捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強へ 作:月城 友麻
死闘の末、何とかオーガを倒すことに成功したヴィクトルは、ステータスを確認する。
ヴィクトル 女神に愛されし者
大賢者 レベル 15
「おぅ! やったぁ!」
思わずピョンと跳ねるヴィクトル。
なんと、レベルは一気に15まで上がっていた。これで少なくともゴブリン一匹にはおびえなくて済みそうだ。
ただ、命がけの攻防で何とか見出した活路ではあったが、それでも五歳の少年には前途多難な状況に変わりはなかった。
街に戻っても入れてくれないだろうし、他の街に行ってもただの浮浪児として乞食扱いだ。何とかこの暗黒の森の中で生活していくしかなかったが、それは少しレベルが上がっただけでは簡単なことではない。
ヴィクトルは現実の厳しさに気が重くなり、大きく息をつくと、
「強く……。ならなきゃ……」
そう言って、ギュッとこぶしを握った。
見ると二つ魔石が転がっていた。真っ赤に光るオーガの魔石と緑色に淡く光るゴブリンの魔石……。魔物は倒すと身体は消え、こうやって魔石を落とす。
ヴィクトルは魔石を拾い、ジーッと眺めた。
魔石には魔力が含まれていて、普通はギルドが買い取って燃料にしたり道具に加工したりしている。しかし、街へ行けないヴィクトルにしてみたら宝の持ち腐れである。
「お腹すいたなぁ……」
思い返せば昼から何も食べていなかった。
何か食べ物を探さねばならなかったが、日も暮れてきて今から探すのは難しそうだった。
「これ、食べられないかな……」
ヴィクトルは魔石を見つめながらつぶやく。
魔石には毒が含まれていて、なめたりしてはいけないというのは常識だった。でも、アマンドゥスの時にその毒は解毒できることを実験して見つけていた。ただ、解毒できたからと言って口に運ぶ気も起こらず、そのままになっていたのだ。
「食べて……、みる?」
ヴィクトルはやぶの中を少し歩いて『毒けし草』を見つけると、その葉っぱでオーガの魔石をくるんでゴシゴシとこすった。
すると不透明に鈍く光るだけだった魔石は、透明となって向こうが見えるようになり、ラズベリーのような爽やかな芳香を放ちはじめた。
ほのかに赤く輝く美味しそうな石……。
ヴィクトルはその香りに惹かれるようにペロッと舐めてみる……。
「あっ、甘い!」
なんと、魔石は美味しかった。
急いでチューッと吸い付いてみると、エキスがジュワッと湧き出して果物のようなジュースが口いっぱいに広がる。芳醇で豊かな味わいが空腹のヴィクトルに恍惚の時間を与えた……。
思わずゴクンと飲み込むヴィクトル。
「お、美味しい……」
ブワッとヴィクトルの身体が淡い赤い光に包まれる。ヴィクトルは満面の笑みでこの死闘の果実を満喫した。
ポロロン!
頭の中で効果音が鳴り響き、空中に黄色い画面がパッと開いた。
HP最大値 +5、強さ +1、攻撃力 +1、バイタリティ +1
「へっ!?」
ヴィクトルは
ステータスを上げる方法など今までないとされていたのだが、そんなことは無かった。魔石を食べればよかったのだ。
これはすごい発見だった。今までステータスを上げるには経験値を上げてレベルを上げるしかなかったが、これには上限がある。アマンドゥスですら一生上げ続けたのにレベルは200に行かなかった。しかし、魔石はいくらでも食べられる。魔物を狩り続けるだけでステータスが上がり続ける、まさに人間離れしたステータスへの道が開けたのだった。
「行ける! 行けるぞ!」
ヴィクトルはこぶしを握り、世紀の大発見に狂喜した。
魔物を倒し、レベルアップしながら魔石を食べ続ければ世界一の強さを得ることができる。前世の知識も合わせたらまさに無敵になれる。
「やったぞ! ざまぁみろ! チクショー!!」
自分をこんな所に捨てたあの馬鹿どもに、お灸をすえてやるのだ!
ヴィクトルは湧き上がってくる高揚感にガッツポーズを繰り返した。