忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編 作:noanothermoom
狩人の持つヘスティアメダル
強い血の臭いが染みついている
ただ目の前の獣を狩ればよい
それが助言者より与えられた獣狩りの夜の歩み方だ
そしてその言葉に従い狩人は全てを狩りつくし
遂には上位者へと至った
永い夜を終わらせオラリオへと降り立った狩人は
ヘスティアより導きを賜りそして知った
聖剣と呼ばれた狩人が狩りの中では折れなかった理由を
何故醜い獣にまで堕ちてなお彼の導きを手放さなかったのかを
導きとは甘く
そして抗いがたいものである
この先は【
幾ら
「ここまででいいよ灰君。ここから先は
「そうか。ならばせめて【
ボクの言葉を聞いて灰君が珍しく可愛げのあることを言った。
ここに居る、つまりはボクの傍を離れず護衛を続けるという事だ。
いつものボクならば「珍しいじゃないか」なんて言って揶揄っただろうが、今のボクではそうもいかない。
灰君がらしくもなく可愛げのあることを言うのも、ボクの護衛なんてのを真面目にしているのも、全部【
この数日灰君達は酷く過保護になっている。
自分達がいればアポロン・ファミリアなんてどうとでもできると言う自負、或いは慢心が拠点の喪失という結果を招いたという後悔。
そして二度とそんなことをさせないと言う誓い。
何時もボクは「灰君達はボクへの敬意が足りない」だとか「ボクは君達の主神なんだぞ」と言っているが、いっそ痛々しい程の献身なんて嬉しくない。
だが、ここで灰君の献身を拒んだ所で灰君は素直に引き下がらないだろう。
それにこの後のことを考えれば
今日の【
絶望的な物を見たような表情をする神や、寝ている竜の前を起こさないように通るようにして何とか目立たないようにする神など。
目の前を色々な神が通っていく。
そんな中、絶望に溢れた悲鳴を上げた神がいた。
「ヒッ!ひ、火の無い灰...」
数日前に灰君に拠点ごとぼこぼこにされた太陽神、アポロンだ。
そして機嫌悪そうに目の前を通っていく神々を眺めていた灰君の目がアポロンを捉える。
例えて言うのならば獲物を甚振る猫だろうか。
にやにやと意地の悪い笑みを湛え灰君がアポロンへと絡む。
「おやおやぁ?これはこれは、光り輝く太陽神、アポロン様じゃあないですか。
今日もその御威光は眩いばかりので御座いますね...主に頭が」
灰君の言葉に周囲から噴き出す音が響く。
実を言えば
アポロンの頭部は明確にかなり薄くなっており、それをいつも着けている月桂樹の冠で隠していた。
だがそれを灰君は容赦なく暴く。
「どうしました?アポロン様。顔色が悪いですよアポロン様。
そういえば巷では考えの足らない者の事を頭アポロンかよと言うのが流行ってるそうで。
御身の眷族達はそれを打ち消そうと必死だとか。
なるほど。御身自ら真の頭アポロンとは
いやはや流石は全ての者が仰ぎ見る太陽神、格が違う」
「そこまでだよ灰君。済まないねアポロン。ボクの子が」
アポロン様、アポロン様、と連呼しているが、明らかにその度に悪くなるアポロンの顔色を面白がっての事だ。
それ以上は見逃せないと止めに入れば灰君は素直に引き下がり、アポロンが青い顔で感謝の視線を送ってくる。
だがこれはアポロンを救ったんじゃない。
灰君の品格を守っただけのことだ...今更守る品格があるのかなんて言ってはいけない。
「なんにせよ君が来たのなら【
アポロンとボク。
今回の【
灰君に大人しく待つように言えば恭しいお辞儀が返ってくる。
その姿に湧き上がる不安を押し殺してボクとアポロンは目の前の扉を開く。
さあこれからが本番だ。
「おっ!頭アポロンの御登場だ!」「失礼な全身アポロンだろ」「いや、でも前より少し寂しくなってるぞ、主に頭が」
僅かに室内...と言うよりも空が見えるこの空間の眩しさに目を細めているとそんな会話が耳に入ってくる。
周囲を見渡せばどの神も
分からないでもない。
アポロン・ファミリアの襲撃から数日。
間違いなくここ数年で最大の祭りになるに違いないヘスティア・ファミリアとアポロン・ファミリアの【
それが目の前にあったのにじらされ続けていたのが今日ようやく解放されるのだ。
小さくため息をつき胸を張る。
普段の【
どれだけ馬鹿々々しい神の姿に気が滅入ったとしても情けない姿を晒す訳にはいかない。
そのまま部屋の中央、何処からでも見える場所に置かれた机と二つの椅子、その片方に座る。
びくびくと、怯えた様に歩くアポロンがもう片方の椅子に座ると同時に声が響く。
「今回の【
見れば優男風の風貌に羽の付いた帽子をかぶった神、ヘルメスが
なるほど。
ヘルメスは旅人の神。
本人もあちらこちらへと旅を続けオラリオにいないことの方が多い。
だからこそ【
...と言うのは表向き。
実際にはヘルメスとボクは天界の頃からの知り合いだし──尤もこれはアポロンも同じだが──18階層での戦いでも
そして何より18階層での灰君達の無茶苦茶さを見ているヘルメスを司会に据えることで、
ヘルメスも大変だ。
「一ついいだろうか、今回の【
口調こそ先程までの醜態などなかったかの様な落ち着いたものだが、よく見ればその目には涙が溜まり額には汗が玉のように浮かぶ。
一体何を言い出すのかと神々の視線が集まる中震える声でアポロンは口を開く。
「今回の【
一瞬の沈黙。
「ふざけんな」「恥を知れ」「
ボクが聞き取れただけでも酷い罵倒がアポロンに降りかかる。
聞き取れなかった中にはもっと酷い罵倒もあった事だろう。
「し、仕方がないだろう!?知らなかったのだから!!」
雨の様な罵倒に晒されながら、アポロンは涙目「あんなのに勝てる訳ないだろう!!」と反論する。
とは言えそれは功を奏しているとは言えない。
口々に言いたいことを言っている神々を嗜めながら、ヘルメスが青い顔でボクの様子を窺っている。
「それを君が望むと言うのならばボク達はそれを受け入れよう」
だからこそボクはそれを受け入れる言葉を発した。
再びの静寂。
「へ、ヘスティア?その、私の耳がおかしくなければ受け入れると聞こえたのだが...?」
「だからそう言っているだろう。君が望むのならばそれを受け入れると」
「!
待った。どこに行くつもりだい?」
震えながら疑問を口にするアポロンへと答えながらボクは席を立つ。
未だ混乱から抜けきっていないだろうにヘルメスは目ざとくボクの行動を咎める。
【
その先に何嫌なものが待ち構えていると感づいていても。
「何処って灰君達の所さ。灰君に掛けた誓約を解かなくちゃいけないからね」
「火の無い灰の...?いったい何のつもりだ!」
ボクの答えにアポロンが殆ど無意識のうちに疑問を投げかける。
ボクの狙い通りに。
いっそここまで想定通りだと憐れみさえ浮かんでくる。
だが容赦はしない。
「何のつもり?何のつもりだって!?」
ボクは激しく机を叩く。
豹変とすら言っていいボクの様子に気圧された様にアポロンがのけぞる。
「他ならぬ君が言うのかい。じゃあ教えてあげるよ。
ボクは、ボク達は、
当然だよね自分の拠点を潰されたんだから。
それでもこの数日大人しくしていたのは【
だけど今君は灰君達の参加を拒否しようとした。
そうなればどうなるかな!?」
詰め寄ればアポロンの目が泳ぐ。
思い至らなかった可能性、否そんな事はないはずだと必死に目を逸らしていた可能性を見せつけられ、アポロンの顔が青くなる。
「当たり前だけど灰君達は今度こそ暴れ回るだろうね。
知ってたかな?先日の
だけど今度はボクだってその
「な...ふざけるな。そうなればどうなるか...」
「ふざけるな...?
そっちこそ巫山戯るなよアポロン。
ボクは言ったぞ、幾度となく、何度となく言った。
その結果がどうなるか分かっているのかと何度も警告したはずだ。
それを今更なんだ!?」
ボクの言葉に神々から悲鳴のような叫びが上がる。
灰君達の噂を所詮は噂と考えていた神々でも、先日の灰君達の暴れっぷりを昨日今日で忘れられる程馬鹿じゃない。
そしてその原因となったアポロンへと非難が集中する。
アポロンの顔色は悪い。
それもそうだろう。
前回アポロンは灰君一人にぼこぼこにされた。
それが
そうなればどうなるかなんて火を見るよりも明らかだ。...灰君だけに。
「ヘスティア...気持ちは分かるが落ち着いて...」
「落ち着けだって!?
ああいいさ、落ち着いてやろう。
だけどね怒り狂っている灰君達にも同じ言葉をかけられるのかな!?」
一気に騒がしくなった室内を落ち着かせ、ヘルメスがボクを宥めようとする。
ボクが此処で落ち着くのは簡単だ。
だけれどその結果はどうなるのか。
「どうなのかな?
アポロンでも、ヘルメスでも、もちろん他の
ボクの代わりに灰君達に落ち着けと、怒り狂う灰君達を宥めてくれると言うのならばボクは喜んで落ち着くよ」
ボクは室内を見渡す。
誰も彼もが僕と視線を合わせないようにそっぽを向く。
そうだろう。
誰もこんな貧乏くじを引きたいなんて思うはずもない。
「ふう...つまり、だ。
逆に言えば灰君達の参加を認めるのならば
ひとしきり叫び、息を吐く。
そうして努めて冷静な声音でボクは語る。
何も
ボクの剣幕と絶望的な未来予想図に顔色を無くしていた神々がボクの言葉に少し落ち着く。
「さあ、【
SIDE ベル・クラネル
「気合いが入ってない...」
「うわ!?」
一喝と共に僕を凄まじい一撃が襲う。
集中に欠けていた今の僕にその一撃を受け止められるはずもなく。
なすすべなく吹き飛ばされ床に叩きつけられる。
「大丈夫...?」
「あ、ありがとうございます」
「ごめん...。思ったより...良いのが入った」
「いえ、今のは僕が悪かったですから」
地面に倒れる僕へとアイズさんが手を差し伸べてくれる。
その手を掴んで立つと、アイズさんは僕に謝る。
だが今のはどう考えても
「やっぱり...心配?」
アイズさんが気遣げに僕の顔を見てくる。
それはある。
今日は【
神様は灰さんを伴なって出席する為に外出している。
今日開催されるのは【
パーティとは違う。
幾らアポロン様だったとしてもそこで手を出すような真似をすれば、名声が地に堕ちるなどと言うレベルではない。
そもそも灰さんがついて行っているんだ。
何かしようとすることすら難しいだろう。
それでも心配なものは心配だ。
だが僕が稽古に身が入っていない理由は他にある。
「僕...ヘスティア・ファミリアの団長に、いえヘスティア・ファミリアに居て良いんでしょうか」
ポツリとこぼした言葉にアイズさんが首を傾げる。
分かってはいたことだ。
灰さん達は強い。
僕が逃げることしかできなかったアポロン・ファミリアを一蹴する所か、逆にアポロン・ファミリアの拠点まで攻め込んで一人で落としてしまったのだから。
分かってはいたことだ。
灰さん達は凄い。
僕が右往左往するしかできなかった間に安全を確保──その方法はちょっとどうかと思わないでもないけれど──してしまったのだから。
分かってはいたことだ。
僕と灰さん達の間には途方もない実力差がある。
それでも何時か、とひたすらに追いかけてきたけれど、僕の存在はむしろ邪魔にしかなってないんじゃないだろうか。
そんな考えが頭から離れない。
「ご、ごめんなさい。こんなこと急に言われても困っちゃいますよね」
僕の話を聞いているアイズさんが何とも言い難い表情をしているのに気がつき、笑ってごまかす。
僕は馬鹿か。
こんな話を聞かされても困る以外、どうすればいいんだ。
だがアイズさんは顔を俯かせて考えた後、しばらくしてから口を開いた。
「自信を持って...仲間なら強いか、強くないかなんて関係ないでしょう?」
励ますようにアイズさんが言葉をかけてくれる。
確かに僕もそう思って頑張って来た。
だけれど...。
「だけど、僕は何もできなかったんです。あの日、僕は神様達と一緒に逃げることしかできなかった」
鍛えてもらってその上悩みまで聞いてもらう。
同じファミリアでもないのにあまりにも厚かましい行いだ。
僕の心には後悔の念が生まれる。
だが、それを上回るあの日の後悔に言葉を止められない。
「ベルは...凄いね...」
「僕が...凄い...?」
僕の懺悔を聞いたアイズさんが口にした想定外の言葉に、僕はオウム返しに返すことしかできなかった。
僕が凄い?
凄いのは灰さん達だ。
僕は何もしていない。
アイズさんはゆっくりと話し出す。
「凄いよ...ベルは灰達がどんなに強くても、遠くても、その背中を追い続けてたんだよね」
それは...凄いのだろうか。
もし褒められることなら、褒められるべきは僕ではなく追いかけられるように鍛えてくれた灰さん達じゃないだろうか。
だがアイズさんは頭を振って僕の言葉を否定する。
「違うよ。灰達って高すぎる壁をみて、それでもって思えるベルは凄いよ...」
「そう...でしょうか。でも同じファミリアの
「...きっとベルのその考え方は灰達の救いになってるよ」
「救い...ですか...?」
意外な言葉にビックリする。
僕の言葉に頷くとアイズさんは少し悲しそうな顔になった。
「強くなるとね、みんなから距離を置かれるの。【あの人は強い】って。
それは仕方のない事かもしれない...覚悟の上だったかもしれない。
だけどね...強者って言うのは孤独なの」
ふとした瞬間に、何もすることのない夜中に。
気がつくと一人ぼっちな自分に気がつく、とアイズさんは悲しそうな顔をする。
アイズさんにもあったのだろうか。
ふと自分の周りに誰も居ないと気がついてしまった時が。
「もちろん、私には
強さなんて関係ない。凄いか凄くないかなんて関係ない。ただ真っ直ぐに
だけど間違いなくベルの存在は救いなんだよ」
「そう...でしょうか...」
分からない、いや理解が追いつかない。
あまりにも遠い領域の話で何処からどう飲み込めばいいのかすら判断できない。
だけれどアイズさんはそれでいいと笑うのだ。
そしてアイズさんは言う。
私の知っていた灰達はもっと人間味のない復讐者だったと。
だけれど僕が、僕の存在が灰さん達を人がましくしたのだと、少しだけ羨ましそうに言う。
「それが正しいのかは分からない...それを灰達が必要としているのかも。だけど...その在り方は灰達も持っていないベルの強さだよ...」
灰さん達の様に敵を倒すことは出来ない。
だけれど誰かを守ることが出来る。
戦いの果てにすぐ一人ぼっちになろうとするあの人達を引き留めることが出来る。
それが僕の強さだとアイズさんは言った。
「ただいまー」
「ヘスティア様が帰って来たみたいだね」
「今日の稽古は終わり」と言ってアイズさんは訓練場の出口に向かっていく。
その背を見つめながら僕は考える。
僕が、僕の存在が少しでも灰さん達の救いになると言うのならば、僕のすべきことは何だ。
力を求め、それでも全く追いつけないだろう遥か高みにいるあの人達と家族だと胸を張れるようになるために必要なことは何だ。
ロキ様から貸し出されている部屋の中に僕達は揃っていた。
「ヴェルフ!?ありがとう来てくれたんだ」
「おお、ベル。元気そうで何よりだ」
久しぶりにヴェルフと顔を合わせることが出来た。
あの日に起きた事、ロキ・ファミリアにお邪魔するようになったからの事。
話すことは幾らでもあった。
しばらく近状を話していると、ふとリリの姿が見えないことに気がつく。
来ていないのだろうか。
ヴェルフなら何か知っているかと問おうと思った時、奥の部屋に入っていた神様が出てきてタイミングを逃してしまった。
「ひとまずはお疲れさまでした。“へすてぃあ”様」
「ありがとう九郎君、さてまずはこれを見て欲しい」
部屋の中、楽な格好になった神様を九郎が労う。
それに答えた神様はテーブルの上に紙を広げる。
「今日の【
かっちりとした書体で記されていたのは
形式は攻砦戦。
砦を期限である三日間の間に攻め落とせれば攻め手の勝利、逆に落とされなければ守り手の勝利。
僕達は攻め手だ。
細々としたルールの下には、今日の【
第一項目には【ヘスティア・ファミリア所属火の無い灰、月の狩人、絶望を焚べる者の参加を認める】と書かれている。
その文章を読んでにやりと灰さんが笑う。
「よくやったヘスティア。これで俺達の負けはほぼなくなった」
「まあこの条件を飲ませる為に少なくない譲歩をしているけれどね」
灰さん達の参加。
それは僕達の勝利とほぼ同意義である。
だが、その下には灰さん達を縛る制約が書き記されていた。
広範囲攻撃の禁止、砦への直接的な攻撃の禁止、対戦相手の殺害禁止...。
その他にも色々な禁則事項が連なっていたが、それも見て狩人さんが面白くなさそうに鼻で笑う。
「ふん。
普通に考えれば戦う事、いや抗う事すらままならない条件。
だがそれでも灰さん達を止めるにはまるで足りない。
「ふむ、問題はないな。戦いのルールも、
最後まで読み終えた焚べる者さんが言う。
特に引っかかるようなところもないような変哲もない言葉だが、不思議なものがくっついていた。
それ以外とは何だろうか。
「今日の【
ボク達には譲れない二つの狙いがあった。
一つは灰君達の参加を取り付ける事。
首を傾げる僕へと神様が教えてくれる。
灰さん達の参加を認めさせる必要があったのは理解できる。
しかし協力ファミリアへの手出しを禁じられない?
何のために?
灰さんが狩人さんに視線をやると、狩人さんは何処からともなくぼろぼろの布を取り出す。
いや、あれは
「アポロン・ファミリアが襲撃してきたあの日。私が狩った獣はアポロン・ファミリアだけではなかった」
布を並べながら狩人さんはマークを指さしファミリアの名前を挙げていく。
「恐らくはアポロンが口八丁で引き入れた、他所のファミリアの
「その大半は私達に恐れをなして
この期に及んで私達に対抗しようとする頭の足らない愚物が、な」
神様の補足に頷きながら狩人さんは並べた布を除けていく。
ほとんどの布が除かれてなお一つのファミリアのエンブレムが付いた布が残る。
狩人さんは憎々し気にそのエンブレムを睨みつける。
月と酒杯のエンブレム【ソーマ・ファミリア】のエンブレムを。
「それが【ソーマ・ファミリア】ですか?...!
まさかリリがここに居ないのと何か関係が!?」
「それ...なんだがな。すまん!!」
【ソーマ・ファミリア】と言えばリリのファミリアだ。
リリがこの場に居ないことと何か関係があるのだろうか。
思わず叫んだ僕へとヴェルフが勢いよく頭を下げる。
ヴェルフが言うにはアポロン・ファミリアに襲撃を受けたあの日。
ヴェルフとリリは何時もの場所で僕を待っている時に、
ヴェルフが前に立ち、リリが陰からサポートする。
ヴェルフがLV.2へとランクアップしたのもあってヴェルフ達は勝ったが、一部の冒険者が逃げ出してしまった。
しっかりと倒すため、何より詳しい情報を聞き出す為にその冒険者をリリは追いかけて行った。
しかし次にヴェルフの前に現れた時にはファミリアに戻る事と僕への謝罪を頼んで、眼鏡をかけた冒険者と立ち去ってしまったらしい。
「...俺はリリスケを見送るしか出来なかったんだ。申し訳ねえ...」
「ヴェルフが謝る事じゃないよ」
「眼鏡の冒険者、【ソーマ・ファミリア】団長、ザニス・ルストラだろう。
お相手はおチビを連れ去ったことをあくまで、行方不明だった団員を保護しただけと言っているようだがな」
灰さんが補足する。
【ソーマ・ファミリア】の団長、つまりリリの上司でもある。
そんな人に呼ばれたのなら
だが、リリの話を聞いていればリリがソーマ・ファミリアからの命令に従うとは思えない。
ましてやファミリアに戻るなんて...リリとサポーターの契約を結びなおした日の夜。
リリを仲間に迎え入れた時の笑顔を思えば、リリが自発的に戻ったとは信じられない。
「そんなの嘘に決まってます」
「ボク達も同意するよ。サポーター君は何らかの弱み、たとえばヴェルフ君を狙うだとか言われて従うしかなかったに違いない」
ザニスはLV.2の冒険者だ。
ヴェルフと同じLV.2、同じくらいの強さだったとしても、他の冒険者もいる中でザニスが参戦すれば戦いの天秤は大きく相手に傾くことになる。
それを防ぐためにザニスについて行ったんだろうと神様は考えたようだ。
「そして、それから誰もリリルカの姿をオラリオで見ていない。
恐らくはファミリアの拠点のどこかで監禁されているのだろう」
「そんな...何とかできないんですか!?」
「だからこそボク達は協力ファミリアへの手出しを禁じられないように立ち回ったのさ」
あくまで僕とリリは冒険者とサポーターの関係だ。
ファミリアの内部にまで嘴を挟む権利を持ってはいない。
いや、神様もギルドを通して抗議をしたが「行方不明になっていた団員がヘスティア・ファミリアの冒険者と一緒にいたから助け出しただけ。むしろヘスティア・ファミリアこそ家の団員に手を出したんじゃないか」と言われてしまったそうだ。
だが、リリは自分のファミリアを嫌っていた。
どうにかして抜け出そうと必死にもがいていた。
そのことを知っているからこそ、今あれだけ嫌っていたファミリアに閉じ込められているだろうリリを放っておくことは出来ない。
何か出来る事はないか。
必死に考える僕へと神様は安心するように言う。
「相手に協力しているファミリアへと襲撃することを禁じられていないなら、相手の戦力を削ぐためと言う名目で襲撃をかけられる。
そうして救い出してしまえばこっちのものさ」
サポーター君を助け出せて、相手の戦力も削げる、一石二鳥と言う奴だねと笑う神様に同調するように、未だ敵対するという事は俺達の恐ろしさを十分に理解していないという事だろう、ならば俺達の恐ろしさをその魂に刻み込んでやろうと灰さん達は嗤う。
その姿は頼もしく僕から見ても恐ろしい。
「ソーマ・ファミリアへの襲撃は今夜決行する」
「今夜!?」
神様の言葉に僕はびっくりする。
リリを助けられるのなら一秒でも早い方がいい。
それは事実だ。
だが余りにも急すぎないだろうか。
「神様!?僕何も準備してないんですよ」
「ベルは留守番だ。体がまだ治り切っていないだろう?」
「だからって、リリは僕の仲間なんですよ!!」
「そして俺達の
冷たい灰さんらしからぬ声。
思わず「灰さん...?」と困惑したような声が僕の口から零れる。
「お前がおチビのことを大切に思っているのは分かってる。だけどな俺達にとってもあいつは可愛い
真剣な眼差しで僕を見てくる灰さん。
誰かを想うその姿は、他のファミリアの人達が知らない灰さん達の姿で、きっと灰さん達がなりたかった姿だ。
だから僕は灰さんの言葉に頷いた。
リリは大切な仲間だ。
そのリリを助けに行けないのは悔しい。
だけれど灰さん達なら間違いはないだろう。
「ただ」と僕は言葉を続ける。
「ただ、リリを助ける間は無闇な暴力を振るわないでくれますか?」
「これから他所のファミリアに襲撃を仕掛けるのにか?」
「襲撃を仕掛けるのに、です。出来ませんか?」
煽る様に言えば灰さんは笑いだす。
アポロン・ファミリアですら相手にならなかった灰さん達だ。
僕のお願いは意味が無いものかもしれない、意味のない重荷を背負わせるだけかもしれない。
それでもこのお願いは灰さん達がありたい姿らしくある為には必要なものだと僕は信じる。
「言うじゃないか。そんな風に言われたら出来ない、なんて言えないな」
「無茶なお願いだって言うのは分かってます。だけど灰さんなら、灰さん達なら出来るでしょう?
僕の...」
僕の言葉を聞き、灰さんは、いや灰さん達は今日一番の笑い声をあげた。
SIDE ヘスティア
夜のオラリオに笑い声が響く。
まるで酔っ払いが歩いているかのような騒音。
だけれどその声に聞き覚えがある
笑い声の主は灰君だ。
「くっくっく。いやあ、しかしベルの奴も口が上手くなった。一体何処であんなことを学んだのやら」
「狼君からではないことだけは確かだけれどね」
「フン。口が上手くなったのは良いが、人を見る目は如何なものか。
よりにもよって私達を
道行く人が見ればそれこそ飲みすぎかと思う程に、灰君は上機嫌だ。
僕が灰君の言葉に答えれば「違いない」と高笑いをする。
狩人君はそんな灰君とボクを冷ややかな目で見てくる。
だが、歴史の中では狩人が英雄と称えられた時代もあった。
しかしその時代は極僅かな間でしかなく。
英雄と称えられた狩人の末路はそれは悲惨なものだったらしいけれど。
つまるところ、狩人君もまた灰君と同じく英雄と言う言葉を嫌っている、いや憎んでいる。
そしてそんな灰君達に英雄だと言うなんて、かつて同じ間違いを犯したロキあたりが聞いたのなら尻尾を巻いて逃げ出すだろう。
事実狩人君の言葉は刺々しい。
だが、マスクの上からでも分かるほどに
いや、狩人君だけではない。
灰君も、焚べる者君も。
兜の上からでも、マスクの上からでも分かるくらい上機嫌だ。
ベル君のお願いは無闇に相手を傷つけないで欲しいという物だ。
常識的に考えれば馬鹿げている。
ソーマ・ファミリアと
そんなファミリアの冒険者相手に慈悲を与えるなんて、
だが、ベル君はそれを
そこには
後輩として貴方達ならきっとできますという信頼を、団長としてだけれど無理はしないでくださいと優しさを込めた命令。
先輩として、団員として。
二つの立場でベル君の成長を喜び、灰君達は笑う。
「全く、ああ言われてしまえば奮わざるを得ない」
結局のところ、焚べる者君が言った言葉が灰君達の総意なのだ。
憬れだと。
周囲に笑いを振りまきながら歩いていれば大きな建物が目の前に現れる。
ソーマ・ファミリアの拠点だ。
灰君が兜の下の顔を歪ませ宣言する。
「さあ、闘争を始めよう。
高笑いが夜のオラリオに響き渡った。
どうも皆さま
私です
オリンピックやお酒で目にする月桂樹の冠
あれは元々ローマかどこかの権力者がつけていた禿隠しだそうで
そんなことが念頭にあったからでしょうか
アポロンのビジュアルを見たとき最初に思ったのが
頭が怪しいでした
一応弁解しておきますが私に一部の方の身体的特徴を馬鹿にする意図はありません
ともかく
灰達の襲撃──元々は自分達が襲撃したからですけれど──によってストレスが凄そうだなぁと思ったら灰が嗤ってました
後書きを書いている時に気がついたのですが
神の髪ってどうなんでしょうか
伸びたり縮んだりするんでしょうか
...まあダンまち世界の神はおしゃれ好きなので変化するという事にしておきましょう
違ったら唸れ私の独自解釈タグという事です
そしてベル君の悩み
これまた書いていて思ったのですが
灰達相手にその背中追いかけようと思い続けているベル君は大概頭がおかしいです
どうかあなたに幸あれと願われることすら無かった灰達にはそれだけでも救いですが
それではお疲れさまでしたありがとうございました