亡国機業の妖精   作:妖精騎士コスプレをさせられるランスロ

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原作開始前
プロローグ


 美しいものを見た。無邪気な笑顔。屈託のない、無垢な好意。

 

「こんにちは! あなたは……妖精さん? 妖精さんね!」

 

 そこで初めて"私"という存在が生まれたのだろう。肉体の生理的欲求に従い処理を行う生体CPUのようであった脳髄に、個が宿った。彼女の視界に色彩が与えられ風景というものを知識として出なく実感として認識する。

 彼女は美しい湖の畔にいた。来たいと思って来たわけではない。必要だからここに退避しただけであった。

 

「……妖精」

 

 妖精と呼ばれた個は目の前ではしゃぐ少女の言葉をただ反芻した。そして彼女は期待というものに初めて己の意思で応えた。

 

「そう、私は妖精」

「やっぱりそうなのね! お名前は? 私はセシリアって言うの!」

「セシリア、いい名前だね。私に名前は無いんだ。私はただの妖精」

「なら私がつけてあげます! こんなにキレイな湖の妖精さんだから……ミアなんてどう?」

「ミア……ミアか……いい名前だね。ありがとうセシリア」

 

 ミアとなった彼女は知らないが、その湖はグラスミアと呼ばれていた。微笑み、セシリアの頬を優しく撫でる。強化されている聴覚が、存在し得ない異音を捉える。ミアがこの湖の近くにいた原因が迫ってきている。

 

「セシリア、幸せに生きて。私に名前をくれた貴女の幸せを私はいつまでも願っているよ」

「そんなもうお別れなの?」

 

 セシリアが手を引くが、あまりの膂力の差に微動だにしない。しかしそれも妖精だからとセシリアは納得し手を離そうとした。

 

「別れがあるから出会いもあるものだよ」

 

 その手をミアは優しく握り、手の甲にキスをした。顔を真っ赤にしながら大喜びするセシリアに見送られながら湖の中に歩み潜っていく。

 セシリアがいつまでも手を振っているところからだいぶ離れ、死角となる位置の辺りに、ずぶ濡れになったミアが姿を表した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、逃げないのかしら」

 

 そこへ空から虫の羽音のように微かなスラスター音を出しながら、景色に溶けていた人型の物体が着地する。

 全身装甲を採用したアメリカの第二世代型特殊IS『ナイト・ラプター』を身に纏った女が演技掛かった怪訝な声をあげる。

 

「害意は無いのは分かる。わざわざ()が外に退避する時間を生んでいたことも推察できる。要求はなに?」

「フフ、物分かりがいいのは生意気だけれど助かるわ。私は貴女を勧誘しにきたの。どう? 実験動物として一生を終えたいなら話は別だけれど」

「……なら、今来たのは正解だったよ。僕の頃だったら拒否してたけど私は実験動物になる気も、象徴になる気もない。ただ美しい世界を見てみたい」

「なら一旦施設に戻ることね。招待状はすぐに届くわよ。仲間になったら、私の名前も教えてあげる」

「わかった」

 

 水の滴る、セシリアが妖精の羽衣と勘違いした実験着を絞っていると、目の前のISが透けていき完全に姿を消した。アレはアメリカが極秘裏に開発した完全ステルス型ISで条約に完全に引っかかる代物故に強奪された事も秘匿されている。

 そこへ今度はヘリが飛来し銃火器で武装した兵士に護衛されながら白衣の男が飛び降りてきた。

 

「ああよかった無事で! よく逃げ延びてくれた!」

 

 大層心配している様子ではあるが、心配しているのはミアでは無く実験動物としての彼女がと言う事だ。すぐさま彼女は保護され、近くのヘリ発着場からさらに車両での移動を経て、人の立ち入らない有り体に言えば秘密基地の中へとやってきていた。

 ミアの頭の中にある記録とは全くの違う場所だ。覚えている限りでは襲撃を受けた影響で場所を移動させたのだ。

 ミアに()()が無いことを一日の検査で把握したのち、ミアは格納庫のような場所に案内をされた。

 

「今回の襲撃から鑑みて今回こそ無事だからよかったものの、"王"に自衛能力を獲得してもらうことになった」

「王?」

「貴女のことですよ」

「僕が?」

 

 覚えている限りでは、丁寧な扱いを受けていたとはいえ実験動物だと思っていたミアだが、どうやら"王"であるらしい。案内された先にあったのは、先日の謎の人物が身に纏っていた物と同じISだった。ステルス性のため全身装甲を採用していたアレとは異なり騎士の甲冑を思わせる形状で、研ぎ澄ました鋼のような銀色に青を足した代物だった。

 

「……」

「さ、これを装着して」

 

 促されるままに装着していく。目線が高くなり視界が三百六十度全方位に広がる。

 

最適化(パーソナライズ)を行う、しばらくそのまま待っていて」

 

 視界内にISから武装の情報が次々と表示されていくのを流し見ていく。ハイパーセンサーで感知した音が雑多に聞こえるのを、ISが最適化の中で必要な音、不要な音を振り分けていく。

 

「───例の目撃者と思わしき奴らは?」

 

 ハイパーセンサーの感度が制限されていない為格納庫の先の部屋の声まで聞こえてくる。

 

「現在列車で移動中です。手筈通り列車には車掌を含め我々の手の者のみです」

「よろしい。運が悪かったな彼らも、休暇の旅先でアレに会ってしまうとは。()()()()()()()()()()()

 

 思案は一瞬。行動もまた刹那だ。

 突然ブースターが噴かされ、固定機具が異常を検知しブザーを鳴らす。あくまで転倒防止の為の固定であり移動を行えないようにする拘束具では無い為容易く引きちぎれ、勢いのまま格納庫天井に飛び、衝突する。

 

「な、何が!?」

 

 研究員や警備兵たちがあっけに取られる。こんなことは予想外だ。天井に獣のように張り付いたアレはどれだけの危険な実験でもなんなら逃走のリスクさえあった武器の使用訓練などでもただ従順に従ってきた存在なのだから。

 

「と、止めろ!」

 

 機械操作で外部からISを強制停止させようとするが、IS側が拒否。それどころかその通信経路を逆探知しハッキング、施設情報を引き抜き、地上へ抜け出す最短経路と、オルコット一家の暗殺計画情報を入手する。

 兵士たちの銃撃を弾きながら再加速、閉じられた隔壁をレーザーブレード"エクスカリバー"で乱雑に溶断し蹴り飛ばせば先で抑えようと集結していた警備隊の面々を溶けた隔壁だったものが薙ぎ倒し道を開ける。

 それでも閉まり続ける複数の隔壁にいちいち切り裂くのをやめ速度を維持するためにレーザーブレードを二つ発動させ最小限を貫くように出口へ飛ぶ。

 ISが解析した施設構造はまるで円卓のような形状をしていた。それを真っ二つにするように出口を突き抜け空へと飛び出した。

 そのまま全速力で目的の列車の元へと急行する。しかしあまりにも派手な動きは近隣の軍事基地に国籍不明ISとして探知されることとなっていた。

 

「国籍不明ISへ、そちらは英国の領空を侵犯している。直ちに噴進装置を止め停止せよ」

 

 緊急発進(スクランブル)して行手を阻むのは英国が開発した第二世代型ISタイフーン・セイバー二機。

 

「警告する。邪魔をするなら墜とす」

「……舐めるなよッ!」

 

 追走し二機が互いの隙を埋めるように放つガトリング掃射を躱しながら搭載空間より盾を召喚し攻撃を弾きながら一気に距離を詰めると防御を蹴り破りを胸部をレーザーブレードで串刺しにする。絶対防御が発動し本体は無傷、エネルギー関連には余裕があるものの刺し貫かれた際に背面スラスターを損壊し追撃は不可能となった。そこへ突っ込んできたもう一機のブレードと盾とで押し合いとなる。

 スラスター出力で負けていることに気付いたタイフーンは回転しエネルギーを横に逸らすことでなんとか競り合いの形を保ち、そこへスラスター損傷した方が諸共と言わんばかりに大型榴弾砲を発射。空に爆炎の花が咲く。

 爆炎の中から脱したタイフーンを追うように直撃したはずのミアのISが飛び出してくる。それは先程の白銀と青色から色を変え、腰に二つの大型化したスラスターを備え、盾と鞘が融合したような非固定武装(アンロックユニット)を備えた姿へと形を変えていた。

 

二次移行(セカンドシフト)……!? 違うまさか……! 一次移(ファーストシフ)───」

 

 先ほどよりさらに加速したミアの一撃によりタイフーンは撃墜され、追撃を仕掛けるでも無くそのまま飛び去っていった。

 

『最適化完了。行われた戦闘を考慮に入れ、武装を統合しました』

「ありがとう、使いやすかった。もう少し私の事を手伝って」

 

 簡素なシステムメッセージに礼を言いながらミアは今まさに橋を渡っている列車を発見し、まさにそのタイミングで橋が爆破された。破損箇所はごく少ないが、自重と列車による荷重に耐えることができず破綻する。谷底に向け落下を開始する列車に加速しハイパーセンサーが2両にわたって三つに分かれた反応のうちで最も小さい者、つまりセシリアの元へ向かう。時間がなくぶち破れば頭から血を流して気絶し、落下により宙に浮いているセシリアを発見した。もう時間がない。破ってきた場所からセシリアを抱えて退避する。

 ハイパーセンサーが自身の危機に瀕してなお娘を案じる両親の声を届け奥歯が砕けそうなほど噛み締める。

 脱出した下で谷の底へ列車が真っ逆さまに落ちていく。セシリアを近くの安全な河原に寝かせ、生存を願いながらグシャグチャになった車両へ入り込んでいく。ハイパーセンサーは入るまでも無くその生存はあり得ないと告げているが。

 川に落下し徐々に浸水する車内で、セシリアの両親を見つけた。明らかな即死だった。せめて川底に沈まないよう二人を連れ出し、セシリアの近くの河原に寝かせた。

 

「身構えないで。その子の安全は保証するわ」

「……キミか」

 

 ハイパーセンサーを装備しているにもかかわらず、いや、装備しているからこそ発見できなかったのか、例のステルスISがそこに立っていた。滔々とそれは語り出す。

 

「一般人に手を出すようなら、円卓ももう完全に終わりね」

「円卓?」

「英国の安寧を守る為結成された、我々よりも古から存在する騎士たちの結社……だった代物の残骸ね。"騎士道に殉じ人の道を外す事なかれ"なんてもう何処にも」

「キミ達は違うとでも?」

「我々は影の存在。争いの火種を消す為ならなんでもやる。そんな組織よ。円卓は過ちを犯した、人ではない者を作ってしまった」

「それはつまり私は殺処分って所?」

「産まれた者に罪はなく、産んだ者に罪ありし。アーサー王をこの混迷の時代に蘇らせるなんて狂人の発想だけならまだしも実行に移してしまった。そしてそれによって産まれたあなたを野放しにはできない。我々の元に来れば完全とは言わないけれど自由は保証するわよ。先例はもうあるもの。それに」

 

 続く言葉に、殺気があたりに充満し、鳥や獣達が逃げ出す。

 

「円卓がある限りその子は生きられないわよ」

 

 単純な事だ。円卓が行おうとしている目撃者の口封じは完遂されていない。セシリアが元の生活に戻るには円卓が存在していてはいけないのだ。

 

「……分かった。なら手伝うよ。セシリアが生きられないなら私が産まれた意味がない」

「交渉成立ね、ようこそ亡国機業(ファントム・タスク)へ。貴女のことどう呼べばいいかしら」

 

 ISがインターネット上に検索をかける。円卓を滅ぼすという概念からヒットした名前を口にする。セシリアから貰った名前を使いたくはなかったのだ。

 

「ランスロット」

「……いいわね。皮肉が効いてるわ。よろしくランスロット。私はスコール」

 

 ISが機体名から武装名まで何から何までを書き換えていく。そうして二人は、横たわるセシリアを残してその場を去った。問題なくスコールの手の者が救助を行い、セシリアは一人生き残った。

 そしてその数日間の間で、英国の暗部に潜んでいた秘密結社は終末を迎えることとなる。

 

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