどうしたらいいんだ。

 

「...」

 

 何かが気になる。

 喉の奥に骨が刺さったような違和感。

 一体何に引っかかっていると言うのか。

 

「糞が!!見えねえ攻撃がどうして当たらねえ!?」

 

 僕が攻撃を避け続けたことに焦れたモルドが吐き捨てる。

 ...当たらない? 

 そうだ確かに僕はさっきからずっと攻撃を避け続けている。

 だけれど、どこから来るか分からないはずの攻撃をどうして避けられる?

 

 意識する。

 自分の体を、自分の体の動きを、無意識に任せていた回避を意識する。

 攻撃の前兆は無い。

 否、感じる。

 敵意を、モルドの足音を、武器が切り裂く空気の音を。

 

 そうか。

 見えないことばかりに意識が行っていた。

 だけれど姿が見えないだけ。

 消えてしまったわけではない。

 見えなくても確かにそこにいるんだ。

 ならばやりようはある。

 

 攻撃を避けた動きに紛れさせて、気がつかれないようにモルドが砕いた水晶のかけらを拾う。

 迫ってくる敵意。

 聞こえる地面を踏みしめる音。

 そしてモルド自身の声。

 間違いない。

 モルドはそこにいる。

 

「いつまでも逃げられると思って...ぐわ!!」

 

 手の中に隠した水晶(クリスタル)のかけらを顔があるだろう場所に投げつける。

 どうやら命中したようだ。

 うめき声と怯んだような気配。

 

「てめえ...よくも...ガッ!!」

 

 息を吸い、息を止める。

 大きく踏み込み拳を叩きつける。

 

 狼さんから習った仙峰寺拳法『拝み連拳』だ。

 尤も未熟な僕では一発撃つのが精いっぱい。

 連拳というよりも拝み拳とでも言うべきものでしかないが。

 

 だがその威力は折り紙付き。

 狼さんとの訓練で幾度となく叩き込まれた僕にはわかる。

 拳から感じる感覚からして狙い通り腹に入った一撃は、しばらくの間動くこともままならなくなるのに十分な一撃だ。

 

「僕の勝ちです。さあ神様を返してください」

 

 倒れこむ音を頼りにモルドを探せば奇妙な手ごたえがあった。

 それを引っ張ると目の前にはモルドが現れ、僕の手の中には黒い兜が現れた。

 これがモルドの姿が見えなかったカラクリの種だったようだ。

 ヘルムを投げ捨て、僕の拳を受けた所を抑え悶絶するモルドへと武器を突きつけ勝利を宣言する。

 

「おいおい」「勝っちまったぞ」「ど、どうする」

 

「ざまあねえな!!」「流石はベル殿です!」

 

 周囲からどよめきと歓声が上がる。

 聞き覚えのある声に視線をやれば、ヴェルフと桜花さん達がいた。

 どうやら僕の後を追ってきたようだ。

 

「てめえ...」

 

「“べる”殿危ない!」

 

「なっ...」

 

 九郎の叫びに後ろを振り向けば。

 ヴェルフ達に気を取られた隙にモルドが起き上がっていた。

 その手には武器が握られている。

 この短時間で回復したのか!?

 

 不味い。

 この距離じゃ避けるのも間に合わない。

 せめて急所だけでも防御して。

 そう思った時だった。

 

止めるんだ。子ども達、それ以上はもう止めなさい

 

 凄まじい威圧と共にすべての人物の行動を静止した存在がいた。

 その圧に僕もモルドも、それ以外の人物も動きを止めて視線を向ける。

 小さな体にいつもは二つ結びにしている美しい髪をほどいた神様がそこにいた。

 

 感じるのは神威。

 神様(超越存在)のみが発する神の気配とでも言うべきもの。

 神様の存在がばれないようにと抑え込んでいたそれをいつもの様に、いや、いつも以上に発しながら神様は命じる。

 

「「「う、わああああ~」」」

 

「ちょ、ちょっと待て。置いて行くな!!」

 

 最早ただの威圧だけに終わらず()()()()()すら感じるそれは、(モルド)が倒されて士気が落ちていたモルドの仲間達が逃げ出すには十分すぎる物で。

 気がつけば人数差が逆転したことにモルドも仲間を追いかけ逃げていく。

 

「ふぅ...」

 

「神様!!無事でしたか」

 

 息を吐き神威を納めた神様に駆け寄る。

 自分で立って歩いているから大怪我をしている訳でもないのだろうが、心配は心配だ。

 

「ベル君!君こそ無事かい」

 

「...なあにが「君こそ無事かい」ですか。リリがいなければ今でも捕まったままだったでしょうに」

 

 駆け寄った僕を神様は抱きしめる。

 先程までの超越存在的な空気はどこかに行ってしまったようで、何時も通りの神様だ。

 何とかして神様の抱擁から抜け出そうとしていると、やさぐれた様にリリが吐き捨てる。

 姿が見えないから心配していたのだけれど、どうやら捕まっていた神様を助け出してくれたようだ。

 

「まあ、何にしてもこれにて一件落着、という奴ですな」

 

 神様とリリに挟まれていると、いつの間にかいた九郎が笑いながら言う。

 その言葉に僕達の間に安心した空気が流れていく。

 神様は助けた、犯人は倒した。

 これでこの騒動は終わりだと思った時だった。

 

 グラグラグラグラ

 

 凄まじい揺れが僕達を襲った。

 咄嗟に神様とリリを庇う。

 揺れはしばらく続き、唐突に終わる。

 

「さっきのは...?」

 

「嫌な揺れだ」

 

 みんなに怪我がない事を確かめ、周りを見る。

 リューさんがフードの上からでも分かる位に顔を顰めていた。

 

 ダンジョンというのは地下にある大穴だ。

 ならば揺れというのはダンジョンに何かあったという事だが、ここは18階層(安全階層)だ。

 そうそう何かが起きることなどないはず。

 だが何が起きたと言うのか。

 

「お、おい...あれ...」

 

 周囲を見渡していたヴェルフが上を指さす。

 何か空中にでも飛んでいるのかと思った先には何もない。

 いや、空中のその先、天井にそれはいた。

 

 真っ黒な大きな体を折り畳み。

 まるで座っているかのような体勢で天井から生えている。

 いや、あれは産まれているのだ。

 モンスターがダンジョンの壁から生まれるように、17階層の壁(嘆きの大壁)から生まれるように。

 

「ふざけろ...」

 

 あまりの光景にヴェルフが漏らした言葉は僕達皆の心境を表していた。

 

「ウオオオオオオオオオオォォォ!!!」

 

 ()()は周囲の水晶(クリスタル)を巻き込みながら生まれ落ちる。

 地響きと共に地面を踏みしめ凄まじい咆哮と共に空気を揺らす。

 その黒い体は通常の種ではなく強化された特異な存在(強化種)であることを示す。

 あえて名を付けるのであれば【漆黒のゴライアス】

 

 17階層階層主の強化種が18階層に降り立った。

 

 

 

 

 

 




どうも皆さま

私です

おかしいですね
予定ではゴライアスを倒す所まで行くはずだったのに...だったのに

うんまあ何時もの無駄に長くなる病が発病しました
出来ればこの週末にもう一度更新する予定です
お待ちいただければ幸いです

まだGWの予定の半分しか書き終わってないって本当...?

それではお疲れさまでしたありがとうございました
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