捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強へ   作:月城 友麻

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番外編 2.花々の祝福

 新しいフライパンで無事、肉と玉ねぎを炒めたらいよいよ最終工程。

 誠はタライのような巨大なパイ皿を出すとそこにパイ生地を敷き詰めた。そして、炒めたものを載せ、チーズを振りまくと、長細く切ったパイ生地を格子状にあしらっていく。

「うわぁ!」

 ツァルは、誠が手際よく仕上げていく様をキラキラとした目で見ていた。

 誠はレンガを組んで作った即席のかまどにパイを入れると、レンガを積んで蓋をして言った。

「さぁ、ツァルちゃん、中火でよろしく!」

「あーい!」

 ツァルは火加減をうまく調整してかまどに炎を吹き込んだ。

「おぉ、いいねいいね! 200度でよろしく」

 ツァルは炎を吐き終わると、また大きく息を吸ってゴォォと炎を吹いた。

 パパママはそばでハラハラしながら見ている。

 

      ◇

 

 二十分ほどママと交代しながら温度を保つと、いよいよ出来上がり。

 誠は慎重に入口のレンガを落とす。すると、ぐつぐつという音とともに香ばしい香りがふわぁと広がる。満足そうに眼を閉じてその香りを楽しむと、取り出したパイをテーブルに乗せ、言った。

「はい、ツァルちゃん、盛り付けだよ」

 誠はきれいに洗った、ボウルいっぱいの赤青黄色とカラフルな花々をツァルに渡した。

「キャハッ!」

 ツァルは嬉しそうに両手でバッと花をつかむと景気よくパイの上に放り投げた。花びらはひらひらと舞いながらパイの上に降り積もっていく。

「キャハー!」

 さらに嬉しそうにどんどんと花を降らせるツァル。

 大人たちはみんなそんなツァルを愛おしそうに見ていた。

 

 と、その時だった。にわかに空が掻き曇る。

「えぇ?」

 怪訝そうに空を見上げるツァルだったが、パパはママとツァルの腕をつかむと一気に数キロ離れた空へワープした。

 

 直後、激しい閃光がお花畑を包み、大爆発が起こった。

 熱線で花畑は一気に燃え上がり、白い繭のような衝撃波が音速で広がって辺り一帯の木々を全てなぎ倒していく。そして立ち上る灼熱のキノコ雲。

 和やかなお料理タイムが一気に凄惨な戦場へと早変わりしてしまったのだ。

 ツァルは唖然としながらその地獄絵図にプルプルと震えていた。

 

 誠たちも合流してきてパパと何やら相談を始める。

「テロリストですね」「ついに来やがったか……」「こうなると話し合いとかの問題じゃないな」「しかしここで本格的な戦闘は……」「避けたいねぇ……」

 みんな渋い顔をしてお互いの顔を見合った。

 すると、向こうの方から光をまとった誰かが飛んでくる。

「おいでなすったぞ」

 パパが険しい顔をしながらにらんだ。

 

 飛んできたのはタキシード姿のひょろりとした男だった。

「おやおや、皆さんお揃いで」

 男はニヤけながら言った。

「やはりお前か、まだ生きてたのか?」

 パパは渋い顔をしながら言う。

「勝手に殺さないでほしいね。星の自治権を明け渡すまで何度でも蘇ってやるのさ、はっはっはっ!」

 男は嬉しそうに笑う。

「何が自治権だ。単に自分の欲望を満たすことしか考えない奴に権利など渡せんよ」

 にらみ合う両者。

「あなたがお花焼いたの?」

 ツァルが横から怒って言った。

「おや、かわいいお嬢ちゃん。花だけじゃなく、次は君たちも焼いてやるよ。クフフフ」

 ニヤけた顔を見せる。

「メッ!」

 そう言うとツァルは強烈なドラゴンブレスを男に向けて放った。

 しかし、男はシールドを展開して炎から身を守る。

「ははっ! そんな炎など効かんよ、お嬢ちゃん」

 と、余裕を見せた男だったが、ツァルの怒りは予想を超えてすさまじかった。

 どんどん火力が増していくと男は徐々に顔が青ざめていった。

「お、おい! まだやるのかよ!」

 焦る男にツァルは炎を止めて言った。

「悪いことしたら謝るのよ!」

「何言ってんだ! 俺は悪くない!」

「悪い子はメッ!」

 ツァルはそう叫ぶと、今度は青いハイパードラゴンブレスを放った。

「へっ? なんじゃこりゃぁ!」

 男はそう叫ぶと、シールドを追加したが、それでも防御できず吹き飛ばされる。

 

 グァァァ!

 

 男は花畑の中へと墜落していった。

 

      ◇

 

 服は焼け焦げ、髪はチリチリになった男は、たおやかで優雅な匂いに包まれながら目が覚めた。

「えっ?」

 目の前にはツァルが腕を組んで仁王立ちしている。

「お、お前! 悪いのは誠たちだぞ! 俺はなんも悪くない!」

 男はわめいた。

 すると、ツァルは、

「お花畑を焼くのは悪い人なの。悪い人しかそんなことしないの」

 と、言い切った。

「え? こんなのただの植物じゃないか!」

 男は反論しながら周りを見回す。

 見渡す限りの花畑では美しい花々がさわやかな風にウェーブをつくり、赤、青、黄色の鮮やかな色どりを揺らしていた。

 そして漂うかぐわしい香り……。

 男はやがて気が付く、長い社会生活のストレスフルなやり取りの中で自分が失ってしまった感性を。

「悪いことしたら謝るのよ!」

 ツァルはプンプンと怒りながら言った。

 男は大きく息をつくと、こんな幼女に戦闘で負け、大切なことを教えられたことにガックリとうなだれた。

 

      ◇

 

 誠たちの手によって花畑は再生され、テーブルには退避させていた【花舞い踊るミートパイ】が準備された。

 ツァルの願いで捕縛された男も席に加えられ、試食係のツァルは大きな声で叫ぶ。

「いただきまーす!」

 

 切り分けられた【花舞い踊るミートパイ】からはジューシーな肉汁がしたたり、芳醇な香りが漂ってくる。

「はい、ツァル、あーん!」

「アーン!」

 ママは一口フォークで取ると、ふぅふぅと冷ましてツァルの口に運んだ。

 もぐもぐとプクプクのほっぺたをゆらすツァル。

 あふれだす和牛のうまみ、玉ねぎの甘味、そして確かな酸味のアクセントを加える花々が混然一体となってツァルの脳髄を貫いた。

 

 ン!

 つぶらな瞳を大きく見開くと、

「おーいしーぃ!」

 と満面の笑みで叫んだ。

 

 皆、そんなかわいいドラゴンを幸せそうな表情で見つめ、優しい時間がゆったりと流れた。

 

「次はあなたよ! はい、アーン!」

 ツァルは光る特殊な鎖で縛られている男に一口、フォークでミートパイを差し出した。

 周りの大人たちはムッとした表情でその様子を見守る。

 男はいたたまれなくなったが、渋々ミートパイを口に含んだ。

 サクッとしたパイ生地の感触に、鼻腔をくすぐるハーブとフレッシュな花の香り。

 そして押し寄せる濃厚な肉汁……。口の中では上質なうまみのオーケストラが奏でられた。

 おほぉ……。

 男はもぐもぐとその奥深い食の芸術を堪能すると、しばらく目をつぶったまま動かなくなった。

 そして、ゆっくりと大きく息をつくとツァルの方を向き、

「ツァルちゃん、ありがとう」

 と、ポロリと涙をこぼした。

 ツァルはうんうんとうなずくと、

「もう二度と悪さしちゃだめよ!」

 そう言って、男を縛る鎖を引きちぎった。

「おい、ツァル!」

 焦ったパパだったが、誠はそれを制止した。

 男はサラサラと光の微粒子をまき散らしながら砕け散っていく鎖を眺め、

「ちょっと考えさせてください」

 そう言い残して消えていった。

「え? 行かせていいんですか?」

 パパが誠に聞くと、誠はニヤッと笑って返す。

「彼の仲間は彼のことをどう思うかな?」

「えっ……? あ、スパイになった可能性があるって思う……でしょうね」

「そう、彼は戻って来ざるを得ないのさ。実際……、まぁ止めておこう」

 誠はそう言うと、赤ワインのボトルを出して周りを見回し、

「ミートパイにはこの赤ワイン【神の雫】が合うんだ」

 そう言ってワイングラスとともに配っていった。

 

「では、懸案を解決してくれたツァルちゃんと、【花舞い踊るミートパイ】の完成を祝ってカンパーイ!」

「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」

 パパに抱っこされたツァルは、ぶどうジュースのグラスを掲げ、ゴクゴクと飲む。

 そして、パイを一口ほおばると、恍惚の表情を浮かべながら堪能する。そして、プルプルと首を振ると、最高の笑顔で笑った。

「キャハッ!」

 花畑にはさわやかな風が吹き、多くの花々が揺れる。それは、楽しそうにパイを堪能するみんなを祝福しているようだった。

 

 

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