忍と灰と焚べる者と狩人とダンジョン 連載編 作:noanothermoom
或いは警戒心
何かの物事に対して恐れること
これにダンジョンで打ち勝つことのできない冒険者はそう遠くない先にその命を失う
だがこれを無くせばより短い時間で命を失うだろう
ある狩人は語った恐れ無き者など獣と何が違うのか
「うーんさっきからモンスターにも他の人にも会わないな、何かあったのかな」
僕が初めてダンジョンに潜った日から何日かが経ち、僕は狼さんから独りでダンジョンに潜っても大丈夫だろう、とお墨付きをもらっていた。
最初はダンジョンにたった一人で潜ることに怯えていたが、狼さんとの練習の方がよっぽどきついことに気が付けばそんな感情もを持つことも無くなっていた。
そうして一人でダンジョンに潜るようになってさらに数日たったある日、僕は普段潜っている階層で全くモンスターにも冒険者にも出会わなかった。
ダンジョンの中で同じパーティーでもなければそう近くに寄らないのは冒険者同士の暗黙の了解というもので、逆に言えばダンジョンでこっちに近づいてくる見知らぬ冒険者なんて殆どが
怪物進呈───モンスターに襲われている或いは追われている冒険者が他の冒険者にモンスターを押し付ける行為―――とまでは言わなくても、近くにいれば魔石の盗った盗らないの言い争いになりやすいのだから、わざわざ近づいてくる時点で何かあると言っているようなものだ。
だから必要以上に近寄ろうとする冒険者はいないし、ダンジョンにたくさんの冒険者がいると言っても同業者を見かけないだけなら珍しいことでもない。
だが例えば入った部屋に先客がいただとか、僕が潜るような上層の中でも浅い所なら、もっと深いところまで潜っていた冒険者が出口に向かうのとすれ違うなんてことは時々あることで、ましてや冒険者を見かけないどころかモンスターと戦っている戦闘音も聞こえない、そしてこの階層に入ってからモンスターに1匹も出会わないとなると流石に経験の浅い僕でもこれはおかしいと判る。
僕の目の前には二つの道がある、一つは今すぐダンジョンから脱出する道、もう一つはさらにダンジョンの奥に進む道。どちらを選ぶべきか、カバンの中身は今までノルマとしていた魔石の量にはかなり足りない。そう悩んでいると足音が聞こえてきた。
恐らくは下の階層から上がってきたのだろう、見る限り五人パーティが悩んでいる僕の前に現れた。同業者と鉢合わせた時にどちらが道を譲るのか、このことについては色々と面倒くさい暗黙の了解があって。
大体冒険者のLVとファミリアの“格”によって決まるのだが今回は単純に五人と一人、なら僕の方が離れるべきだろう。
そう思って距離を取ろうとすると、パーティのリーダーらしき人が片手をあげてそれを止める。
「おいおい、どこの誰だこんな子供をダンジョンに一人で置いておいたのは」
「僕は冒険者です。ファミリアにも入っているれっきとした冒険者です。新入りですけど。」
「なおのこと悪いわよ、あなたのファミリアってどこのファミリア?あなたみたいな新入りをダンジョンに放置するなんて信じられない。」
「ヘスティア・ファミリアです」
「「「「「ヘスティア・ファミリア!!!」」」」」
見る限り悪い人たちではなさそうだだがこちらを見る目は僕がよく向けられる目だ
【どうして
そう思っていると狼人の男の人がそのままの言葉を口にする、それに僕は口にし慣れた言葉を返す。
だが猫人の女の人が返した言葉に他のパーティの人たちも口々に賛同する────いったいどこのファミリアだ?小人族ではないな?にゃにか弱みを握られているのかにゃ?
僕はこの流れが嫌いだ、当然僕が小さな子どもみたいに扱われるのも嫌だけど僕のせいで神様や他の先輩団員たちが悪く言われるのはもっと嫌だ。それでもヘスティアファミリアの名前を出す、恥じることはないはずなのだから、それでも小さく新入りであることを付け加えたのは僕の心が弱いからだろう。
その途端五人から全く同じ言葉がはなたれ、僕に近寄ってくる
その表情は今までファミリアの名前を出したときに見たことのない
「いやあ、あの人のファミリアに新入りが入ったてのは噂で知ってたが、まさかこんな子だとは思ってもみなかったな」
「えっと、あの人ってヘスティア・ファミリアの団員に知り合いでもいるんですか?」
「応とも、あの人がいなけりゃ俺たちはみんな仲良くモンスターの胃袋の中に入っていただろうな。いわゆる命の恩人ってやつだ、あの焚べる者さんはな」
笑顔で僕を囲む冒険者の人たち、びっくりしている僕を見ながら────噂にはなっていたけどほんとに新人が入ったんだ、噂じゃ筋骨隆々で腕は四本だって聞いたが、こんな子だと言っても説得力がないだろう────口々に喋るその合間になんとか挟んだ僕の疑問に命の恩人だという答えが返ってくる。命の恩人?!
「俺たちはもっと下の階層で稼いでいたんだが、ロキ・ファミリアの遠征部隊が帰ってくるとさらに下の階層にいた冒険者に聞いてな。巻き込まれる前にさっさと帰ってきたんだよ、多分ほかの連中もそうだと思うぜ。」
「巻き込まれるって何にですか?」
「あーそうか新入りだもんな、ピンと来ねえか。あんたのとこのファミリアの他の団員はそんなの気にしねえだろうしな、よし一から説明するか。遠征はわかるよな大規模なダンジョン攻略。でだそいつのためにいつもより大人数でダンジョンに入る、んで出る。
入るときなんかも追いやられたモンスターが色々移動するんだが大抵は下の方に行く、だが出るときは下のモンスターが上に追いやられることがある、到底その階層で稼いでいるようなレベルじゃ勝てねえようなのがな。そんな
新入りならまだ遠征なんて想像もできないような遠い出来事だと思うかもしれないが、そういった情報を集めるのも冒険者として大成するためには大事だぞ」
聞けばなんでも、ダンジョンでほかの冒険者の罠に嵌められて窮地に陥った時に助けてもらったらしい。
すっかりこの人たちと仲良くなった僕はずっと疑問に思っていた【どうして冒険者を見かけないのか】を尋ねると、返ってきたのは意外な言葉だった巻き込まれる?何に?
そう続けて聞けば頭を掻いた後に手で遠征部隊を示し下に向けたあと上に向ける。そして今度はその手の前にもう一つの手を置いて遠征部隊とモンスターを示し、それがぶつかったりしながら動いていく様子を表現しながら教えてくれた。
自分には関係ないように思うようなことでもダンジョンで命をつなぐためにはそういった情報を拾い集めるのも大切だ、とも。
「なるほど、勉強になります」
「ここで会ったのもなんかの縁、一緒に戻るかい?」
「そうしたいところなんですけど、まだ今日の分の魔石が全然集まってなくて」
「よその階層で派手に戦ってたりするとモンスターの湧きが悪くなるっていうもんなあ、さっきあっちでモンスターの跡を見つけたからそっちに行くといいぜ」
教えてくれたことにお礼を言うとせっかくだから一緒に地上に戻らないかと提案される。
それは嬉しいんですがでも魔石がまだ足りないんです、そう伝えると。金がねえのはつらいよなそんな言葉と共にわかるわかると頷くパーティの人たち。
そしてさっきあっちの方で魔物の痕跡を見つけたから、早く狩って巻き込まれないうちにダンジョンから出るように教えてくれる。
もし狼と一緒にいたならばこんなことになる前に撤退していただろう、もしオラリオに来る前のベルだったなら恐怖に呑まれ共にダンジョンより出ていただろう。
だが今ダンジョンにいるのはベル一人であり、狼との戦闘訓練の成果強くなったという自負、そして心の中にある自分は
それらによってより深いところへと進む。
「はあ、ひい、なんでこんな所にミノタウロスが?」
示された方向へ行けばモンスターに出会い、慣れた手つきで倒す。だがまだ少し足りないもっと奥に行けば出てくるだろうか。
そうダンジョンを更に潜りいつの間にか狼さんと一緒の時でも潜ったことがない五階層まで来てしまっていた。どう考えても進みすぎだもう戻った方がいいだろう魔石も十分溜まっている、そう思い僕が出口へ向かおうとしたとき、
出会い頭、僕も相手も予期せぬ出会いに固まるほんの一瞬の硬直、それから先に僕が動けたのは狼さんとの訓練の成果だろう。
バッグの中に入っている目つぶしを投げながら僕は一目散に逃げる。
走りながら漏らした疑問に答えるのは背後から鳴り響くミノタウロスの声。それが目つぶしの効果で痛みに叫んでいるのか、それとも
僕が逃げる時間を稼げるならどっちでもいい、そんな考えはズシンと今まで聞いたことのある足音の中で一番重みのあるそれにかき消される。
「────行き止まりッ!そんな」
そうして背後から迫る足音に急かされながら続いた追いかけっこはあまりにもあっけない終わりを迎える、壁だ。壁が僕の目の前にある、足音がどんどん近くに寄ってくる、何か逃げる助けになる物はないかそんな考えと共にせわしなく周囲を見るがそんなものは見当たらない、何かないかそう考え続けていたがそんな考えはミノタウロスを見た瞬間消え失せる。
あれから逃れられるわけがないそう絶望が僕を包む、必死に逃げ続けた結果がこれか僕の体から力が抜ける。
ミノタウロスがこちらに近寄ってくる────異変に気が付いたときに入口に戻っていればそんな後悔が頭の中で膨らむ、体を壁に預けるようにずるずると座り込む。
ミノタウロスがその腕を振り上げる────あんなに太い腕なら痛いと思う前に死ねるかもしれない、ごめんなさい神様、ごめんなさい九郎さんと狼さん、ごめんなさいまだ会っていないファミリアの先輩たち、ごめんなさいエイナさん、ごめんなさいパーティの人たち、そう知り合いの人たちに頭の中で謝る。
そしてミノタウロスの腕が振り下ろされ────...ない?
「間に合った、怪我はない?」
「あ...えっ...へっ?」
僕の命を奪うはずだったミノタウロスの腕、それがどれだけ待ってもやってこない。そのことに疑問を覚え...僕はまだ生きている!驚きが体をめぐる、だけどなんでどうして、そう混乱している僕の耳に綺麗な声が聞こえた。
妙にべたべたする体を動かして声のした方を見ると...美しい女の人がいた。
攻撃されたようには見えなかったので怪我はしてないはず、そんなことを言いながらその人は近づいてくる。段々とその綺麗な髪や瞳が近づいてくる、僕は何が起きたのかわからず呆けているとその人が手を伸ばし僕に触れようと...!?
その人が僕のすぐ目の前にいて僕に触れようとしている、そのことに気が付いた僕は自分でもびっくりするぐらい素早く起き上がって逃げ出していた。
「だっ大丈夫ですうううううううううううう」
そんな言葉を残して。
「はぁ綺麗な人だったなあ、うん?あの人がつけていたマークどこかで見たような...」
僕がダンジョンの中をどう走ったのかも覚えてないけれど気が付いたらダンジョンの入り口まで戻ってきていた。そのまま僕はふらふらとオラリオの街並みを進む、僕の頭の中で綺麗な人が助けてくれたシーンが何度も繰り返されていた。キラキラ光る髪の毛、信念を思わせる瞳、透き通った声、そう何度も思い返しているとあの人の装備についていたマークに覚えがあることに気が付く。
道化師のようなマークあれは確かオラリオについてのガイドに書いてあったファミリアの紹介で見た...ロキ・ファミリアのシンボルだ!
「ッ!!ベル君いったい何があったの、そんなに血まみれになって」
「え?あ、エイナさん血って...うわぁ!!僕血まみれじゃないですか」
「気をしっかり持ってねベル君、今
「あー、いえこれは返り血というか...とにかく僕の血じゃないんです」
「...確かに見た限りそんなにたくさん血が出るほどの大けがはないね、ゴブリンなんかを相手にしていればそんなに血を浴びることなんてないはずだけど、何があったの?」
自分の中に入り込んでいた僕は聞き覚えのある声が聞こえて我に返った、ここはギルド?そして目の前にはエイナさん。
エイナさんの言葉に僕の体を見てみると血だらけだ、びっくりして大きな声を出す僕にエイナさんはお医者さんを呼ぼうとする。だがそうだ5層で何があったか思い出した僕はそれを止める、これは返り血...みたいなものだと。
エイナさんは僕のことをじろじろ見た後、大きなけがが見えないことで納得してくれたらしい。そして何があったのかを聞いてくる。
僕は答える、ダンジョン内である階層に入った時からモンスターに遭わなかったこと、ダンジョン内で出会ったパーティの人たちからダンジョンを出た方がいいと言われたこと、でも魔石がノルマには足りなかったのでそのまま進んだこと、いつの間にか5層まで進んでいたこと、そこでミノタウロスに遭遇したこと、きらきらとした綺麗な髪の人────ロキ・ファミリア幹部アイズ・ヴァレンシュタインさんが助けてくれたこと。
「...これが僕の覚えていることの全部です」
「まったく、一歩間違えれば命を落としていたのかもしれないんですよ」
「うう、申し訳ありません」
「まあ終わったことをいつまでも言っても仕方ありません。...しかしアイズさんが助けてくれたのなら今度お礼を言わないと」
話し終わった僕にエイナさんが命を落としていたのかもしれないと雷を落とす。今更ながらに恐怖が僕の体を包みだす、そうだもしあの人が助けに入ってくれなければ僕はこうしてエイナさんと話すこともできなくて、神様たちとも永遠の別れになっていたんだ。
そう考えると僕はなんて馬鹿な真似をしたんだろうか、エイナさんのお説教と自分のしでかしたことの大きさに僕が小さくなっていると、エイナさんは小さくため息をついてお説教を終わりにしてくれた。
そのことにほっとしながらも僕の耳はその後に続いたあの人の情報を聞き逃さなかった。
「え!エイナさんアイズさんのこと知っているんですか!!」
「ベル君?前から思っていたけど君には一度きつく説教が必要ですね」
思わずその言葉に食いついてエイナさんから話を聞き出そうとする、だがそれは大きな間違いだとエイナさんの顔を見ればわかった。
怒っている、めちゃくちゃ怒っている。
君は本当に反省しているんですか!そんな言葉から始まったお説教はギルドがダンジョンから戻ってきた冒険者で混みだすまで続いた。
どうも皆さま
評価ありがとうございます
評価バーに色が付くんですね
読専の時には気にしていませんでしたがすごく嬉しいです
ダンジョンで出てきたパーティの人たちは短編の方の焚べる者編で助けられたパーティと一緒です
猫人二人狼人一人只人一人小人族一人の五人パーティです
書いていて思いましたがすんごく怪しいですね彼ら
これルーキーを罠に嵌めて成果を横取りしたりするタイプのキャラがする奴だ
そう自分でも思いましたが彼らに裏はありません
焚べる者に助けられたので自分たちも誰かをまた助けようとした人間の鑑です
それではお疲れさまでした、ありがとうございました
以下は今日のエイナさんです
興味のない方はスルーしてください
今日のエイナさん
仕事をしていたら急に担当のルーキーが血まみれで現れた
実は血が出ていると勘違いした時より
ベルが返り血ですと言った時の方が動揺していた
その理由はベルの先輩である狩人みたいなことを言い出したのかと思ったから
正直他の問題児と比べたらそこまで問題行動でもないのにお説教をしたのは
他の先輩たちに染まったベルを見たくなかったから
でもその日の夜にルカティエルのマスクをつけたベルが狩人みたいに血まみれで灰みたいな喋り方をしていて何があったのか尋ねると...言えぬと狼みたいな返事をする夢を見て飛び起きたらしい
可哀そう