捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強へ 作:月城 友麻
右半身は血しぶきをまき散らしながら、起用にケンケンと一本足で飛びはねる。そして、驚異的な跳躍でレヴィアへと迫った。
レヴィアは一度は外した黒いラインを両手で操作して呼び戻し、背後からヒルドの右半身にとりつかせた。
同時にヒルドは右手をレヴィアに向けて、グガァ!と、叫ぶと、右手から青いビームをレヴィアに向けて発射する。
バン!
爆発音とともに二人の身体がそれぞれ青白い蛍光を放ち始めた。
レヴィアは右手で目の前をさっと動かし、真っ黒い画面を四つ、ずらりと目の前に浮かべる。そして、目にも止まらぬ速さで両手で画面をタップし始めた。
ヌォォォォォ――――!
レヴィアが気合を入れ、タップ速度が上がり、金髪が猫のように逆立っていく。
ぐるぎゅぁぁ!
ヒルドの右半身は奇怪な音を発し、青いビームをさらにまばゆく輝かせた。
やがて二人の周りにはバチバチと音を放ちながら、四角いブロックノイズが浮かび上がり始める。
ヴィクトルは世界の管理者同士の常識の通じない戦闘に、なすすべなく
「よぉ――――し!」
レヴィアは叫ぶと勝利を確信した笑みを浮かべ、画面を右手でなぎはらった。
ぐぎゃぁぁぁ――――!
ヒルドは断末魔の叫びを上げながらブロックノイズの海へと沈んでいく。
レヴィアは腕を組んで、大きく息をつくと、
「静かに眠れ」
少し寂しそうに声をかけた。
ブロックノイズが収まっていくと、最後に黒い丸い石がコロンと落ち、転がっていく……。
直後、黒い石はどろんと溶けると、白い床をあっという間に漆黒に変え、広がっていく。
「ヤバいヤバい!」
レヴィアはそう叫ぶと、ヴィクトルとルコアを抱えてピョンと飛んだ。
◇
ヴィクトルが気がつくと、三人は焼け焦げた麦畑に立っていた。
「主さまぁ――――! うわぁぁん!」
ルコアがヴィクトルに飛びついてきて涙をこぼした。
ヴィクトルはポンポンとルコアの背中を叩く。
ひどい目に遭わされそうになったルコアはオイオイと泣いた。
ヴィクトルは甘く優しいルコアの香りに癒されながら、ゆっくりとルコアの背中をさすり、心から安堵をした。
ふと見ると、レヴィアは小さな水槽みたいな直方体のガラスケースを手に持っている。
「これ、何ですか?」
ルコアをハグしながらヴィクトルがのぞき込むと、中では黒いスライムのようなドロドロとしたものがウネウネと動いていた。
「これはさっきいた空間じゃな。奴を閉じ込め、コンパクトにしたんじゃ」
レヴィアはニヤリと笑う。
「え? ではこのドロドロはヒルド?」
「そうじゃ、暴力で訴えてくる者には残念ながら消えてもらうしかない。さらばじゃ!」
そう言うと、レヴィアは水槽に力を込めた。
水槽の中に青白いスパークがバリバリっと走り、水槽はブロックノイズの中に消えていく。怪しげな宗教で社会の混乱を狙ったヒルドは、こうやって最期の時を迎えたのだった。
ヒルドはヒルドなりに社会の活性化を目指したのかもしれないが、暴力を辞さない進め方が本当に人類のためになるのかヴィクトルには疑問だった。
「ヴィクトル――――!」
ルイーズが駆けてやってきて、ヴィクトルに抱き着いた。
ルコアとルイーズに抱き着かれ、足が浮いて思わず苦笑いのヴィクトル。六歳児は小さく軽いのだ。
「見てたよ! 凄かった! ありがとう!!」
ルイーズは声を詰まらせながら言った。
「麦畑全滅させちゃった。ごめんね」
ヴィクトルはルイーズの背中もポンポンと叩いて言った。
レヴィアが横から言う。
「魔石が散らばっとるから、あれ使って復興に当てるとええじゃろ」
「あ、ありがとうございます……。あなたは?」
ルイーズは金髪おかっぱの美少女を見ると、ポッとほほを赤くして言った。
「我か? 我は美少女戦士じゃ!」
そう言って、得意げに謎のピースサインのポーズを決めた。
ポカンとするルイーズとヴィクトル……。
「レヴィア様、そのネタ、この星の人には通じませんよ?」
ルコアが突っ込む。
「あー、しまった。滑ってしもうた……」
恥ずかしそうにしおれるレヴィア。
ヴィクトルはコホン! と咳ばらいをすると、
「兄さん、彼女はこの星で一番偉いお方で、今回も彼女に危機を救ってもらったんだ」
と、説明した。
「一番偉い? 王族の方?」
キョトンとするルイーズ。
「王族よりも偉い……、この星を作られた方だよ」
ヴィクトルがそう言うと、レヴィアは腕を組んで得意げにふんぞり返った。
「へっ!? か、神様……ですか?」
「神様……とまでは言えんのう。神の使い、天使だと思うとええじゃろ」
レヴィアはニヤッと笑った。
「て、天使様。私はこの街の新領主、ルイーズです。なにとぞ我が街にご加護を……」
ルイーズはレヴィアにひざまずいた。
「我はどこかの街に肩入れする事はできん。じゃが、相談には乗ってやるぞ」
ニコッと笑うレヴィア。
「あ、ありがとうございます」
ルイーズは深く頭を下げた。