捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強へ 作:月城 友麻
一階の食堂で朝食をとり、コーヒーを飲んでいると、ドタドタドタと、誰かが慌てて入ってきた。見ると、ギルドの受付嬢だった。
「あ、いたいた! ヴィッキーさん!」
受付嬢はヴィクトルを見つけると、急いでやって来て、早口で続けた。
「おはようございます! 緊急の依頼がありまして、ギルドまで来てもらえませんか?」
ヴィクトルはルコアの方を見る。
ルコアはキョトンとしながらうなずいた。
「分かりました。支度してすぐに行きます」
ヴィクトルは急いで立ち上がった。
◇
ギルドマスターの部屋に通されると、黒いローブを着た女の子がソファーに座っていて、泣きそうな顔でヴィクトルたちを見る。
「朝早くから悪いね」
マスターは緊張感のある声で言った。
「な、何があったんですか?」
「彼女のパーティーが落とし穴のワナに落ちてしまって、消息不明なんだ」
「すみません! お力を貸してもらえませんか?」
魔導士の女の子が立ち上がって早口で言った。
「別に僕らでなくても……、誰でもやってくれそうですけど?」
「そ、それが落ちたのが地下三十七階からなので……」
そう言って女の子はうなだれた。
マスターが補足する。
「三十七階から落ちたとすると、Aクラスパーティー以上でないと難しい。そして、残念ながら今動ける心当たりは君たちだけなんだ」
「一応僕たちはCですが……」
ヴィクトルは渋い顔をする。
「分かってるが、今は緊急なので、『一切口外しない』と約束させることでお願いしたいんだ」
ヴィクトルはふぅ、と息をつくと、
「分かりました。同じ落とし穴から降りて、探せばいいですね?」
「やってくれますか!? ありがとうございます!」
女の子は涙をポロポロとこぼしながら、ヴィクトルの手を両手で握った。
「あ、それから……」
マスターが言いにくそうに切り出した。
「何か?」
「その……、遭難者なんだけど……。昨日君たちにヤジを飛ばしたジャックという奴なんだよね……」
「それなら私は行きません! 主さまを馬鹿にした
ルコアが声を荒げる。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい! それでも大切な仲間なんですぅ……うっうっう……」
部屋には彼女の
「報酬は金貨二十枚。彼女の全財産だ。気持ちを汲んでもらえないだろうか……?」
マスターはルコアに申し訳なさそうに言う。
ルコアはツンとして顔をそむけたままだ。
「ルコア、行こう。僕らの強さを見せつけてやろうじゃないか」
ヴィクトルがニヤッと笑って諭すと、ルコアはチラッとヴィクトルを見て言った。
「見せつけてやる……、それはいい考えかも……ですね」
「ついでにサイクロプスの魔石も取れるかもよ?」
「あー、それのついでならいいですね」
ルコアはニコッと笑った。
「よし決まり!」
ヴィクトルもうれしそうに笑った。
ヴィクトルが女の子に声をかける。
「それでは行こうか。僕がダンジョンまで飛んで運ぶけど大丈夫……」
「ダメです! 私が運びます!」
ルコアがさえぎるように声を荒げて言った。
そして窓を開けると、女の子をお姫様抱っこして窓の外へピョンと飛んだ。
「えっ!? うわぁぁ!」
予想外の展開に慌てる女の子。
「ひゃあぁぁぁ――――!」
女の子の叫び声が遠くへ小さくなっていく。
「悪いけど頼んだよ。ジャックは結構あれでいい所もある奴なんだ」
マスターは申し訳なさそうに言った。
「はい、分かりました。でも……、一般的にはもう手遅れの時間ですよね?」
ヴィクトルは渋い顔をする。
マスターは目をつぶってうなずき、息をつくと言った。
「それでも彼女には必要な事なんだよ……」
「なるほど……、分かりました。全力を尽くしてみます」
ヴィクトルはそう言うと、窓から飛び出し、一気に音速を超えてルコアを追いかけた。