亡国機業の妖精   作:妖精騎士コスプレをさせられるランスロ

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スクラップブック

 亡国機業には水没図書(ドロウニングオブライブラリ)と呼ばれる情報集積所が存在する。なんて事はない、地球全体を覆うインターネットのチョークポイントを抑える事でネット上に流れるありとあらゆる情報を保存しているだけの場所で、亡国機業の人間なら誰でもアクセスができる程度の設備だ。

 ランスロットがそこに繋がる端末にでかい印刷機を繋げて何かを刷っているのを水没図書のより上位権限に用があったスコールが見つけた。

 声を掛けようとして、すでに終えた印刷物の内容を見て一瞬躊躇う。

 見ているのは俗に言うISグラビアと呼ばれる代物だった。英国のタイフーン・セイバー(胴体部装甲なし*1)を身に纏った、金髪でまだ顔にあどけなさが残りつつも無駄のない引き締まったナイスバディな少女の写真だ。

 金髪でナイスバディのスコールは悩んだ。特にオータムという(レズビアン)が居たので悩んだ。上のやらかしとはいえ尻拭いで大怪我をランスロットにさせてしまい、更には気不味い感じになるのは良くないとスコールは思っていた。

 

「あ、スコール! 見てくれ綺麗に刷れているだろう?」

 

 と、スコールの悩みは全くの見当違いだったらしく嬉々としてその写真をスコールに見せびらかしてくる。そしてスコールも近くで見てようやく合点がいった。

 

「あら、この子……あの時のセシリア?」

「そうだとも、ただでさえ美しかったのにこんなにまでなってしまって!」

「え、ええそうね美人ね」

 

 トロン、と擬音が聞こえてきそうな程恍惚とした表情をているランスロットに若干引きつつ相槌を打つとクワリとランスロットが見開いた。

 

「なのにこの雑誌は何もわかっていない」

「それは?」

「オータムが暇つぶしにと差し入れてくれた」

 

 いつの間にか手に持っていたのは恐らく英国で発行されているIS雑誌で、見た限りは代表候補生特集のようであるオータムも別に意図して選んだわけではなくその時の最新号だったのだろう。よく見れば付箋が何箇所か貼ってあるが、ランスロットが開いた片隅にさっき見せられた写真の小さい版が載っていた。

 とうやらこれが不満だったらしくネットから原寸大データを引き出してきたらしい。亡国機業は犯罪も厭わない秘密結社であるがあまりにも微妙な犯罪であった。

 

「セシリアなら表紙に十ページ以上は特集を組んで然るべき」

「そ、そうね?」

 

 他にも付箋の貼ってある場所には訓練風景に紛れるセシリアやセシリアの簡易的なプロフィールなどが載っていてそれを見せてくるランスロットに若干スコールは頭が痛くなりそうだった。

 まさかスコールも数年後本当にセシリアが表紙と数十ページ以上の特集を組まれ、更に英国でのIS強奪作戦に影響が出るとは夢にも思わなかっただろう。

 

「そこまでご執心なら直接会えばいいじゃない。それくらい設定してあげるわよ?」

 

 ランスロットは雑誌を閉じて首を横に振った。

 

「セシリアに私からは会えない、会うことが怖い。セシリアは僕を私にしてくれた。私にとって最も尊くて優しい光。でもセシリアは()()()()()()()()()()()()()()。それを糾弾されることよりも、セシリアに嫌われることを恐れている。なんて醜く小賢しい」

 

 震える指を握りしめる。

 

「だから彼女には醜い今の私ではなく、セシリアが湖で出会った妖精の私だけを覚えていて欲しいんだ」

 

 オータムがこの場にいたら「潔癖症の童貞かよ」と言いそうねなどと思いつつ、ランスロットもまたコミュニケーション能力に癖があるのだなとスコールは頭の中でランスロットの評価に変更を加えた。エムと違い普段は社交的だが、特定人物のことに関してはおかしくなる点は一緒であると。

 シリアスな雰囲気を出しているが金髪ナイスバディのISグラビアを持っているので中々絵面が酷い。スコールは思わず頭を押さえた。

 

「心配しないで、実働部隊として仕事することが嫌なわけじゃ無い」

 

 スコールの所作の意味を誤解したのか、スッと思考を切り替えランスロットは微笑みを浮かべる。手が暇なのか脇に置かれた段ボール箱からなんか枠みたいなのを取り出して組み立て始めた。

 

「それにスコール、君にはとても感謝しているよ。君がいなかったらそれこそセシリアの今はなかったんだ」

 

 実際スコールが居なければ情報面でセシリアを保護できなかっただろう。武力はあっても役に立たない領域の話だ。

 

「あの件だけで僕は君を全幅に信頼している。スコールは少し前の僕の怪我をしているようだけれど気にしないでくれ。僕を使い潰すつもりで扱って構わない、セシリアに害が及ばない限り私はそれに応えるよ」

「……ええ、分かったわ。でも貴女を使い潰すつもりは毛頭ないわよ。貴女は誰にもできない世界最強に一矢報いることのできる貴重な人材。ISの修理に関しても我々の技術全てを用いて全面的に貴女を支援する事が決定している」

 

 ランスロットの傷は全治したが予定より早く治癒した為*2破損したISはまだ修理を行っていない。IS自体の自己修復機能はあるものの破損部位が多すぎた。滅多刺しにされた穴が塞がった程度で袈裟斬りにされた腰部ブースター、破損した両アロンダイトは全くの手付かずだ。

 またこれは亡国機業内での派閥的理由もあった。実働部隊のトップであるスコールは無派閥なのだが、出身国がアメリカの為多くの人物から北米派閥に属すると見られている。その子飼いのランスロットやエムも同じように扱われている。

 そして破損したアロンダイトを代替するほどの高品質なレーザー技術を保有しているのは英国を含めるユーロ派閥なのである。今回のやらかしはユーロ派閥のドイツの馬鹿なのだがスコールが北米派閥と見られているせいで無駄な組織内政治をする羽目になり即時修理計画を立てるはずがようやく修理計画に着手といったところであった。

 

「それはとてもありがたい事だね」

 

 ランスロットはそんな苦労を知ってか知らずか組立ったものは額縁だった。セシリアの写真を額縁に入れる。

 

「せっかくなのだから計画の場に口を出してきなさい。使うのは貴女なんだから貴女の使いやすさを優先するべきよ。ヘルムに伝えておくから」

 

 スコールが端末をいじってランスロットの端末に会議時間や場所の情報が送られる。送られてきたのを確認して端末を振って了解の合図をした。

 

「ヘルムって誰?」

「ユーロ派閥の技術エージェントよ。仲良くね、あと額縁作るなら自室でやりなさい」

「それもそうだね。ありがとうスコール、ご機嫌よう」

 

 小脇に印刷機と額縁を抱えながらスカートの裾を摘んで別れの挨拶をして自分の部屋に帰っていった。それを見送りため息を吐くと、スコールも水没図書へきた本来の目的の為、より権限の必要な部屋へと移動していった。

 これ以降ランスロットはセシリアが雑誌に登場するたびに切り抜きを行いスクラップ帳を作るようになった。

 

 

 

 

 

「ランスロット様〜!」

「……どうしたのかしらそれ。たらし込んだの?」

「僕はいつも通りにしていただけなんだけれど」

「たらし込んでるじゃない」

 

 後日ISの修理計画での話し合いに遅れて参上したスコールが見たのはランスロットに陥落させられた技術エージェント・ヘルムの姿だった。

*1
軍用ISを競技用に転用する場合ダメージ判定の公平化と見栄えの為胴体装甲を外すことが多い

*2
両足大腿骨遠位骨折。全治一年が一ヶ月で治った

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