忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編   作:noanothermoom

69 / 73
焚べる者のヘスティアメダル

焚べる者の持つヘスティアメダル
大切に部屋に保管されている

どれだけ強くとも
どれだけ常識外れであったとしても
このメダルを持つ者はヘスティアの子どもである

故に互いに助け合うのだ
それこそが女神の祈りにして願いであるがゆえに


誇りはぶつかり合い決着は着く

SIDE ヘスティア

 

「バカなっ!?」

 

 思わずと言った様子で立ち上がったアポロンが掴まんばかりに凝視する画面の中には、こちら(アポロンの子ども)に指を向けた満面の九郎君だけ。

 アポロンの子どもの視界と連動しているのだろう画面が揺れ、建物の中を見回す。

 だがアポロンが予想していたベル君の存在は何処にもいない。

 

「ど、何処だ!?私のベルきゅんは何処に!?」

 

「...そもそもベル君は君のじゃなくてボクのだし、あそこには居ないよ」

 

 ボクの声に反応してこっちへ振り向いたアポロンの顔に先程までの余裕は見られない。

 目が血走るほどに焦るアポロンを笑えばアポロンは気が付いたように叫ぶ。

 

「まさかあれ(拠点)も囮か!?

 ならばベルきゅんは他のどこかで息をひそめている。そうだろう!?」

 

「外れだ。ボク達の取った策はもっと単純だよ団員全員(全戦闘要員)による総攻撃さ」

 

 血走らせた目を周囲の荒野に向けるアポロンの言葉を切り捨て僕は真実を伝える。

 「ばか...な...」と呟いたアポロンの瞳には信じられないと言った光が宿っていた。

 

「あり得ないだろう!?

 攻めるのには灰達がいる、助っ人もいる。なら団長(ベルきゅん)後方(安全な所)にいるはずだ!!」

 

 アポロンの言葉は尤もだ。

 アポロン達への復讐に燃える灰君達がいる。

 ベル君の力になりたいと協力を申し出てくれた助っ人がいる。

 ならばベル君は戦う必要がない。

 なにせこの戦い(【戦争遊戯】)団長(ベル君)を捕縛されれば負けなのだから。

 

 他の団員がどれだけ奮闘していたとしても捕まってしまえば一発で負けになる弱点。

 ならばアポロン側の団長(ヒュアキントス君)のように後方で戦況を把握し、指示を出す側に回るべきだ。

 ましてやベル君はヘスティア・ファミリアにおける最弱(LV.2)

 戦うのは灰君達や助っ人に任せて後方に下がるのが正攻法という物だ。

 

「それに万が一ベルきゅんが砦に攻めてきているというのならば、何故誰も気が付かない!?」

 

「青い秘薬、月隠の飴、それに銀のタリスマン...だったかな?」

 

「な...に...?」

 

「奇妙だと思わなかったのかい?

 焚べる者君に狩人君、そしてヴェルフ君。

 三人が三人とも、戦いが始まるまで誰にも気が付かれなかったことに」

 

 アポロンはボクの言葉に目を見開く。

 

 なるほど。

 狼君は仕方がない。

 隠密、潜入は彼の御家芸。

 どれだけ警戒していたとしても容易く侵入するだろう。

 

 ヴェルフ君も...まあ分からないでもない。

 狼君が助けに入ったことから一緒に行動していたと思われる。

 幾らヴェルフ君が素人だろうと狼君ならそのカバーくらいは軽くやってのけるだろう。

 

 だが狩人君と焚べる者君は?

 どっちもヘスティア・ファミリアが誇る(誇りたくない)狂人。

 100メドル先からでも臭う(その存在が分かる)と言われた狩人君。

 黙っていてもその存在感は健在(うるさい)と言われる焚べる者君。

 

 どちらも潜伏が出来ない訳ではないとは言え、それはあくまで専門外。

 狼君程の隠密技術を持ち合わせているはずもない。

 で、あるのならば答えは一つ。

 何かを使った(アイテムの力を借りた)

 

 ボクが上げた名前は【戦争遊戯(ウォーゲーム)】に向けて行った作戦会議の中で本人たちが使っていた呼び名だ。

 名前も聞いたこともないよくわからない物(神であるボクですら理解できない物)だけれど、その効果は折り紙付き。

 見えているのに見えない。

 ならば潜入をするのにこれほど便利な物もないよね。

 

「ま、まさか本当に(戦場)にいるというのか...正気か!」

 

 ようやくボクの言葉を信じたアポロンは震える声で呟いた。

 しかしまあ、言うに事欠いて正気かとはね。

 

「一体誰に物を言っているんだい?君の前にいるのはヘスティア・ファミリアの主神だよ?

 そんなボクに正気(普通)を求めるだなんてそれこそ君の正気は大丈夫かい?」

 

 せっかくの機会だからと見得の一つも切ってみたのだけれど、どうやらアポロンは気圧されてしまったようだ。

 何も言えずに立ち尽くしている。

 せめて周囲の神々からの反応は一つくらいあると思っていたのだけれど、みんな黙って行方を見守っている。

 どうした物かな。

 ボクが困っていると画面から聞き覚えのある音が聞こえた。

 

 その音を契機にボクはアポロンから目を離し、画面へと視線を向ける。

 そしてアポロンに座るように言った。

 魂を抜かれた様にボクの言葉に従って座るアポロンを横目で見ながら小さく呟く。

 

「ボク達に出来る事なんて眷族(ベル君達)を信じる事だけだって」

 

 ボクはベル君ならできると思ったから許したのにね。

 それに自分で言った言葉だろうに。

 

 

 

 

 

SIDE 九郎

 

 私が仮の拠点で“べる”達が帰ってくるのを待っておりますと客人が訪れました。

 困ったことに大変多くの客人でしたので、全くもってゆのみが足りません。

 とりあえず一人分茶を用意して出迎えますと目を見開いた後、「“べる”は何処だ」と問うてきました。

 

 いないと答えると「そんな馬鹿な」と言って家探しを始めます。

 本当に居ないのですから気が済むまで探して頂いて良いのですが、せっかく出したお茶に目もくれずに家探しをされると流石に少し悲しくなります。

 

 仕方がありませんので代わりに私がお茶を飲みながらその様子を見ておりますと大きな鐘の音が響きました。

 18階層でも聞きました鐘の音ですから、きっと“べる”でしょう。

 

 しかし鐘の音ですか。

 誰かから聞いた話を思い出します。

 葦名にある山々、その中でも一際尊いとされる金剛山の仙峯寺には鬼が封じられている鐘がある。

 その鐘を突くと封じられている鬼が取り憑き災いを齎すと言う話です。

 

 或いは子供だまし、寺の名を高める為の偽り話であるとも考えられますが、狼は実際にその鐘と鐘に貼られた張り紙を見たことがあると言っていましたね。

 確か『厄負うは功徳なれど艱難辛苦の荒行也』でしたか。

 自分の身を犠牲にしてでも誰かの為に、と動く“べる”にぴったりの言葉です。

 

 鐘の音を聞いて何事かと騒ぐ客人たちの声を聴きながらそんなことを考えていました。

 

 

 

 

 

SIDE 絶望を焚べる者

 

 戦場に音が響く。

 大鐘(グランドベル)の音が。

 

「ベル殿!ぐっ...」

 

「貴公、無理はするな」

 

 その音に反応して(狼の弟子)が立ち上がろうとし、再び膝をつく。

 

 無理もない。

 直接的に戦い続けたわけではないとは言え、今の今まで魔法を使いながら耐久勝負もしていたのだ。

 肉体的にも精神的にも限界だろう。

 むしろ未だに意識を保っていること自体が驚きですらあるのだ。

 

 意識を奪ったアポロン・ファミリアの冒険者達を縛り上げ転がしておく。

 こうしておけば意識を取り戻したとしても、再び参戦することは出来ないはずだ。

 

「貴公の献身には感謝している。

 だが、私とてベルの先達。見栄という物がある。この先は任せよ」

 

「よろしく...お願いします」

 

 後始末を済ませ声をかければ途中で退場することへの悔しさを滲ませながら答える。

 

 ふむ。

 上から下まで全身ズタボロでありながらなお意志の力で動こうとするとは、良い根性(強い精神)だ。

 此処までの物となると鍛錬で得られる物ではない。

 生まれつきの才だな。

 

 砦の中を駆けながら考える。

 肉体と精神、その限界の先へ至るには魂の奥底からの意志が重要となる。

 その意志さえあれば意外と死地でもどうにかなったりするものだ。

 私の経験を踏まえて言えばあれは強くなるだろう。

 ベルと言い、命と言い。

 将来有望な若者が多く喜ばしい事だ。

 

 不死者なんぞが思うには余りにも贅沢な思考を回しながら駆ける。

 地の底より立ち上った火柱へと。

 

 

 

 

SIDE 狩人

 

「狩人!いったいこの人達に何をしたのです!」

 

「...うるさいな。殺してはいないのだから問題はない」

 

 目の前でキャンキャンと咆えるエルフ(リュー・リオン)が煩わしい。

 ルールで殺すことや、過剰に(ダメージ)を与えることを禁じられている以上、それに従っているつもりだというのに。

 少なくとも今回は。

 

 一応...というか私が頼み込んで助っ人になって(参戦して)もらったが、やはりこのエルフと私はそりが合わない。

 まあ、私なんぞ(人でなし)そりが合う(火の無い灰)ようなやつが早々いては堪らないが。

 

 しかし何がこいつの気に障ったのやら。

 前衛を任せて危険な場所に放り込んだことか?

 ベルのスキルによる鐘の音に気を取られた隙に音と光に特化した爆弾(フラッシュバン)を使って耳と目を奪ったことか?

 それともまさか周囲に倒れているアポロン・ファミリアの冒険者共の事か?

 

「ヒィ、ヒィッ!」「目が...目がぁ!?」「素晴らしい(Majestic)!!」

 

 目を覆いながら或いは明らかに正気ではない目をして、叫び或いは呻く様は悪夢のような有様ではあるが...身体的にはどうという事はない。

 ただ、カレル文字(【苗床】)とゴースの寄生虫を使って正気を失わせただけだ。

 一時間ほどすればまあ、日常生活にも問題ないくらいには回復する。

 私にしては大変優しい対応だと思うのだがな。

 

 ...まあ(上位者)の認識なぞ信じられた物でもないか。

 

 どう対応するべき(誤魔化したもの)か考えようとした時、轟音と共に砦の中央部が吹き飛ばされる。

 あれは...ベルの魔法(【ファイアボルト】)か。

 

 丁度いい。

 その爆発に紛れるようにしてリュー・リオンから逃げる。

 幾らあのエルフが私を問い詰めようとしても、否だからこそあの有様の冒険者達を見捨てることは出来まい。

 

 ...こういう計算が出来るから私は上位者()が嫌いなのだ。

 

 

 

 

 

 

SIDE 火の無い灰

 

「はっはっは。さあ俺を止めれる奴はいるか?」

 

「うわぁ!!」「と、止められる訳ねえだろう!?」

 

 悲鳴が響く。

 混乱と絶叫が木霊する。

 砦の中庭で行われていた俺とアポロン・ファミリアとの戦闘は、今や蹂躙する側()される側(アポロン・ファミリア)に分かれていた。

 と言っても特別なことをしたわけじゃない。

 単純にハベルの鎧を着こみハベルの大盾を構えて(ガッチガチに防御を固め)突っ込んだだけだ。

 

 ハベル。

 火の時代を開いた光の王グウィンの古い戦友とされる『岩の様な』という形容詞が伝わる伝説の戦士。

 彼と彼の信奉者は巨岩をくり貫いて作られた装備を身に着け決して怯まず、後退せず敵としたもの全てを叩き潰したという。

 まあ、俺も詳しい訳じゃないがな。

 だが一目(この装備)を見ればわかるだろう。超脳筋の戦士たちという事だ。

 

 元々他の奴らの為にアポロン・ファミリアを引き付けるという目的がなければ、無理やり突っ込んで叩き潰すのは不可能ではない。

 俺がちまちまとした戦いに付き合っていたのは、その方が相手を引き付けるという俺の目的に都合が良かったからだ。

 あと死なないと言っても矢で射られたら痛いし。

 

 だが、ベルの奴が中央(敵の大将の元)まで辿り着いたというのならばそんな必要はない。

 

 しかしまあ、そうなる(大将の元まで辿り着ける)ように支援したとはいえ、まさか本当にたどり着くとはな。

 リュー・リオンと命(助っ人)を突っ込ませ奇襲によって相手の思考を停止させる。

 次にその隙に俺が登場し、ありとあらゆる余裕(リソース)を俺への対処につぎ込ませる。

 最後に俺に対応しようとしたアポロン・ファミリア達を狩人達で削る。

 と言うのが俺達の作戦だ...と思い込ませる所までが俺達の作戦。

 

 俺が足止めされることも、ヴェルフと狼が途中で発見されるのも想定どおり。

 本命の本命は静かに眠る竜印の指輪(物音がしなくなる)幻肢の指輪(姿を隠す)を付けたベルだ。

 

 ベルが到着するのが早いか、俺達がアポロン・ファミリアをすり潰すのが早いか。

 結果はベルの魔法で崩れ行く砦(御覧の通りだ)

 

「待て、火の無い灰!ここはこの俺が相ぐほぉ!!」

 

 突進を続ける俺の前に誰かが立ち塞がろうとし、そのまま吹き飛ばされる。

 

 いや、だってこの装備重いんだもん。一度走りだしたら(加速)止まれない。

 冗談はさておき、俺の前に立とうとする蛮勇(無謀さ)は認めてやる...そうでもないか。

 奴らからは「今ならば」と言う考えが透けて見えた。

 

 数で勝っている今ならば、ルールで縛られている今ならば、【戦争遊戯(ウォーゲーム)】である今ならば、()()()()()()()()()

 

 真正面から挑まず勝つために策略を巡らせることを俺は否定しない。

 俺がしてきた旅では常に俺よりも強い相手を倒す為に必死に頭を使ったからな。

 相手の弱点を突き、相手をハメ、時に味方()を頼みに袋にした。

 

 だが、同時に俺を倒す(最強の称号を得る)には余りにも痩せた考えだ。

 そう思っているのは俺だけではない。その証拠に俺に戦いを挑んでくる冒険者達の中に上級(最強クラスの)冒険者はいない。

 良くて中級、ほとんどの奴は下級と言ったところか。

 

 分かっているのだ。

 俺に勝ったという事実(最強の称号)を手にするのに、万全でない俺を相手に勝ったところで意味が無いと。

 だからこそこの場にいるのは勝ち(最強の称号)を拾えないかな、なんてことを考えている奴らばかり。

 そんな奴らを真面目に相手をしてやる理由はない。

 こいつらでは俺の足を止める理由(障害)足りえない、俺の足を止めさせる()には足りない。

 

 道中の全てを弾き飛ばし真っ直ぐに目的地へと進む。

 未だ煙立ち上る砦の中央。

 相手の大将(ヒュアキントス)がいただろう場所へと。

 

 

 

 

 

SIDE ベル・クラネル

 

「ベル様。こっちです!!」

 

「うん!!」

 

 駆ける、駆ける、駆ける。

 アポロン・ファミリアの冒険者に化けて砦に侵入し、内部の情報を集めていたリリの指示にしたがい、砦の中をかける。

 此処までは隠密をしてきたけれど、砦の内外から聞こえる戦いの音がこの【戦争遊戯(ウォーゲーム)】も佳境であることを伝えてくる。

 ならば今必要なのは隠れる事ではなく速さだ。

 

 アポロン・ファミリアとの【戦争遊戯(ウォーゲーム)】に向けた作戦会議で、灰さんは三段階の侵攻を提案した。

 

 第一段階

 リューさんと命さん(助っ人たち)によるヴェルフから提供された魔剣を持っての突撃。

 

 第二段階

 灰さんによるリューさん達(助っ人)の強襲にアポロン・ファミリアが対応しようとした隙に内側(リリ)に扉を開けさせての正面突破。

 

 第三段階

 ここに至るまでの戦闘によって生まれるだろう混乱に乗じた狩人さん、焚べる者さん、狼さんによる奇襲。

 

 題して「弓を射るとき二本矢を持つと雑念が混ざるというが、三発くらいあればどれか一つは当たるだろう作戦」

 ...作戦名の是非はともかく、灰さん達が砦の中に侵入できた時点で僕達の勝利は確定したといっていい。 

 

 それでも僕が此処に居るのは僕の我儘(意地)だ。

 僕は団長で、しかも最初にケンカを売られたのは僕なんだ。なのに安全な場所(後ろ)で待っているなんてできなかった。

 

 後悔していないと言えば嘘になる。

 ここまで危険を冒す必要があったのか、と迷いもある。

 それでも抑えきれなかった僕の思い(意志)を灰さん達は受け入れてくれた。

 僕をここまで進める為に囮となってくれたヴェルフと狼さん。

 二人のぬくもりが別れ際に押してくれた背にまだ残っている。

 

 背を押してもらい、我儘を受け止めてもらい、僕はここに居る。

 ならばそれに見合った結果を出さなければならない。

 リリが後ろから迫ってくる敵の足止めの為に残り、遂に中央の塔へとたどり着く。

 為すべきことは一つチャージ(貯め)を始める。

 

「戦う理由なんて何でもいい」

 

 いつか聞いた灰さんの言葉を思い出す。

 

「期待だとか、想いだとか。それを背負うことで力を発揮することは認めるがな。

 それがなきゃ戦っちゃいけないだなんてことはねえんだ」

 

 息をするように、食事をとる様に、当然のように戦う灰さんは笑っていった。

 

「気に食わないからぶん殴る。

 戦う理由なんてそんなもんで良いんだよ」

 

 僕の選択肢が正しいか迷いは晴れない。

 だが、ここまで至ったという事はそれ相応の理由がある。

 ならばもう迷わない。

 鐘の音と共に光り輝く右手を()に向け解き放つ。

 

「ファイアッボルトォ!!」

 

 

 

 

 

 

 轟音。

 僕の放った魔法と、砦が壊れる音。

 魔法が砦を破壊すると同時に立ち込めた土煙によってその先がどうなったかは見えない。

 

 攻撃(魔法)の前に鐘の音が鳴るとはいえ、まさか砦を抜いての遠距離攻撃など想像も出来なかったはず。

 ならば完璧な奇襲となる。

 だが、僕は確信にも似た予想を持っている。

 

 あの一撃ではヒュアキントスを倒し切れないだろう。

 信頼とも、怯えとも言い難いそれを胸に、あの攻撃を凌いだのならば出てくるだろう場所に立ち塞がる。

 あの攻撃を撃ち込んだ以上僕の存在はバレている。

 ならば灰さんから貸してもらった指輪は最早必要ない。

 そうして隠密を解いて仁王立ちしていると煙の中から気配がする。

 

「クソッ!!何が起きた!?」

 

 未だ立ち込める煙の中から現れたヒュアキントスは少しばかり傷を負っている物の、大きなけがをした様子もなく悪態をついていた。

 そうだろう。

 あの男(ヒュアキントス)があんな一撃で終わりとなるはずがない。

 

「ヒュアキントス・クリオ!!

 ヘスティア・ファミリア団長ベル・クラネルはここに居る。団長同士の決闘(一対一)で決着をつけよう!!」

 

「なっ、貴様ベル・クラネル!? 決闘!? 貴様何を考えてっ!」

 

 奇襲と僕の言葉に混乱した様子のヒュアキントスは何を言えばいいのかも分からないようで、言葉を詰まらせる。

 

「どうした!もとはと言えばそっちの主神(アポロン様)が提案した形式だ!

 それとも仲間がいなければケンカも売れないか!?」

 

「ふざけるなよッ!!お飾りの団長如きが!!」

 

 酒場での一件を引き合いに出せば怒りに顔を朱に染め襲い掛かってくる。

 

 アポロン・ファミリアによる襲撃の日(前回)はその気迫と刀身の長さ(リーチ)に負けた。

 今回はもう醜態は晒さない。

 僕は恐怖心を乗り越え勢い良く突っ込む、

 

 

 

 

 

 

 ヒュアキントスの獲物(武器)はフランベルジュ。

 波打つ刀身は一見すると観賞用の実用性がない物の様に見えるが、その刃によってつけられた傷は普通の刃物による物よりも()()傷となり痛みと治りにくさを与える。

 

 フランベルジュは僕の武器(ナイフ)よりも攻撃範囲(リーチ)が長い。

 リーチが長いという事は振り回した時の速さ(威力)により遠心力が乗るという事だ。

 その分振り回すのに力がいるが、相手はLV.3の冒険者。

 今更自分の武器に振り回されるような無様は期待できない。

 

 だからその内側に入り込もうとしたのだけれど、降りしきる攻撃の雨に阻まれてしまった。

 とは言え悪くはない。

 この距離では僕の攻撃は届かないが、ヒュアキントスもその武器の威力を発揮しきれない。

 何とか追い払おうとする攻撃を弾き続け、この距離を保つ。

 

「ふざけるなよ!私はッ!お前の様な者に!関わり合っている暇はないのだっ!!」

 

 僕の行動に苛立ったかさらに顔を赤く染めたヒュアキントスは叫ぶ。

 

「私は火の無い灰を打ち倒しアポロン様の御名(みな)を更に高みへと押し上げる!

 それがあの方に救われた私の使命だ!!

 それをお前の様な守られている何も知らぬ者に!!邪魔されて堪るか!!」

 

 攻撃は苛烈さを増し、たまらず避ける(距離を取る)

 

 ヒュアキントスの言葉に理がないとは言えないだろう。

 誰だって恩()の為に戦おうとする。

 それは神に救われた僕達()の使命だ。

 

 そして冒険者とは高みを目指す者だ。

 ならば灰さんに挑むことは咎められないだろう。

 

 僕が守られている何も知らない者と言うのもその通りだ。

 幾重にも守護されて、お膳立てされて僕はここに来た。

 僕の本当の実力では此処まで来れなかっただろう。

 

 じゃあ僕は退くのか?

 退いて灰さん達にこの勝負を託すのか?

 

「そんな訳!!ないだろっ!!」

 

「ぐぁあ!?」

 

 引いた時よりも更に速く、ヒュアキントスの攻撃を掻い潜り距離を詰め握りしめた拳でその顔を殴り飛ばす。

 

 ドサッ、カラン。

 吹き飛ばされたヒュアキントスと武器が地面に落ちた音が響き。

 しばし僕とヒュアキントスの荒い呼吸の音だけが聞こえる。

 

「き、貴様...何も知らない貴様如きが、アポロン様より寵愛を受けしこの顔に傷を「何も知らないのはそっちだ!!」!?」

 

 殴り飛ばされて呆気にとられたヒュアキントスは僕が殴った部分を手で押さえ、状況が呑み込めるとその顔を怒りに染める。

 だが、それ以上何かを言う前に僕の叫びがヒュアキントスの言葉を飲み込む。

 

「お前は知っているのか!灰さん達がこの戦いでどんな思いをしたのか。

 どんな思い出と共にあの場所(廃教会)で神様と生活していたのか!!」

 

 灰さん達は強い。

 それは明確な事実だ。

 夜空に光る星々がとても遠いとしか言えないように、灰さん達の強さを表現するのに強い以外の言葉は思い浮かばない。

 

 だけれど、だけれど、だ。

 たった一人で生きていくことも出来ただろうに、協調性なんて無いと自分達で認めているのに、それでも灰さん達は神様の家族に、ヘスティア・ファミリアに入ることにした。

 それはきっと寂しかったからだ。

 

 神様は言っていた。

 「どんなに強くて、どんなに恐ろしくても、灰君達は子ども(人間)なんだよ」と。

 

 僕は弱い。

 灰さん達と比べるまでもない。僕よりずっと強い人は幾らでもいる。

 

 僕は何も知らない。

 灰さん達の歩んできた道も、その苦痛も。

 

 僕は何もしていない。

 この【戦争遊戯(ウォーゲーム)】でも、それ以外でも。何時も大切な所で誰かに守ってもらっている。

 

 きっと僕ではあの人達の隣に立つには足りないだろう。

 今だけじゃない。これからの人生において最も強い時ですら灰さん達の足元にも及ばない。

 それでもだ。

 僕は灰さん達の仲間(家族)だ。

 僕は灰さん達の団長だ。

 

 なら灰さん達がくれただけの愛を返さなきゃいけない。

 灰さん達を守らなきゃいけない。

 そうでなければ僕は胸を張って灰さん達の家族だと言えない。

 英雄(誰かを守れる人)を目指しているなんて言えない。

 

 だから僕は戦う。

 こんな僕でも灰さん達に挑んでくる挑戦者たちを選別するくらいはできるはずだ。

 僕に負けるようでは灰さん達に挑む権利なんてありはしない。

 

 だから...。

 

「ヒュアキントス・クリオ!!

 灰さん達に挑むというのならば先ずは僕を倒してみろ!!」

 

「貴様...ベル・クラネル!!」

 

 ヒュアキントスが()()()()

 

 僕に殴り飛ばされた時に手から零れ落ちた武器を拾いに行くこともせずに、顔を憤怒に染めて拳を固めて殴り掛かってくる。

 それに僕も武器を投げ捨てて拳で立ち向かう。

 

 僕にもヒュアキントスにも負けられない(勝ちたい)理由があって。

 僕にもヒュアキントスにも立ち上がり続ける理由があった。

 

 それでも結果を分ける理由があったとしたら。

 ヒュアキントスは自分と恩()のために戦って。

 僕は僕と恩人(神様)家族(灰さん達)のために戦った。

 ただそれだけなのだ。

 

「僕の...勝ちだ!!」

 

 

 

 

 

SIDE ヘスティア

 

「おいおいおい。あのウサギ勝っちまったぞ」「灰達に挑む挑戦者の前に立ちはだかるつもりとか本気(マジ)!?」

「ベルきゅん可愛い!!」

 

 画面の中でベル君が拳を突き上げる。

 ヒュアキントス君は地に伏し、ベル君は立っている。

 どちらが勝ったかなんて言葉にしなくても明確だ。

 

「ヘスティア。君の勝ちだな良い【戦争遊戯(ウォーゲーム)】だった」

 

「アポロン...」

 

 ヒュアキントス君の叫びが、ベル君の奮闘が、確かにアポロンへと届いたのだろう。

 付き物が落ちたかのような(表情)でアポロンがボクに握手を求める。

 

 アポロンには恨みがある。

 ボク達の家を壊し、戦いを避けようとした灰君達の努力を無に帰した。

 それでも戦いが終わればノーサイドだ。

 差し出された手を握り...反対の手で殴りかかる。

 

「何を!

 イイ感じに!!

 纏めているんだ!!

 

 ボクがどれだけこの数日間灰君達を宥めるのに苦労したか!!」

 

「ら、乱心!!ヘスティア乱心!!」「で、殿中に御座る、殿中に御座るぞ!!」

「あれは片手の決闘(シェイクハンド・デュエル)!?」「知っているのか!!」

 

 とりあえずアポロンはぼこぼこにした。




どうも皆さま

私です

先ずは謝ります
予約投稿をしたつもりが出来てませんでした
申し訳ありません
今後このようなことが無いように...と言ってもこの小説はあと一話でお終いなのですが

ええ
この話は残り一話です
切りもいいですし元々の最後の構成まで追いついてしまったので

全くの見切り発車から始まったこの小説が一年と少しの間続きましたのも
読んでくださる皆様のおかげです
ありがとうございました
それではあと一話だけですがどうぞお付き合いください

...次の更新は来週の土曜日です

それではお疲れさまでしたありがとうございました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。