亡国機業の妖精 作:妖精騎士コスプレをさせられるランスロ
「……やってくれたわねあの無能」
実働エージェント達と連絡を取ったスコールは携帯端末を握り潰さんばかりに締め上げた。
「馬鹿女め、あんなのを後任に据えた馬鹿共もそうだけれど状況の俯瞰もできずに目先の利益に囚われてるんじゃ無いわよ」
世界各国で暗躍する亡国機業上層部にも人間ゆえ当然ながら派閥争いがある。今回やらかしたのはユーロ派閥の前ドイツ担当の後任者である。
今回行われた織斑一夏の誘拐は最高機密で実行されたものだ。亡国機業内部でも一定以上の権限を持つ者にしか内容を知ることができない。しかし権限が低くても、この
それを理解していない馬鹿がいるなど流石にスコールも想定外だった。前任者と違いドイツ軍への影響力の低い後任者は、ドイツ軍への貸しとして、織斑一夏誘拐の情報を亡国機業の持つ監視網を用いて、小賢しいアドバイスとともに伝えたのだ。それは簡単。"織斑千冬に恩を売ること"
結果としてドイツ軍とのある程度の小競り合いを想定していた危険度は世界最強のIS使いによる襲撃という世界最大級の代物へ変貌した。不要であったはずの偽装工作も行い今回の謀略の尻尾を掴ませないようにしなければならない。
世界最強を手に入れる為の大きな作戦は織斑千冬を恨んだ人物の誘拐事件にスケールを大きく下げる事となる。
「一夏は何処にいる!!」
「……さあ? 僕は金で雇われただけだからね。どうなってる事やら」
「ISに乗るなら立ち塞がるのがいかに無謀か分かっているだろう。そこを退け!」
第一世代型IS暮桜、世界で唯一の二次移行と
それを纏う世界最強・織斑千冬の様子は壮絶極まる。
形容するなら鬼か、悪魔か、羅刹か、明王か。どれも人の枠に置かれたものでは無い。
しかし焦燥と怒りに塗れた千冬の内にある戦士としての部分が、ランスロットを警戒するに値すると判断したのだ。相手もまた
戦闘開始の合図など無い。きっかけは何か、ハイパーセンサーで捉えた遥か遠くの車のクラクションの音だったかもしれない。
互いが
「知ってるよ。零落白夜。エネルギー系統の物を全て無効化するビーム兵器」
「知った上で防がれたのは初めてだ。貴様、改めて聞くが何者だ?」
鍔迫り合いに爆裂するような火花が飛び散る。
零落白夜はエネルギーの一切を無効化する代物でありながらそれ自体が雪片を覆うビーム兵器というインチキな代物だ。エネルギー防御は悉くが突破され物理防御はビームに焼き切られる。自身のシールドバリアを消費するデメリットがあり、競技用としては振る瞬間のみ発動するなどして節約する必要があるものの、リミッターを外せば無いに等しいデメリットである。
今のように本来ならあり得ない鍔迫り合いとなっているのは実体盾とレーザーブレードの複合武器になっているアロンダイトの二刀流だからこそ起こせた代物だ。実体剣としても機能する超大型発振器から放たれる高出力のレーザーブレード二つで零落白夜を相殺し、実体部分を盾で受け止める。近接格闘においてこれを為せる人物はモンド・グロッソ選手には千冬本人を除いて居ない。世界的に遠隔攻撃による圧殺が研究されるようになったのは誰も接近戦で千冬に勝てないからだ。
「さあ? 僕はその辺の金で雇われたIS乗りだよ」
「その辺にこんなのが居てたまるか」
データとして入手できる工業製品としての暮桜のスペックであれば推力の観点からランスロットの圧勝であるが、二次移行を果たしている以上カタログスペックなど役に立たない。千冬が無駄にシールドエネルギーを消費することを嫌って力任せに雪片を振り抜きランスロットが吹き飛ばされる。
ランスロットが態勢を整えるより早く瞬時加速で迫る。錐揉み回転するままランスロットも瞬時加速を発動、推力にものを言わせ錐揉みを脱するが向かう先は地面だ。体は千冬の方を向きながらハイパーセンサーのにより激突する寸前に更に瞬時加速。スラスターが二つ程度が常識のこの時代、後の時代では
そしてランスロットが出来ることなら当然千冬にもできる。二つの機体が地を這うように飛び、衝撃波で近隣の民家や駐車された車の窓ガラスが粉砕される。
「もう一度聞く、何者だ?」
「だからその辺のIS乗り」
「そうかなら、後で聞くとしよう」
地面に片足が擦った所を体を立て地面を踏み締め急減速、突っ込んできた千冬とまたも真っ向から衝突する。実体剣としての雪片が零落白夜を無効化しながらもアロンダイトの盾に切り込みをいれる。互いにISがもつ慣性制御を上回る負荷に骨が軋み機体がギギギと金属の悲鳴を上げた。飛び散るレーザーブレードの火花が近くの草に火をつけ、推力勝負と言わんばかりに全力稼働するスラスターから発生する暴風が小物を吹き飛ばし若木をへし折る。
ここで状況の差が出る。戦士として焦りは完全に律していたとはいえ千冬は一刻も早く一夏を助けなければならない。ゆえにスラスターを吹かしながら瞬時加速で無理に押し込んだ。その時ランスロットはワンテンポ遅れ瞬時加速で、引いた。押し合いから綱引きに状況を反転させた。
抗力が抜けて態勢を僅かに崩した千冬に左腕のアロンダイトが叩き込まれる。装甲を貫き絶対防御が発動する。しかしリミッターを解除している為一度絶対防御が発動した程度ではISは機能停止に陥ることはない。
千冬もまた攻撃を受け吐血しながら非固定部位の左翼スラスターを瞬時加速で
片方のアロンダイトだけでは零落白夜を無効化しきれない。防御を破られランスロットはそのまま腰部のスラスターを含め袈裟斬りにされる。零落白夜の効果で絶対防御が発動。実体剣を兼ねる発振器で抵抗を試みるがすでに勝敗は決していた。千冬はランスロットを押し倒すと地面に埋没するほどの震脚を繰り出し、トドメに零落白夜で滅多刺しにしたのだ。
リミッターを解除したISは一度絶対防御が発動した程度でエネルギー不足に陥る事はない。ならばエネルギー不足に陥るまで絶対防御を発動させればいい。千冬の単一使用能力はそれができる代物だった。
側から見れば怨恨による殺人事件の真っ只中のような状態だが、無力化せねば一夏の元へ向かえないという冷静な判断に基づいての行動である。やがてエネルギーが完全に尽きるとアーマーやバイザーが量子化し、千冬はその手を止めた。
「後で話がある。そこで大人しくしていろ」
バイザーが消え絶世の美貌があらわになっても一夏の事で頭が一杯になっている千冬は気に止めるのともなく、ISスーツから露出した陶器のような美しい脚を踏みつけた。
「お誘いなら私としては受けたい所だけれど……ッッ!」
手加減しつつも力を込め、ボキリ、と話も聞かず両脚の骨を折った千冬はバランスを危うくしながらも一夏の元へ飛んでいった。
それから少しの間静寂が辺りを支配した。地面から無限に広がるような空を眺めながらランスロットは顔を歪めた。両足の激痛など取るに足らない。強敵との戦いの高揚感は満ち足りた物だった。
「悔しいな」
それは初めて感じた悔しさと言う物だった。
「よう、泣いてんのか?」
そこへぬっと全身装甲の異形的な要素のあるISが現れた。オータムの駆るアメリカ製第二世代型IS、アラクネだ。
「雨だろう?」
「へえ、晴天なんだけれどな。
「ここはドイツだよ」
「ドイツの言い回しはしらねぇなぁ。まあいいや、派手にやったもんだぜ」
ハイパーセンサー越しに周囲の大被害を見てため息を漏らす。窓ガラスはことごとく木っ端微塵、地面は抉れ火事まで起きている。だがオータムには鎮火してやる義理もないので放置だ。
複数のサブアームを器用に使いながら適当な残骸で当て木をして応急処置を手早く終えると、サブアームを全利用してランスロットに楽な姿勢を取らせシールドバリアで保護し、その場を離脱する。
「どうしてオータムが?」
「スコールからの緊急命令だよ。オーストリアで仕事してたってのに人使いが荒いぜ。こんど夜伽でもしてもらわねえと割りに合わねえ。因みにアイツの手下どもは皆逃げたぜ」
「それは良かった。夜伽だけど、僕がやろうか?」
「お前が? ハッ、顔立ちは良いが色々足らねえなぁ! こことか、ここがな」
尻拭いをさせてしまったことに対する補填のつもりだったが、鼻で笑われたうえ胸と尻のところに弧を描くようなジェスチャーをされたので流石にランスロットもイラッと来たが無いものはないので少し膨れ面をしながら反論しない事にした。
第二回モンド・グロッソは部門ごとのヴァルキリーを誕生させながらも、総合部門は織斑千冬の棄権及び相手選手もそれを不服として優勝を辞退。ブリュンヒルデの称号を持つ者が生まれない事態となり、千冬は織斑一夏誘拐の情報および救出の際に出た被害をドイツ軍が肩代わりしたことによる対価という形でドイツに一年間出向する事となった。