捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強へ 作:月城 友麻
ヴィクトルは倒したオーガの寝床に戻り、そこを拠点とすることに決めた。
そこは洞窟となっていて雨露はしのげるし、周りからはなかなか見つからない非常に都合の良い場所だった。
日が暮れ、やがて森は闇に包まれる。
ヴィクトルはゴブリンの魔石を出し、また薬草に包んで透明になったのを確認して吸った。抹茶オレのような濃厚な味わいのフレーバーが口の中いっぱいに広がる。
ヴィクトルは恍惚とした表情を浮かべ、心癒されながらじっくりと味わった。
ポロロン!
効果音が鳴って画面が開く。
HP最大値 +1、攻撃力 +1
オーガに比べたら相当にショボいが、それでもステータスは上がった。やはりこれは相当に使えそうだ。
空腹もしのげたし、実は魔物だけ食べて暮らすこともできるのかもしれない。ヴィクトルはオーガの寝床にゴロンと転がり、満足げににっこりと笑った。
オーガの寝床は思いのほか快適だった。ヴィクトルは激動の一日を振り返りつつ、明日からの逆転劇を楽しみに、すぐに眠りへと落ちて行った……。
◇
ガサガサッ……。
深夜に物音で目を覚ました。
何かいる!?
ヴィクトルはいきなりやってきた死の危険に、眠気もいっぺんに吹き飛んだ。
静かに身を起こし、暗闇の中、震える手で木の棒を探し、握る。
レベルアップで使えるようになった索敵の魔法を使ってみると……。
何やら二匹ほどの魔物が入り口近くを徘徊している。
強さはよく分からないが雑魚ではなさそうだ。さらに、二匹はマズい。二匹では自爆攻撃は使えない。生き返った瞬間を狙われたらアウトだからだ。
いきなりのピンチにヴィクトルは背筋が凍り、冷や汗が噴き出した。
入り口を見つけられるのは時間の問題である。
ヴィクトルは奥へと静かに移動した。この洞窟には出入り口の他に天井の穴がある。最初にヴィクトルが落ちた小さな穴である。
ヴィクトルは魔法でろうそくのような淡い光を浮かべると、壁面にとりついて登り始めた。
穴に手が届いた時、入り口の木の枝がバーン! と吹き飛ばされ、
ブフッ! グフッ!
と、鼻を鳴らす音が洞窟内に響いた。オークだ!
筋骨隆々とした巨躯にイノシシの頭。口からは凶悪な牙が鋭く伸び、鈍く光っていた。
グァァ――――!
叫びながら突っ込んでくるオーク。
ヴィクトルは必死に穴を登り、ギリギリのところで逃げ切る。
しかし、オークは諦めない。
ゴァァ――――!
巨体を穴に突っ込み、穴の割れ目を広げて迫ってくる。
オーク レア度:★★★
魔物 レベル35
あまりの迫力に気おされるヴィクトルだが、逃げて逃げ切れるような敵じゃない。ここで二匹とも倒す以外生き残るすべはなかった。しかし、レベルはオークの方がはるかに上。闇夜の森でいきなり突き付けられた死の予感に、ヴィクトルの心臓はかつてなく早打ちする。
灯りに浮かび上がる恐ろしいオークの顔の醜悪さが、ヴィクトルの心に恐怖を巻き起こしてくる……。
しかし、諦める訳にもいかない。スローライフで愛する人と第二の人生を満喫すると心に決めたのだ。馬鹿どもに復讐もせねばならない。こんなところで終わってなるものか。
ヴィクトルは歯を食いしばり、今できる最高の攻撃が何かを必死に考える。
叩こうが魔法撃とうがとても効くとは思えなかったが、もしかしたら……。
「よしっ!」
ヴィクトルは腹を決め、棒をぎゅっと握りなおし、構えた。
グガァ!
オークは叫ぶ。
ヴィクトルはその瞬間を見逃さず、木の棒を素早く口に突っ込んだ。
グッ! ガッ!
慌てるオーク。
そしてヴィクトルは、木の棒をこじって、開いたすき間めがけて手を当てて叫ぶ。
「ウィンドカッター!!」
シュゥン!
と、空気を切り裂く音が響いて、オークの
グホゥ!!
オークは声にならない悲鳴をあげながら落ちて行く。
そして、
ピロローン!
ピロローン!
と、効果音が鳴り響いた。
風魔法が内臓をズタズタに切り裂いたのだ。さしものオークも体内に直接撃たれた魔法には耐えられなかったようだ。ここは大賢者時代の知恵の勝利である。
しかし、まだ一匹いる。依然としてピンチには変わりない。
ガサガサッ!
もう一匹は外をまわってヴィクトルの方に走ってくる。
「ヤバい、ヤバい!」
ヴィクトルは急いで穴に降りた。
オークはズーン! ズーン! と、近くの木に体当たりを繰り返し、バキバキバキ! ズズーン! と木が倒れる。
ヴィクトルはその意味不明な行動におびえていたが、直後、穴から木の幹が落とされた。何と、穴がふさがれてしまった。ヤバいと思って外に逃げようとした時、オークと目が合った。オークは周到にヴィクトルを追い詰めたのだ。