忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編 作:noanothermoom
うごごごごごご
うごごごご
SIDE 命
「...」
「命...」
ロキ・ファミリアの拠点に間借りをしているヘスティア・ファミリアへ手助けから帰ってきてから私はずっと悩んでいました。
ヘスティア・ファミリア、いえベル殿との出会いは到底良い物とは言えませんでした。
私達が
ベル殿達と再会したのは18階層、リヴィラの街でのことでした。
18階層から地上に帰れなくなっていたベル殿達を迎えに行ったのですが、そんなものは贖罪にはならないでしょう。
そもそも私達が【
故に私は罪を償う為に腹を切る覚悟で居ました。
その権利がベル殿達にはあり、その義務が私にはあったはずです。
ですが、ベル殿は私達を許しました。
ベル殿はそうなることを狙ったのではないでしょうが、その言葉は優しく故に厳しい言葉でした。
私達は【ベル殿に許された私達】を許す為に、より一層の精進を強いられたのです。
そんな時に起きたヘスティア・ファミリアの窮地。
「今こそ修練の成果を見せる時」と言う思いがなかったとは言いません。
ですが引き受けた灰殿達のソーマ・ファミリア襲撃の間の警備。
そこで私はただ
一つの考えが拠点に戻ってからも頭から離れません。
幾度となく悩み、幾度となく否定し、それでもなお拭いきれない考え。
遂に私は口にしました。
「タケミカヅチ様...一つお願いがあります。【
「命!?」と同席していた仲間達から悲鳴のような叫びが上がります。
当たり前と言えば当たり前でしょう。
ある意味では裏切りともいえる言葉なのですから。
「重ねてお願いします。どうか【
立ち上がろうとする桜花達を手で制し、タケミカヅチ様へと頭を下げる。
タケミカヅチ様からの返事はない。
どれだけ時間が流れただろうか、一秒か、十分か。
頭を下げたままの私へとタケミカヅチ様が声をかける。
「ヘスティア・ファミリアはお前の力を必要としていない...分かっているな」
「はい」
私は強くなりました。
強くなったはずです。
【ベル殿に許された私達】を許す為に、【私達を許したベル殿】に恥じぬ為に。
ですがベル殿達が一時の宿としている【黄昏の館】での一幕は私に現実を突きつけます。
強くなった?
それで?その強さは
答えは考えるまでもありません。
幾ら強くなったとはいえ
思い上がった頭に冷や水をかけられた思いでした。
故にこそ分かっています。
私の力は必要ではない。
「ならば恩に報いる為か?」
「いいえ」
先日の中層での【
結果として誰も欠けることなく済みましたがそれは結果論。
それを為さず、私達を受け入れてくれたベル殿には返し切れない恩があると言っていいでしょう。
それどころか18階層での戦いでも結局のところベル殿に頼ってしまったことを考えれば恩を返すどころかむしろ増えています。
ですがそれが理由ではありません。
「ならば
「いいえ」
ベル殿は
他ならぬベル殿自身がそれを自覚している。
だが、だからこそベル殿はヘスティア・ファミリアの団長に相応しい。
万人を率いて進む人物ではなく、傍にいて
私もダンジョンに同じく潜る中で見せられていったのは否定しない。
だがそれだけではない。
「私がベル殿の力になりたいのは
ベル殿には私の力など必要ないのかもしれない。
ヘスティア・ファミリアへの恩を返す方法はもっと良い物があるのかもしれない。
だが、私に出来ることなど
つまる所ただそれだけなのだ。
私は、ヤマト・命は、それしか知らない。
必要でないからと言って、力が足りないからと言って他の方法で恩を返す生き方など知らない。
そいう言う生き方しかできない。
そうでなければヤマト・命はヤマト・命で居られない。
「決意は固いのか」
「はい」
「ならば俺のかける言葉は一つだけだ。無事に戻ってこい」
「ありがとうございます。この命全身全霊をもってベル殿を助けてきます」
SIDE ヴェルフ・クロッゾ
打ち続けたそれを水に浸ける。
蒸発する音と共に水蒸気が部屋に広がる。
そしてそれが晴れた時、俺の目の前には美しい刃があった。
完成したそれを直接手に取り眺める。
歪み、傷、いや曇りすらない美しい刀身。
見ただけで分かる業物。
ランクアップと同時に手に入れた【鍛冶】のスキルによって俺の腕は一段階上に上がった。
それこそこれまでの作品とは一線を画すものが作れるほどに。
「俺の最高傑作...とは言いたくねえな」
だが、俺にとっての最高傑作には成り得ない。
俺の脳裏に浮かぶのはベルと共に夕日に照らされたベルの為に打った
俺の鍛冶師としての
その題を冠する物を今まで作ってきた作品の中から探すとするのならばあの短刀の他はあり得ない。
鍛冶師、或いは芸術家にも通ずる話だが、その人物にとっての最高傑作と言うのは本人の意思、腕に関係のない所が大きいと言われる。
自分がこう作ろう、ああしよう、と思って作ったのではなく、むしろ何かに急かされるような、何処からともなくやって来た...それこそ神の意志とでも言うべきものに命じられるがままに腕を動かした果てに完成していた物。
それが最高傑作という物だ。
運命めいたものに導かれて作ったあの短刀と比べれば、この刃など数打ちの無銘にすぎない。
とは言え、それがある種の俺の贔屓目によるものだとも分かっている。
これを打ったのは俺の意思だ。
だが、これが俺の作品だと胸を張れるものではない。
出来上がった作品の出来栄えと、その要因である
様々な思いが渦巻く心の中。
どうすればいいのか悩む俺の手から刃が奪われる。
一体誰が、と思って後ろを振り返るとそこには俺の主神、ヘファイストス様が出来栄えを確かめていた。
「今までよりも良い物が出来たようね。
それにしてもどういう心境の変化かしら...あなたが魔剣を打つなんて」
「貴女の言葉でしょうよ【自分の矜持と仲間を天秤にかけるのは止めなさい】」
ためつすがめつ、様々な方向から俺の打った魔剣を眺めた後満足いったのかヘファイストス様は俺に魔剣を返す。
その表情は驚いたようにも、満足しているようにも見える。
ヘファイストス・ファミリアは入団前に主神たるヘファイストス様が自ら作り上げた作品を見せられる。
文字通りの神の腕を持つ鍛冶師の作品。それは
そんな物を見せられた人の反応は大きく分けて三つ。
一つ
あれに届くわけがないと心折れファミリアに入団することすらなく鍛冶師としての道を己から断つ者。
二つ
決して届き得ない高みを見てそれを打ったヘファイストス様に僅かでも認めてもらおうとする者。
三つ
鍛冶技術の極み、究極の作品を見てなお、いやだからこそそれを超えんと奮起する者。
俺は奮起し、そして誓った。
必ずこれを超える作品を作って見せると。
俺にとって魔剣と言うのは決して認めることの出来ない武器、いやそれ以下の道具だ。
だからこそ打つこと自体を忌避し、疎み続けた。
そんな俺が変わったのはヘファイストス様とベルのおかげだ。
「そう。
...あなたが【
疲れたような顔でヘファイストス様は俺に声をかける。
その手にはメモが握られていた。
俺が書いた『【
「ええ。許してもらえますか?」
「一応聞いておきたいのだけれどそれはアポロン・ファミリアとヘスティア・ファミリアの【
「はい。俺はベルの力になりたい」
「
俺が手元に戻って来た魔剣を置いた先、机の上を指さしながらヘファイストス様が確認をする。
その机の上には両の手の指では足りないくらいの魔剣が置かれていた。
売れば一財産を築くのに足るだろう。
使えば国を落とす...とまでは行かなくてもアポロン・ファミリアの冒険者達ぐらいならまとめて薙ぎ払うに十分だろう。
だが、まるで足りない。
「鍛冶師として私のファミリアに残る方が大成できることも、あなたを必要としていないことも...」
「分かっています。分かっています」
口うるさい母親の話を遮るような形になってしまったが本当に分かっている。
たとえばファミリアの問題。
俺だとか、
だが少し考えればわかる。ただ鍛冶をし続けているだけでは生活は成り立たない。
そんな馬鹿の代わりに装備の流通から素材の補充、設備の管理までファミリアはしてくれている。
鍛冶師としての成功、いや成長を考えれば間違いなくヘファイストス・ファミリアに残るべきだ。
例えばヘスティア・ファミリアの有する戦力。
俺達の主神であるヘファイストス様はかつて
だからこそ灰達についての様々な逸話を知っているし、俺も聞かされてきた。
他にもベルの奴から漏れ聞こえてくる
嘘だろ!?と、語り部の
たとえあの話の1/10の戦闘力だったとしてもアポロン・ファミリアに勝ち目はない。
もっと言えば俺が【
それどころか「こんなに手伝ってくれてありがとう」と嬉しそうにするあいつの顔が目に浮かぶ。
だが...だ。
「分かってんですよ。ですけどね、俺は納得できないんですよ。
ここで要らないからってベルの事を見捨てれば
そう、つまりはそういう事だ。
18階層で俺はベルに矜持を預けた、ベルの事を矜持を預けるに足る人物だと信頼した。
だと言うのに、今更ベルの事を見捨てるなんて裏切りだ。
俺の信念は『
なら
「設備が整っていなくても、環境が悪くても、いや何もなくても俺のこの心の火が消えなければ何処だって打てるんですよ。
逆にどんなに整った環境だったとしても心の火が消えちまったら俺はもう鍛冶師をやってられないんです」
確かにヘファイストス・ファミリアは鍛冶師として最高の環境が整っているだろう。
だがここじゃなきゃ俺は鍛冶師をやれないのか?
違う。
俺が鍛冶師をするのに必要なのは環境じゃない。想いだ。
「そう...決意は固いのね。なら何も言う事はないわ」
「っ!ありがとうございます」
俺の決意が固いことを見て取ったか、ヘファイストス様は【
背中に「どうして私の子ども達はみんな頑固なのかしらね...」なんて呟きを受けながら俺は決意を新たにした。
「ベル。俺はお前を信じるぜ」
SIDE リリルカ・アーデ
「それではリリもベル様の元...はれ?」
「おっと、大丈夫か?」
【
と気合を入れたのは良かったのですが、その歩みは第一歩から躓きました。
揺らぐ地面に歪む視界。
バランスを崩しそのまま転んでしまうかと思った時、灰様に受け止められました。
体勢としては灰様に抱きしめられているような形です。
全身を灰様に預ける形になり、もし灰様がその気になればいつでもリリを拳の中の小鳥の様に、いえ羽虫の様に殺せるでしょう。
正直に言いましょう。
リリは18階層での戦いを通してなお灰様達のことを信用できませんでした。
そして本音を言えば今でも、いえこれからもベル様の様に無邪気な信頼を向けることは出来ないと思っています。
ですが、ですがわざわざリリを助けに来てくれた灰様達を、ベル様のお願いを聞いて無闇な暴力を振るわなかった灰様達を、そしてリリの決断を尊重してくださった灰様達を信じたいと思っています。
難しいでしょう。
灰様達への想い、と言うよりはリリの魂に刻まれた強者への不信感。
或いは意思疎通が出来て仲良くなり、こちらを襲わないと確信できたとしても、モンスターを相手に完全に警戒を解けるか?と言う話です。
それでもリリは灰様達を信じたい。
そう思っていた時でした。
「では乗ると良い。ミラのルカティエルの名に恥じぬ乗り心地を約束しよう」
「えーっと?どういうことです?」
気がつけば目の前にしゃがんで背を向けた焚べる者様がいました。
何が起きました!?
「まだ本調子じゃないんだろう?ならおぶってやるよ」
リリの疑問に答えたのは灰様。
リリが考えこんでいる間に灰様達はじゃんけんで誰がリリをおぶるかを決め、焚べる者様がその権利を勝ち取った...という事らしいです。
視線をケラケラと笑う灰様から目の前の焚べる者様の背中に移します。
大きく、そして広い背がリリを待っていました。
頼りがいのありそうなその背を見てリリは息を吸い込み...
「
「何故ぇ!?」
そして宣言しました。
心底驚愕と言った声が仮面の奥から響きます。
その声の主絶望を焚べる者様を見つめます。
過酷な旅路にも耐えうるだろう質の良いベストを身に纏ったその背中は頼りがいのありそうです。
思えば商会を開いているとかいう噂を聞いたことがあります。
曲がりなりにも人の上に立つ人物。
ならばそれなりのオーラとでも言うべきものの一つも纏っているのでしょう。
ですがそんなものなど掻き消して有り余るほどの
いや、おぶってもらう側の人間の言葉じゃないかもしれませんがほかに選択肢があるのならそっちを選びたいです。
「仕方がないな...私に乗ると良い」
打ちひしがれた焚べる者様を脇に避けて次に出てきたのは狩人様。
夜に溶けてしまうのではないかと思う程黒いコートを見つめ...
「
「何故だッ!?」
宣言します。
この距離からでも臭う
狩人様のコートは返り血を落とす為に撥水性に優れたコートだと聞いた覚えがあります。
そんなコートが必要になるほど血を浴びる狩人様に驚けばいいのか。
それともそんなコートを着ていてもなお臭う程の返り血を浴びている狩人様に驚けばいいのか。
或いはこれだけ臭っているというのに洗濯にも出さない狩人様に嘆けばいいのか。
何れにせよ間違いなくこの中で一番背負われたくない人です。
リリにだって選択する権利ぐらいはあると思います。
「つまり俺をご指名か?」
ひっひっひと笑いながら打ちひしがれている
その強固さを顕示するかのような鎧を一瞥し
「
「我儘だなおい」
宣言します。
リリの知る限りいつも身に着けている鎧は間違いなくおぶられ心地が悪いです。
人柄はまあ、一番マシかもしれませんが鎧はいただけません。
苦笑した灰様は鎧を脱ぎ、その代わりに新たな装いを着込みます。
リリでは手からしかできない
分かってはいたことですけれど灰様ってホント無茶苦茶ですよね。
ソウルの業が滅茶苦茶なんじゃなくてそれを使う灰様が滅茶苦茶な気がしてきました。
灰様も言っていましたしね「俺達の時代じゃありふれた技術だった」って。
...いえ、正気に戻りなさいリリルカ・アーデ。ソウルの業は十二分にヤバい物ですよ。
閑話休題。
今目の前には鎧を脱いだ灰様がいます。
ええ、鎧を脱いで代わりに
「...」
「...」
じりっじりっ、と灰様が無言で距離を詰めリリは同じだけ距離を離します。
リリが後ろに下がると同じだけ灰様は前進します。
無言のまま睨み合い、周囲に緊張が走ります。
「っ!!」
汗が頬を伝って落ちると同時に全力で逃げだします。
「フハハハハハ。待てよ~」
「何で追いかけてくるんです?なんで追いかけてくるんです!?」
リリの必死に叫びも灰様の笑い声に掻き消されます。
こんちくしょう。
誰ですか
リリと灰様の追いかけっこを止めたのはヘスティア様の鶴の一声でした。
「全く、灰君は全く。狩人君と焚べる者君もだ、止めるくらいしてもいいだろうに!」
流石はヘスティア様です。
灰様達を並べて正座させている姿は
リリは今生まれてから一番
「そんなにおぶる人が決まらないのならボクがおぶろう」
「「「「えっ...」」」」
「え?」
「いやほら、
「主神にだけ働かせているとか噂されると眷族としてちょっと...」
「こう...体格的な問題もあるしちょっと...」
「常識という物を身に着けて頂きたい所だな」
「なんでだよぉ!!」
ヘスティア様の叫びが空にこだましました。
どうも皆さま
私です
難産です
難産でした
とんでもなく難産でした
出来る限り土曜の9:30に投稿しようと目標を立てていたのですがまるで書けませんでした
小説を書き始めてそろそろ一年になりますが
初めてですよ三回ぐらい一から書き直したのは
思えば去年のお盆でした
小説を書き始めたのは
それが皆様に支えて頂きこうして一周年近く続いています
ありがとうございます
正直に言えばこんなことを言いながらこんな小説で良いのでしょうかと思わないでもないのですが
これが私の精一杯です
許してください
それではお疲れさまでしたありがとうございました