忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編 作:noanothermoom
狼が持つヘスティアメダル
幾度も撫でたのだろう表面がすれて刻まれた文字は薄くなっている
それはありがたい救いの象徴であり
世に在り難い慈悲の象徴である
聖遺物とは奇跡の証拠であり大切に保管するべきものである
だが縋る為に使うのもよいだろう
それこそが女神の意向に従うものなのだから
「ふむ、殺すか」
「だ、駄目ですからね!?」
ギルドで出会ったアポロン・ファミリアの冒険者に渡された、アポロン様からの招待状。
それを持ち帰り、事情を説明した後灰さんは気負った様子もなく当然の様に
それこそ夕食を何にするか、ぐらいの気軽な口調に一瞬流しそうになるが急いで止める。
「だがなぁ、
ならお望み通り【神の宴】に行って片をつければいいだろ」
「そういう問題じゃないですよ!?」
困ったことに灰さんの提案を止める理由がない。
いや、理由はあるのだけれど、灰さんは止まらないだろう。
神様を害することは地上で最も重い罪だ。
神の宴には他の神様も招待されている、邪魔されるだろう。
邪魔が入るのなら全て潰して前に進むだろう。
思いつく限りの言葉で止めようとするものの、灰さんを止めるには足りない。
どうしよう。
そう思っていると神様が口を開いた。
「駄目だ。いつも言っているだろう?
君達が、君達だけが泥を被る必要はないんだ。
君達だけが罪を被って「はいお終い」なんてボクは許さないよ」
「...それは
「
君達の主神からの、自分達を粗末に扱わないでくれって言うお願いだ」
衝突したことで衝撃を感じる程の強い意志が込められた灰さんと神様の視線が交差する。
一秒、二秒、或いは一分。
もっと長かったかもしれないし、ほんの一瞬だったかもしれない。
だが誰も何も言わず、ただ視線だけがぶつかり合う中で先に目を逸らしたのは灰さんだった。
「大恩ある主神様からのお願いだ。しょうがないな、分かった降参だ。アポロンを殺すのは諦める」
「言っておくけれど
あっ、後
「全く、注文が多いな。分かった分かった、【アポロン・ファミリアの冒険者及び主神アポロンに対してヘスティアの許可なしに危害を与えない。】...それでいいか?」
両手を上げた灰さんが口にした言葉には確かな力を感じた。
誓約だ。
しばらく神様はそんな灰さんに視線を注ぎ続けていたが、納得したようでいつもの笑顔に戻る。
部屋の中の空気が落ち着いてきた時狩人さんが手を上げた。
「話がまとまった所で次だ。
狩人さんの手には灰さんが燃やそうとしたアポロン様からの招待状が握られていた。
アポロン様からの招待状をどうするか、つまりアポロン様が開く宴に出席するかどうかだ。
「【必ず一人は正装した眷族を連れてくること】...ね、こんな時じゃなければアポロンの奴もなかなか面白い趣向を考えるじゃないかと言えたんだけどね」
招待状の中身を見た神様が呟く。
招待状には場所や日時などの他に必ず
神様達が開催する【神の宴】は基本的には眷族達の目から離れて
だからこそ眷族を連れて参加する神は稀であり、
そんな【神の宴】へと参加できるのであれば名誉なことだし、せっかくの機会なのだから参加したいと思わないでもない。
だけど...
「罠...ですよね」
「だろうねえ」
僕の言葉に反応して神様が疲れたように呟く。
眷族を一人以上連れてこいと言っても、あんまり大人数で押し掛けるような真似をすれば「
そのことを考えれば最大でも連れていける眷族は3~4人ぐらいが限界。
ほとんどの所は主神一柱と眷族一人の二人連れでの参加になるだろう。
では
この間揉めたばかりのファミリアが主催するパーティであることを考えれば、どんなことが起きても対応できるように出来る限り大人数での出席が望ましい。
だが、そもそも灰さん達は【神の宴】への参加を禁止されている。
無論いざとなればそんな取り決めなんて無視して乱入するくらいのことはするだろうが、何も起きていない状況で真正面から約束を破るという訳にもいかない。
だから
だが、九郎は非戦闘員。
いざという時に足を引っ張りかねない。
狼さんだって灰さん達と比べると真正面からの戦いでは一歩劣る、そもそも狼さんの真骨頂は潜伏と奇襲だ。まあ僕と比べればずっと強いんだけれど。
それでも僕達にとって不利な状況であることには間違いない。
わざわざ【神の宴】に呼び出すことで灰さん達と神様を引き離しておきながら
「罠だと分かっているのなら
「いや、それはどうだろうな。それこそあちらの思うつぼになりかねん」
「?」
結局のところこの招待状は僕達を嵌める為の罠だったという事だ。
そこまでは僕でも分かる。
だが罠ならば最初からそこに踏み込まなければいいという僕の考えは狩人さんに否定される。
「こちら側が出席しなかった場合どうなるか分かったものではないからな」
どういう事だろうか。
狩人さんの言葉に首を傾げている僕を見て狩人さんは説明を始める。
「アポロン・ファミリアの冒険者とベルが揉めてケンカをした。
アポロン・ファミリアの冒険者と
どちらも同じ状況の様でありながらその印象は僅かに違う」
「...確かにベルと付き合いがない奴からすればベルも、
どちらも僕がアポロン・ファミリアと揉めた、という事には変わりはないはずだ。
何か問題があるのだろうかと思っていると灰さんは納得したようにうなずく。
どうやら分かっていないのは僕だけの様だ。
「例えば、私が他所のファミリアの冒険者とケンカをした...何故だか分かるか?」
「えーっと?
「そう思うだろう。
つまり、私達は大した理由もなく他のファミリアにケンカを売るような真似をする存在だと思われている。
実際適当な理由でケンカを売ったことがあるのだからあながち間違いではないが...まあ、それはどうでもいい」
ケンカを売ったんですか。
声にこそ出さなかったが僕の視線から言いたいことを読み取ったのだろう。
一度咳払いをして仕切りなおした狩人さんが話を再開する。
「お前は無闇矢鱈にケンカを売らないだろうし、お前のことを知っている人物ならばお前がケンカをしたと聞けば、何か理由があると思うだろう。
だがお前と言う人物について
ならばケンカの発端がお前であると誤解される危険があり、アポロン・ファミリアがその誤解を解いてくれる、なんて期待するべきではないだろうな。
理由もなく他のファミリアの冒険者をぼこぼこにした、なんて実に
「つまり、
だけど、相手がケンカを売って来たんですよ?それに目撃者だってたくさんいます。そんな簡単に...」
狩人さんの説明は頷けるものだった。
だが、誰も見ていないのならばまだしも、僕達がケンカをしたのは酒場。
当然僕達以外にもお客はいたし、その人達が見ていたのだから僕達の方を悪者にしようとしても、そう簡単に事実を捻じ曲げられるとは思えなかった。
だが狩人さんは一つずつ指を折りながら僕の言葉に反論していく。
「
たとえ他の目撃者がいてもファミリア間の抗争に巻き込まれようとする冒険者はいない。
ましてや相手は
そして最後に。
これが最も大きな理由になるが、【
狩人さんの言葉に僕は唸る。
確かにそうだ。
僕はリリのことを信じている。
リリが言うのならばどれだけ無滑稽なことでもそこに確かな真実があるのだと思っている。
その僕をしてなお、リリの言っていたヒュアキントスの「後輩がこの程度ならば、噂の灰達と言うのもたかが知れるな」と言う言葉。つまり【アポロン・ファミリアが灰さん達にケンカを売るつもりだ】という情報は信じがたいものがある。
ケンカをした張本人にして、リリとパーティを組んでいる僕ですらそうなんだ。
話を聞いただけの人が
【ヘスティア・ファミリアの冒険者がアポロン・ファミリアの冒険者にケンカを売った】と言う話と、
【アポロン・ファミリアの冒険者がヘスティア・ファミリアの冒険者にケンカを売った】と言う話。
どちらを信じるかと言えば間違いなく前者だろう。
「このことから【神の宴】に参加しないというのは相手側に好きなように事実を捻じ曲げさせる機会を与えることになるだけでなく、【こちらは謝ろうとしたのに、
「むう...面倒な...どうするべきかな」
顎に手をやり思案する神様へと一つの言葉が投げられる。
「いっそ出てしまえばいい」
「何だって!?」
まさかの発言。
これまで繰り返して来た“どうするか”の話をぶった切る言葉に神様はグリンと首を回し発言者、絶望を焚べる者さんへと視線を向ける。
「出なければ言われたい放題するというのであれば、出てしまえばいいと言った」
「いや、だからそのパーティそのものが罠だからどうにかして出ないようにしようと...」
パーティに出なければ
ならば出てしまえばいいじゃないか。
実に簡単で明確な答えだ。
まるで今までの話を聞いていなかったかのような焚べる者さんの言葉に神様が諭すように教えるが、それを手をつきだすことで焚べる者さんは遮った。
「罠だ、罠だというが、仮にもアポロン・ファミリアの主催するパーティだ。そんな場で主催者側が来訪者へと直接襲い掛かったりでもしてみれば、それこそアポロン・ファミリアの名は地に落ちるだろう」
「むむむ...」
アポロン・ファミリアのパーティに参加する。
それはつまり一時的にとは言え灰さん達と引き離されることを意味するが、逆にアポロン・ファミリアもこちらに手を出しにくくなると焚べる者さんは言った。
確かにこのパーティに招待されているのはヘスティア・ファミリアだけではない。
大小様々なファミリアの主神とその眷族が参加する。
そんな中で実力行使をするような真似をすれば、それこそアポロン・ファミリアの名誉と信頼は地に落ちる。
結局のところこっちがパーティに参加した時点で相手が取れるのは、こちらの信頼を下げるような噂を流すことだけ。
そうしてこちらの名誉を害されたとでも言って、口実にすればアポロン・ファミリアと戦ったとしてもギルドから責められるようなこともないだろうとも焚べる者さんは言った。
「そもそもこちらはヘスティア・ファミリアである。
今更下がるような信頼なんぞ持ち合わせていないのだから理由なく襲い掛かっても問題はない...痛っ」
「だから!!
そういう事したらダメだってさっき灰君が誓約を結んだだろう!!」
焚べる者さんは怒った神様に一発貰っていた。
余計な言葉までついて来ていたが焚べる者さんの言葉も頷けるものがある。
「結局のところ罠を避けるか否かだ...。
尤もこの罠は巡り廻れば
どうするかの口出しは控えるべきなのだろう...。
だが、あえて言わせてもらうのであれば俺は出るべきだと思う」
珍しい。
狼さんがはっきりと意見を言った。
僕達の視線が狼さんに突き刺さる。
僅かに居心地が悪そうにして狼さんは話を続ける。
「アポロン・ファミリア...あのファミリアに
未だ分からないアポロン・ファミリアが
灰さん達に勝てるような
それともそれ以外の何かなのか。
パーティの方に人手を取られる以上、普段よりも警備は手薄になるだろう。
そして狼さんなら無事に忍び込むことが出来るに違いない。
戦う前の準備が勝敗を決めるとも言う。
出来る限りのことはするべきだろう。
「尤も俺が単独行動する以上...ヘスティア様はベルに任せることになる...どうするかは任せよう」
狼さんはそれだけ言うと再び腕を組み、口を閉ざす。
難しい判断だ。
罠とわかっている中に飛び込み後々の問題を解決するか。
それとも危険を避けて悪名を受けることに甘んじるか。
灰さん達は僕と神様の方へと視線を投げかけている。
どうやら僕達の決断を尊重するつもりの様で何も言わずどうするかを見守っている。
どうするべきか。
灰さん達の助言を得られず、自分で決断しなければならないことに重圧を感じていると強い意志を感じさせる瞳をした神様が口を開いた。
「参加する。ボク達は、ヘスティア・ファミリアはどんな不安にも負けず立ち向かってきたはずだ」
どうも皆さま
私です
前回は沢山の感想有難うございます
とても嬉しいです...
の前に楽しみにして頂いている皆様の期待に応えることが出来るか心配で夜しか眠れません
話も進まないのに文字数も膨らまないという感じでオワーとか叫んでいましたが
何とかこの話が出来上がりました
これからも気長に待っていただけるととても嬉しいです
それではお疲れさまでしたありがとうございました