夜の魔術師   作:R.F.Boiran

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2-6. その後

「鏡! こんなところで何をしている!?」

 

その声が聞こえたのは、ちょうど僕が鏡を吹き飛ばしたときだった。

魔力(ちから)を少し入れすぎたのか、存外にも吹き飛んだ鏡の巨体はきれいな放物線を描き――――

 

「っ、うわっ――――!?」

 

今まさにこの場へ入ってきた男に直撃した。

人と人がぶつかる鈍い衝突音。

僕のゼロ距離からの魔弾(スナップ)で鏡は沈黙。

さらにその鏡がどこからともなく飛んできたおかげで、恐らくこの訓練を止めにきたであろう人も沈黙。

なんともいえない結末に、この場は静寂が支配していた。

 

「あー……」

 

なんというタイミング。

まさに飛び出し。

僕が鏡を吹き飛ばした先に人が湧いて出たのだ。

こんな絶妙のタイミング、誰が予想できるのだろうか。

 

不可抗力だ! あの男に当たったのは鏡だ! 僕は悪くねえ!!

当たる方が悪いんだよ、バァァァカ!!

 

……腕や眼が痛くて再び冷静さをなくしてしまったのだろうか。

普段の僕なら言うはずもない、らしくない汚い言葉を内心に抱えていた。

 

 

……とはいえ、当てたのは僕だ。

それに恐らくだが、あの男は鏡を止めに入るためにこの場に現れた、恐らくいい人なのだろう。

 

そんな人に鏡を当てたのだ。

一応、無事かどうか様子を見に行った方がいいだろう。

僕は「大丈夫ですかー?」などとありきたりな言葉を投げかけながら、人集りのできている人身衝突の現場へ向かった。

 

 

 

 

現場に行くと男がお腹を抱えて痙攣しながら悶絶していた。

どうやら衝突したときに鏡のどこかの部位が鳩尾に入ったようだった。

 

ふむ、と、僕は考える。

足……だろうか?

鏡は革靴を履いていた。

であるならば、衝突したときの衝撃とその革靴の硬さも相まって、鳩尾に入ればさぞ苦しいことだろう。

と、どうでもいいことを目の前で蹲っている男を見下ろしながら考えていた。

 

僕は今まさに必死に呼吸を整えようとしている男の肩に手を置きながら「大丈夫ですか?」などと声をかけてみる。

すると男は手で大丈夫だとジェスチャーしながら答えてくれた。

 

 

 

 

そうこうしていると鈴鹿がこちらに駆け寄ってきて、ハンカチを取り出しそれを僕の口元に当てた。

 

「?」

 

よくわからない、といった表情をすると鈴鹿が答えてくれた。

 

「血……出てるよ……」

 

ああ、と納得した。

先ほど鏡のパンチが僕の頬を捉えたときだ。

あのときに唇を切ったのだろう。

 

「ありがと、鈴鹿」

 

「バカ……心配したんだからっ!」

 

「ごめんな」

 

涙目をしながらうったえてくる彼女に対して、頭をぽんぽんとして応える。

すると彼女は何を思ったのか、僕に思いっきり抱きついてきた。

もちろん動かない左腕を巻き込んで、だ。

 

「っ――――!!!? いってええええええええ!!」

 

「きゃっ」

 

彼女の腕の中で必死に藻掻く僕。

まさか暴れられるとは思っていなかっただろう。

彼女はかわいらしい悲鳴を上げて僕から離れ、びっくりといった表情で言った。

 

「あ、碧。 さっきので左腕ケガしてたの!?」

 

一瞬の油断を突かれた代償。

この腕のケガはその最たるものだった。

戦闘中に油断などあってはならないことだ。

それを僕は犯した。

これほど恥ずかしいものはない。

僕は目の前にいる彼女に対して苦笑しながらも正直に答えた。

 

「――――はは……ちょっとボキッっと……」

 

ははは、笑えよ鈴鹿。

だが、そんな僕の考えとは裏腹に、目の前にいる彼女は青ざめた表情をしながら、

 

「な、なにやってんのよ! すぐ病院行かないと――――」

 

と言った。

どうやら僕が思っている以上に、彼女には心配をかけたようだ。

なんだかとても悪いことをした気分だ。

怪我を負ったことは確かにしてはならなかった。

これは油断したことと彼女に心配をかけてしまったことだ。

だが、怪我そのものは僕にとっては大した問題にはならない。

 

僕は鈴鹿に心配をかけまいと冷静につとめながら淡々と言った。

 

「ああ、それなら大丈夫。 たぶん明日の朝には治っているから。 ……病院はいいよ」

 

魔術刻印。

それがこの答えである。

僕の右腕にはこの世の神秘を内包した魔術刻印と呼ばれる魔術師の証が宿っている。

仮に脊椎を折られようが、僕自身がまだ生きているのなら、刻印が無理矢理にでも僕を生かす。

左腕の骨折程度なら明日の朝には完治しているだろう。

――――だが、これはこの場で話す内容ではないな。

 

「悪い。 心配かけちゃったな……。 ま、そのあたりは帰ってから話すよ」

 

「……うん」と心配そうな表情で見つめる鈴鹿。

 

そんなやりとりをしていると、ようやく僕の目もようやく両目ともハッキリと見えるようになった。

そして悶絶していた男も呼吸を整え復活したところだった。

 

年代物のフライトジャケットに、膝の抜けかけたジーンズ。

鏡と同じく僕とは対照的ながっしりとした体躯。

そして先ほどまで悶絶していた人物とは思えない、厳しい表情に眼光を鋭く光らせながら僕を見た。

 

一瞬、男は足下に倒れ臥す鏡を見下ろし、今度は困惑の表情をしながら僕に問いかけてきた。

 

「――――君がこの鏡を?」

 

「すいません、ちょっと勢いあまって鏡さんを当ててしまいましたね」

 

やや軽い口調で返す。

ますます困惑が深まった表情をして男は唸った。

だが次の瞬間にはこちらを真っ直ぐに見て、そして、

 

「いや、こちらこそ鏡が迷惑をかけた。 すまない」

 

一塾生にすぎない僕に対して目の前の男は頭を下げた。

まさかこの人から頭を下げられる事になるとは。

 

目前で頭を下げているこの人を僕は知っている。

テレビでよく見るからだ。

十二神将の木暮禅次朗。

祓魔局の若きエースとされる新進気鋭の独立祓魔官である。

 

そんな人物が一塾生に頭を下げているのである。

にわかには信じられない光景だ。

僕はやや驚きながらもそれに応えた。

 

「鏡さんの話に乗ったのは僕です。 木暮さんは謝る必要はないですよ」

 

「それでも一塾生相手に十二神将が動いたんだ。 何かあってからでは遅い」

 

「結果論ですが、見ての通りです。 それでいいじゃないですか」

 

「――――その結果が俄には信じられないんだがな……。 君は一体何をやったんだ?」

 

呪練場の惨状を見渡しながら木暮は言った。

 

「ちょっとした術を使っただけですよ。 逆に鏡さんには物理的にボコボコにされましたが」

 

拳を受けた頬に指を指しながら苦笑し答える。

 

「なるほどな。 しかし鏡が陰陽術で後れを取るとは……。 いや、それよりも今後このような事にならないように鏡には俺から言い聞かせておく」

 

「助かります。 では僕はこれで失礼しますね」

 

鈴鹿の手を取りその場を後にしようとしたところ木暮から声がかかった。

 

「大連寺はなぜここにいる?」

 

「あ……」と鈴鹿が答えようとしたが僕が遮った。

 

「鈴鹿は僕が引き取りました。

 本日付でこの陰陽庁は辞めましたので。

 本日陰陽庁を伺ったのはそのためです。

 詳しいことは倉橋さんにでも聞いてください」

 

「ま、待て! き、君は一体……」

 

僕は「土御門碧」とだけ返答し鈴鹿を伴ってその場を去った。

 

 

 

 

 

 

屋敷に戻ってからみんなで食事を済ませた後、京子に事の成り行きについて順を追って説明した。

京子の父親のこと。

鈴鹿の父親のこと。

そしてその二人が繋がっていて双角会を裏から操っていたこと。

さらに今後その二人が何かをしようとしていること。

補足に鏡と遊んで怪我を負ったこと。

刻印によって怪我はすぐ治るということを少々。

 

その話を聞いた京子はやはり落ち込んだ。

だが、思っていたよりその反応は薄かったといえる。

それとなく聞くと、小さい頃から京子のことは塾長に任せっきりで、お互いにあまり接点がなく、京子が父親の実態を知らなかった事に起因するらしい。

たまに顔を合わせればあれこれ言われるため、厳格というイメージは持っている。

しかし、その内面……彼がどのような人物なのかまでは分からないのだ。

僕からこの話を聞いたとき、倉橋家として思うことはあったとしても、娘としては思うところはないという。

鈴鹿にしろ京子にしろ親子とはいえ、その実態は冷めた関係だった。

 

……まあ、僕が踏み込む領域ではないな。

 

「まあ、この話は京子が塾長と決めればいいさ。 何か僕にできることがあれば言ってくれたら出来る範囲で対応する」

 

「……うん」

 

これは京子、延いては倉橋家の問題だ。

倉橋家の問題であれば京子や塾長が結論を出すだろう。

僕は倉橋源司が何か仕掛けてきた場合に対応すればいい。

 

それよりも――――

 

「僕らには今、ここで決めなければならないことがある。 部屋割りだ!」

 

おもむろに予め用意していた屋敷の見取り図を取り出し三人に見せながら言った。

僕らがこれからこの屋敷で生活する上でもっとも重要なことだ。

 

この屋敷は平屋で、居間、客間、それに個人的な生活をするための部屋である寝室や書斎の主に三つの棟で構成されている。

居間や客間はその目的が違うため個々の部屋には使えないが、寝室や書斎の棟だけでも部屋数は5つ。

4人がそれぞれの部屋を持ったとしても十分に賄えるだけの部屋数はあった。

 

「この寝室・書斎棟で好きな場所を選んでくれ」

 

「碧はどこにするの?」

 

「そうそう。 碧くんがこの屋敷の主なんだから碧くんが最初に決めないと」

 

「僕はどこでもいいよ」

 

ゆっくり寝られるなら寝床はどこでもいいのだ。

好きな人が好きな部屋を選べばいい。

そのように伝えると、

「って言われてもね……」と京子と鈴鹿が顔を見合わせて悩んでいる。

 

二人が悩み唸っていると、その隙を突いて秋乃が鋭く発言した。

 

「じゃあ、碧はここ。 で、わたしは碧のとなり!」

 

「!?」

 

ハッとした表情をする二人。

 

部屋は5つ。

だがこの中にはグループが3つ存在する。

2、2、1といったグループだ。

まず廊下の奥から進んでいくと、左手に二部屋、右手に一部屋、途中二つの廊下が合流する。

その合流するもう片方の廊下を進み、直角に左に曲がった先の左手側に二部屋といった間取りである。

 

秋乃が指した僕の部屋となるのは最初に説明した二部屋だった。

特に反対する理由もないため、

 

「じゃあここにするか……」

 

「やったぁ!」

 

満面の笑みを浮かべる秋乃。

僕と秋乃の部屋が決まったかのように思われたその時、

 

「だ、だめよっ!」

 

「そうよ、絶対ダメ!」

 

断固反対と言った声が上がった。

理由は何となく察しが付く。

が、あえて聞こう。

 

「一応聞くけど……、なんで?」

 

「秋乃ちゃんと碧くんが隣どうしなんて……。 ほ、ほらっ! 秋乃ちゃん女の子だし!」

 

「そ、そうよ、秋乃っちは女の子でしょ! 何か間違いがあったら遅いじゃない!!」

 

二人は……特に鈴鹿が凄い剣幕で訴えてきた。

その迫力に気圧され「ひぃぃっ!」と悲鳴を上げる秋乃。

期待していた答えとは違ったが、二人の言い分は、なるほど、確かに一理ある。

何も知らない傍から見れば、10歳くらいの女の子と隣同士どいうのは些か問題があるかもしれない。

だが――――

 

「ああ……そういうことか。

 ないない。 それは絶対にない。

 今までだって一緒に生活してきたんだし、それはありえないよ。

 それにそんなことしたら隼人にぶん殴られる……。

 ああ、隼人っていうのはスターマイン社陰陽推進部の部長で――――」

 

と、どうでもいい補足を含めて説明した。

 

二人が懸念するのはもっともな話ではある。

僕も年頃だし、女の子といちゃつきたい心は少なからず持っている。

だが、さすがに10歳の子にそんなことをする趣味は持ち合わせてはいない。

 

「で、でも……」

 

「まあ、二人も隣どうしのこの二部屋でいいんじゃないか?」

 

と、僕と秋乃の部屋とは少し離れた二部屋を指した。

二人はそれでも抵抗の構えを見せたが、特に反論もみあたらなかったようなので結局そこに落ち着いた。

捨て台詞を吐いて。

 

「チッ――――このロリコン……」

 

おい、聞こえているぞ鈴鹿。

 

 

 

まあそれはいい。

部屋割りはこれで決まったし屋敷は自由に使ってもらって構わないわけだが――――。

……ああ、そうだ。

大事な事を伝え忘れていた。

 

「外の土蔵。

 あそこは僕の研究室として使うよ。

 下手をすると危険なモノであふれかえるから僕が居ないときは絶対に立ち入らないように」

 

庭の隅にある土蔵。

ここを僕の魔術的な研究室にするつもりでいる。

厚さ30cmはある漆喰の大壁。

魔術というあまり人には見られたくないものを扱う場所として、この土蔵は最適といえた。

同時に危険なモノも取り扱うため、事前に伝えておかなければならなかった。

 

「危険って……ヤバい術式の研究でもするわけ?」

 

「降霊術を研究しようと考えていてね。

 その場所が危険というよりも、知らないまま入って変なモノが出てくるかも知れないという意味で危険なんだけど……」

 

「ほら」と言いながら鏡に殴られた顔と折られた腕を示しながら言った。

 

「鈴鹿は見ていたから分かると思うけど、僕は殴り合いは得意じゃないんだ。 ……というより相当弱い。

 今日、彼と戦ってみてそのことを思い知らされたよ」

 

僕はあれから殴り合いでも負けない方法を考えた。

しかし肉体的に弱い僕が今からがんばったところで急に強くなることはできない。

ではどう強くなるのか。

 

「僕自身は弱い。 これは変えようのない事実だ。 

 ――――ならば常に守ってくれる肉弾戦の強いボディーガードを付ければいいんだ!」

 

なんという暴論、と思うかも知れない。

だがもう物理的に痛いのだけは嫌なんだ。

なりふりなど構ってはいられない。

 

「碧の暴論はさておき、それなら高等人造式でもよくない?」

 

「そうよねえ……。 それに土御門家なら春虎のコンちゃんみたいな使役式もあるんじゃない? ――――というより降霊術って何?」

 

二人の言うことは正しい。

高等人造式のような自我を持った式神だったり、霊的存在を使役する使役式を使う手もある。

というか春虎兄さん式神持ってたのか……? というかコンちゃんって何?

……まあ今はあまり関係なさそうだから置いておこう。

 

――――話が逸れたが、結論からいうと前述の二つの式神を使うことはできない。

なぜなら簡易式でさえやっと扱える程度の僕が、自我を持った高等人造式など使えるはずもなく、

また使役式にしても北斗は姉さんが使っているし、土御門家に殴り合いが得意な式神がいるなどとは聞いたこともない。

夜光に仕えていた飛車丸や角行鬼が、まだ土御門家に仕えていたらよかったのだろうが。

父さんからそんな話は聞いたこともない。

……まあ無いものねだりをしても仕方のないことだ。

僕はこれらのことを説明した上で言った。

 

「つまり僕にはその二つのどちらも不可能なんだ!」

 

「威張っていうな! つーか、簡易式でもやっと扱える程度って……、あんた二種持ってるって言ってたじゃん! それにあの馬鹿に使った帝式が使えて、なんで簡易式がまともに使えないのよ!」

 

「……意外、かな。 あたし碧くんがなんでもできるんだって勝手に思っちゃってたわ」

 

「二人とも僕のことを何だと思っているんだ……。

 それに二種持っているからって普通の陰陽師がいとも簡単にできることが僕にできるとは限らないだろ。

 陰陽術でも得手不得手くらいあるよ」

 

起源に起因することなのかはっきりとしたことは分からない。

だがモノを破壊することは得意でも、それ以外は苦手だ。

特に刻印のサポートを受けることができない陰陽術ではそれが顕著である。

さすがに10年以上も鍛錬しているので全くできないということはないが……。

 

「……まあいいわ。 それで、碧はどうするつもりなわけ?」

 

「さっき言ったとおり降霊術だよ。

 降霊術っていうのはね、霊的存在を降ろして使役する、いわば護法、使役式みたいなものだよ。

 ただ僕のしようと考えているものはただの霊的存在ではなく、神話や伝説の信仰によって精霊の領域に至った守護者の召喚。

 ――――サーヴァントの召喚だよ」

 

「さ、さーばんと?」と鈴鹿と京子は顔を見合わせており、よく分からないと言った表情だ。

 

「そう。 サーヴァント。

 そうだな……。 例えば日本で有名なのでは役小角や安倍晴明、果心居士、弁慶なんかがそうかな。

 つまりそういった有名人を召喚して使役しようって話」

 

ここでようやく得心したような表情になった。

 

「話を聞くかぎりではすごそうな術式ね……。 でも、そう簡単にできるようなものなの?」

 

「そうよ。 リスクとかないわけ?」

 

当然、普通に考えれば出てくる疑問だろう。

もちろん簡単にできるわけがない。

刻印から得られた知識では、サーヴァントを召喚するためには聖杯と呼ばれる儀礼に必要な道具……魔術礼装が必要だ。

真偽はともかく、最後の晩餐でキリストが弟子たちに自分の血だと称してワインを振る舞ったという杯だ。

その後、この聖杯は弟子たちの手によって各地に運ばれ、その土地で様々な伝承を成した。

そして聖杯を手にした者はあらゆる願いを叶えるという逸話があり、同時に最高位の聖遺物とされる。

そんな規格外の魔術礼装など持っているはずもない。

また魔術にしろ陰陽術にしろ、何かをしようとすれば必ず対価が必要になる。

いわば等価交換が原則だ。

その原則に則るならば伝説級の人物を召喚、使役することがノーリスクでできるはずもない。

 

「当然簡単にはいかないしリスクもある」

 

だが、それを解決する鍵が土御門家にはあった。

 

「鍵になるのは泰山府君祭だよ」

 

「なっ――――!」

 

鈴鹿はぎょっとした顔になり言葉を失う。

 

そう、泰山府君祭だ。

僕の目の前で驚いた顔をしている鈴鹿が執り行った、魂を操作するための儀式。

何代も前のご先祖様が作ったのか、それとも土御門家ではない人物が作ったシステムなのか。

魂の操作……いや霊的存在をいとも簡単に使役することができるのだ。

どこぞの誰とも知らないが、想像もできない程の天才が作ったそのバックボーンには、巨大な魔術式が組み込まれていると想定できる。

それこそ聖杯に匹敵するような……。

神話や伝説級の式神を使役したという事実は文献を見る限りはないが、それでもこれは規格外と言わざるを得ない。

いわば聖杯システムの下位システム。

泰山府君祭で使う祭壇や詠唱は、そこにアクセスするための術者と魔術式を繋ぐための小規模なシステム。

この在り方によってその結果が大きく変わる。

つまり正しい条件や手順を踏めばサーヴァントも召喚可能なのだと考えている。

 

では泰山府君祭がそのまま聖杯の代わりになるのかといったら、そう単純にはいかない。

聖杯を使って召喚する場合は英霊の座と呼ばれる領域にアクセスするが、泰山府君祭ではその領域まで行くことができない。

なぜなら泰山府君祭を使う人間は陰陽師であって魔術師ではないのだから。

泰山府君祭がどんなに高度な術式であろうともそれは変わらない。

陰陽術は夜光が作り上げた、いわば魔術から分化したものだ。

神秘的にはこの上なく地に落ち、使いやすさで言えば誰でも使えるようにしたものだ。

その陰陽術では英霊の座の前にある門を開けることはできない。

したがって、泰山府君祭がどんなに高度な儀式であろうとも、陰陽師では英霊を召喚……いや、正しくは英霊の情報を元に造られた分身を召喚することは不可能だ。

陰陽師ではね……。

 

つまり泰山府君祭の方法さえわかれば、あとは条件の問題だ。

 

「ということで鈴鹿」

 

唐突に鈴鹿に近寄り左肩に手を置きながら話を振ってみた。

 

「な、なにっ!?」

 

身体をビクつかせながら反応する鈴鹿。

僕はそんな鈴鹿をまっすぐに見据えながら言った。

 

「泰山府君祭について教えてくれ」

 

 




コッソリ更新。

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