忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

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ヘスティアのドレス

九郎が用意した主神への贈り物

【神の宴】とは煌びやかなパーティであると同時に
女神達の闘争の場である
だが麗しの女神には野蛮な武器など似合わない

彼女たちが競うのは美しさであり
そこには本物の戦場以上の争いがあるのだ
ならば装いとは武器であり防具である

戦場に赴くのだそれ相応の装備をしていく必要がある
知られれば無駄遣いだとサポーターの少女に怒られることが必然であったとしても
女神が喜ぶのであればそれでいいではないか


【神の宴】

 

 

 

 無数の馬車が到着しては煌びやかな装いの人々を吐き出し戻っていく。

 吐き出された人々(神様とその眷族)はあるものは会話を楽しみ、あるものは待ち人(友達)を待ち、またある人は目の前の建物へと入って行く。

 日が沈み空が黒く染まっていき、オラリオもまた夜に染まっていく中、その建物は()を弾き返すように光に満ちていた。

 

 今僕がいるのはアポロン・ファミリアの拠点(ホーム)

 今宵開催される【神の宴】の開催場だ。

 あまり周りをきょろきょろしていればお上りさんみたいに見られるだろうと分かっていてなお、周囲を見渡す。

 

 文字通り人間離れした美しさの女神様、男らしくありながらなお美しい男神様、そして神様達に付き従う眷族(冒険者達)

 視界に入る全てのものが光り輝くように見える。

 18階層の【夜】を地底にある星空と称する人がいるそうだけれど、ならばこの光景は地上にある星空とでも言うべきだろう。

 

 絢爛豪華と言う言葉がぴったりな周囲から浮いているんじゃないかと心配になる。

 当然ながら今僕が着ているのは普段着ている服(普段着)でもないし、ダンジョンに潜る時に着ている装備(ライトアーマー)でもない。

 スーツに蝶ネクタイ(正装)

 服に詳しい訳でもないからなんと言えばいいのか分からないけど、とりあえずはパーティに相応しい服装ではあるはずだ。

 

 だが動きにくい。

 いや、正装が普段着や(ライトアーマー)と比べて動きにくいのは当たり前だが、こう下手に動くとせっかく整えて貰った服装が乱れそうというか、変に体に力が入ってしまう。

 

「恥ずかしいのかい?心配しなくても似合ってるさ」

 

「神様...でも、なんだか落ち着かなくて」

 

 カクカクとぎこちない動きになっていると神様が声をかけてくれる。

 何時も装備している武器も持っていないし、とても落ち着かない。

 

「神様、僕大丈夫ですか?周りから浮いてません!?」

 

「ふふふ、心配しなくても大丈夫。とっても似合っている、いや今日のパーティに参加している冒険者(子ども)の中で一番カッコイイよ...それに灰君達が勧めてきたものを着てきたならもっと浮いていただろうし大丈夫だよ」

 

 微笑みながら喋っていた神様が灰さん達のことを口に出すと顔が死ぬ。

 僕もあいまいな笑みを浮かべることしかできなかった。

 

 神様がアポロン・ファミリアのパーティに出席することを決めた後、何を着ていくのかの話になった。

 神様は九郎があらかじめ用意しておいたドレスを着ることになったが、僕はどうするのか。

 (冒険者)にとっての正装とは僕の鎧(愛用の装備)だが、まさかパーティに着て行くわけにもいかないだろう。

 

 ...と思っていたのは僕だけだったようで。

 

 まず、灰さんが愛用の鎧(騎士装備シリーズ)を取り出し──いや、正確には愛用の鎧の予備だが──着て行くように勧めた。

 曰く「俺達は全く露出が無いからな、これを着て行けば俺だと勘違いする奴がいるだろう。そのタイミングで鎧を脱いでお前が登場という訳だ、きっと大盛り上がりだぞ」とのことだ。

 随分悪趣味だし、何より向かう場所が敵の本拠地だとは言えまさかパーティに鎧を着て行って「これが僕の正装です」と言い張る訳にもいかないし、最悪パーティからつまみ出されることすらあるだろうと僕は拒否した。

 

 その言葉を聞いてならばと、狩人さんは愛用のコート(狩人シリーズ)を着て行くように勧め始めた。

 それに負けじと焚べる者さんが愛用の装備(ルカティエルシリーズ)を勧め...あの人だけちょっと目的が違ったような...まあ、とにかく普段使っている装備を着て行くように勧められ、僕はそれを拒否した。

 

 だが、一度拒否された程度で諦める様な灰さん達ではない。

 これが駄目なら、と棘だらけの鎧(棘の鎧)を取り出してきたり、未だ血が滴る獣皮を纏う服(ブラド―シリーズ)を勧めてきたり、やっぱり焚べる者さんが愛用の仮面(ルカティエルのマスク)を勧めてきたり。

 色々な攻防があった後、九郎が用意したこの服(スーツ)を着て行くことに決まったのだった。

 

 ...うん!灰さん達の勧めてきた衣装と比べればこの服は間違いなくまともであることは疑いようもない。

 大丈夫だと笑う神様の言葉にも背を押され自信が湧いて来た。

 

「それに慣れない恰好なら動きがぎこちなくても問題ないだろうしね」

 

 何気ない様子を装いながら、それでも神様が小声で囁く。

 

 狼さんはアポロン・ファミリアの拠点に潜入するべく僕達が【廃教会(ホーム)】を出る前に出発しているから今どこにいるのかは分からない。

 しかしアポロン・ファミリアが一体何を考えているのか探る為に、狼さんは既に僕達の目の前にあるこの建物の中に潜入しているか、潜入する機会を探っているはずだ。

 

 狼さんならば問題はないはずだ。

 そう思っていても体が震えるのを抑えられない。

 だが、神様の言う通りギクシャクとした動きも慣れない恰好の所為にすれば誤魔化せるはずだ。

 

「おお、ヘスティア達か」

 

「今回はありがとうございました」

 

 建物にも入らず小声で話していた僕達に声をかける()がいた。

 夜空の様な青味がかった黒い髪の男神様。

 ミアハ様だ。

 その後ろに従うのはナァーザ・エリスイスさん、当然ミアハ様の眷族(ミアハ・ファミリアの冒険者)だ。

 

 初めてミアハ様と会った時にミアハ様は自分のファミリアのことを貧乏ファミリアと言っていたが、実の所それでもかなり良いように言っていたようで。

 万年金欠のうち(ヘスティア・ファミリア)以上の貧乏ファミリアで、僕が買う細々としたポーションンなんかが主な収入源であるという。

 他所のファミリアのことを言えるファミリアではないが、よくぞ経営が回るなと言いたくなるような有様だった。

 

 当然そんな経営のファミリアがパーティに来られる余裕はないはずだが、そこは九郎と神様の策略。

 名付けて「灰君達を連れていけないのなら他の人を連れて行こう作戦」である。

 内容は単純明快。

 パーティに神様と仲のいい他のファミリアの神様をパーティに誘うのだ。

 

 【神の宴】と言うのは神様(超越存在)が主催するパーティ。

 今回は主催者(アポロン・ファミリア)から招待状が届いたが、本来招待状とは名ばかり。

 オラリオにいる(地上に降臨した)神様ならばどなたでも参加できるそうだ。

 

 とは言えミアハ様の様な貧乏なファミリアの主神が参加しようとしても相応しい準備が出来なければ笑いものになるだけ、と参加しない。

 今回神様はそんなミアハ様とナァ―ザさんに援助をすることで、パーティに参加できるだけの体裁を整え、パーティに参加できるようにした(味方を増やした)

 ミアハ様だけではなく桜花さんや(みこと)さんの主神であるタケミカヅチ様も呼んでいるそうだ。

 

 「丁度いいや。そろそろタケ達も到着したころだろう。一緒に行こうじゃないか」

 

 ミアハ様たちと一緒に会場へと入って行く。

 ここからはいわば敵地だ。何があってもおかしくない。

 今一度気合いを入れなおして神様の後について行く。

 

 

 

 

 

 

 

「皆、楽しんで貰えているだろうか」

 

 僕の思いとは裏腹に会場に入っても難癖をつけられるだとか、いやがらせが行われるなんてことはなく。

 着飾ったタケミカヅチ様と命さん、そして神様と一緒に18階層に来てくださったヘルメス様とアスフィさんと出会い、神様達がそれぞれに僕達(子ども達)を自慢しあっているのを聞いているうちに警戒が薄れていった時、声が響いた。

 

 会場中に響いた声に会場の人々はその出所、会場を一望できるステージの上に現れた神様に視線を向ける。

 見覚えのある冒険者達を従えて登場したのはこのパーティの主催者、アポロン様。

 

「いかがだろうか、今宵の趣向は。日頃可愛がっている子どもたちを着飾りこうして自慢しあうというのもまた一興だろう」

 

 会場を見渡した後堂々とした態度で参加者へと語り掛ければ、「いいぞ!」「よっ、名調子」など会場のあちこちから歓声が返ってくる。

 その声に満足そうな表情をした後2,3言葉を重ね、最後にパーティを楽しんでいってくれるように言ってアポロン様の演説は終わった。

 

 ありきたりと言えばありきたりな演説。

 だが僕はその最中にアポロン様がこちらを見たような気がした。

 自意識過剰と言われればそうかもしれない。

 この会場は神様とそれに付き従う眷族(子ども)が多数いる。そもそもこの会場自体相応の広さを持っているのだ。

 こんな中から一人の人を見出すなど神様と言えど容易なことではないだろう。

 だが確かに僕を見て僅かに微笑んだ、そんな気がした。

 

 

 

 

 

「神様...さっきの事なんですけど...」

 

「何をしてるんだいベル君。折角パーティに来たんだ、早く食べられるだけ食べるんだよ。あっ、これ美味しい」

 

 演説が終わり参加者たちが動き出していく中僕が神様に相談をしようと思って声をかけると、神様は出されていた料理を口に詰め始めていた。

 

 えぇ...と小さく僕の口から困惑の声が漏れる。

 口に入れ過ぎているせいでまるでリスみたいに膨らんだ神様のほっぺたを見ながらどうしたものかと思っていると入口の方から歓声が上がる。

 何事かと思いその方を見ようとすると神様が無理やり僕の顔を掴んでそっちの方を見せないようにして来る。

 

「痛たたた、痛いです神様。なんですか?」

 

「見るんじゃないベル君。見たら魅了されるぞ」

 

 魅了?

 神様の言葉に首を傾げると同時に、会場のあちこちから壁にぶつかるような音や皿を落とす音が響く。

 それは入口の方から段々と広がっている。

 何があったのか。

 そう思っていると神様と同じテーブルの料理を食べていた男神様が皿ごと料理を落とす。

 

 当然周囲には皿の破片と料理が散らばり皿の割れる音が響き渡るが、男神様はそんなことを気にもせず入口の方を見続けている。

 否、男神様だけじゃない。

 僕達の周囲では入口の方を見ながら歩いていたせいで壁に音を立ててぶつかった人、テーブルに突っ込んだ人、向こう側から歩いてきた人とぶつかった人がいた。

 そしてその人達(男神様と冒険者達)は自分がぶつかったりしたことに気がついても居ないように入口の方を見続けている。

 

「あら、ヘスティアと...貴方が噂のウサギ冒険者?」

 

「フレイヤ...何か用かい」

 

 いや、本当に何があったんだ。

 僕が混乱していると美しい声が聞こえた。

 そしてその声に応えた露骨に嫌そうな神様の声も。

 

「あら、こんな集まりに顔を出すのが珍しい女神と噂の冒険者(眷族)。その二人を見つけて話しかけるのがそんなにおかしい事かしら?」

 

 だが声の主──神様の言葉からするとフレイヤ様──はまるで気分を害したような様子も見せず──と言うか僕は見えていないのだから声音と言うべきか──神さまの言葉に鈴を転がしたような笑い声をあげる。

 

 神様が「むぐぐ...」と悔しそうにすると同時に僕への拘束が緩む。

 咄嗟に神様の腕の中から逃げ出し、振りかえるとそこには男女の二人組がいた。

 

 一人は僕でも知っている人。

 【猛者(おうじゃ)】オッタル。

 

 オラリオ最強の名を持つ冒険者の頂点。

 実の所最強の名前を持ちながらその実力は疑われているらしい。

 否、正確には最強の名にふさわしい人物は他にもいる、と言われている。

 それこそ何を隠そうヘスティア・ファミリア冒険者火の無い灰。灰さんだ。

 

 この二人が戦えばどちらが勝つのか。

 それはとにかく面白いことが好きな神様達(超越存在)だけでなく、冒険者、ギルドの職員、オラリオの市民、果てはオラリオ外の人達ですら議論しつづけ、未だ答えは出ていない。

 当然僕もその議論を聞いたことがあるし、何だったらリリやヴェルフと意見を交わしたことすらある。

 

 僕は今この瞬間まで灰さんが勝つに決まっていると思っていた。

 それは同じファミリア故の贔屓目も多少はあっただろうが、むしろ灰さんに訓練を付けて貰い、その戦いを幾度も見たからこその答えだった。

 あの人(灰さん)と同等の存在なんてありえないと。そう思っていた。

 

 だが【猛者(おうじゃ)】を直接見てその考えはひっくり返された。

 彫刻がそのまま動き出したかのようなぶ厚さと強固さが服の上からでも分かる肉体。

 未だ一言も発していないにもかかわらずその視線だけで、否意識して居なくともその存在だけで強者であると理解させるその存在感。

 だが、そんな【猛者】ですらその隣の人の前では壁の花にすらなれない。

 

 優雅に口元を隠し笑う姿はともすれば子どもっぽさすら感じるのに、言いようがないほど蠱惑的であり、清楚であり、そして美しかった。

 見た事のない()だったが、【猛者】を伴なっていることから間違いなくこの方こそフレイヤ・ファミリアの主神、フレイヤ様なのだろう。

 

 美しい。

 それしか感想が出ない程に美しい。

 その一瞬が奇跡の様な美しさでありながら、次の一瞬には全く別の同じだけの美しさが顔を出す。

 最早僕の隣に立っているはずの神様も、無視することなど不可能なはずの【猛者】すらも視界に入らない。

 

「ねえ貴方、今夜私に夢を見せてくれないかしら」

 

 ほんの一瞬も見逃すまいと見つめ続けていた筈なのに気がつけばフレイヤ様は僕の目の前に立って、僕の顔に手を添えていた。

 紫水晶(アメジスト)のような瞳が僕を見ている。

 そのことだけで頭がいっぱいだ。

 何を言われたかも分からないままにその言葉に頷こうとした時。

 

「ってさせるかあ!!」

 

 神様が僕とフレイヤ様の間にチョップを落とした。

 

 ...ハッ!!

 霧が晴れていくように不鮮明だった思考がクリアになっていく。

 ぼ、僕は一体、さっきのが魅了だろうか。

 

「あらあら、怒らせてしまったかしら。それでは御機嫌よう」

 

 「何を顔を真っ赤にしているんだ!」とか「だから見るなって言ったのに!!」と怒っている神様と、そんな神様へと謝ることしかできない僕を見て楽しそうに笑うとフレイヤ様はこの場所を立ち去った。

 

 その後ろ姿だけでも美しい。

 だが、今の僕にはその美しさは恐れを含むもののように思えていた。

 

 究極まで極めた極地。

 力にせよ、美しさにせよ、或いはそれ以外の何かにせよ。

 極まった何かという物は人に感動をもたらし、美しく見える物だ。

 だが、極まったものという物は同時に恐れをもたらす。

 

 例えば灰さんの力。

 人離れ、いや現実離れしたその強さは見る人を魅了すると同時に空恐ろしさを感じさせる。

 それはその力が自分に向けられたら、なんて地に足がついたものではない。

 ただ漠然と満天の星を見上げているうちに自分がどこにいるのかもわからなくなるようなもの。

 あまりにも大きいそれは人を不安にさせるのだ。

 

 フレイヤ様の美しさもそうだ。

 あまりに美しく自然に作られたとは思えないを通り越して、何者かの手で作れるとは思えない美しさ。

 だからこそ魅了されると同時に見てはいけない何かを見てしまったような恐怖を感じるのだ。

 

「ベル君...大丈夫かい?顔色が悪いよ」

 

「いえ、何でもありません...それより、食事でもしましょう。僕お腹が減ってきちゃって」

 

 僕が恐怖を感じたことを察したのか神様が不安そうに僕を見てくる。

 フレイヤ様の後姿を見ながら僕はあえて空気を換える為に軽い口調で答える。

 神様が目を輝かせておすすめの料理を教えてくれようとした時だった。

 

「ここにおったんか、ドチビぃ!」

 

 神様に声をかけた()がいた。

 燃えるような赤い髪に開いているのか分からない糸目。

 僕と同じように男物のスーツを着ているが、この方は女神様だ。

 僕はこの方を知っている、いやこの方のファミリアと冒険者を知っている。

 

 大声で神様とケンカを始めた主神様の後ろで居心地悪そうにしているドレスを着た女性の冒険者。

 【剣姫(けんき)】アイズ・ヴァレンシュタインさんがそこにいた。

 アイズさんを連れているという事はこの方はアイズさんの主神、ロキ様だという事だ。

 

「も、申し訳ありません」

 

「ああ?なんやお前は、ドチビんとこの子どもか?」

 

 神様と口舌を争わせている所に割り込む。

 神様は驚いたような顔をし、ロキ様もまた怪訝そうに僕の顔を見る。

 

「ぼ、僕はヘスティア・ファミリア団長ベル・クラネルと言います。先日は僕達がそちらの遠征隊に大変お世話になりまして」

 

 「本当にありがとうございました」と言うと同時に頭を下げる。

 緊張で心臓がバクバクと脈打つ。

 だが何とか噛まずに言い切った。

 僕は頭を下げたままだから見えないが、どうやらロキ様は僕のことを観察しているようだ。

 

 一秒、二秒。

 時間が過ぎていく。

 やはり神様同士がケンカをしている中に分け入るのは無謀だったか。

 僕が後悔をし始めた頃、ロキ様が僅かに息を吐いた。

 

「なんや、ドチビんとこの子どもやとは思えんほどにちゃんとしとるやないか」

 

 顔を上げると僅かに笑っているロキ様がいた。

 

「と、言ってもあんまりパッとしとらんけどな」

 

「なんだと!?ロキ!ベル君の何が不満だというんだ!!」

 

 どうやら不快に思っているわけではないようだ。

 僕が小さく息を吐くとロキ様は僕の顔を見た後ぱっとしないと言って、神様がその言葉に噛みつく。

 

 ケンカを再開した二人にどうするべきかアイズさんの方を見るが、アイズさんは僕の方をじっと見てくる。

 な、何ですか。

 僕に止めるように言っているんですか?

 無理ですよ!?

 そんなことを思っている間にも神様とロキ様のケンカはヒートアップしていた。

 

「けっ、ドチビなんかと関わっとらんと他所と話しに行こ。いくでアイズたん」

 

「ふん!尻尾を巻いて逃げるがいいさ。行こうベル君」

 

 遂には神様とロキ様は互いに反対方向へと向かい歩き出す。

 こうして何か言葉を交わすこともできず、アイズさんと僕は別れた。

 

 分かってはいたことだ。

 (LV.2の冒険者)アイズさん(上級冒険者)の住む世界は違う。

 そもそもファミリアの主神同士の仲が悪いのだから、これまでの交流があった事の方が異常なのだ。

 

 分かってはいる。

 分かってはいるが、それでもこうしてはっきりと違いを見つけられると少し胸が痛む。

 心の中で一度立ち去るアイズさんの背に頭を下げる。

 何時かと同じ様に。

 だが、僕の心の中はあの時とは全く違った。

 

 

 

 

 

「ふう...」

 

 小さくため息を吐く。

 最初はケンカを売ってきたファミリアの本拠地という事もあり警戒していたが、何も起きなかったし徐々に警戒を解いていた。

 だがやはり精神的に疲れていたようだ。

 そしてそんな所にあんなことがあると少し気が重くなる。

 神様と離れて行動するのは決して良い事ではないが、少し休憩を入れることにする。

 

 人気のないバルコニーで空を見上げれば18階層の夜と同じように星が輝いている。

 あの時と空は同じだというのに僕の心は晴れない。

 

 分かっていたことにダメージを受けていること自体にさらにダメージを受ける。

 こうしてうじうじと悩んでいることすら僕へとダメージを与える。

 思わず弱音が湧きでる。

 

 強くなったはずなのに、強くなれたはずなのに。

 先に進めば進むほどどうしようもない物が現れ、その壁にぶつかってしまう。

 憬れた人の姿はもっとかっこよくて、もっと輝いていた筈なのに。

 

「どうして僕はこうなんだろうな...」

 

「何かあったの?」

 

 駆けられた言葉に返そうとして気がつく。

 この聞き覚えのある声は誰の声だ?

 

「ア、アイズさん!?なんでここに!?」

 

 顔を上げるとそこには首を傾げたアイズさんの姿が。

 ドレスを纏った姿は僕の知るダンジョンの中のアイズさんとはまた違う美しさがあって...じゃない!

 

「どうしてここに、ろ、ロキ様は?一緒じゃないんですか!?」

 

「...いない」

 

 何とか絞り出した言葉に帰って来たのは僅か三文字の言葉。

 ...多分ロキ様は居ないという事なんだろう。

 いや、主神(ロキ様)を放っておくのは不味いんじゃ。

 と思ったが、僕も今神様を一人にして休憩していたのだから何か言える立場ではない。

 

「ベルを探していた」

 

「僕を?どなたが?」

 

「...私。聞きたいことがある...いい?」

 

 僕の顔を覗き込むようにしてアイズさんが首を傾げる。

 休憩していた所だから問題はないです。

 そう答えようとした時だった、会場に声が響き渡る。

 

「どうだろうか皆、楽しんでくれているかな?」

 

 団員を引き連れてアポロン様が舞台の上の役者の様に大袈裟な動きでこちらに向かってきていた。

 口調こそ周囲の参加者に向けたものだが、視線は僕だけを見定め、その歩みに迷いはない。

 アポロン様の動きに気がついたのだろう神様がアポロン様から守るように僕の前に立つ。

 

「やぁヘスティア。私は君の眷族君に用事があってね」

 

「そうかい。残念だけれどボクの方は無いんだ、帰るよベル君」

 

 にこやかに。

 表面上は笑顔で交わされた会話はその言葉とは裏腹に棘の隠れた言葉の応酬だった。

 僕の手を取り入口に向かおうとした神様だったが、それを制止するようにアポロン・ファミリアの冒険者達が行く手を阻む。

 

「これは何のつもりかな?まさかこれが君のファミリアのもてなしと言う奴なのかい?」

 

「いやいや、違うとも。だが彼等も少しばかり気が立っているんだ。君の所の冒険者に同胞が傷つけられてしまってね」

 

 その言葉と同時に後ろから現れたのは体中に包帯を巻いた小人族(パルゥム)

 顔まで巻かれた包帯で確認できないが、間違いなく酒場でケンカを売って来た彼だろう。

 

「彼の受けた傷の賠償を求める」

 

「下手な芝居だね。受ける...なんて言うとでも?」

 

 いっそ馬鹿にしているのかと思う程にわざとらしく痛みを訴える声をBGMに神様とアポロン様は火花を散らす。

 

 「これだけ酷い怪我をした子ども()を見て心が痛まないかな?」

 

 「うちの子たちの経験から言って本当にそれだけの怪我をしていれば、立つことはおろか自分で喋ることも難しいよ」

 

 「君達(ヘスティア・ファミリア)から仕掛けてきた証人もいる」

 

 「笑えるね。みんな君の所の子ども(アポロン・ファミリアの冒険者)だろう?信用できない」

 

 アポロン様の言葉を神様は一刀両断していく。

 しかしアポロン様に追い込まれた様子はない、むしろ想定道理だと言わんばかりの表情。

 

 「つまり罪を認める気はないと?」

 

 「ボクの所の評判が悪いのは認めよう。だけれど犯した覚えのない罪を認める事なんてしないよ」

 

 最終勧告だと言った言葉を神様が拒否する。

 それと同時にアポロン様が高らかに宣言した。

 

「ならばアポロン・ファミリア(私達)ヘスティア・ファミリア(君達)に【戦争遊戯(ウォーゲーム)】を申し込む」

 

 僅かな間の沈黙の後会場のあちこちから悲鳴のような叫びが沸き上がる。

 

本気(マジ)か、本気(マジ)でやるつもりなのか」

 

「キター!!」

 

「一周回って見てみたーい」

 

 【戦争遊戯(ウォーゲーム)

 ファミリア同士の決闘であり、ルールを決めてのファミリア同士での総力戦だ。

 だがそれを宣言したという事は、最早無かった事にはできないという事。

 ましてやパーティの最中に参加者の前での宣言だ。

 これでやっぱりなし、なんて言えるわけがない。

 アポロン・ファミリアが本気であるというこれ以上ない証拠だった。

 

「本気、いや正気か?それが何を意味しているのか分かって言ったのかい!?」

 

「本気であるし正気だとも。

 【戦争遊戯(ウォーゲーム)】の勝者は全てが与えられる。富も名誉も、そして相手の眷族も。

 私達は勝利する。

 君の眷族が築き上げた伝説を現実へと引きずり落とし、最凶の称号を私の眷族のものとする。そして君の眷族、ベル・クラネルをわが手に」

 

 まさかの宣言からの流れに驚愕している僕を真っすぐに見つめアポロン様が僕を指さす。

 その視線は粘着質な物を含んでいた。

 

「一つ聞かせてくれ。酒場での一件からこの流れは想定された物かい?」

 

「フフッ、何のことか分からないが、きっと君の思っている通りさ。それで?

 受けるのか、受けないのか、どうするんだ」

 

 鋭い神様の視線を受けて厭らしく笑ったアポロン様が迫る。

 だが神様はそんなアポロン様に背を向け出口へと向かう。

 

「お断りだよ。ボクも、ボクの子ども達もみんな忙しいんだ。

 最凶の名前が欲しいからなんて、そんな馬鹿みたいな理由で申し込まれる戦いを一々受けていたらどれだけ時間があっても足りないんだ。

 そんな理由でこれ以上ボクの子ども達を煩わせないでくれると嬉しいな」

 

「後悔するぞ」

 

 先程までの笑みをかき消したアポロン様が神様の背中へと言葉を投げつける。

 肩越しに後ろを見た神様は吐き捨てるようにその言葉に答え、僕を伴ない会場を後にした。

 

「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」

 

 

 

 




どうも皆さま

私です

お気に入り登録数1500突破ありがとうございます
やっぱりお気に入り数が上がっていったり評価を頂いたりするとテンションが上がります

また前話を少々手直ししました
と言っても先週の日曜日ぐらいには直していたのですが一応
ご報告を

今回も難産でした
神の宴という関係上フロム勢を出すことが出来ないこの話は必要なのか
そんなことを考えながら書いていた時戦争遊戯の申し込みを否定するカッコイイヘスティア様を書けばいいじゃないときがつきました

戦争遊戯に持ち込めばどんな考えがあろうと、どんな企みがあろうと
自分の眷族灰達ならば簡単に打ち砕くだろうと分かってはいても
その選択を良しとしない
慈悲深くも気高いヘスティア様を書こうと思いました
...その割にはヘスティア様の出番が少ない気が?
何故でしょう

とにかくここから加速する予定ですよ
あっ加速すると言っても小説の内容的な意味で
更新予定はこれまでと同じ一週間後ですが

それではお疲れさまでしたありがとうございました
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