「ただいま――――」
と、玄関に入る。
玄関で靴を脱ぎながら気配を探る。
どうやら、姉さんは外出中、父さんはまだ出張から帰っていないみたいだ。
「春虎兄さんとデートでもしているのかな」
独り言を呟きながら家の中に入っていく。
しかし、いくら人里離れた山に在る屋敷とはいえ、それなら鍵は掛けようと思いつつ、
――――ふと、覗いた部屋にあったソレが無くなっている事に気づく。
土御門家の呪具である護身剣がないのだ。
泥棒か? ――――いや、それにしては綺麗すぎる。
これは姉さんが持ち出したのだろうか……?
と、その時、屋敷裏の山から膨大な霊気の気配がした。
玄関から飛び出し、屋敷の裏手に回ると、裏山から天空に向かって、いや、天空から裏山に伸びた霊気と共に黒い何かが降りてこようとしていた。
あそこには泰山府君祭に使う祭壇が――――泰山府君か!?
いったい誰がそんなことを……
父さんが居ない時に、タイミングの悪いことこの上ない。
くそっ、と内心で毒づきつつ、屋敷外へ走りながら、ぱちん、と指を鳴らす。
家にもともと設置してあった人払いの結界を起動させ、
屋敷の裏手から跳んだ――――
「軽量、重圧――――」
右腕の魔術刻印を起動させ、術式を再現させ、自身の魔力回路に繋ぐ。
体の軽量化と重力調整。
この一瞬、羽と化した体は軽々と大きく跳び上がり、裏手の急勾配の坂を一気に下り
続けて魔術を組み上げ、
「戒律引用、重葬は地に還る――――」
着地と同時に走らせ、そのまま祭壇へと繋がる階段を駆け上がっていく。
☆
階段を駆け上がっていくと、中腹に装甲鬼兵が転がっていた。
どうやら破壊されて機能を停止しているようである。
「装甲鬼兵まで持ち出すとは――――
いや、今はそれよりも」
頭上に広がるアレを何とかしなければならない。
思考を切り替え、身体を強化し階段を駆け上がるスピードを上げた。
☆
「うおおおおおぉっ!」
春虎君の喉から、虎の如き咆哮があがる。
全身にあらん限りの力を込めて、春虎君は護身剣を振り上げ、霊災の一匹を斬りつけた。
が、――――
グォォォォォォォォゥ――――!
霊災は気にした様子もなく反撃し腕を振り上げた。
とっさに護身剣を前に構え迎えるが、勢いよく振り下げた腕は護身剣もろとも春虎君を叩き潰した。
その一撃は重く春虎君を行動不能にするには十分だった。
「がはっ――――」
「っ、春虎君!!!!」
――――突然、空から降ってきた霊災はすぐに私たちを襲いだした。
数は全部で13。そのどれもが異形のカタチをしている。
悪いことに、止まることのない勢いで溢れ出る霊気のせいで、霊災がどんどんと巨大化していき、さらに異形と化そうとしている。
幸い、降ってきた霊災はここに留まっているため、周りへの被害は今のところでていないハズだ。
ならば、と、
「――――ここで絶対に食い止めます!
春虎君を叩き潰した霊災に向かって火行符を投じる。
鮮烈な猛火が渦巻き、霊災を覆う。
しかし、火の粉を払うように腕を振るい、まるで効いていない。
と、そこに追い打ちで鈴鹿の符術が霊災を打つ。
「あたしが追い求めてきた結果がコレだっていうの!? ふざけんな!!!!」
全方位に向けて展開した怒濤のように押し寄せる式符が霊災の注意を引く。
この一瞬を見逃さず素早く春虎君に近寄り、治癒符を使った。
「――――あ、づっ……サンキュー、夏目。 助かったぜ。 怪我はないか」
「ええ、あの子のおかげで何とか……
でもこのままでは非常にまずいです。
今はあの子がこの場の均衡を保っていますが――――」
1匹なら北斗を使って何とかなるかも知れないが、これだけ数が多いと焼け石に水である。
それに私の霊気ももう限界に近い……
早くなんとかしないと取り返しの付かない事態に――――
そう考えていると
「きゃああああああああああ――――」
背後から彼女の悲鳴が聞こえてきた。
わずかな均衡が破られた瞬間だった。
まずい。 まずい。 まずい。 まずい。
考えている暇はない。
北斗――――
召喚された竜は主に迫る霊災に向かって行き、なぎ払った。
が、複数の霊災に取り付かれ敢えなく消滅した。
呆然とする私と春虎君。
土御門家が誇る竜が瞬く間にやられたのだ。
こんなデタラメな霊災達をどうしろというのか……
襲い来る霊災。
咄嗟に火焔印、知拳印、三胡印を切る。
「オン・キリキリ・ウンハッタ!」
春虎君に覆い被さるように、私と春虎君を対象として、呪的霊的影響力を遮断する結界を展開した。
せめて春虎君だけでも!
目を瞑りながら迫り来る霊災の攻撃に備えた――――
☆
祭壇に到着し、辺りを見渡す。
蔓延る霊災。その数13。
なるほど、忌まわしい数字だ。
仰向けに倒れている春虎兄さん、それに覆い被さっているように防護結界を展開させている姉さん。
祭壇近くで倒れている少女、その横に突っ立っている死体。
「これは――――」
見た限り、そこの少女が死体を復活させようとし、泰山府君祭に失敗したようである。
いや――――そもそも術式が間違っているのか、泰山府君など眉唾ものなのか。
土御門家にいるとはいえ、泰山府君祭の術式の正否など、詳細について知らない僕の知るところではない。
しかし、いまのこの状態は非常に不味いといえた。
憑代として機能している死体の許容量を超えた霊気が漏れて、この辺り一帯に充満しているのである。
どこからか溢れ出た霊災が霊気を浴びて強化され異形と化していた。
この霊気はこの山全体を覆うまでになっていることから、此処にいない霊災がいた場合、街に被害が起きる可能性がある。
だとしたらやることは一つ。
「こいつらを排除するには……」
僕の持っている陰陽術の手札では無理か……
数が多すぎるし、一体一体が一陰陽師の対処できるレベルを越えた霊災だ。
だとしたら他の手で破壊し尽くすまで――――
「――――
ふたたび、右腕の刻印に火を入れる。
「――――魔弾、展開」
蔓延る霊災の頭上に魔弾を展開する。その数13。
それは流星のように、異形のモノたちを寸分違わず撃ち抜き消滅させた。
爆発の余波で激しい暴風が僕を襲う――――
続けて――――
「――――
魔力提供、大源に固定」
地面の上に紋様が刻まれていく。
術式の中心に膝をつき左腕を地に付け、辺りの霊気、いや「魔力」を急いで、それでいて慎重に吸収していく。
これだけの魔力量を僕の体内に取り込むのだ。 身体にかかる負荷は相当なモノになるだろう――――
「ぅっ、ふぅ――――」
体内に流れる魔力に一瞬、顔を歪め声を上げてしまうが、呼吸をして落ち着かせる。
この状態を維持しつつ魔力の循環に問題はないことを確認、術式は安定している。
大丈夫だ、問題ない。
破壊対象を見上げ、右腕を霊脈の元、黒い影に向ける。
辺りに充満している膨大な霊気……いや、大源を急速に吸収しながらさらに回路の回転を上げていき――――
「
回路が快音を上げながら霊脈が撒き散らした周囲の魔力を吸収し尽くした――――!!!!
そして――――
「―――― 一気に貫けぇぇぇぇッ!!!!」
夜空に一本の青い花火が上がる。
圧倒的な破壊力を伴った魔弾は空に広がる黒い影に寸分違わず命中。
一気に貫き、天上との繋がりを絶ったのだ。
その瞬間、魔術行使の余波による暴風と共に祭壇は巨大な光に包まれた――――
光が晴れていき、それまで天上から降り注いでいた霊脈や充満していた霊気は吸い尽くされて収まっていた。
「さて――――」
辺りを見回すと気を失っている、姉さんと春虎兄さん、それに謎の女の子。
霊脈が絶たれた事により事切れた死体が崩れ倒れていた。
この状況をどうするか――――
まずは状況の確認からだ。
「姉さん、起きて姉さん、春虎兄さん――――」
二人の身体を軽く揺すってみると反応があった。
「う……碧か? ッ! つぅ――――」
「ん、う……碧……?」
「よかった。 二人とも無事みたいだね。
少しじっとしてて――――」
魔術で治すことができれば一番いいのだが、治癒に関する魔術を僕は知らない。
面倒ではあるが、このように治癒符を持ち歩くことで多少の怪我には対応することが出来るようにしている。
「これでよし。
外傷についてはこれで治ったはずだけど、他に痛むところはないかな?」
「ああ、助かったぜ碧。 夏目はどうだ?」
「私も大丈夫です。 それより――――」
「「どうして、碧がここに?」」
二人仲良く聞いてきた。 あんたらもう結婚しろよ。
「それはこっちのセリフだよ。
用事が予定よりも早く終わって東京から戻ってきたら家には誰もいないし、家の呪具は無くなってる、
膨大な霊気を察知してここに駆けつけてみたら、霊災はいるわ、二人と、あの女の子が倒れているわで――――
いったい何があったの?」
二人は顔を見合わせ――――
「えーっと、話せば長くなるんだけど――――」
姉さんと春虎兄さんから説明を受ける。
どうやら、そこに倒れている女の子――――大連寺鈴鹿が、泰山府君祭を執り行い、兄を蘇生させようとしたらしい。
姉さんと春虎兄さんはそれを阻止しようとしたが、装甲鬼兵や式神の邪魔に合い儀式の阻止ができなかった。
しかし手順が間違っていたのか、結果として失敗してしまい、その影響かこの周辺一帯に夥しいまでの霊気が蔓延して霊災が集まり、それを止めようと三人でなんとかしようと、呪具まで使ったがダメだった、と。
「――――事情についてはわかったよ。
なんにせよ姉さん、春虎兄さんお疲れ様でした。
とにかく二人が無事でよかった。
この件については父さんに僕から話しておくよ。
この辺りの浄化を含めてやってもらうこともあるし、それに――――」
少し気になることもある。
「なんにせよ、ここにいた霊災はすべて片づけたし、今のところ霊脈も安定しているみたいだ。
あとは呪捜官に任せてもいいんじゃないかな」
「そう……だね」
夏目と春虎兄さんが倒れている女の子に目を向ける。 大連寺鈴鹿だ。
「ああ、そうだね。 少し様子を見てみるよ」
彼女のそばで腰を降ろし、状態を確認する。
多少の裂傷を負っているが、命に別状はなく、息もしっかりしている。
そこで気が付いたのか、反応があり、
「――――っ」
頭を押さえながら辺りを確認していた鈴鹿と目があった。
怯えるような、そう、まるで迷子の子供のような目をしている。
ああ、そうか――――彼女はこの日のために、兄が生き返ると信じて今日まで生きていたのかも知れないな……
過去に土御門家の文献や資料で見たことがあるが、少なくとも今まで泰山府君祭で完全な蘇生を成し遂げた人物は存在しない。
泰山府君祭で本当に死んだ人間が生き返るのか、僕は知らない。
だが――――得体の知れないものに縋る時点で、これはもう呪いの域だな。
――――かわいそうに。
僕にはこの忌まわしい禁呪にまで手を出した彼女の重みを知ることはできない。
できないが、土御門家の人間としてしっかりと彼女に伝えるべきだと、そう思った。
そう考えていたときに、彼女から、
「あんた……一体誰よっ!?
それにさっきの――――」
そう、だな。
土御門家の人間として――――
泰山府君祭に関わった彼女にはできる限り応える必要があるだろう。
もっとも勝手に彼女を哀れんでいる僕個人としてできる範囲でだが。
「僕は 土御門碧。
土御門夏目の弟です」
困惑している彼女の顔を見ながら
さて、どう答えたものかと考えつつ、なるべく不安にさせないために僕は笑顔を作りそう答えた。
「霊災については僕が対処したし、いまのところ霊脈は安定しているので、ひとまずは大丈夫ですよ」
鈴鹿に完結に状況を伝える。
さらに今回の発端となった泰山府君祭について説明する。
兄の死を受け入れられないことから泰山府君祭に手を出してしまった鈴鹿に、彼女が望むカタチでの蘇生ができないことを伝えるためだ。
「どういう経緯で泰山府君祭を行おうとしたのか、姉さんから聞きました。
――――僕には君の気持ちを測ることはできないので、なんと応えたらいいかわかりませんが、今回君が行おうとした泰山府君祭について少しだけ。
泰山府君祭に関わる土御門家の過去の文献や資料を見る限り、結果として完全な形での死者の蘇生は一度も成功例はありません」
「ちょ、碧っ――――」
僕が土御門家が取り仕切る術式のことについて話そうとしたため、姉さんが止めに入ろうとするが構わず続ける。
僕は一瞬目配せをして「ここは任せて」というと姉さんも引いてくれた。
「あの天才と言われた土御門夜光でさえ泰山府君を完全に制御した事実はありません」
鈴鹿が目を見開き愕然とした表情を浮かべる。
「君がどういう経路から泰山府君祭を調べたのかわかりませんが、泰山府君祭で死者を蘇らせることはできません」
僕は非情な事実を鈴鹿に突きつける。
鈴鹿は涙を浮かべた目をしながら
「――――だ、だって、夜光は自分自身を土御門夏目に転生させたって……
あいつの研究資料には――――それであたしは……」
「まず姉さんが夜光の転生体かどうかは分かりません。
噂程度には僕も知っていますが。
仮に噂が本当だったとしてどういうカタチで転生するのか、人格が夜光になるのか、はたまた記憶だけなのか。
少なくとも現時点では姉さん本人はその意識はなさそうという事実のみですね」
一呼吸置いて続ける。
「次にあいつが誰か分かりかねますが、先ほども言ったように泰山府君祭で死者を完全なカタチでの蘇生した事実はありません。
これは文献で確認したことですが、泰山府君祭とは死者蘇生というよりも魂の操作をする呪術のようでした。
魂を操作することにより器となる肉体に移したりすることでの復活というわけです。
式神などの使役に使用していたのでしょう。
ただそれも対象が死んでから短時間で行う必要がある時間制限ありの限定されたモノになります。
詳細については不明ですが、何年も前に亡くなっている君のお兄さんの場合はもう――――」
「そ、そんなことって……
だったら、だったらあたしはどうすればよかったのよ!?」
とんっ!
僕は胸の辺りに僅かな衝撃を覚えた。
「ねえ……あんたならお兄ちゃんを生き返らせることができるんじゃないの?
土御門の人間なんでしょ! 泰山府君祭に詳しいじゃない!!」
鈴鹿が涙で顔を汚しながら、僕の胸を叩いていた。
「ごめん……」
「なんでなのよ……」
鈴鹿が崩れ落ちながら、泣いた。
絶望に打ちひしがれ僕の胸に顔を埋めながら嗚咽をもらした。
そんな彼女の様子を見て何もできない僕は、嗚咽を漏らす彼女の背中をしばらくさすり続けた。
5分10分経っただろうか。 しばらくして落ち着いたみたいだ。
「――――あ……ごめん」
そう言いながら僕から離れ、若干赤くした彼女の顔は充血させた目に涙を浮かべていた。
「大分落ち着いたみたいだね」
「……うん」
「――――1つ質問いいかな?」
「……なに?」
「さっき言ってた研究資料を作ったあいつって?」
「っ――――
大連寺至道……あたしの父親よ。
あいつはお兄ちゃんとあたしの身体で実験を繰り返ししていた。
そしてお兄ちゃんを殺した。
あいつは霊災テロの首謀犯としてもう死んでるけど、あいつが残した研究資料の中に泰山府君祭について書かれた資料を見つけて、その研究資料から、お兄ちゃんを蘇生するための術式を構築したの。
結果は失敗しちゃったけどね」
「――――なるほど。
事情は分かりました。 言いにくいこと聞いてごめん」
「べつに――――」
「それと――――」
「まだ何かあるの?」
「色々と落ち着いたらさ、兄さんの葬儀あげないとな」
鈴鹿が目を見開き、すすり声と共に涙を流した。
しかしそんなすすり声の間に、
「……うん」
と小さな声で返事を返したのを僕は聞いた。
☆
「お疲れ様。 終わったんだね」
背後から姉さんの声が掛かった。
「そうだね。
久しぶりの大規模な魔術行使だったから少し疲れたよ……」
まさか帰ってきてすぐにこんなことになるとは想像していなかったため、苦笑と共に振り返りながら肩を揉む仕草をし応える。
これだけの大源を使った大規模魔術の行使は最近の記憶にはないため肉体的にも精神的にも少々疲れた。
「ふふっ、お疲れ様でした」
姉さんも苦笑しながら労いの言葉を掛けてくれる。
この何気ない言葉だが、なぜか少しだけ疲労が和らいだ気がした。 姉さんマジ天使。
「――――冬児――――春虎君の知り合いが呪捜官を連れてもうじき此処に来るみたいなんだ」
そういえば、と思い出す。
姉さんは対外的には男っていう設定だったっけ……。
今の巫女姿を見ると、どう見ても女の子にしかみえないね。
この状態を誰かに見られるのは確かにマズい。
うん、理解した。
「ああ、そうだね。 気が付かなくてごめん。
呪捜官への説明とか諸々の後処理は僕がやっておくよ。
姉さん、いや春虎兄さんも怪我してるし二人とも家に戻ってて大丈夫だよ。
二人からこれまでの経緯も聞いたしね」
もっとも呪捜官の取り調べに対してまともに応えるつもりは全くといってない。
まだ不明な点だらけではっきりとしたことは分からないが、今回の事件は不審な点が多すぎる。
まず鈴鹿は父親の研究資料を調べて、わざわざこんな地方で泰山府君祭を行ったが、泰山府君祭をするだけならここに来る必要はない。
必要なモノを時前で用意するか、既に在るモノを使えばいいはずだ。
その研究資料になぜ間違った方法が書いてあったのか、この辺りを調べてみる必要がある。
そもそも鈴鹿が暴発したときに、止められる人間がいないというのは有り得ない。
いくら鈴鹿が十二神将とはいえ、戦闘に特化しているとは思えない鈴鹿を止められる人間など陰陽庁にはいくらでもいる。
そいつらはただ寝てただけなのか?
いや、必ず何かあるはずだ。
現時点で言えることは、実行犯は鈴鹿だが、そうなるように仕向けた連中が複数いるということだ。
目的は姉さんへの接触か?
いずれにしてもこの辺りは父さんに報告する必要がありそうだ。
何かよくないことが起こりそうな気がする……。
「ごめんなさい碧。 あとはお願いしますね」
申し訳なさそうに姉さんは応え、春虎兄さんと一緒に雪風に乗って家へ戻っていった。
☆
嵐が去って静寂の闇夜に包まれた。
しばらく夜風に当たりながら視界を埋め尽くす星空を眺めていると麓がざわつき始めた。
どうやら呪捜官達が到着したようだ。
「……ねえ、あんた」
先ほどまですすり泣いていた鈴鹿から声が掛かった。
僕は振り返りながら鈴鹿の顔を見た。 泣いていたためか、目元が少し赤くなっていた。
「ん?」
「鈴鹿」
「?」
「あ、あたしのこと鈴鹿って呼んでもいいわよっ!」
「お、おう……」
いきなりの鈴鹿の発言に僕は戸惑いを隠せなかった。
あ、あれか、ツンデレってやつか?
と、僕が脳内でいろいろと考えていると鈴鹿が
「今度からは名前で呼んでよねっ!」
ずっと君、君言ってたからかな。
どうやら名前で呼んだ方がいいみたいだ。
とりあえずこの件はあまり深く考えないでおこう。
「――――それで、あんたが使ってた術式なんだけど、
十二神将のあたしでさえ知らないんですケドー」
この魔術は現時点で僕だけの特異性だ。
そしてこのことは無闇矢鱈に広めていいことではない。
が、今回はやむを得ないとはいえ、鈴鹿が居たことでその現場を見せてしまった。
「あの術式は僕のオリジナルだから、鈴鹿が知らなくて当然だよ――――
あ、ごめん。 鈴鹿ちゃんの方がよかった?」
回答としては無難だと、思う。
少し話をそらすことで、本件にあまり突っ込んで欲しくないと願いつつも鈴鹿の反応を伺う。
「っ――――ちゃんはやめろ! キモイ! 鈴鹿でいいし!
じゃなくてっ! アンタのそのオリジナル!
普通の陰陽術とは系統がまるで違う気がするんだけど。
腕光ってたし円盤があったし……」
「悪いけどその質問には答えることができないな。
少し特殊な術式だからね」
「まさか禁呪?」
「ノーコメントで」
こんなやりとりがしばし続いたあと、鈴鹿がとんでもないことを言い出した。
これから来る呪捜官、その組織である陰陽庁へ僕の魔術を話すというのだ。
もっとも魔術を十二神将に見られた時点で、こうなることは必然か。
「わかった。 じゃあどうすれば鈴鹿は黙っていてくれるの?」
「そうねぇ……」
少しだけ考える仕草をし、真剣なまなざしを僕に向けた。
「その術式、あたしにも教えて」
やはりこうなるよな。
だが、しかし、僕の回答はこうだ。
「断る」
「なんでよっ!? いいの? アンタの術式バラすわよ!?」
「……この術式を知りたい目的を教えてもらえるかな」
「研究のためよ。 あたしは研究が本業だから。
あたしと同じくらいの年齢で、あたしが知らないことを知っているなんて癪に障るだけよ。
だからアンタのオリジナルを研究するの」
「……まずこの術式は誰もができるものじゃない。
この術式を使うための特別な条件があって初めて使うことができるものなんだ。
さらに術式を起動するだけで命を落とす危険性もある。
それでも鈴鹿はやる?」
「やるわ! もともと死ぬはずだった命よ。
そのくらいの覚悟はできてるわ」
即答か……。
いいだろう、とりあえず魔術に適正があるかみてみるか。
その結果どうなるか見てみよう。
「分かった。 まずはこの術式を鈴鹿が使えるかみるだけみてみよう。
ただ、それは次に会った時になるけどね」
「――――え?」
話し終えると、階段を登ってきた呪捜官達が一斉に鈴鹿と取り囲んだ。
呆けた顔の鈴鹿は特に抵抗もしなかったため、あっさりと拘束された。
そのあと、呪捜官が鈴鹿を伴って下山しようとしたとき、僕は鈴鹿に向かって
「東京にはたまに行くことがあるから、気が向いたら陰陽庁に寄ってみるよ。
日中はそこに居るんだろ?」
僕の言葉に振り向いた鈴鹿は顔を綻ばせ
「っ――――絶対にきなさいよ!
来なかったら――――もぐぞ!!」
笑いながら鈴鹿は応える。
もぐってナニをもぐんですかねぇ……。
「それと、碧。
今度会うときは、僕のコトも名前で呼んでくれよ鈴鹿」
鈴鹿は一瞬驚いた顔をして、
「うん。 必ず来なさいよね碧……」
小さな声で、しかし確かに聞こえた声だった。
その後、鈴鹿は呪捜官に促されその場をあとにする。
泰山府君祭って魔法レベルのすごい術ですよね
そう考えると夜光もチート、チーターや