忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編 作:noanothermoom
歪んだ食器
とある芸術家気取りが作った食器
捨て値で売られていた
ある芸術家は嘯いた
真の芸術とは飾るだけでなく
実際の使用に耐えうる機能美も持ち得るものだと
ならばこの食器は真の芸術ではないのだろう
歪んだ形は場所を取り
奇抜な色彩は食欲を喪失させる
だがその奇抜な姿は竈の女神の探していた物だった
食事すら忘れた己が眷族であっても
この食器の存在ばかりは忘れまいと
アポロン様が主催したパーティから一夜明け。
僕は再びアポロン・ファミリアの拠点の前にいた。
灰さん達がギルドからの呼び出しによって外出してしばらく
僕がそろそろダンジョンに向かおうかと思った時それは起きた。
うなじから背筋に掛けて言いようのない悪寒が走り、咄嗟に神様と九郎を庇って地面に押し倒す。
それと同時に無数の爆発が地上部分で起きる。
それはアポロン・ファミリアの襲撃だった。
正直に言えば『まさか』だった。
まさか、白昼堂々。
まさか、昨日の今日で。
まさか、本当に襲ってくるなんて。
だけれど状況は僕の驚きなんて気にも留めてくれない。
灰さん達がいればブチギレて反撃しただろうけれども、僕では神様達を連れて逃げることしかできず。
そうして逃げ出したオラリオの街中にもアポロン・ファミリアは待ち構えていた。
神様達を連れたまま戦うなんてできない。
とにかくギルドを目指していた僕達の前に立ち塞がったのはアポロン・ファミリア団長にして、酒場で僕がぼこぼこにされた相手、ヒュアキントス・クリオだった。
神様達がいなければ、奇襲によって浮足立っていなければ...。
いや、これは言い訳だろう。
僕は再びヒュアキントスにぼこぼこにされた。
それでも神様達と何者かによる横やり──おそらくはナァーザさんだ──によって何とか逃げ出し、橋の下でアポロン・ファミリアから隠れながら手当てをしてもらった。
そうしているうちに街の中が騒がしくなったと思っていたら狼さんが助けに来てくれた。
僕達が狼さんに現状を説明して、狼さんが灰さん達の現状を僕達に説明していると、凄い音が響いた。
音がした方にはアポロン・ファミリアの拠点があり、今の状況から考えると灰さんが暴れている音だ。
灰さんを止める為に狼さんが神様と九郎を連れて先に行き、僕はその後を走ってついて行った。
そうして街の中を走ってようやくアポロン・ファミリアの拠点へとたどり着けばそこには、昨日僕と神様が訪れた時の絢爛豪華な姿は嘘のようにぼろぼろの建物があった。
分かってはいたことだ。
灰さん達は強い。
オラリオでも、いや或いは世界でも最強クラスと言ってもいいだろう。
それでも、僕なんかとは比べ物にならない程に強いのだと知っていてなお、僕が苦戦していたアポロン・ファミリアの冒険者達が、その威容に気圧された建物が、余りにも容易く打ち倒される姿は僕に問いかけるのだ。
「お前は本当に灰達と家族だと言えるのか」と。
僕はその問いに何と答えようとしたのだろうか。
何かを言おうとしたようにも思うし、何も言えなかったような気もする。
だが頭の中に浮かんだ何かを言葉にする前に神様が灰さん達を伴なって捩じれた門から出てきた。
「っ神様!!」
神様の姿に、今まで考えていたことなんてすべて投げ出して駆け寄る。
「無事ですか!灰さん達も!」
「なんだ?一丁前に俺達の心配なんかしてたのか?」
強いと分かっていても、灰さん達がいると分かっていても、それでも心配する心は止められない。
だが、灰さんは酷く楽しそうに僕の頬を指で突いてくる。
門の傍にいた九郎と狼さんと合流するとそれまで微笑んでいた神様の気配が変わる。
「先ずは謝るよ。こんな状況になったのはボクの責任もある」
「そんな...神様は悪くありません!!」
「ありがとうベル君。だけどねボクは君達の主神なんだ、だからファミリアの方向性への責任を持つ義務がある。だからこの状況はボクの責任でもあるんだ」
つらそうな表情の神様の言葉に僕は反射的に反論する。
悪いのは誰か、と言われれば間違いなくアポロン・ファミリアだ。
それでも、と更に責任を追及していくのならば
だが、神様は頭を振り「
その瞳は強い意志の光が宿り、神様が安易な慰めや誤魔化しを必要としていないことを示していた。
「だからこそボクはここに宣言するよ。ボク達ヘスティア・ファミリアはアポロン・ファミリアへと
そして続いた神様の言葉に空気が一気にひりつく。
単純なケンカや私闘ではない。
その言葉の重さに僕がつばを飲み込もうとした時だった。
「「「「ぃよっしゃあああああ!!!」」」」
地響きのような歓声が上がる。
驚愕し周囲を見渡せば、あちこちの建物から、あちこちの陰から、それこそ花壇の中からすら人影が飛び出していた。
いや、人影というのは適切ではない。
「ふん...」
祭りだ、ギルドに申請だ、臨時の
直接視線を向けられたわけでもない僕ですら悪寒がするほどの冷たい視線。
それは騒ぎ立てる神様達を黙らせるには十分な物だった。
神様達が口を閉ざしたのを確認すると灰さんと入れ替わる様に神様が前に出た。
「詳しくは皆の前で
叫ぶと同時に神様が歩き出す。
熱狂している所に水をかけられた形になるが、神様、いや灰さん達の前に立つ勇気を持つ神様達はいなかったようで人波、いや神波が分かたれていく。
「それで...一体何処に向かっているんでしょうか」
「ん?今日の宿だな」
歩き出した神様達に置いて行かれないように後を追いかけているうちに何処へ向かっているのかと疑問を持つ。
僕の知る限りこの道はギルドにも、【
そんな疑問に答えてくれたのはいつの間にか先導していた灰さんだ。
「ヘスティアもベルも疲れただろう?これからのことを話し合う前に休む必要がある」
疲れている時のひらめきに良い物はないと言って灰さんは笑う。
確かにそう言われると疲労に気がつく。
神様も同じの様でさっきまでの凛とした姿が嘘のように萎れている。
「ボクもうそんなに歩けないよ?」と神様が弱音を吐くと小さく笑った灰さんは「もうすぐだ」と言って再び前を向いて歩きだす。
いつの間にかオラリオの空を覆っていた雲は晴れていた。
「ほぉ?そんでウチの所にきたっちゅう訳か」
「おお、その通りだ...で、泊めてくれるか?」
目の前の光景に頬が引きつる。
いや僕だけじゃない、九郎も神様も、狼さんですらその顔が強張っている。
いや、はっきり言ってこの場にいる人物で顔が引きつっていないのは灰さんだけだ。
「泊めたる...とでも言う思とんのか!この阿呆がぁ!!」
周囲の状況に気がついていないのか、それとも気にも留めていないのか。
朗らかに笑う灰さんへと顔を引きつらせながらこの館の主、ロキ様が叫んだ。
そう、ここは【黄昏の館】オラリオ最大派閥が片割れロキ・ファミリアの拠点だ。
他所のファミリア、それも
だが、堂々と進んでいく灰さんの姿に、すでに話はついている物だと思ってついて行った結果がこれだ。
当然ながらファミリアの
ロキ・ファミリアともなれば門番だっていたのだが、余りにも堂々と、まるで「えっ?話聞いてないの?」と言わんばかりに進んでいく灰さんの姿に素通ししてしまい。
なんならその後会ったティオナさんも「ロキに会いに来たの?こっちだよ」とてっきり
ところが驚いたのはロキ様だ。
急にヘスティア・ファミリアが現れればビックリするのも無理はない。
だが、びっくりしたロキ様を見てティオナさんも驚いていたし、僕達も驚いた。
しかし灰さんはこれまた当然のような顔をしてテーブルに着き、灰さん以外の全員が顔を引きつらせながら話が始まった、という訳だ。
しかし当然ながら灰さんの旗色は悪い。
と言うよりもロキ様の怒りも御尤もだ。
これで普段から仲良くしていればまた別かもしれないが、神様とロキ様の不仲は有名だ。
ロキ様にしてみれば僕達を受け入れる理由などない。
「そうか...俺がこんなに頼んでも駄目か?」
「笑わせるな、お帰りはあっちや」
にべもなく断られた灰さんは僅かに縋るような声を出したが、ロキ様の様子を見る限り意志は固そうだ。
「じゃあしょうがない...」
「...なんやと?
灰!もう一度テーブルに着け!」
?
灰さんが項垂れたままテーブルから立った時ロキ様の耳元で何かを囁いたように見えた。
そしてそれは見間違いではないのだろう。
ロキ様が露骨に動揺した。
一体何を言ったと言うのか。
「そんで?お前等の要求は何や」
「そうだな...とりあえずは今日寝る寝床...いやしばらく安心して寝られる寝床かな?」
ロキ様の言葉に従い灰さんがテーブルに着くと同時に前置きもなしにロキ様が要求を聞いてくる。
そして灰さんはロキ様の様子を見ながら要求を口にする。
しばしロキ様が腕を組み無言で考え込む。
灰さんの要求は要するに
はっきり言えば無法だ。
そんな要求を口にした時点で「ふざけるな」と追い出されても仕方がない。
だがロキ様は深く考え込んでいる。
誰も何も話さない。
部屋に響くのは時計の立てるカチコチと言う音だけ。
時計の秒針が一周したころだろうか、ロキ様が重い口を開いた。
「屋敷の隅の方やで...」
しぶしぶと言った口調で放たれた言葉は僕達を受け入れる物で。
「「ロキ!?」」と声が重なる。
ロキ・ファミリアからは本気か?という驚きの声。
ヘスティア・ファミリアからは受け入れてくれるのか!?と言う驚きの声。
「けどなぁ灰ぃ、分かっとんやろうなぁそれが嘘やったら...」
「俺達が
何ならヘスティアの名にでも誓おうか?」
僕がお礼を口にしようとした時、ロキ様の纏う空気が変わる。
先程までの怒りだけではない、もっと深い底の見えない沼のような気配。
だが灰さんもまた気配が変わる。
先程までのどこか馬鹿にしたような様子は鳴りを潜め、真剣なまなざしでロキ様を見据えている。
しばし互いに睨み合った灰さんとロキ様は、しかし同時に面白くなさそうに「ふん」と鼻で笑い視線を逸らす。
そのままロキ様は「やっとれんわ、酒や酒!!」と叫びながら居室がある──のだろう──方へと歩いていき、僕達は残されたロキ・ファミリアの人達に館の隅の方の部屋へと案内してもらったのだった。
SIDE 九郎
「これはまだ使えそうですね。狼」
「はっ」
ヘスティア・ファミリア拠点【廃教会】、いえ元【廃教会】と言うべきでしょうか、或いは【廃教会】跡地?
何にせよ私達はアポロン・ファミリアの襲撃によって跡形もなく破壊されてしまった拠点へと来ていました。
拠点が破壊されてしまった、と言ってもあくまで地上部分の話。
【
ならば無事な家財もありましょう。
これからの生活の為にもまだ使えるものを回収する為に狼と焚べる者殿を連れて来たのです。
幸いと言うべきか、こうして荒れた建物から必要なものを探し出すことには慣れています。
そもそもここは私達が住んでいた場所。
何処に何が置いてあったのかも知っておりますので、回収作業はすいすい進むはずなのです。
ですが、ですがその手が止まるのです。
壊れた家財を見る度に、がれきの下から思い出が出てくる度に、私の手は止まってしまうのです。
灰殿と狩人殿がケンカをしてつけた傷跡。
よく焚べる者殿が
“へすてぃあ”様が初めてのお給金で買って来た食器。
それらを見つける度に私の心に言いようのない痛みが走るのです。
ええ、そうです。
何時しか
そしてその場所を失ったことに、どうしようもない悲しみを覚えるのです。
「ふっ...くっ...」
泣き声を殺します。
今は泣くべき時ではありません。
未だ私達の戦うべき相手は健在であり戦いは続いているのです。
ですが、それでも後悔は湧き上がるのです。
私は私に宿る竜胤の力を疎んできました。
これは人のあるべきを歪ませる、人の世に在るべきではない物だと。
そしてこの力を振るう事を拒み、きっとどこかにこのような力を必要としない場所があるはずだと探し続けたのです。
そうしてやっと手に入れた安らげる家が
ですがそれは破壊されました。
失ってしまった居場所を片付けていれば後悔が湧き上がってきます。
私は
ですが私は、私のしてきたことは、ただ自分の身に宿る力から逃げ続けていただけなのではないのでしょうか。
もし私が平田にいた時に、弦一郎殿に葦名の為に力を貸せと言われた時に、或いはもっとほかの時にこの力を使っていれば、そうすれば...。
詮無きことです。
どれだけ過去を悔やんだ所で変えることは出来ません。
ですが分かっていても、それでもなお【もし】を考えてしまうのです。
「...九郎、手が止まっているぞ?どうした?」
「焚べる者...殿」
どうやら些か考えこみすぎていたようです。
いつの間にか焚べる者殿がそばに立っておりました。
「...いえ、せっかく私達が得た帰るべき場所が失われてしまった、と考えていたら止まらなくなってしまっただけです」
「...」
恐らく狼は私が考えこんでいるのを見て、邪魔をしないように距離を取ったのでしょう。
何処にも姿が見えません。
狼がいればなんとでもごまかしようがあったでしょうに、私一人では誤魔化し切れるとも思えません。
仕方がないので事実をそのまま伝えます。
言葉にすればいつか狼へと打ち明けた悩みと同じな気がしてきました。
私は何時までも変わりません、変われません。
こんなことを伝えられたところで焚べる者殿も困ってしまうだけでしょうに。
「...過去は変えられない」
事実焚べる者殿はしばし悩んだ後絞り出すように短い言葉を呟きました。
その通りです。
焚べる者殿達の“そうるの業”でも、狩人殿の神秘でも、そして私の竜胤の力でも過去は変えられません。
そのことを痛いほどに理解している焚べる者殿に私は何とむごい仕打ちをしたのでしょうか。
謝ろうとした時です「されど」と焚べる者殿が呟きました。
「されど...未来はそうではない」
実に単純な真実です。
そうです。
だからこそ人々は日々良く生き、鍛錬を続けるのです。
「それに...
「そうですね」
失ったものの大きさに目がくらんでしまいました。
思い出は帰っては来ないでしょう。
ですがもう一度作り直せばいいのです。
私達は生きているのですから。
SIDE ロキ
太陽が地平線の向こう側に沈み、夜がオラリオの街を覆った。
まるでこれからのアポロン・ファミリアの未来を暗示するかのような光景に流石のウチも笑う。
いや、笑えんか。
「それで?何の用だ?ちょっと前にこうして呼び出された隙に襲撃を受けた所為で落ち着かないんだが?」
そんなアンニュイな気分をぶち壊すように灰が急かす。
...こいつウチを怒らせたら追い出されるとか考えんのやろうか。
考えんのやろうなぁ。
とは言え、ウチだってこいつと夜に同じ部屋にいたいわけでもない。
さっさと本題へと入る。
「あん時言ったやろ『お前達が探っている18階層にいた【
それについて教えてもらうで」
「あー...あれか。それについて語る為に先ずは俺達がギルドから依頼を受けた所から語る必要がある。長くなるぞ」
これでも天界で幾多の陰謀、事件の裏で暗躍したトリックスターと呼ばれた
神であったとしてもその表情から内心を推し量ることなんて朝飯前、ましてや
だがこの灰相手には何も分からない。
いや、
微塵も心を揺らしとらんのや。
そんなことあるか?
ありえへんやろ。
フツーどんなに興味のない事やったとしても目の前で何かが起きたんなら、それについて何か思うはずや。
やけどウチの見る限り灰は微塵も感情を動かしとらん。
それこそ心自体がないんじゃないかと思う程に。
今もそうやウチを見て面倒くさそうにため息をついて、さも面倒くさいと言わんばかりの態度をしとるが、それは表面上でしかない。
その奥、ヘルムの隙間から見える瞳からは一切の感情を感じ取れん。
仮にも殺そうと──いや実際に殺されかけたんやけれども──した相手を目の前にしてする目じゃない。
いや、余計な
「別に
「そうか、ならば手短に。あの場所はダイダロス、狂気に囚われた建築家とその一族が造り続けたもう一つの
「...はぁ!?」
灰の口から語られた物はとんでもないものやった。
ダイダロスの名前は知っとる。
ダイダロス通りを建築した頭のおかしい建築家。
やけど、その子ども!?
ダイダロスとて
「まさかその人工迷宮とオラリオは繋がっとんのか!?」
「そういう事だ。つまりあの【
さらっと灰は言ったがとんでもない事や。
ダンジョンと言うモンスターが湧きでる大穴をバベルが蓋をしてから幾星霜。
ダンジョン唯一の入口と知られる入口以外に誰にも知られていない入口がある。
そんな噂は聞き飽きる程に流れとる。
ギルドに、いや誰にも知られずにダンジョンに潜れる、或いはダンジョンから帰ってこられる。
そのことがもたらすメリットと混乱はウチですら予想もできん。
ただ、莫大なものになるとしか言えん。
だが所詮は噂は噂。
暇つぶし位のものにしかならんものやった。
しかし新しい入口が真実存在する。
しかも【
考え得る上で最悪の知らせやった。
「...何故そんなことを知っとるんか聞かせてもらおか」
「俺達に興味はなかったんじゃなかったのか?」
灰達の事情に興味はないと言ったが、ことがあまりにも大きすぎる。
興味があるないの領域の話ではない。
「黙れ。今お話を楽しむ気はない。聞かれたことに答えろ」
「ギルドから受けた
その存在を重く見たギルドはそのテイマーと協力関係にあると思われる【
アイズたん達が18階層で出会った調教師。
異様な力を持っていたと報告は受けとったが、ギルドがわざわざ灰達に依頼する程重視しているとは思とらんかった。
しかし【
暗黒時代と呼ばれた【
噂好きな
ウチも実際に殺されかけた経験がなければ「嘘やろ」と信じなかったはずや。
...それを思えばアポロンの馬鹿も不幸やな。
見えている地雷を見てみないふりが出来る程
いや、そんなに賢かったら最初っから地上になんて降りてこない。
間違いなくそのうち誰かが踏んだやろう。
やのにたまたま踏んだのがアポロンと言うだけで間違いなく酷い目にあわされるのが確定しとる。
同情はせんが、哀れやと憐れむくらいはしてもばちは当たらんはずや。
そんなことを考えながら灰から情報を聞き出す。
場所、理由、製作者、etc...。
意外なことに灰は聞いたことに素直に答えた。
とは言え灰は
知らん事は知らんとしか言えん。
それでも18階層のあの場所についてぐっと調査が進んだのは確かやった。
「...最後にこれも聞かせい。何で【
いい加減面倒くさくなったぞ、と文句を言い出した灰へと重要なことを聞く。
そう、これこそが最も重要なことや。
確かに
だが、襲撃によって多少の怪我を負ったとは言え誰一人として欠けることなくおる。
なら他所に助けを求める必要はない。
いやそもそも助けを求めるのならドチビの知り合いに助けを求めればええ。
わざわざ
事実灰達はそれなりに苦労して手に入れたはずの18階層についての情報を提供しとる。
思ったよりも情報量が多かったから貸しにしてやる計画はとん挫したが、わざわざ仲の悪いウチに助けを求めんかったらこんなことをしなくて済んだはずや。
「それだがな、俺達はギルドに呼ばれて
ああ、勘違いをしてほしい訳じゃないんだが俺はそのことについて怒っている訳じゃないんだ。
俺達でもまさかそんなことは起きるまいと高をくくっていたからな、だからお前たちの所にヘスティア達を預けてギルドに殴り込みを仕掛けるだとかを考えている訳じゃない。
ただ、一度やった失敗を二度も繰り返すつもりはないだけだ」
「...ウチの子は警報機代わりかいな」
「それだけじゃないぞ?あわよくばベルの奴に稽古をつけてくれないかとも思っていたからな」
灰は僅かに笑ってウチの顔を覗き込んでくる。
なるほど。しばらくの間滞在する代価としては嫌に大盤振る舞いだと思っとったらそんな下心があったんか。
けど...。
「それこそなんでウチの子や?あんた等が鍛えたればいいやろ」
ウチの子は強い。
これは純然たる事実や。
見栄や身内贔屓やない、オラリオ最大派閥の片割れと言う地位がそれを物語っとる。
けど灰達はそれを上まりかねへん。
いや、純粋な
そして【
今までどれだけ話を続けても感情らしい感情を見せなかった灰が、自分の所の後輩について話した途端僅かに目元が緩んだ。
それは確かな慈愛の証で、こいつにも
だからこそ分からん。
鍛えてやるだけなら自分等ですればいい。
今更“邪魔になるから”なんて殊勝なことを言うはずもないやろうに。
「あいつはな、ベルは【英雄】になりたいんだってよ」
「...それは...なんと言うか...」
灰が苦笑するように言った言葉にウチは返事に詰まった。
神時代と呼ばれる
それは間違いなく
それを目指して進むと言うのなら神としては愉快なことではある。
だが、今ウチの目の前に居る灰にとってはそうじゃない。
こいつにとって【英雄】とは生贄、犠牲の意味や。
いや、それ以上か。
生贄、犠牲にするのならそういえばいい所を【英雄】なんて飾り立てとんやから。
こいつの嫌いな欺瞞やな。
心その物が無いんちゃうかと思うような灰が確かに可愛がっている後輩がそんなもんに憧れとんや。
本人としては微妙な気持ちやろ。
けどウチの考えなんて知った事かと言わんばかりに灰は言葉をつづけた。
「だったらダメだろ?俺達じゃな。
英雄になりたいんだったら
「...」
いや、これはウチに話しとんやないな。
何時しか自分自身に語り掛けるように話しとる灰を見てウチは黙る。
結局の所や。
ウチが灰の『ウチの館に泊めて欲しい』っちゅう願いを受け入れたのはそこにメリットがあるからや。
灰が口にした18階層の闇派閥についての情報を仄めかす言葉。
灰達の闇派閥に対する憎悪の深さを知っとるからこそ、その言葉は信用できた。
だからこそ仲もよくない、他所のファミリアとケンカしとるドチビとその子どもを受け入れた。
じゃあ
冷静に考えれば無い。
一個人としては興味深い分類に入るかもしれんが、逆に言えばそれだけや。
灰のもたらした情報によってこれから忙しくなるウチの子をわざわざつけてやるだけの理由はない。
「ええやろ。ウチの子の手が空いとるときだけやけど鍛えたろ」
けどウチは灰の
それは灰の出した
やけどウチが聞き入れた最大の理由は灰の姿やった。
灰が、あの灰が、あの天上天下唯我独尊を地で行くような灰が、
それの代価としてはウチの子の空いとる時間は安いもんやろ。
朽ちた食器
砕け散った食器
さらには火にでも炙られたのだろうか
元は奇抜な色合いだったろう色は褪せてしまっている
灰は語る
「手になじまない使いにくい食器だった」
狩人は語る
「食欲の失せる気味の悪い色合いだった」
焚べる者は語る
「これを使うぐらいなら葉っぱでも使った方がましだ」
九郎は語る
「奇妙な形は洗いにくく使いにくかった」
狼は語る
「次があるのならばヘスティア様には食器のお使いを頼まない」
だが最後にこうも付け加えるのだ
「でも壊れてしまえとは思わなかった」と
どれだけ欠点があろうとも
共に過ごした時間は愛着となり
そこには思い出が宿るのだ
どうも皆さま
私です
おかしい話が進まない
ええ、何時ものごとく文字数が増えまくる病が発病しました
と言いますか
このころのベル君がやってることってアイズ達の特訓でボロボロにされているだけなんですよね
なので話しを進めようと思うと別の人物の視点になる
だけど別の人物の視点で進むのならダンまち二次じゃなくてもいいのでは?
いや、けど感想でもフロム勢が出てくると面白いみたいなのを頂いたし
それならなおの事ダンまち二次じゃなくてもいいのでは?
みたいなことを考えながら書いておりました
これが生みの苦しみと言う奴でしょうか
そんなことを言って後書きを終わりにします
それではお疲れさまでしたありがとうございました