捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強へ   作:月城 友麻

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1-11. 最凶最悪の妖魔、妲己

 ぐわぁぁ!

 尻もちをつくヴィクトル。

 

「フハハハハ!」

 広間には不気味な若い女の笑いが響いた。

 

 クッ!

 見ると、黄金の光をまとい、ゆっくりと宙を舞う黒髪の美しい女性が楽しそうに笑っていた。女性は赤模様のついた白いワンピースを着て、腕には羽衣をまとわせて、うれしそうに腕を舞わせる。ワンピースには脇にスリットが入っており、美しい肌がのぞいていた。

 

 ヴィクトルはすかさず鑑定を走らせる。

 

妲己(だっき) レア度:★★★★★★★

太祖妖魔 レベル 354

 

 ヴィクトルは絶望に打ちひしがれた。レア度7は前世でも見た事が無い振り切れた値なのだ……。

 伝説では国をいくつも滅ぼしたとされる、最凶最悪の妖魔、妲己(だっき)が今、目の前で舞っている。ヴィクトルは心の奥底から湧いてくる恐怖を押さえられず、ガクガクと震えた。

 

「余を呼びしはお主じゃな? どこを滅ぼすんじゃ?」

 妲己はニヤッと笑って言った。

 

「え? わ、私ですか?」

「何言っとる、生贄(いけにえ)はお主がくれしものじゃぞ? 最初ショボい生贄でやる気出なんだが、お主がたくさん用意し事で来る気になったのじゃ」

 ヴィクトルは驚いた。殺した魔物は全部生贄として使われてしまったらしい。

「そ、それは手違いです」

 ヴィクトルは冷や汗を垂らしながら答えた。

「へぇ? 手違いで余を呼びしかっ!」

 妲己から漆黒のオーラが噴き出し、不機嫌そうな視線がヴィクトルを貫く。

「お、お鎮まりください!」

 ヴィクトルは必死に怒りを鎮めようとしたが、妲己は、

「不愉快なり! 死ね!」

 そう叫ぶと、腕を光り輝かせながらブンと振る。

 すると、光の刃が目にも止まらぬ速さで飛び、ヴィクトルを一刀両断に切り裂いた。

 

 ガハッ!

 地面に崩れ落ちるヴィクトル。

 妲己に、バシッ! という音が走ったが、妲己は平気な顔をしている。

「怪しきアイテムを持っとったな? 小賢しい奴じゃ。じゃが、効かぬぞよ」

 妲己はニヤリと笑った。ここまでレベルが高いと倍返しのアイテムは効かないようだった。

 

 ヴィクトルは朦朧とする意識を必死に立て直し、

「ヒ、ヒール!」

 と、回復をかけながら妲己を見た。

 

「ほぅ? 小童(こわっぱ)、あれで死なぬか……ほぅ」

 と、興味深げにヴィクトルを眺めた。

 

「お、お帰り頂くことはできませんか?」

 ヴィクトルはよろよろと立ち上がりながら聞いた。

 

「はぁ!? たわけが!」

 妲己はブワッと漆黒のオーラを巻き上がらせ、そのままヴィクトルにぶち当てた。

 

 グハァ!

 吹き飛ばされるヴィクトル。

 

「ただで帰れと言うか! 国の一つや二つ滅ぼさんと気が済まぬ!」

 妲己はそう叫んでにらんだ。

 

「わ、分かりました。そうしたら、三年……三年待ってください。私が強くなって妲己様の満足のいくお相手をします」

「小童、お主がか? 言うのう……。ふむ……、一年じゃ。一年だけ待ってやろう! 余も手下の準備が要りしことじゃしな」

 妲己はそう言うと優美に腕を舞わせ、まぶしい光をまとった。

 

 うわっ!

 思わず腕で顔を覆うヴィクトル。

 

 フハハハハ――――!

 妲己は楽しそうに笑うと、一気に飛び上がり、広間の天井をぶち抜いて飛び去って行った。

 

 ヴィクトルの耳には、忌々しい笑い声がいつまでも響いた……。

 

「い、一年……」

 ヴィクトルはひざから崩れ落ちる。

 とんでもない事態を引き起こしてしまった……。

 自分は昨日までレベル1だったのだ。たった一年鍛えた位で、レベル350を超える伝説上の化け物に勝てる訳がない。

 どう考えても無理だった。

 しかし、多くの人命のかかった話である。できること全てをやってみる以外なかった。

 


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