捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強へ   作:月城 友麻

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3-13. 圧倒的な指先

 二人はユーベの街を飛ぶ。窓から漏れる明かりがほのかに街の情景を彩っていた。王都に比べるとこぢんまりとし、活気もそれほどではないが、それでもこの地方最大の街である。歓楽街にはそれなりに人が集まり、にぎわいを見せている。

「夕飯はどうしよう? 何食べたい?」

 ヴィクトルはゆっくりと夜の風を受けながら飛び、ルコアに聞いた。

「何って、私は肉しか食べないわよ?」

 ルコアは笑いながら答える。

「そりゃ、そうだな。その辺で軽く食べて今日はゆっくり寝よう。ちょっと疲れちゃった」

 ヴィクトルは疲弊した笑みを浮かべ、静かに路地裏へと降下して行った。

 

        ◇

 

 それから数日、ギルドの依頼をこなしながら過ごし、いよいよ国王警護の日がやってきた。

 

「ふぁーあ、朝早くからつまんない仕事、面倒くさいです……」

 朝露に濡れる石畳の緩い上り坂を、二人で歩きながらルコアがぼやく。

「前世の後始末につき合わせちゃって悪いね」

 ヴィクトルは申し訳なさそうに言った。

「あ、全然! 主さまのお役に立てるだけで嬉しいですよ!」

 あわててフォローするルコア。

「ありがと」

 ヴィクトルはルコアのやさしさに心から感謝した。

 

 仕立てあがったばかりの、青地に白襟の綺麗なローブをまとったヴィクトルは、前世を思い出しながら懐かしい道を歩く。

 

 王宮前ではすでに騎士団の人たちが警護の準備に追われていた。

「あー、ヴィッキーさん! 悪いですね。今日はよろしくお願いします」

 班長が正装をしてヴィクトルに走り寄ってくる。

「いえいえ、僕らはどこで何をすればいいですか?」

「では、まず団長に挨拶をお願いします」

 二人は班長につれられて、団長のところへと案内された。

 団長は騎士たちの中で陣頭指揮に当たっている。

 

「団長! ギルドからの助っ人です!」

 班長は敬礼をしながら団長に言葉をかけた。

 白地に金の刺繍の入ったきらびやかなシャツに、勲章のずらりと並んだ濃紺のジャケット。団長はヴィクトル達を見ると怪訝そうな顔をする……。

 そして、馬鹿にしたように言った。

「なんだ、女子供なんて役に立つのか?」

 ルコアはムッとして、

「頼まれたから来たんです! 要らないなら帰りますよ!」

 と、噛みついた。

 班長は焦って、

「団長! 彼らは極めて戦闘力が高く、頼もしい助っ人であります!」

 と、冷や汗をかきながらフォローする。

「頼もしい? こんなのが?」

 鼻で嗤う団長。

「役立たず程吠えるのよね」

 負けじとニヤッと笑って挑発するルコア。

 しばしにらみ合う二人……。

「役立たずだと……、侮辱罪だ! ひっとらえろ!」

 団長は近くの騎士たちに指示をする。

「うわぁ! ダメですって!」

 班長は青くなって止めようとするが、五人の騎士がルコアとヴィクトルを取り囲む。そして、剣をスラリと抜き、突きつけた。

 ヴィクトルは思わず天を仰ぎ、ルコアはうれしそうに微笑んだ。

 

「冒険者ごときが騎士団を侮辱するなど、あってはならん事だ!」

 団長がそう吠えた直後、バン! と衝撃音が走り、五人は吹き飛ばされた。

「ぐはぁ!」「ぐぉっ!」「ギャァ!」

 周りの人は何が起こったのか全く分からなかった。素手の女の子と子供が動くこともなく五人を吹き飛ばしたのだ。

 

 そのただ事でない事態に、団長は素早く剣を抜いて身構える。

 目を光らせニヤリと笑うルコア。

 団長は大きく何度か息をつくと、素早い身のこなしでルコアに向けて突進し、目にも止まらぬ速さで斬撃を放った。

 

 ガッ!

 

 衝撃音を放ち、剣は途中で止まる。なんと、剣はヴィクトルが指先でつまんで止めていたのだ。そして、もう一方の手で止めていたのはルコアのしっぽだった。

 ルコアはワンピースの下から長い尻尾をニョキっと出し、剣を弾こうとしていたのだ。

 

「はい、ストップ!」

 ヴィクトルはにこやかに微笑みながら団長に言った。

 団長は仰天した。小さな子供に自慢の斬撃を止められる、それは想像もしなかった恐るべき事態だった。

 団長にとってこんなのは認められない。急いで剣を取り返そうとするが、剣はビクともしない。どんなに力を込めても、小さな子供がつまんだ剣が石に刺さったかのように微動だにしない。団長は信じられない事態に焦る。

「今日の目的は陛下の護衛です。こんな所で小競り合いしている場合ではないですよね?」

 ヴィクトルは淡々と諭すように言う。

 団長は再度全身の力を込めて剣を取り戻そうとするが……、諦め、ついには手を離した。

 

「くっ! 分かった」

 団長の額には冷や汗が流れている。

 自慢の斬撃は指先で止められ、剣を取り返すこともできない。団長はあまりにも惨めな事態に、この恐るべき子供に対する評価を全く間違えていたことを、認めざるを得なくなった。少なくともこの子供に勝てる者は騎士団にはいない……。

 

 団長は大きく息をつくと、ヴィクトルをまっすぐに見つめ、

「バカにしてすまなかった」

 と、頭を下げた。

「では、今日はよろしくお願いします」

 ヴィクトルはニコッと笑う。

 強さでも器の大きさでも完敗した団長は、自らの未熟さを恥じ、

「ご協力に感謝します」

 と、うやうやしく胸に手を当てて答えた。

 


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