呪捜官からの取り調べは翌朝まで続いた。
僕からは、姉さんや春虎兄さんから聞いた話を、こちらが不利にならないようにボカして話した上で、魔術の部分は一切話すことなく、霊災や霊脈は勝手に消滅したということにした。
呪捜官も現場に居なかったとはいえ、あれだけの規模のモノは察知していたらしく、霊災や霊脈については発生したという事実のみ答えた。
そのあと呪捜官からはいくつか質問されたが、よくわからないということで話を終わらせた。
そんな内容だったので、話自体は夜のうちに終わっていたが、今回の事件の重要参考人ということで翌朝まで拘束された。
結局、出張から帰ってきた父さんと小父、小母に迎えに着てもらい、ようやく拘束が解かれた。
その足で家に帰るやいなや、今回の事件についての報告をおこなった。
あまり聞かれたくない内容もあるため姉さんと春虎兄さんには席を外してもらっている。
三人とも驚きながら聞いていたが、結果的に被害もでなかったということもあり
「まずは私たちが留守の間、よく対処してくれた」
代表して父さんが言った。
「いえ、僕も東京から戻ってから、たまたま異常に気が付いて結果的に間に合っただけですから。
姉さんと春虎兄さんが時間を稼いでくれたおかげです。
ですが、やむを得ないとはいえ魔術を大連寺鈴鹿に見られてしまいました。
一応口止めはしましたが、どこかで漏れるかも知れません」
「そうか――――」
僕は一息つき
「それよりも、今回の事件は不審な点が多すぎます。
まず今回の実行犯である大連寺鈴鹿。
彼女は父親である大連寺至道の研究資料をみて泰山府君祭を執り行ったそうです。
その研究資料には土御門の霊気や祭壇を、泰山府君祭に必要なモノとして書かれてあったそうですが、本来、泰山府君祭にはそんなものは必要としない、自分で必要なモノを用意すれば済みます。
研究資料を書いた大連寺至道はなぜそのような記述をしたのか……。
次に実行犯の大連寺鈴鹿は研究が本職で戦闘が得意なタイプの陰陽師ではありませんでした。
持ち出した兵器は装甲鬼兵・土蜘蛛1体のみ。
十二神将とはいえ、研究が本職の陰陽師一人を陰陽庁が止められないハズがありません。
それこそ噂に聞く十二神将の木暮という方などを出せばいいのですから。
これは陰陽庁が意図的に彼女を見逃したとしか考えられないです。
これら二つの事から、研究資料を作った大連寺至道、大連寺鈴鹿を見逃した陰陽庁、しかも絶妙なさじ加減で呪捜官に指示を出せる人間、それなりの人物が繋がっていてある目的のために今回の事件を起こしたと僕は考えますが、父さん、小父さん、小母さんの意見を聞きたいです」
三人とも驚いた表情をしていたが、
それまで静かに聞いていた小父さんが僕に質問してきた。
「……私たちの意見を言う前に碧に聞きたい。
最後の”ある目的”を碧はどう考えている?」
「小父さんが考えている通りです。
姉さんへの接触が目的でしょう。
父さんや小父さん、小母さんが不在、姉さんの帰郷――――。
このタイミングで事件を起こし、実行犯と姉さんの接触、しかも泰山府君祭というおまけ付き。
姉さんを巻き込み当事者に仕立て上げて、事件は収束。
呪捜官が姉さんを確保、というのが陰陽庁と大連寺至道のシナリオといったところでしょうか。
土御門夜光の生まれ変わりといわれている姉さんを、今回の主謀者が見ておきたかったのと、あわよくばそのまま夜光への覚醒を狙ったのでしょうか。
何れにしてもその思惑は外れたのですが」
僕の意見を述べる。
一通り話し終えると、父さんが口を開いた。
「現時点では全て推測の域を越えない。
――――だが、留意する必要はあるようだ」
三人は一瞬目配せをして、父が話を切り出してきた。
「夜光信者、というものは知っているな?」
夜光信者……夜光復活を目論む狂信者の集団だったな。
大連寺至道が起こした霊災テロもこいつらが主謀者だったはずだ。
「ええ」
「その夜光信者の組織を双角会という」
「双角会……ですか」
聞いたことのない名前だな。
少なくとも一般には知られていない名前のようだ。
「そうだ。
その双角会だが、先の霊災テロを起こした主犯、大連寺至道を筆頭に彼らが動いていた。
霊災テロでは多くを逮捕したが、今現在も双角会は存在しており――――未だ陰陽庁に数多くいると見られている」
なん……だと?
国家機関である陰陽庁にテロリストが所属している?
「それは一体……」
「私達も調べてはいるが、誰が双角会のメンバーなのかなどはわかってはいない。
だが、しかし、陰陽庁内で相当な権限を持つ人物も双角会のメンバーであることは間違いない」
「国を守る機関がテロリストの巣窟?
はは……笑えない冗談だ――――っ」
これは一体何の冗談だ。
表では霊災から国、国民を守っているが、裏では霊災テロを起こし多数の死傷者を出す。
行動に一貫性がない。
こいつらは一体何がしたいんだ。
夜光信者の目的、夜光の覚醒と、この矛盾した裏表。
夜光の覚醒だけならこんなことをする必要があるのか?
――――いや、まてまて、夜光信者の目的は夜光の覚醒ではない。
夜光信者は夜光の考えに酔狂しているのだ。
覚醒は過程であって彼らの目的ではない。
では、夜光の目的とは……夜光は生前何をした?
陰陽道、密教、修験道、神道……日本における呪術の総括、独自の術式による新たな呪術体系の確立。
軍の要請により夜光はこれらをやり遂げ、帝式陰陽術を作り上げた。
そうだ、もともと現在の陰陽術は太平洋戦争前の帝国陸軍上層部からの意志によりできたものだ。
ならばその目的は何か?
考えるまでもないか。
「つまり双角会は陰陽術を使って、この国を再び軍国化させたい、と」
夜光の作り上げた強力な呪術体系を用い、当時の帝国にはできなかったことを現代で成し遂げようというモノ。
その強力な陰陽術を使用しての霊災テロ。
これはその布石か。
一呼吸を置き、父さんが話し始めた。
「……そこまでは分からん。 それも双角会の選択肢の一つなのかもしれない。
だが双角会は夜光とその夜光が作った陰陽術という武器を使って何かをしようとしている」
「今回、夜光の転生体といわれている姉さんに接触したのもそのためということですか」
まったく迷惑な話だ。
そんなものやりたいなら自分たちだけで成し遂げてみろって話だ。
「……最初に言ったように、現時点では推測に過ぎず断定はできない。
そのため、こちらから表だって動くことはできない」
確かにそうだ。
想像の域を出ない以上、被害届など出せるはずもない。
いや、そもそも陰陽術絡みの被害など警察では対処できない。
かといって、双角会の息の掛かった陰陽庁など当てに出来る筈もなく。
つまるところ、こちらから動くことができないのだ。
「――――だが」
「ん?」と、思慮のために下に向けていた顔を上げ、父の顔を見る。
視線はこちらをまっすぐに見ており、何か嫌な予感がした。
「だが、保険は掛けておかねばなるまい。
碧、あと半年で中学は卒業だが、卒業後は、夏目の通う陰陽塾へ入塾してみてはどうだ?」
「っ――――ああ、やっぱりこうなるんですね……」
「単純な戦闘ならお前に勝る人物もいないだろうし、夏目が近くにいる方が守りやすいだろう?
それに今までお前から進路について相談されたことはなかったが、進路について決めかねていたからだろう?」
「ええ、まあ、それはそうなんですが」
父さんの言うとおり、僕は進路を決めかねていた。
陰陽塾、普通の高校、はたまた中卒……。
土御門家としては陰陽塾以外の選択肢はないのだろう。
だが僕の陰陽術は既に一定のレベルに達し、国家資格・陰陽2種も取得している。
そのため父さんも今まで何も言うことは無かったし、陰陽塾に行く意味はあまりなかったのだ。
そんな父さんが、今回の事件を切っ掛けに陰陽塾を薦めてきた。
確かに姉さんが近くにいれば守りやすくもあるが……時間というモノは有限である。
本当にこれでいいのか?他にやれることがあるのではないか?と、僕がうんうん唸っていると、今まで静かに成り行きを見守っていた小母さんと小父さんから声が掛かった。
「いいじゃない。 陰陽塾。
碧は確かに私たちに引けを取らない――――ううん、それ以上の術師だわ。
でも、同じ年代の子たちと陰陽術について話すことも勉強になるわよ。
とりあえず入塾してからやりたいことを考えてみるのもいいんじゃない?」
「かあさんの言うとおりだ。
碧は背伸びが過ぎることがある。
今回のこともそうだ。
俺たちも助かってはいるが、年相応に過ごすことは大事だ。
碧が将来何をするかはわからない。
だが、陰陽塾は名家が多い。
見返りを求めるわけではないが、交友関係を作っておくことにこしたことはないだろう」
確かに、陰陽塾に通ったからといって将来が決まるわけではない。
僕自身将来何がしたいのかを探すために陰陽塾に通うのもいいのかもしれないな。
「そう、ですね。
――――僕自身、まだ何をやりたいか決まっているわけではありませんが。
わかりました。 陰陽塾へ入塾します」
僕の進路が決まり、三人とも喜んでくれた。
そんな三人をみて、僕も自然と笑顔が漏れた。
いかがでしたか?
とりあえずここまでがプロローグ的なお話です。
原作では鈴鹿と京子の父ちゃんたちが何を考えているのか明らかにされていませんが、このお話では独自解釈で進んでいきます。
今後は舞台を陰陽塾へと移動します。