忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

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献身の英雄譚

とある秘境でひっそりと語り継がれてきた古い物語

この物語に限らず、語り継がれてきた歴史は
神の降臨と共にその真偽が明かされその多くは失われた
だが今もこの物語はひそかに語り継がれている
それはこの物語の主人公に対する偏執にも似た愛の為だろう

献身がいかほどの物か、英雄がどれだけの物か
どちらも犠牲、生贄と変わりはしないだろうに


ヘスティアの回顧

 

「女神ヘスティアに忠誠を」

 

「我等一同は与えられた慈悲を忘れない」

 

「命の限り貴女の眷族として生き、その命を果たしましょう」

 

「受けた恩を忘れず、その恩に報いる為に生きます」

 

「...」

 

 目の前の光景に理解する。

 ああ、これは夢だ。

 昔の夢。

 ボクがファミリアを創った時の夢。

 

 灰君が、狩人君が、焚べる者君が、狼君が、九郎君がボクの前に跪く。

 口々に──狼君を除いてだけど──ボクへの忠誠を誓う。

 今になればこの光景がどれだけありえないことなのか分かる。

 

 ボクは...どうしたんだったっけ。

 天界()から降りてきたばかりの人間(子ども)のことを理解できていないボクは、この重い言葉にどう答えたんだったかな。

 

「そんなことを言わなくったっていいんだよ。ボク達は今日から家族なんだから」

 

「...」

 

「あ、あれ?おーい。今のは感動する所だよ?

 ...ちょっと?返事をしてよ!?」

 

 渾身のいい話に誰も反応してくれなかったことに昔のボクが狼狽える。

 

 灰君達。

 ボクの眷族(家族)

 茨の道なんて言葉では言い表せないくらい険しい道を歩いてきた(子ども)

 

 灰君達は強い。

 それは間違いない。

 ともすればオラリオで一番、いや天界で神としての力を振るうボク達(神々)ですら打ち負かすかもしれない。

 

 だけれどその強さは望んで手に入れたものではない。

 彼等の旅路は弱いままでいる事を許さなかった。

 生きる為には、生き抜くためには強くなるしかなかった。

 弱い自分(ありのままの自分)を捨て、生きる為に変わった。

 その強さは本当の意味で強いといえるのだろうか。

 

 昔のボクには灰君達の強さ(弱さ)が理解できなかった。

 今のボクでもいつか持った疑問に答えを出すことは出来ていない。

 ただ、寂しそうだと思った。

 怒りに、嘆きに、諦めに、狂気に染まった灰君達の目が酷く寂しそうに見えた。

 だからボクは灰君達と家族になった(灰君達の帰る所を作った)

 

 それは一つの恥じるところもない行い。

 灰君達を救えたのならボクは胸を張る。

 その行いの重さを理解して居なくても、その行いがどれだけ救いだったかなんて知らなくても。

 

 

 

 

 

 

 場面が変わる。

 ああ懐かしい。

 これも過去の出来事だ。

 

「...それで?貴女が言うように私がその献身の英雄...ですか、その英雄譚を受け継いだ人間だとして何だと言うのでしょうか」

 

 灰君が口を開く。

 表面上だけは丁寧に、それこそ私は貴女を尊敬していますと言わんばかりの立ち振る舞いでありながら、一切相手に敬意を払っていないのが透けて見える慇懃無礼さだった。

 

「せやから、本当にそうならこれは凄い事や。献身の英雄については神々(ウチら)ですらよう知らん。

 そんな時代の物語を受け継いだ人間(子ども)がおるんやったら是非ウチのファミリア(ロキ・ファミリア)に入ってもらお思てな」

 

「ロキ!!灰君はボクの大切な子ども(眷族)だぞ!!引き抜くなんて許さないぞ!!」

 

 そんな灰君の態度に気がついていないのか、それとも気がついた上で無視しているのか。

 ロキは引き抜きを口にし、過去のボクはロキに噛みつく。

 灰君を放ってロキとボクがケンカを始める。

 いや喧嘩と言うよりかはボクがロキにやり込められていると言った方がいいけれど。

 

 口でロキに勝てるわけがない。

 窮地に追いやられたボクは「結局のところ灰君の意思が問題だろう」と勝負をうやむやにしようとする。

 急に話を振られた灰君が驚いたような様子を見せる。

 

 

「一ついいでしょうか。つまりロキ殿は私が献身の英雄とやらの物語を語り継いだ一族、その枝葉であると思っているからファミリアに誘ったと?」

 

「そうやで。そんでどうや?こんなドちびのとこと違ってウチならもっといい環境が提供できるで」

 

「そうですか...()()()...」

 

 ロキの言葉を聞いた灰君が低く呟く。

 

 怖い。

 この時のボクはファミリアの仲間(家族)を失う恐怖に怯えていた。

 だからこそ気がつかなかった。

 だが灰君達と過ごしてきて、彼等のことが少しわかるようになったボクが見れば、また別の恐怖が沸き起こる。

 

 ()()()()()()()()

 今こうして傍から見ればどうして灰君の怒りにボクもロキも気がつかないのか不思議なくらい、灰君は怒っている。

 それこそ今にも逃げ出したいくらいに。

 だけれどこれは夢だ。

 どれだけボクが怯えた所で起きたことは変わらない。

 

 灰君の呟きが良く聞こえなかったのだろう。

 ロキが灰君の口元に耳を寄せる。

 そして近づいて来たロキの細首を灰君が万力のような力で締め上げる。

 

「ぐっ...がっ!?」

 

「灰君!?何を」

 

 そのまま持ち上げられたことでロキの小柄な体が浮かびあがる。

 突然の凶行にボクもロキも混乱するしかない。

 

「臭う、臭う、臭う。臭い(くさい)神の臭い(におい)

 ああ、お前からは陰謀の臭いがする。()の嫌う薄汚い()の臭い」

 

 そんなボク達の様子など気にするそぶりも見せず、灰君は手に力を込めながら呟く。

 パチパチと薪が爆ぜる様な音がする。

 灰君に掴まれているロキの首から焦げたようなにおいがする。

 いやそれどころじゃない。

 

 ゴボゴボと詰まったパイプのような音が灰君から聞こえる。

 灰君の体のあちこち(鎧の隙間)からヘドロのような何かが漏れ出る。

 暗いそれを認識する(感じる)だけで魂の奥底から止めようのない震えが沸き上がる。

 見ればわかる()()は駄目だ。

 (ボク達)を魂の底まで侵す悍ましい暗闇。

 

 (ボク達)は地上に降りてくると同時に神の力(アルカナム)を制限される。

 (ボク達)が地上で振るうことが許されるのは人間(子ども達)に力を与える神の恩恵(ファルナ)のみ。

 だが、(ボク達)が命の危機に陥った際身を守るために神の力(アルカナム)は自動的に発動する。

 そして同時に天界へと強制的に帰還させられる。

 だから(ボク達)が地上で()()という事はあり得ない。

 

 そしてあれに触れられたのならば地上に留まってはいられない(天界へと強制的に帰還させられる)だろう。

 いや、そうなればいい方だ。

 真の意味で死んでしまう事すら考えられる。

 あの暗闇はそれだけ恐ろしいものだ。

 

 ロキの首を掴んでいる灰君の腕を登って暗闇がロキに触れようとした時だった。

 一発の銃声が響き渡る。

 銃弾は灰君の腕に当たり、その衝撃で灰君はロキの首から手を離す。

 

「貴様...!」

 

 解放されたロキのせき込む音だけが響く部屋の中、灰君は銃弾を打った人物を睨みつける。

 狩人君だ。

 無言で灰君と狩人君が睨み合う。

 

「何のつもりだ。お前が(屑共)の肩を持つとは思わなかったが?」

 

「フン。(蛞蝓擬き)がどうなろうと知った事ではない。だが女神ヘスティアまで害が及ぶのならば話は別だ」

 

 狩人君の言葉に灰君がハッと気がついたように僕の方を見る。

 努めて灰君の方を見ないようにしているボクがロキへと近づく。

 

「ロキ。灰君の意思は明確だ。彼はボクの大事な家族だ。君の所には行かないよ」

 

 ボクの声にロキが顔を上げる。

 「そうらしいな」とボクの言葉に同意して部屋から出て行ったロキの顔には、飄々とした態度ですら隠し切れない怯えがあった。

 

「はぁー...」

 

 ロキが出て行ってしばらく止めていた息はため息となってボクの口から出て行った。

 酷く疲れた。

 肩が凝ったような気がする。

 体をほぐすように動かしている僕へとおずおずと灰君が声をかけてくる。

 

「女神ヘスティア...その、私は...」

 

()()が何か聞いてもいいかな?」

 

 何を言っていいのか分からないと言った様子の灰君へと僕は疑問を投げかける。

 

「...あれは人の闇、仄暗い人の本性。

 誰も知らぬ小人が見出した暗い魂の鱗片。

 神をも蝕む人の性」

 

「なるほど、分からないけど分かったよ」

 

 灰君の言っていることは半分も分からなかったけれど、重要なことは分かった。

 ()()は不味いものだ。

 

 困ったことになったと思わないでもない。

 ロキと言う神は天界でも名の知れた策略家(トリックスター)だ。

 そんなロキに灰君の異常性を知られたことは今後めんどくさい事になるだろう。

 

 怖かったとも思う。

 灰君の豹変もそうだし、感じるだけで震えが止まらなくなるナニカを隣で垂れ流しにされたことなんて文句の一つも言いたい。

 

 だけれどそんな思いは灰君の目を見た時に吹き飛んでしまった。

 弱々しい瞳。

 捨てないで欲しいと縋ってくるような、怒られることが分かっている子どもの様な瞳。

 不死者だから(死なないから)って何時も無理をする、モンスターにも闇派閥(イヴィルス)にも神にも怯えることなく突き進んでいく灰君らしくない表情。

 

 灰君はロキを殺そうとした。

 神殺しは地上における最大の罪。

 本当なら怒らなければならないと分かっている。

 

 灰君ならロキを殺せるのだろう。

 神々(ボク達)が地上で()()事はない、その想いの根拠、神の力(アルカナム)による守りなど灰君の力の前では無意味なのだろう。

 本当ならその力について問いただす必要がある。

 

 それでも、そうだとしても。

 怯える子ども(灰君)に対してそんな真似は出来なかった。

 

「ねぇ灰君。ボクは女神なんだ、あれが何かなんて聞かなくても(ボク達)にとって危険なものだなんて分かってる。

 だけどボクは君達の主神なんだ、どんな姿の、どんな理由があったって君達を受け入れるに決まっているだろう?」

 

 無言でこちらを見てくる灰君へと声をかける。

 灰君は、灰君達は、ボクの眷族達(子ども達)はどれだけその背に重荷を背負ってきたのだろうか。

 それはきっと僕では想像もできないのだろう。

 きっと灰君達も理解してほしいとも思っていないのだろう。

 それでも、ボクは女神だ、ボクは主神だ。

 ならば灰君達を受け入れる覚悟ぐらい最初っから持っている。

 

 それは女神としての小さなプライドに掛けた決意。

 この強くて、滅茶苦茶で、怖くて、常識知らずで、だけど臆病な子ども達を見捨てない。

 他の誰かと関わる術を暴力しか知らない、命を失う事すら恐れないのに誰かほかの()()()を傷つけることを心の底から恐れ続けているこの子達が確かに誰かと触れ合えるように。

 その時が来るまで、いやその時が来てもずっと見守る。

 

 それしか出来なくても。

 それがどれだけ辛い事か知らなくても、それがどれだけ重い事か知らなくても。

 それがどれだけ灰君達にとって救いであったか知らなくても。

 

 

 

 

 

「...様、み様...神様!」

 

「う...ん?」

 

 ボクの体が揺らされる。

 聞き覚えのある声がボクの耳に届く。

 開いた瞳に光が突き刺さる。

 微かに呻いた後何度か瞬きをすれば、滲んだ視界の向こう側にはベル君がいた。

 

 ベル君。

 ボクの可愛い眷族。

 誰かと接するのを恐れていたボクの眷族(灰君達)に物怖じせず、()へと連れだしてくれた、可愛い可愛いボクの眷族。

 オラリオに来てどれだけこの街で暮らしていてもどこか余所者だという意識が抜けきらなかった灰君達を、ヘスティア・ファミリアの冒険者(この街の住人)にしてくれたボクの愛する家族。

 

「ふぁ...おはよう、ベル君...」

 

「おはようございます、神様。朝ごはん出来てますよ。

 今日は卵が安かったとかで目玉焼きとパンにサラダですよ...なんて言っても僕がしたのはサラダの野菜をちぎっただけですけどね」

 

 挨拶をしたもののまだ少し眠りから覚めていないボクの脳みそがその言葉を聞いて覚醒する。

 ベル君の手作りの料理!?

 

「食べる、食べる!!...ふぎゃ」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 だがボクの体はまだ起きていなかったようだ。

 急に起き上がろうとしたボクの意思に体がついてこなかった。

 その結果ボクはベッドから落ちて床にぶつかる。

 

「そんなに急がなくてもご飯は逃げな...あっ、でも灰さん達も丁度帰って来た所だから全部食べられちゃうかも...」

 

「なに!!幾ら灰君達だって許さないぞ!」

 

 ぶつけて痛む腰を擦っているとベル君が聞き捨てならない言葉を言う。

 

 灰君達は明るくなった。

 これまで何処か笑えども、和めども、無理にしている所があった彼等はベル君の存在によって変わった。

 ...それと同時にボクへの敬意も何処かに行ってしまった気がするけれど。

 

 そんな灰君達なら朝食を食べ尽くしてしまうなんてことは十分にある。

 いや、「さっさと起きてこなかったのが悪い」とかなんとか言ってサラダだけ食べ尽くすくらいのことはするだろう。

 うんする。絶対する。

 

「こらー、ボクの分も残すんだぞ!!」

 

「朝から元気だな、お前は...」

 

 床に座っているボクへと伸ばしたベル君の手を掴んで立ち上がりボクの部屋を出る。

 机に座って食事をしていた灰君達へと怒れば呆れたような視線が返ってくる。

 朝の挨拶もせずにご飯のことを言ったのだからそれも当たり前ではあるけれど、ボクの姿を認めた途端サラダを自分の皿に大きく取った灰君には言われたくない。

 

 勢いのまま灰君に飛びかかり、流石の灰君も座ったままの体勢から迎え撃つことが出来ず、そのまま倒れこむ。

 「お前、ヘスティア!?」だの「暴れるな...埃が立つ」だの口々に言いたいことを言っている眷族達にボクは笑顔で言う。

 

「おはよう、みんな!!」

 

 そう。

 これはボクの、ボクとボクの家族のなんてことのない、だけれど幸せな一日の一幕だ。

 

 

 

 




どうも皆さま

私です

UA 200000突破ありがとうございます
何時も言っていることですがこんな私得しかない拙い小説を読んでいただいてありがとうございます

そんな記念するべき時に小説の投稿を休んでいた投稿者がいるそうです
私です
...ごめんなさい

本編はまだできてません
ごめんなさい

とにかく本文の話をしましょう
投稿を始める前に構想していた灰達とヘスティア様の関係性が本文の題材です

こう慈母の笑みを浮かべて灰達を見つめるヘスティア様が書きたかったんだよ!!
と言う心の叫びです
しょうがないなぁみたいな感じで見つめつつ見捨てない【当たり前の事】をしているヘスティア様と
その【当たり前の事】で灰達がどれだけ救われたかみたいな話です
ついでにヘスティア様はベル君のことが一番好きですが、灰達のことも愛してるよと言う話でもあります

本文中に登場した献身の英雄は無茶苦茶美化されたダークソウルシリーズのお話です
何者かが火の消えた後も神が降臨するまで子々孫々語り継ぎました
それは罪悪感なのか、愛なのか、それとも単なる生きる意味なのか
いずれにせよ灰にとって面白い話でもない
そんな感じの物です

それではお疲れさまでしたありがとうございました
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