忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編 作:noanothermoom
上中下と三つに分かれました
という事で前書きはお休みです
すいません
誤字脱字報告いつもありがとうございます
SIDE アスフィ・アル・アンドロメダ
「あれは一体何ですか...」
ダンジョンが揺れ、階層主の強化種が現れた。
それもこれまで一度もモンスターが生まれなかった18階層に。
【
稀代の
「ダンジョンは憎んでいる。
こんな所に閉じ込めている
「...まさか先程の女神ヘスティアの神威がこの事態の原因と!?」
常の様に肝心なことを言わず煙に巻くような言動をする
何故こんな事態に陥ったのかの答えは与えられなかった。
いや与えられはしたが、アスフィの望むものではなかった。
そのことに不満や不平を漏らす暇はない。
今こうしている間にも
何より
どうにかしてあのモンスターを倒さなければならない。
「ヘルメス様」
「何かな」
「最後に一つだけ。貴方はこの事態を予測していましたか?」
「していなかった。と言って信じるのかな?」
「...もういいです」
アスフィはLV.4の冒険者である。
しかしながら
何より相手は未知のモンスター。
無事に帰ってこられると確信など出来ない。
だからこその最後という言葉だったのだが、それでもなお
何故このような神に仕えてしまったのか。
僅かばかり嘆息しアスフィは戦場に向かう。
生き延びる為に、蹂躙される冒険者の為に、何より主の為に。
たとえどれだけ悪態をついたところでヘルメスは恩神であり、主神なのだから。
「帰ったら思いっきり引っ叩きます」
18階層を走り抜けながら小さく呟く。
その程度のことはしても許されるはずだと。
未知の敵を前に
或いはそれこそが
SIDE ボールス・エルダー
ボールスはリヴィラの街の顔役であり、冒険者である。
それ故多くの経験を積み、ダンジョンの中で理不尽な出来事に遭遇してきた。
リヴィラの街にとって
街から地上に向かうにしろ、地上から街に向かうにしろ、ゴライアスが復活する二週間ごとに流通が途絶えるのだから邪魔で邪魔で仕方がない。
例えば今回のロキ・ファミリアの遠征隊の様に、どこかのファミリアが遠征するのであれば道すがら倒してもらえるのだが、そうそう遠征は行われるものではない。
かといって放置しておけば流通が途絶えリヴィラの街は枯れてしまう。
その為リヴィラの街の住人は定期的にゴライアスを狩るようにしている。
無論ボールスもその狩りに幾度となく出てきた。
しかしながらその日18階層を襲ったゴライアスは
良く知るモンスターでありながら、否良く知るモンスターであるからこそ
何故17階層の階層主であるゴライアスが
あのゴライアスは
幾度となく死線を潜り、戦い続けた経験豊富な
だがダンジョンの悪意はそれを許さない。
ゴライアスの出現と同時に18階層のあちらこちらで暴れ始めた
一体何処にこれだけ隠れていたのかと思わざるを得ない数に襲われながらも、どうにか17階層へ続く道の近くまで来たボールス達へとアスフィは告げる。
「17階層への道は落石で閉ざされている」と
18階層が
人の想像を上回るような事態が起きたり、或いはダンジョンの異変によって道がふさがれるようなこともしばしばある。
だからこそ道がふさがれているだけならば問題はない。
ボールスも、皆も、落石ぐらいなら時間があればどかせるだろう。
だがゴライアスと
「畜生が...
はっ。結局あいつを倒しゃあいいんだろ。
てめえら!あのバケモンとやりあうぞ。
街にいる奴ら全員武器を取れ。
今逃げたやつは二度とリヴィラの街の土を踏ませねえぞ!!」
あともう少しで逃げられると言う所で希望を奪われ、流石のボールスも悪態をつく。
だがすぐに気を取り直し、仲間を鼓舞し、戦いの準備を始める。
彼らはリヴィラの街の住人。
最も美しいならず者の街、ダンジョンに出来た楽園、冒険者の街の住人なのだ。
たとえどんな肩書を得ようとも、どんな立場になろうとも、彼らが
SIDE 桜花
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「やあああ!!」
桜花と
そこいらの丸太位ならば容易く両断しうる斬撃であり、見る者があればその領域に達するまでひたすらに鍛錬を繰り返したことへの賛辞を送っただろう。
だが相手が悪い。
二人が切りかかったのは18階層に生まれ落ちた
丸太を両断できる斬撃であろうとも、大木にすら勝る太さの足が相手では分が悪い。
それでも二人は切りかかることを止めない。
タケミカヅチ・ファミリアの団長カシマ・桜花は不器用な男だ。
いや、事実がどうあれ桜花自身はそうであると思っている。
だからこそ自分に出来ることなど、守りたいものよりも前に出て戦うことぐらいだと自身が傷つくことも厭わずに戦ってきた。
それはモンスターとの戦いだけでなく、
仲間である千草の命を助ける為に【
事実相手のパーティの
敵意を向けられることに反論はない。
それは彼らの持つ正当な権利だから。
自分の行動に後悔はない。
自分の出来る限りのことをしたのだから。
自分の在り方を変えようとも思わない。
どれだけ取り繕おうと自分は自分でしかないのだから。
だが
為すべきことをなした、と。
救われた、などと言わない。
自分の行いは自分が望んでしてきたことなのだから。
助かった、などとも言わない。
むしろ責められた方が気が楽になるのだから。
ただ、認められたのだ。
それでよいと受け入れられたのだ。
ならば奮わねばならない。
善しとされたあり方を歪めてはならない。
【
ここで奮わねばいつ奮うと言うのだ。
SIDE リュー・リオン
だがそれはパーティのリーダーとして間違えた判断だ。
どれだけの
しかしながら彼の想いに感化されたかその場に立っていた者は皆、その無謀を諦めるつもりは無いようだった。
ならば自分もそれに手を貸そう。
パーティのリーダーとしては間違えている。
だが、その選択は人として正しいのだから。
その選択を迷うことなく取れるベル・クラネルも、その選択に迷いなく従う彼の仲間達も、良い人達だ。
一度は捨て去った正義を再び握りしめ、誰かを守るために武器を持とう。
その為の力を求め続けたのだから。
「ゴウオオオオオオオ」
「させねえよ。【燃え尽きろ、外法の業】ウィル・オ・ウィスプ!!」
(あれがクロッゾの魔法。なるほど、実力差に関係なく相手に大打撃を与えうると言う点では劣勢をひっくり返す切り札足りえますね)
冒険者達を一掃しようとしたゴライアスのブレスはヴェルフ・クロッゾの魔法によって
「グオオオオオオオオォォォ」
「まずい!!」
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
だが、
むしろ魔法を使ったヴェルフを標的に定め踏みつぶさんと大きく足を振り上げる。
それを止めたのはリューの斬撃だ。
助けられたヴェルフはすまんと感謝の言葉を口にしたが、リューは焦っていた。
階層主というのはある例外を除き、全て決められた階層で生まれ、その階層から移動しない。
いや、例外の階層主とて生まれるのは常に同じ階層だ。
だがこのゴライアスは産まれるべき場所とは違う階層で生まれ落ち、しかもその体は普通の個体と違い漆黒に染め上げられている。
同じようなモンスターであったとしても色が違うのであれば、それは多くの場合強化種であることを示している。
つまりは普通の個体でないことは最初から分かっていた。
それでもなお漆黒のゴライアスの戦闘力には驚愕せざるを得ない。
(強化種であろうことから通常個体よりも強いだろうことは想像がついた。
だがなんてことだ。下手をすればLV.5にすら届きうる!)
中層に出てくるモンスターの強さではない。
当然
ならば自身が相手取るしかない。
だが通常のゴライアスでさえ大規模な討伐隊を結成し戦うのが定石だ。
強化されたこのゴライアス相手に現役を退いて久しい自分一人でどれだけ戦えるか。
「リオン、援軍です。今から街の魔導士たちが詠唱を始めます。このままゴライアスを引き付けていてください」
「分かりました。貴方と私で敵を引きつけますよ」
不安に思っていた所に援軍の知らせを受け戦意が再び湧き上がる。
自分は一人ではない。
仲間がいることは良いことだ。
そのことを噛みしめていたリューにアスフィの抗議の声は届かなかった。
SIDE ベル・クラネル
18階層にある森の木々が小さく見えるほどの巨体。
生れ落ちた
「武器なら幾らでもある。使えなくなったのはすぐに交換しろ!!」
武器を手に持った冒険者達が無謀とも思える突撃を繰り返す。
相手にダメージを与えることを目的とした物ではなく、相手の足を止める為に全力を注いで突撃するのだ。
「魔法が使えなくても、兵器なら使えるだろ。こっちにあるから使える奴はどんどん使え!!」
そうしてゴライアスの動きが鈍った所に、大きな
だがそれでもゴライアスは倒せない。
これだけの攻撃でありながら、あくまで狙いは時間稼ぎ。
後衛の人達が魔法の詠唱を完成させる時間を稼ぐのだ。
まるで濁流に飲み込まれたかのように僕は戦いの波に飲まれそうになっていた。
何が出来るだろう。
僕一人の力なんてこの戦場においてどれだけの物だろうか。
「幾らでもできることはあるだろう!?」
心の中に生まれた怯えを振り払う。
ゴライアスの足を止める前衛となってもいい。
前衛へと武器やポーションを運ぶ足となってもいい。
いや、敵はゴライアスだけじゃない。
迫りくるモンスター達を倒してもいい。
やるべきことは幾らでもある。
走る、走る、走る。
戦場をひたすらに走る。
ゴライアスを相手にしていた人を後ろから襲おうとしていたモンスターを倒す。
モンスターの攻撃を受けてしまった人を運んで後ろへと下がらせる。
ゴライアスと戦っている人達へと武器を運ぶ。
無我夢中で働く。
モンスターに倒された冒険者の悲鳴ははっきりと焼き付いているのに、いったい今何をしているのかは霧の中にいるかのように見えない。
ゴライアスと戦い始めてどれだけ経ったのか。
何時間もこうしているような気もするし、まだ数十秒も経っていない気もする。
まるで悪夢の中にいるように時間が分からない。
「よぉし、前衛下がれぇぇっ。とっておきをぶち込んでやる」
だけれど戦場に声が響く。
待ち望んだ詠唱の終わりを告げる声が。
「打ちやがれぇぇ!!」
前衛が下がったを確認してからかけられた号令と共に、魔法が放たれる。
火が、雷が、氷が。
数多くの魔法がゴライアスへと突き刺さる。
「ゴアァァァァ...」
「今だ。一気にケリをつけてやれ!!」
流石のゴライアスも弱り、膝をつく。
それを見て突撃の号令がかかる。
今こそがこの戦いを終わらせる絶好の機会だと。
先程まで後ろにいた人たちも武器を手に前へと出る。
僕もゴライアスにとどめを刺すべく前に出たのだが、様子がおかしい。
魔法によって膝をついたゴライアスの体中から煙が出ている。
「なっ...」
今までにない行動にみんなの動きが止まる。
その間にもゴライアスから湧き出る煙の勢いは激しくなるばかり。
そしてゴライアスが立ち上がったことで僕達は激しく動揺する。
魔法を受けて立ち上がるだけの力も失ったはずのゴライアスが立ち上がったこともその理由の一つだが、最大の理由は立ち上がったゴライアスには傷が無かった事だ。
「ふざ...けんなよ...」
「自己...再生...!?」
ヴェルフが与えた口周りの傷も、ゴライアスを足止めする為に付けられた足の傷も、
「ゥゥウウウ....オオオオオオォォォッ!!」
与えた傷をすべて回復されてしまった。
あまりにも絶望的な事態に僕が、いやすべての冒険者が呆然とする中、ゴライアスは両手を組み地面へと振り下ろした。
技も狙いもあった物じゃない、ただ身体能力によるゴリ押しの攻撃。
だがそれは防ぐにはあまりにも強大で、避けるにはあまりにも広大で。
とどめを刺そうと接近していた冒険者達はなすすべもなく吹き飛ばされる。
最悪だ。
戦線は一瞬で崩壊した。
ゴライアスに与えた傷は回復された。
それでもこの戦場では誰一人諦めない。
「クラネルさん。モンスターをお願いします。私達は再びゴライアスを引き付け魔法の詠唱時間を稼ぎます」
リューさんは僕に露払いを頼んでゴライアスへと突っ込む。
「立てる人はこちらへ。立てない人は声を出してください。
リリは負傷した人達を後ろに下げて回復させようとしている。
「うおおおおおおおお!!」
桜花さんは盾を装備してゴライアスの攻撃を何とか弾いている。
誰も彼も自分に出来ることを精一杯している。
なら僕の出来ることは何だ。
自分の手のひらを見つめる。
...一つだけこの状況をひっくり返す手段はある。
僕のスキル
それは攻撃を
このスキルで
そうすればあのゴライアスにも届くだろう。
それをしなかったのには二つの理由がある。
一つは
一発使えばもう魔法は使えないだろう。
もう一つは本当に
倒せればそれでいい。だけれど倒せなければ?足を引っ張るだけだ。
だけれど皆が最善を尽くしている。
なら僕も出来ることをしなければならない。
想う姿は灰さん。
全てを穿ち、全てを貫く魔法の使い手。
灰さんの使う火の魔法を。
僕の手が光る。
溜めが完了した証だ。
手を前にしてゴライアスへと狙いを付ける。
「ファイアボルトオオオオォォォ!!!」
僕の手から放たれた魔法はゴライアスの頭を吹き飛ばした。
やった!?
そう思った時だった。
何人もの僕を呼ぶ声が聞こえた。
そして目の前には僕に迫りくるゴライアスの手のひらが。
これ...避けられな...
「...くん...ベルく...ベル君!!」
神様の声が聞こえる。
僕は...ゴライアスの攻撃を受けて...。
目を開けた、いや目を開けようとした。
だが目が開かない、それどころか僕の意識も暗い闇に沈んでいくのを感じる。
「ベル君!!ベル君!!気をしっかり持つんだ、ベル君!!」
ああ、ごめんなさい神様。
僕を呼んでくれるその声に応えたいのに起き上がれないんです。
何とかして起きようとする僕の意志に反して、ゆらゆらと水に沈んでいくように僕の意識は闇に呑まれた。
SIDE ヴェルフ・クロッゾ
「糞が...」
小さく吐き捨てる。
ベルはこの土壇場で隠していた切り札を使い戦況をひっくり返した...かに見えたが、ゴライアスはその攻撃に耐え切った。
更には頭を失いながら反撃し、ベルはそれを食らった。
幸い
リリスケはそんなベルを必死に介抱し、それ以外の奴らは必死に戦っているがそれでも現状は厳しいと言わざるを得ない。
いや、包み隠さずに言えば最悪と言っていい。
戦況をひっくり返した
たとえその攻撃が見た目ほど効いていなかったとしても、もう一度ベルに攻撃をさせる為に団結できたはずだ。
だがそのベルは倒れた。
戦場で戦う冒険者達がどこか弱気なのは、ベルが倒れたことと無関係ではないだろう。
「ふざけんなよ...俺は...」
最悪だ。
何が最悪だって、俺自身がベルが倒れたことで戦意が折れかけていることだ。
装備は冒険者を裏切っちゃなんねえ。
それが俺の信念のはずだ。
だから冒険者よりも先に武器が壊れるなんて認められない。
だから魔剣なんて認められない。
そう誓ったはずだ。
だがあの時
魔剣なんて使いたくない。
それは仲間の命と秤にかける価値のある想いか?
魔剣を受け入れるなんて俺の
それは仲間と秤にかける価値のある誓いか?
魔剣を使ってしまったら俺は魔剣によって腐っていった奴らと一緒になる。
お前の
相反する二つの考えがせめぎあう中、俺は自分の手の中にある俺の打った魔剣を強く握りしめる。
それがこの魔剣だ。
俺がかつて打った魔剣。
これが俺が打つ最後の魔剣にするとあの時誓ったはずだ。
だが使わなかったことで助けられなかったベルの姿を見ればその意志も揺らぐ。
魔剣に巻かれていた布に紛れていた手紙。
その中には俺に宛てたヘファイストス様からの言葉が書いてあった。
「仲間と矜持を秤にかけるのは止めなさい」
ああ、実に正しい言葉だ。
この言葉を素直に受け入れていればベルの奴を救えたのか?
なあヘファイストス様。
あんたはこうなることを分かってたのか?
八つ当たりだとは分かっている。
それでも思わず自分の内で荒れ狂う感情の矛先を向けちまう。
「ベル君!!
ベル君が目を覚ました!!」
そんな時だった。
戦場にベルを介抱していたヘスティア様の声が響いたのは。
SIDE ベル・クラネル
暗い世界に意識が沈んでいく。
先程まで聞こえていた神様達の声ももう聞こえない。
ああ...僕は...ここで終わりなのか。
悔しい。
あんなに頑張ったのに何もできなかった。
神様を守りたかった。
灰さん達にもっと鍛えてほしかった。
挙げればきりがないほど後悔はある。
だけれど僕は負けてしまった。
ここで終わりだ。
「負けたら終わり?
違うな諦めた時が終わりだ」
...声がする。
聞きなれた声。
灰さんの声。
「負けたらもう一度挑めばいい」
「立ち上がれるのなら終わりじゃないんだ」
灰さんの言葉がどこかで聞いた言葉と被る。
「...こうして献身の英雄は強大な王を倒しました」
そうだ。
何時か聞いたおじいちゃんのお話。
「おじいちゃん。どうして献身の英雄さんは一度負けたのに立ち上がれたの?」
「ベル。
ただ何度でも立ち上がり己を懸けることが出来たものが英雄と呼ばれるのだ」
それは幼い日の思い出。
思い出の中のおじいちゃんは僕を真っすぐに見て笑っていた。
「お前はもう諦めてしまったのか?」
「...違います」
暗闇に焚べる者さんが現れ訊ねる。
違う。僕は諦めていない。
「最早立ち上がれないか?」
「違います。立ち上がれます」
暗闇に狼さんが現れ訊ねる。
違う。僕の体にはまだ立ち上がるだけの力が残っている。
「お前の守りたかったものはもう手のひらから零れたか?」
「違います。まだみんな必死に抗っています!」
暗闇に狩人さんが現れ訊ねる。
違う。
「そうか。なら行け。行って守ってこい。」
「はい!!」
最後に現れた灰さんが嬉しそうに僕の背中を押してくれる。
僕は行く。行って戦う。
体が軽い。気持ちが軽い。
負ける気がしない。
「英雄というのはなベル。守れた奴のことを言うんだ。
お前が守りたいものを守れたのなら、それだけでお前は俺達を超えた凄い英雄なんだよ」
いつの間にか暗闇に差していた光の方へと歩き出すと背後から灰さんの声が聞こえる。
悲しそうな、だけれど少し嬉しそうな声。
それはきっと
もう終わってしまった事。
もうどうしようもない事。
だけれど。
だけれど。
「灰さん達のおかげで立てたんです。
灰さん達がいなかったら立てませんでした。
だから僕にとって灰さん達は...」
言わなくてはならない。
そう思って、考えるよりも先に口から飛び出した言葉を最後まで紡ぐ前に僕は光に飲み込まれる。
最後に見えた灰さん達はとても満足そうな笑みで僕を見送っていた。
意識を取り戻すと同時に
今はもう何があったのかも思い出せない。
だけれどこの胸に灯った火は消えない。
「ベル君...?
ベル君!
ベル君が目を覚ました!!」
僕を介抱してくれていたのだろう。
ぼろぼろの神様が目を見開き僕を抱きしめる。
こんなに心配をかけてしまった。
罪悪感で心が痛む。
「ベル!?」「ベル様!!」「ベル!!」「“べる”!」「ベル・クラネル」
ヴェルフが、リリが、リューさんが、九郎が、アスフィさんが、神様の声に反応してやってくる。
「ベル・クラネルが!?」「【リトル・ルーキー】が起きたってよ!」「マジか!?」
いやそれだけじゃない。
たくさんの人が、リヴィラの街の住人達が僕が目覚めたことに歓声を上げる。
「うぐっ!」
「ベル君!?あの黒いゴライアスの攻撃をまともに食らったんだ。立ち上がるなんて無理だ!!」
立ち上がろうとして全身に走った苦痛にうめき声をあげる。
神様が急いで寝かせようとするのを手で制止して僕は無理やりにでも立つ。
体は痛んでいても、心は折れていない。
なら立てる。立ち上がれる。
「...という訳なんです。今から5分...いや3分でいいです。時間を稼いでくれますか」
僕は集まってきた人達に話す。
僕のスキルの効果を。
もう一度魔法を
そしてその時間を稼いでくれないかと頼む。
返事はない。
やはり一度失敗した僕が言っても信用してもらえないか。
それでもいい。
例え誰にも賛同してもらえなくても、僕一人だけでもゴライアスと戦おう。
そう僕が決めた時だった。
「...なんだ簡単なことじゃねえか。お前ら死ぬ気で時間を稼ぐぞ!!」
「「「「おおおっ!!」」」」
片目を眼帯で覆った冒険者が叫ぶ。
僕を囲むようにして話を聞いていたリヴィラの街の住人達は、腕を突き上げ、武器を掲げ、その言葉に応える。
「全く、ベル君は全く」
「ごめんなさい神様。だけれど僕いかなくちゃ...」
「知ってるよ。帰ってきたらお説教だからな。
...だからちゃんと帰ってくるんだぞ」
あっさりとゴライアスの足止めを引き受けてくれたことに驚いていると、神様は僕に怒る。
そして、待っているからねと言って千草さんと一緒に桜花さんを担架に乗せて後ろに下がっていく。
「ベル様、これを」
「どうしたのリリ。こんな立派な武器」
「リヴィラの街の武器屋にあったのを貸していただいたものです。
お礼なら御自分でおっしゃってくださいね」
後ろに下がる神様について行く前にリリは僕に大きな黒い大剣を渡す。
聞けばリヴィラの街の住人が貸してくれた物だとか。
ちゃんと自分の手で返してくださいね。
そう言ってリリは神様の後を追っていく。
「貴方は不思議な人ですね」
「リューさん」
「誰もが貴方を仰ぎ見る。そして貴方から勇気をもらうのです。
...もちろん私も」
眩しい物を見る様な、懐かしい物を見る様な、失ってしまった物を見る様な目でリューさんは語る。
必ずや時間を稼いで見せましょうと言ってリューさんは駆けていく。
「...あー、ったくもう!!
えっとだな、なんだ...」
「ヴェルフ?」
「なぁベル。お前は俺の作品のファンだ。そうだな?」
「うん。当たり前だよ」
何か悩んでいるようなヴェルフは頭を掻きむしり、迷いながら、だか決断したように僕に話しかけてくる。
僕はヴェルフの作品が好きだ。
使いやすくて、使う人のことを考えていて、それに壊れにくい。
ヴェルフの
「そっか...
なあベル。俺はお前に命を預けてる。だけどこれからは俺の矜持も預かって欲しい」
僕の答えを聞いたヴェルフはどこかすっきりした顔で僕の胸を叩く。
もしも俺が鍛冶師としての道を間違えた時は殴り倒してでもそのことを教えて欲しいと言って、ヴェルフもまた戦場へと走っていく。
「みんな僕を信頼してくれている...」
皆が戦場に向かうか、安全な所まで下がるかして、一人になってしまい僕は小さく呟く。
誰も僕の言葉を疑わなかった。
その信頼は少しだけ重い。
だけれど僕にはその信頼に応える義務がある。
信頼に応えたい理由がある。
「きっと倒す」
気合いを入れなおし、黒い大剣と共に僕も戦場へと向かった。
「ここが最後だ!!出し惜しむな全部出していけ!!」
「【フツノミタマ】!!!」
「【ルミノス・ウインド】!!」
「お前らどけぇ。でかいのが行くぞ!!火月!!!」
皆が奮戦してくれている。
リヴィラの街の住人たちは持てるアイテムを、兵器を、そして装備を使い捨ててまでゴライアスの足止めをしてくれている。
無理やり魔法の範囲から逃れ、暴れようとしたゴライアスをヴェルフが
僕の攻撃の為の時間を稼ぐ為に、僕の言葉を信じて必死に時間稼ぎをしてくれている。
ならそれに応えなければならない。
ゴォン ゴォォン
18階層に響く鐘の音を聞いていると、ふと灰さんの話してくれた伝説を思い出した。
灰さんのいた所に伝わる古い伝説。
古すぎて今ではそれが一体何を示しているのかもわからない物語。
世界から否定された呪われた人物と、鳴らすことでその人物の為すべき使命が分かる二つの鐘の物語。
この音がその鐘の音だとは言わない。
だけれど今の僕には為すべき使命がはっきりと見えている。
「どいて下さぁぁぁぁぁい!!」
叫び走り出す。
僕の叫び声に反応してゴライアスと戦っていた冒険者達が離れる。
自由になったゴライアスが僕に向かって突っ込んでくる。
「てやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
僕の
目も開けられない程の光。
目の前にいるはずのゴライアスの姿も、いや僕の手も見えない程の光の中僕は確かな手ごたえを感じた。
「はぁ、はぁ、はぁ...」
光が収まり
疲れた、立っているのもやっとなくらい体が重い。
だけれどまだ終わっていない。
「馬鹿な...」
「あれでも足りない...だと...」
その中央でゴライアスは
頭を吹き飛ばしても、上半身を蒸発させても倒し切れないゴライアスの姿に恐怖が広がっていく。
だから僕は駆けだす。
一度では足りなかった。
二度目でも足りなかった。
だからどうした。
足りないのなら足りるまで足し続けるだけ。
一度で倒し切れないのなら、倒し切れるまで倒し続ければ良いだけの話だ。
陥没の縁から思いっきり跳躍する。
狙いをつける必要はない。
僕の目の前にある、僕よりも大きい
思いっきり振りかぶり突き刺す。
ピシッ、と音を立ててあっけなく魔石は砕ける。
全てのモンスターにとって魔石とは生きていく上で欠かせない物だ。
魔石が砕ければモンスターは灰に還る。
規格外の
一瞬の静寂。
そしてその後の爆発の様な歓声。
神様が、リリが、ヴェルフが、九郎が。
仲間達が歓声を上げ僕を迎え入れ、そして抱き着いてくる。
こうして僕達の18階層の死闘は終わりを迎えた。
ピキッ
...本当に?