捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強へ 作:月城 友麻
二人は宿の上空で準備をする。
ルコアはヴィクトルの背中におぶさり、ヴィクトルは二人の周りに卵型のシールドを何枚もかけ、さらに、水中でも息が苦しくない魔法を自分たちにかけた。
「これで準備OK! じゃあ、宇宙へ行くよ!」
ヴィクトルはワクワクしながら言う。
「本当に大丈夫ですか? 寒かったり暑かったりしないんですか?」
ルコアは不安げだった。
「それは行ってみないと何とも……」
「大賢者様たのみますよぉ……」
「いやいや、宇宙行った人なんて誰もいなんだから仕方ないよ」
「ふふっ、二人で世界初のランデブーですね」
「ラ、ランデブーって……。行くよ!」
ヴィクトルは頬を赤らめながら飛行魔法に魔力を注入し、軽やかに宇宙へ向かって旅立った。
夕暮れの日差しにオレンジ色に輝く石造りの街が、どんどんと小さくなっていく。やがて城壁に囲まれた王都全体が視野に入り、それも小さくなる。
「すごい、すごーい!」
ルコアは楽しそうにヴィクトルをギュッと抱きしめた。
「おとなしくしててよ!」
「いいじゃないこれくらい……。ふぅ――――」
ルコアはヴィクトルの耳に温かい息を吐いた。
「もう! 降ろすよ!」
「ハーイ、おとなしくしまーす」
ルコアは棒読みのような返事をする。
「もぅ……」
そう言ってる間にもどんどんと高度は上がり、雲を突き抜ける。
眼下には王都を囲む山々が見え……、それも小さくなっていく。
「さて、そろそろ全力で行くぞ! つかまっててよ!」
「はーい」
ルコアはうれしそうにギュッとヴィクトルを抱きしめた。
ぬおぉぉぉ……!
ヴィクトルは魔力を全力で投入する。
二人は凄い加速度を受け、一気に音速を超える。
ドン!
「きゃあっ!」
ルコアが顔を伏せる。
「大丈夫だよ、どんどん行くよ!」
二人は夕陽に照らされる中、どんどんと高度をあげた。
シールドはビリビリと音をたて、先端は空気を圧縮し、赤く輝きだす。
眼下には山々と、入り組んだ海岸線。地図でしか見たことのなかった国土の全貌が子細に見渡せる。
「こんな形してたんですねぇ……」
ルコアが感慨深げに言う。
「暗黒の森はまだまだもっと西だね。もっと高度を上げるよ」
さらにしばらく上がっていくと、シールドが静かになった。もう外は空気が無いらしい。そして、青かった空はいつの間にか真っ黒となり、宇宙へと入ってきた事が分かる。
「うちの星、丸いですねぇ……」
ルコアがつぶやく。
西の方には大陸が広がっており、地平線は丸く湾曲し、太陽が沈みかけている。東の方はずっと海が広がっていて、すでに真っ暗、夜になっていた。国土は長細い島のようになっていて、西側の大陸と東側の海の間に浮いている。王都の辺りはちょうど昼と夜の境目だった。
「昼と夜はこうやって作られてるんだね……」
ヴィクトルは昼と夜の境界線を感慨深げに眺めながら言った。
「私、こんなの初めて見ました……。すごい……幻想的……」
ルコアは青く美しい星に描かれる光と闇の境界線に見とれていた。
「さて……、月だけど……、これ、どうかなぁ……?」
ヴィクトルは上空はるか彼方にある上弦の月を見ながら言った。
「全然近づいてませんねぇ……。むしろ小さくなってませんか?」
ルコアは嫌なことを言う。
「小さく見えるのは錯覚だと思うけど……、全然近づいてる感じはしないよね」
「これ、何日もかかるんじゃないですか?」
「うーん、そうかもしれない……」
ヴィクトルは困惑する。
「おトイレは……どうするんですか?」
ルコアが心細げに聞いてくる。
「え? もうしたいの?」
「まだ……我慢……できるかも……」
モジモジしながら言った。
ヴィクトルは大きく息をつくと、
「月は相当に遠い事が分かった。この星も丸いし、国の形も良く分かった」
そう言って魔力をゆるめる。
「良かった……」
ルコアはホッとしたように、ふぅとため息をついた。