捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強へ 作:月城 友麻
男と目が合う……。それは見覚えのある顔だった。
「ミヒェル……、ミヒェルじゃないか……」
ヴィクトルは呆然自失として男を見つめた。その男は賢者の塔第三室室長であり、前世時代寝食を共にした仲間だった。
ミヒェルは血走った眼をしてヴィクトルをにらみ、喚いた。
「小僧……何者だ……。なぜ俺を知っている!」
「お前はこの国をもっとよくしたいと言ってたじゃないか! なぜテロなんかに手を染めたんだ?」
ヴィクトルは叫んだ。
「何言ってるんだ。この国を
「ドゥーム教? 新興宗教か?」
「そうだ! ドゥーム教が王侯貴族が支配するこの不平等な国をぶち壊し、新しい世界を作るのだ。何しろ我々には妲己様もついておられる。小僧! いい気になってるのも今のうちだ!」
「妲己だって!?」
ヴィクトルは青くなった。ヴィクトルの召喚してしまった妖魔が弟子と組んで王都を危機に陥れている。それは予想だにしない展開だった。
「そう、伝説の存在さ。例えアマンドゥスが存命でも妲己様には勝てない。我々の勝利は揺るがんのだ!」
「いや、アマンドゥスなら勝てるぞ……」
ヴィクトルはムッとして言った。
「ふん! 小僧には分かるまい。アマンドゥスなんて大した奴じゃなかった。ただの偉そうなだけの老いぼれジジイだったぞ」
「お、お前……、そう思ってたのか……」
かつての弟子が自分をそんな風に思っていたとは全くの想定外だった。理想的な師弟関係を築けていたと思っていたのは、自分だけだったのかもしれない……。ヴィクトルはクラクラとめまいがして額を手で押さえ、大きく息をつく。
「まぁいい、捕まえて全て吐かせてやる!」
ヴィクトルは光の鎖をガシッとつかむ。ところがミヒェルは急に体中のあちこちが膨らみ始めた。その異形にヴィクトルは
「アッアッアッ! な、なぜ! ぐぁぁぁ!」
ミヒェルは断末魔の叫びを上げ、大爆発を起こした。
ズーン!
激しい衝撃波が辺りの木々をすべてなぎ倒し、一帯は爆煙に覆われる。
ヴィクトルも思いっきり巻き込まれ、吹き飛ばされたが、とっさにシールドを張り、大事には至らなかった。しかし、部下の裏切りと爆殺、妲己を使う怪しい存在、全てがヴィクトルの心を
「主さま――――! 大丈夫ですか!? こっちは終わりましたよ?」
ルコアが、ぼんやりと空中に浮くヴィクトルのところへとやってくる。
「あ、ありがとう」
見ると騎士たちは治療と後片付けに入っていた。
主力の魔導士を叩いた以上、もう脅威は無いだろう。
ヴィクトルは陣頭指揮している団長のところへと降りていき、声をかけた。
「敵は掃討しました」
「あ、ありがとう。あなたがたは本当にすごい……。助かりました」
団長は感嘆しながらそう言うと、頭を下げた
ヴィクトルはドゥーム教信者による襲撃だったこと、連行する途中に爆殺されてしまったことを淡々と説明した。
「ドゥーム……。やはり……。ちょっとついてきてもらえますか?」
そう言うと、団長は国王の馬車に行って、ドアを叩き、中の人と何かを話す……。
「陛下がお話されたいそうです。入ってもらえますか?」
団長は手のひらでヴィクトルに車内を指した。
恐る恐る中に入るヴィクトル。豪奢な内装の車内では、記憶より少し老けた国王が座っていた。六年ぶりの再開だった。
「少年、お主が余を守ってくれたのだな。礼を言うぞ」
国王はニコッと笑って言った。
「もったいなきお言葉、ありがとうございます」
ヴィクトルはひざまずいて答えた。
「そのローブ、見覚えがあるぞ」
国王はニヤッと笑う。
「えっ!?」
「そのお方はな、魔法を撃つ直前にクイッと左肩を上げるのだ。久しぶりに見たぞ」
ヴィクトルは苦笑いしてうつむいた。まさか感づかれるとは思わなかったのだ。
「あれから何年になるか……」
国王は目をつぶり、しばし物思いにふける……。
そして、国王はヴィクトルの手を取って言った。
「また……。余のそばで働いてはもらえないだろうか?」
まっすぐな瞳で見つめられ、ヴィクトルは焦る。しかし、今回の人生のテーマはスローライフである。ここは曲げられない。
ヴィクトルは大きく息をつくと、
「僕はただの少年です。陛下のおそばで働くなど恐れ多いです。ただ、陛下をお守りしたい気持ちは変わりません。必要があればギルドへご用命ください」
そう言って頭を下げた。
「そうか……。そなたにはそなたの人生がある……な」
国王は寂しそうにヴィクトルに言った。そして、
「褒美を取らそう。何が良いか?」
と、続けた。
ヴィクトルは少し考えると、
「辺境の街ユーベに若き当主が誕生します。彼を支持していただきたく……」
そう言って頭を下げた。
「はっはっは! お主『ただの少年』と言う割に凄いことを言うのう。さすがじゃ。分かった、ユーベだな。覚えておこう」
こうして警護の仕事は無事終わったが、ヴィクトルの胸中は穏やかではなかった。