夜の魔術師   作:R.F.Boiran

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第一章
1-0. プロローグ


こんな結末なんてあんまりよ――――

 

 

 

あたしはあたしが手を出したものの結末に愕然とした。

泰山府君祭。

それはあたしの手には余るシロモノだった。

あいつに殺されたお兄ちゃんを蘇らせようと必死になって研究し、そして泰山府君祭を行った。

あいつが死んだ今、もう誰もお兄ちゃんとあたしを傷つける者はいない。

あたしはお兄ちゃんを生き返らせて今度こそ2人で幸せになるんだ。

そう夢見ていた。

でもそれは決して開いてはいけない禁断の箱を開けるに等しいことだった。

そう。 あたしが夢見ていたものは幻想だったんだ。

現実は非情だ。

そんなあたしの夢は儚くも崩れ去り、お兄ちゃんが生き返ることはなかった。

あたしは目の前が真っ暗になった。

今までそのことだけを思い描いて生きてきたのに。

それが……それがこんな結末なんて……

 

ふつふつと湧き起こる自分自身に対する怒り。

あたしが泰山府君祭をしたばっかりに、関係のない二人を巻き込んでしまった。

土御門夏目。 土御門春虎。

いま霊災たちに襲われている二人だ。

この状況、生きて帰すことができないかもしれない。

最初は泰山府君祭に必要な土御門夏目の霊気を少しもらう程度にしか考えていなかった。

でも結果的にこの状況に巻き込んだ形になってしまった。

邪魔する者たちは行動不能にして、あたしはあたしの目的を果たせばそれでいい。

殺し、殺されるようなことになるなんて思っていなかった、なんて言い訳にもならない。

そのことに対しての責任を酷く感じる。

 

目の前に蔓延る霊災たちを見据える。

霊災たちは今、土御門夏目と春虎を襲っている。

 

あたしが泰山府君祭を行ったときにあたりは膨大な霊気に包まれた。

すると空から霊災が一つ、また一つと降ってきた。

それは現時点で十三体。

まだ増えるかはわからない。 でも今のところは止まっている。

霊災たちはここに降りたあと、すぐにあたしたちを襲い始めた。

さらに悪いことに、ここに溢れている霊気を浴びた霊災たちはたちまちの内に実体化、異形と化していった。

霊災の一体を見る。 異様な影、歪な四肢と胴。 長い尾。

全長はおそらく10メートル。

他の霊災も似たようなものだ。

間違いなくフェーズ3ね。

いったい何の冗談だっていうのよ。

フェーズ3が13体? これじゃあまるで上巳の大祓(じょうしのおおはらえ)よ。

これじゃあ、あたしが憎んだあいつと同じことをあたしはやってるってことじゃない。

なんて皮肉なの……。

あたしはそのことで自分自身が心底嫌になった。

でも、今はそんな感傷に浸っている場合じゃないわ。

あたしはここで倒れてもいい。

でも土御門夏目や春虎は関係ない。

絶対に助けてみせる。

 

意を決しあたしは一冊の本、聖書を手に取る。

そして、

胸の内に抱えている怒りを力に変えて聖書を霊災に向かって投げつけた。

 

「あたしが追い求めてきた結果がコレだっていうの!? ふざけんな!!!!」

 

あたしの力ある言葉に反応し、聖書が跳ね上がり、そして爆発した。

中のページがマシンガンのように乱れ飛び、この山の頂上を式神で埋め尽くすように舞った。

さっきまであたしたちに迫っていた霊災たちは、この式神によって完全に分断された。

これはあたしのオリジナル。

攻撃力はほとんどないけど、今ここにいる霊災たちを足止めするにはこれが効果的だった。

いくらフェーズ3といってもあたしのこの拘束から逃げられるわけない。

あたしは自分の力に絶対の自信を持っていた。

 

「土御門夏目、春虎っ! いまのうちに――――」

 

そこから逃げてと言いかけたそのとき、霊災たちは式神をいとも簡単に破りそしてあたしに向かってきた。

 

なんで……

 

頭の中はそれしか考えられなかった。

そして、その考えは衝撃と共に一瞬のうちにかき消えることとなった。

 

「きゃああああああああああ――――」

 

あたしは霊災の一体に体の横から殴られて数メートル飛ばされた。

 

「くっ――――」

 

あたしはすぐに自分の現状を把握した。

体を少し動かすと全身に痛みが走った。

骨は折れていないようだけど……ダメだわ。 力が入らない。

あたしは腕の力を何とか入れて起き上がろうとした。

 

くそっ――――

 

早くしないと、霊災がくる。

 

こんなんじゃ、あの二人を助けられない。

 

このままじゃ、霊災にみんな殺されちゃう。

 

脳裏でそんな言葉が延々と連鎖する。

絶望が絶望を生んでいった。

 

泰山府君祭という希望の詰まったパンドラの箱は開けてみたら絶望という皮肉。

自分の無能さに、自分の無力さに。

あたしは目頭が熱くなるのがわかった。

 

お兄ちゃんごめんなさい、そして――――

 

「こんなことになるなんて……。 巻き込んで、ごめんなさい――――土御門夏目、春虎……」

 

 

 

――――

 

 

 

ふと声が聞こえた……

 

泰山府君祭の祭壇近くから声が聞こえた時、すでに彼は、ただそこに存在していた。

最初からいたようにも思えたし、突然現れたようにも思えた。

 

「こいつらを排除するには……」

 

「……」

 

あたしはなにか話そうとして……

でも、なにも言葉を紡ぐことが出来ずにいた。

 

年はあたしと同じくらいかな。

ジーパンに海人とプリントされた赤いTシャツのセンスのかけらもないふざけたファッション。

男の子にしては長いボサボサの手入れされていない髪。

もっとなんとかならないのか思う反面、

彼のダークブルーの瞳からは、自身が吸い込まれるような、圧倒的なまでの意志の力が宿っていた。

 

「――――――――ット……」

 

彼が何か呟いた瞬間、彼の右腕は青く光り、彼の周囲には何かよくわからない文字で書かれた円盤のようなものが回転しながら漂っていた。

そして流星のような青い何かが出たと思ったときには、激しい爆発音と共に辺りは爆風に包まれていた。

倒れた体勢のまま顔を低く爆風から身を守る。

爆風によって発生した小石が飛んでくる。

それはあたしの頭を掠めていった。

 

 

爆風が収まり、あたしは顔を上げた。

すると今までここにいた、ここに蔓延していた霊災がいなかった。 一体も残らず。

そう、さっきの彼の攻撃でここにいた全ての霊災が一瞬にして消滅したんだ。

信じられなかった。

このあたしが足止めすらできなかった霊災を一瞬で、しかも十三体同時に消滅。

助かったという安堵よりも目の前の信じられない事象に心を奪われていた。

 

あたしはただただ、それをやった彼を目で追うことしかできなかった。

突然現れたその彼はその余韻に浸ることなく次の動作に移っていた。

 

流れるような動きで、彼は地面に左手をつけ、こちらには聞こえない声で、また何かを呟いた。

その瞬間、彼の右腕と彼の足下、そして中空にさっきよりも巨大な幾何学模様の円盤が回転しながら展開していた。

 

いったいこれはなに……

 

十三歳にして難関中の難関である「陰陽一種」試験をクリアし、史上最年少で「十二神将」の一人に数えられ「神童」とまで呼ばれるようになった。

そのあたしの知識を持ってしても、こんな術式みたことも聞いたこともない。

 

理解の外にある術式の円盤は高速で回転していき、彼は右手を空、霊脈の根元に広がる黒い影に向けた。

そして、

 

「―――― 一気に貫けぇぇぇぇッ!!!!」

 

意志の籠もった声と共に、彼の右手から青白い光が放たれ、圧倒的なまでの光は黒い影に寸分違わず命中し、一気に貫き、そして天上との繋がりを絶った。

その瞬間、祭壇が巨大な光に包まれ、あたしは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくとあたりに充満していた膨大な霊気の気配が消えてきた。

 

「っ――――」

 

どうやらあたしは気を失っていたみたいだ。

閉じていた目を開き、辺りを見回し、隣には先ほどの彼が座っていることに気が付いた。

視線を上げて彼を見上げる。ふと彼と目があった。

そこには先ほどみた吸い込まれるような瞳はなく、まっすぐ穏やかにこちらを見据えていた。

 

さ、さっきは彼の行動に驚いて声をかけそびれたけど、今度こそっ!

あたしは意を決して、

 

「あんた……一体だれよっ!?

 それにさっきの――――」

 

彼は一瞬考えたような仕草をとり、

 

「僕は土御門碧。

 土御門夏目の弟です」

 

彼は笑いながらそう答えた。

 




鈴鹿視点でプロローグを書いてみましたがいかがでしょうか?
よくあるオリ主モノを書いていこうと考えています。

とりあえず物語のはじまりとなるところまでを書きためて一気に投稿してみました。

ご意見、ご感想等あれば今後の物語に繋げていけるかも知れないので、頂けるとありがたいです。

気が向いた時に書くスタンスなので、更新は遅めになるかも知れません。

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