捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強へ 作:月城 友麻
「大丈夫ですか?」
ヴィクトルは口元の糸を外してあげる。
「あ、ありがとうございます……、もうダメだと思ってました……うぅぅ」
昨日、ヴィクトルをあざ笑った、薄毛の中年男ジャックはみっともなく泣き始めた。
「間に合ってよかったです」
ヴィクトルはニコッと笑って言った。
「昨日はごめんなさい。まだお若いのにこんなに強いなんて知りませんでした……」
ジャックはそう言って謝った。
「まぁ、僕は子供だからね、仕方ないよ。さぁ、仲間のところへ行こう!」
ヴィクトルは彼らを宙づりにしている糸を切ると、展開したシールドの上に繭のまま載せ、そのまま飛行魔法で一気に上空へと飛び上がった。
「うひ――――!」「ひゃあぁぁぁ!」「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
三人は繭のまま驚き、叫ぶ。
早く繭から出してやりたいとは思うが、出しちゃうと運ぶのが面倒そうだったので、申し訳なかったがそのまま飛んだのだった。
◇
別れたところまで飛んでくると、女の子が一人で心細げに立っていた。
「あれ? ルコアは?」
「『サイクロプス!』って叫んで飛んでっちゃいました……、それでその白いのは何……? えっ!?」
繭から顔がのぞいているのを見つけた女の子は、仰天する。
「あー、全員救出しておいたよ。早く出してあげよう」
ヴィクトルはそう言うと、繭をベキベキベキと腕力で破り、一気に裂いた。その異常な怪力に、包まれていた人は驚愕する。自分ではビクともしなかった繭を小さな子供がまるで紙を破くようにあっさりと壊したのだ。
僧侶の女の子を解放すると、魔導士の女の子は抱き着いて、二人でしばらく号泣していた。正直、生きてまた会えるなんて思っていなかった二人は、お互いの体温を感じ、奇跡的な生還を心から喜んだ。
◇
ドドドドドド!
地響きが遠くの方から響いてくる。
みんな何だろうと、不安げな顔で地響きの方を眺めていると、草原の小高い丘の向こうからルコアが飛んでくる。
そして……、後ろには土煙……。
ヴィクトルは思わずフゥっとため息をつくと、
「君たち、危ないからこのシールドの中にいて」
そう言うと、淡く金色に光るドーム状のシールドを展開し、四人をすっぽりと覆った。
丘を越えて現れたのは緑色の巨人、サイクロプスが何匹か、それにグリフォンにリザードマンなどの魔物が多数。みんな挑発され、ルコアを必死に追いかけてくる。
「主さま~! いっぱい連れてきましたよ~!」
ルコアが叫びながら飛んでくる。
四人の冒険者たちは、Aランク以上の危険な災害級の魔物が群れを成して襲ってくるさまに腰を抜かし、シールドの中で真っ青になってうろたえた。
ヴィクトルは苦笑いすると、軽く飛び上がり、
「ほわぁぁぁ!」
と叫びながら下腹部に魔力を貯める。そして、術式を頭の中で思い描き、手のひらを魔物たちの方へ向ける。
「ルコア、衝撃に備えろ!」
そう叫ぶと、手のひらの前に巨大な真紅の魔法陣を次々と高速に描いていく。鮮やかに光り輝く魔法陣たちは、一部重なりながらどんどんと集積し、キィィィ――――ン! とおびただしい量の魔力を蓄積しながら高周波音を放つ。
冒険者たちはその、神々しいまでの魔法陣の輝きに圧倒され、みんな言葉を無くした。見たこともない超高難度の魔法陣、それが多数重なっている。それも通常以上に魔力を充填され、音が鳴り出すくらいになるなど聞いたこともなかったのだ。
ヴィクトルは魔物たちが全員、丘を越えたのを確認すると、
「それ行け!
とノリノリで叫ぶ。
魔法陣群が一斉にカッと輝き、鮮烈な輝きを放つエネルギー弾を射出した。
直後、魔物たちに着弾すると、天も地も世界は鮮烈な光に覆われた。激しい熱線が草原や森を一気に茶色に変え、炎が噴き出す。
すさまじい爆発エネルギーは衝撃波となって、白い繭の様に音速で球状に広がり、森の木々は根こそぎなぎ倒され、冒険者たちのシールドに到達すると、ズン! と激しい衝撃音を起こし、みんな倒れ込んだ。
「キャ――――!」「ひぃぃぃ!」「うわぁぁぁ!」
石や砂ぼこりがシールドにビシビシと当たり、まるで砂嵐のような状態である。
それが過ぎ去ると、目の前には巨大な真紅のキノコ雲が、強烈な熱線を放ちながらゆっくりと立ち昇っていくのが見えた。
シールドで身を守っていたヴィクトルはその様を見ながら、やり過ぎたと思った。確かに見せつけてやろうとは思っていたものの、まさかここまで大規模な爆発になるとは予想外だったのだ。
ここまでやっても全然MPには余裕があったし、これより強力な攻撃を何度でも連射可能だった。そんな自分の異常な攻撃力に恐ろしさを覚え、ついブルっと身震いをしてしまう。
妲己を倒すために一年頑張ったが……、自分は開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったのではないだろうか?
ヴィクトルは高く高く立ち昇っていく灼熱のキノコ雲を見上げながら、言いようのない不安を感じていた。