捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強へ   作:月城 友麻

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1-3. 大賢者ヴィクトル

 チチチチ……。

 小鳥の声がする。

 澄み切った爽やかな日差しが、モスグリーンのカーテンをふんわりと暖かく照らし、朝を告げている。

 

 アマンドゥスは違和感を感じて目を覚まし、バッと起き上がると、その瞬間、雷に打たれたように膨大な記憶と経験の洪水に脳髄を貫かれた。

 ぐわぁぁぁ!

 思わずベッドでのたうち回るアマンドゥス。それはいまだかつて経験したことのない知の奔流(ほんりゅう)だった。

 しばらくして落ち着くと、手足が小さくつやつやしていることに気づく。

「へっ!? 子供!? ここはどこだ……? わしは……どうなった……?」

 キャビネットの上の手鏡を奪うように取って見ると、そこには可愛い金髪の男の子が映っていた。

「おぉ……、そうだ……そうだった……。わし……、じゃない、僕はヴィクトル、辺境伯の三男坊だった」

 アマンドゥスは全てを思い出す。賢いと評判の可愛い五歳の少年ヴィクトルは、百三歳の大賢者の知恵と経験を取り戻したのだった。

「やった! 女神様ありがとう!」

 ヴィクトルは両手を高く掲げ、ぴょんぴょんと跳ねる。

「今度こそスローライフだ! 満喫するぞぉ!」

 可愛い男の子はこぶしをぎゅっと握り、うれしそうに笑った。

 

 コンコン!

 ドアがノックされ、メイドが入ってくる。伝統的なメイド服に身を包んだ清潔感のある若い女性は、

「お坊ちゃま、朝食のお時間でございます!」

 と、事務的な口調で言いながら、カーテンを次々と開けていく。

 

「お、おはよう」

 ヴィクトルはぎこちなく挨拶をする。

 メイドはいつもと違う反応にカーテンを開ける手を止め、ジッとヴィクトルを見つめた。

「お坊ちゃま、何かありました?」

「な、何でもないよ! わ、わしは……じゃない、僕はいつも通りだよ!」

 焦って返すヴィクトル。

 メイドはいぶかしそうにヴィクトルを見つめ、

「まぁいいわ、今日は大切な神託の日ですよ。キチッとしたシャツを着てくださいね」

 そう言うと、上質なシャツと短パンを持ってきてヴィクトルを着替えさせた。

 ヴィクトルは一瞬何のことだか分からなかったが、教会で自分の職業を教えてもらう日だということを思い出す。

 ヴィクトルは急いでステータス画面を出した。これは自分の状態を空中の画面に表示させるスキルで、アマンドゥスの時の物がそのまま引き継がれていた。どうやら職業に紐づいているスキルは子供になっても使えるらしい。

 

 ヴィクトル 女神に愛されし者

 大賢者 レベル 1

 

 ヴィクトルは思わず宙を仰いだ。マズい、大賢者であることがバレてしまう。二度目の人生は平凡なスローライフが目標である。大賢者だなんてバレてしまったらまた前世と同じように王都に連れていかれ、一生重責を負わされてしまう。絶対にそれだけは避けないとならない。

 前世のアマンドゥスだったら職業をごまかす事など容易だったが、ヴィクトルのレベルは1、使えるのは基本的なスキルだけで、高度な魔法など一切使えず、とても教会の神託をごまかせない。できるとすると『隠ぺい』のスキルで職業を見えなくすることくらいだ。しかし、そうなると無職扱いになってしまう。無職は無能の証として人間として最低の扱いをされる最悪なステータスだ。ヴィクトルは頭を抱えた。

 

            ◇

 

 何とか突破口を見出したいヴィクトルは、朝食後、宝物庫に忍び込む。入り口は厳重なカギがかけられてあったが、大賢者にとってみたらオモチャ同然である。針金一つであっさりと突破する。

「記憶が戻って最初にやる事が鍵開けとは前途多難だ、トホホ……」

 ヴィクトルは暗い表情でドアをそっと開け、中に忍び込んだ。

 

 飾り棚の中には宝剣や魔剣、杖や(たま)が所狭しと飾ってあったが、思っていたよりもショボい。

 何とか神託をごまかせるアイテムはないかと、必死に『鑑定』スキルを繰り返すヴィクトル。しかし、残念なことに使えそうなアイテムは見つけられなかった。

 ふと脇を見ると、『未鑑定』と書かれた木箱の中にジャンクなアイテムがゴロゴロと入っている。

 ヴィクトルが当たり前のように使っている鑑定も、使える人は稀で、かなり高い鑑定料がかかるのだ。だからパッと見ショボそうなものは木箱に入れられているようだった。

 ヴィクトルはそれらを鑑定し、使えそうなレア度の高い二つのアイテム、「光陰の(たま)」と「倍返しのアミュレット」を見つけ出す。ヴィクトルは少し考え、そっとポケットに忍ばせた。

 


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