亡国機業の妖精 作:妖精騎士コスプレをさせられるランスロ
「離れるなよ〜」
「止めろ、子守か何かのつもりか」
「わー、巻紙お母さん僕アイスが食べたいな」
「誰がお母さんじゃ」
「お母さん……フッ」
「おいコラなんだその笑いは」
「レムちゃんもお母さんと喧嘩しちゃダメだよ」
「待て、まさか私が一番下扱いか?」
旅客機から降りてきた三人組、背の高い美女がそれぞれ銀と黒の美少女を引き連れ、空港を歩いていた。姉らしき銀髪の子に黒髪の子が絡んでいる様子は微笑ましいものだ。
和気藹々とした(?)三人組だがここへやってきた目的は物騒である。ズバリ英国狙撃型ISの強奪だ。
作戦の調整を行なったスコールは乗り気では無かったが、上層部の強い要望によりスコールもしぶしぶ承認。オータム、エム、ランスロットの三名による少数精鋭での作戦となった。
「じゃ、好きにしてきな。不審者には気をつけんだぞ」
オータムがホテルに着くとそのままチェックインし、部屋に特殊なセンサーやらフィルターやらを貼りつけて隠蔽処置を行なう。強奪対象のISが保管されている基地から建物の高さ制限があり、その中で最も高いホテルの最上階スイートルームである。
「すごくフカフカだね。レム、そんなに眠いなら寝てもいいんだよ?」
「お前私に喧嘩を売ってるのか? 目つきが悪いのは眠いからじゃないんだぞ」
「そっか。ごめんねレム、なんだか他人の気がしなくてね」
「撫でるな! あと中ならエムでいいだろう!」
パシンと頭の上に置かれそうになった手をエムが弾く。"レム"というのはオータムが適当に考えた偽名である。ちなみにランスロットはそのままランだ。実働部隊として顔を合わせてから数年経つが、いつまで経ってもランスロットがエムを構いたくなるという構図ができ、エムも性格上嫌なら無視するので満更でもないのだろうとオータムは思っている。
「ほいしゃいくぞエム」
資料やら身分証やらを用意し、オータムが変装用の生体マスクを被って鏡を見ながら特殊メイクをしていき、顔つきを変更。エムの顔面にも同じく変装を施す。結果いかにも軍属といった姿になったオータムとおどおどとした子供のようなエムが出来上がった。
今回奪取しようとしている『サイレント・ゼルフィス』はイギリスが欧州新型量産機計画『イグニッションプラン』への提出を目指し開発しているブルー・ティアーズシステム搭載の改良型である。
上層部の要望では余計な物の付いていない初期型のISブルー・ティアーズの方が解析に使えるとのことだったが、とある事情からスコールが作戦遂行は不可能の判断を下しこっちのISを奪取する作戦を立案した。
「連絡があるまで何をしていようか……そうだ」
主な原因は今まさにフカフカのベッドでゴロゴロしているランスロットである。そうしてISの量子空間から取り出されたのはスクラップブックだ。なんてものを入れてるんだとツッコム者は居ない。オータムやエムがいないという意味でなく、作戦遂行に支障が無いなら何をやってようが自由という意味で。
「……………」
一人ニコニコと、実は二冊目に突入しているスクラップブックに貼られた代表候補生セシリア・オルコット、これがブルー・ティアーズ奪取を不可能とした原因である。よりにもよってブルー・ティアーズ操縦者候補として最有力視されているのが彼女なのだ。
ちなみにブルー・ティアーズ奪取が計画された事自体がランスロットには秘密だ。
「見てくれ見てくれ! セシリアが代表候補生として専用機を貰えることになったんだ!」
と自分のことのように喜んで制作中らしきブルー・ティアーズとセシリアが並んだ写真をスコールに見せびらかした時、スコールの胃の粘膜は重篤なダメージを受けた。閑話休題。
そういうわけで実施されているサイレント・ゼルフィス強奪作戦だが、ランスロットは詰めまで暇である。なのでスクラップブックを開いて暇を潰していた。
その頃、オータムとエムは兵士に道案内をされながら基地の中を堂々と歩いていた。身体検査もされているが、アクセサリーに偽装されたISを発見する事は困難である。
(警戒がねぇな。さすがスコールだぜ仕事がしやすい)
愛想の良い笑みに顔を固めながらオータムは内心ほくそ笑んだ。サイレント・ゼルフィス自体は未だ世に情報として出ていない代物だ。それを知っていて、基地の訪問者予定にも滑り込ませられた信用のある人物だ。どうしても油断がある。
女性兵士の監視が着きつつもエムは黙々とISスーツに着替え、初期状態のサイレント・ゼルフィスを装着する。
特にトラブルもなく、最適化が完了した。一次移行を終え接続された
「すごい! 事前の資料通りBT適性はオルコット代表候補に迫るぞ!」
それを聞いたエムが僅かに口角を下げた。特殊メイク越しの微々たる変化だがオータムが笑いそうになる。
[おいおい、負けず嫌いすぎるだろ]
[黙ってろ気が散る]
装備したIS同士の量子通信で思念通話をする。
「それでは演習場へ移動しましょう。車を用意します」
遠距離攻撃用ISの、しかも極秘の為稼動実験をやるためにはこの基地ではできない為移動する必要があるのだ。
「ええ、かしこまりました。レム、一旦それを格納してみてください」
「……わかりました」
わざわざ十秒くらいかけて機体を量子化、アクセサリーとしてエムの薬指に指輪の形で収まった。
「自動運転ですがルートはナビゲーションに入っています、何かあればそれを参考にしてください」
「ありがとう、まあ何も無いと思うけれどね」
内部に監視カメラ、防弾性能を持った自動運転可能なセダン型の車両の後部にエムを乗せオータムが運転席に乗り込み説明を受ける。そのまま前後も同じ車両に挟まれ護衛されながら演習場へ移動を開始する。
「……この基地も大変そうね」
「……そうですね」
大変になる原因はこの二人であるが。量子通信でランスロットに合図を送る。ランスロットも合図を受け取り行動を開始する。
暫く進行し、建物もまばらになり演習場へ至る橋へ差し掛かったところで、突如三車両が急加速した。
「な、ななんですかこれは! レム、シートベルトをしっかり!」
そこへ空中から飛来した正体不明ISが二人の乗った車両天井を陥没させながら着地。そのままレーザーブレードでエンジン部を刺し貫き車両が大爆発、炎上する。そのまま蹴り飛ばされた車両が橋から転落、崖下の岩礁に激突し四散する。前後車両から兵士が降りてきて攻撃を加えるが当然ISに効くはずもない。車両二台にブレードを突き刺して爆発させる。
『オータム、エム。どうだった?』
『ナイスな派手さだぜ。偽の死体の用意してるから適当に逃げてくれ』
ISは装甲を纏っていなくてもシールドバリアを張っていれば車両が爆発した程度どうと言う事はない。炎上する車両の中から岩礁に激突したタイミングで脱出し、そのままISを展開、偽装を行なっていた。
「私も離脱する。ホテルで……っ!」
上空に逃げ離れて水深の深い地点で海へ飛び込もうと移動していたところ、正確無比なビーム攻撃を受けた。発射方向は地平線に隠れるギリギリの距離、ISの演習場のある場所からだ。
「良く当てるね、いい腕をしてる」
アロンダイトで攻撃を弾かれるのを確認するや急加速して距離減衰をなくし防御を貫通する距離へ詰めてこようとしていた為、迎撃するかを思案し、不安要素を減らすと決め迎撃しようとしたところで、
「あ、ああ……!」
青色の機体に大口径のロングレンジビームキャノン。腰から4つスカートのように伸びたスラスターを稼働させながら攻撃を加えてくるその艶やかな髪は金。
『何者ですか! 直ちに投降しなさい!!』
通信越しに聞こえた声は怒りに満ちながらもあの湖で聞いた声と変わりなかった。見られたくない、とミアはアロンダイトでバイザーで隠せていない場所を覆い、瞬時加速。衝突の衝撃も考えず海面に全速力で突入する。
まるで隕石でも落ちたように大きな水飛沫を立てながら深海へ逃げ出す。
セシリアが現れたのは全くの偶然だ。ブルー・ティアーズの訓練をできる施設が現状少なく同型機であるサイレント・ゼルフィスの稼動実験を行おうとしていた演習場と被っていたのだ。そこで訓練をしていた
「くっ……! そちらは大丈夫ですか!」
当たらないならまだしも当たったそれを逸らすなどと言うふざけたことをした下手人を海の中まで追跡することは困難と判断したセシリアは炎上する車両の方へ向かうのだった。
「で、なんでそんな落ち込んでんだ?」
「……言わないとダメかい?」
「今後の仕事の支障になんのは困るからな」
無事ホテルに帰還すれば先に帰ったエムとオータムがそれぞれ寛いでいた。が、後から帰ってきたランスロットがオータムから見て、いや誰の目から見ても落ち込んでいる。
オータムは知り合いとしてではなく、亡国機業の先輩エージェントとして質問をした。
「実は……」
ランスロットは言いたい事を全部吐き出す事にした。ついでにスクラップブックも出していかにセシリアがすばらしいかも説明した。その素晴らしいセシリアに剣を向けるのも今の自分の姿も見せたくないと。思い出の中の僕のことだけを覚えていてほしいと。一から十まで説明した。初めは耳を傾けて聞いていたエムは途中でベッドに潜り込んで寝た。オータムも初め深刻な何かと思って聞いていれば段々とジト目になり、話がとても長くあくびを噛み殺し始めた。
「───と言うわけで僕は恐ろしいんだ。セシリアの中の私が変わってしまうことが」
「なるほど。潔癖症の童貞か何かか?」
「童貞がなんだかわからないけど、潔癖症ってどういうことだい?」
オータムははぁ、とため息を吐いて酒の缶を開けた。
「そういうのはテメエで考えな」
そう言われてランスロットは黙り、亡国機業のアジトへ戻るまでずっと考え続けるのだった。