捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強へ   作:月城 友麻

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1-8. 執念のダブルノックダウン

 万事休すである。自爆攻撃は一回は使えるが一回で倒しきるのは不可能だろう。穴はもう使えない。真っ青になるヴィクトルに、オークはニヤニヤしながら近づいてくる。

 

 グホォォォ――――!

 オークは雄たけびを上げると、ヴィクトルに向かって全力で突っ込んできた。

「ひぃ!」

 オークの猪突猛進なダッシュはすさまじく、一瞬でヴィクトルに到達する。

 避けるなんて到底できず、ヴィクトルは鋭い牙に貫かれ、そのまま奥の壁に激突し、ぐちゃぐちゃに潰された。

 

 カハッ!

 多量の血を吐きながらボロ雑巾のように倒れ込むヴィクトル。

 そして、オークも倍返しのアイテムの効果を食らい、血を吐きながら吹き飛ばされ、ゴロンゴロンと転がり、倒れ込んだ。

 地獄のダブルノックダウン。

 洞窟には両者の苦しむ喘ぎ声が静かに響く……。

 ヴィクトルは何とか意識を取り戻したが、HPは1、大ピンチである。

 再度生き返りアイテムを使うためにはHPを10以上に上げねばならないが、ポーションも何もない。

 

ブフゥ!

 オークが肩で息をしながらゆっくりと立ち上がる。その目に宿る怒りの輝きがヴィクトルに命かつてない恐怖を与えた。

 絶体絶命である。

 ヴィクトルは何か使えるものはないかとステータスウィンドウを開き、必死にページをめくる……。

 

グァァァァ――――!

 オークの雄たけびが森に響き渡った。

 オークはヴィクトルを血走った目でにらみ、助走の距離を取り、もう一度体当たりの体制に入った。

 

「くぅぅ……、何か……何かないのかよ!」

 と、その時、予想外の物を見つけた。

 

 治癒魔法 ヒール(New!) MP:10

 

 何と、さっきのレベルアップでヒールを獲得していたのだ。

 

グホォ!!

 オークが叫びながら全速で突っ込んでくると同時に、ヴィクトルが叫んだ。

「ヒール!!」

 淡い光をまとったヴィクトルを再度オークの牙が貫き、奥に激突する。

 

 グハァ! グォォ!

 

 両者また地面に転がった。

 再度のダブルノックダウン。

 

 果たして、ヴィクトルの頭の中に効果音が鳴り響いた。

 

 ピロローン!

 ピロローン!

 

 意識がもうろうとする中、ヴィクトルはギリギリの勝利を知り、心から安堵するとそのまま気を失った。

 死闘の決着がついた暗黒の森には、また静けさが戻ってくる。(ほの)かに青い月の優しい光が血まみれのヴィクトルの頬を照らしていた。

 

        ◇

 

 チチチッ、チュンチュン!

 

 まだ霧に沈む暗黒の森に小鳥のさえずりが響き、朝の訪れを告げる。

 

「ハウッ!?」

 ヴィクトルは目を覚まし、ゆっくりと起き上がって周りを見回した。バキバキに壊された入り口と丸太を突っ込まれた奥の穴が、あの戦闘が夢ではなかったことを物語っている。

 

 ヴィクトルはしばらくその荒れた状況を呆然(ぼうぜん)と見つめ……、ふぅっと大きく息をついた。

 勝てたのはたまたまだった。何か一つでもしくじれば自分はオークのエサになっていただろう。ヴィクトルはブルっと身震いをした。

 

 ヴィクトルは朝食代わりに、床に転がっている二つのオークの魔石を拾うと食べてみた。

 茶色に光る魔石はコーヒーのような芳醇な香りを立て、ヴィクトルは目をつぶってひとときのアロマを楽しむ。そして一気にゴクッとのんだ。まるでモーニングコーヒーのようなホッとする充足感が心にしみてくる……。

 

 ポロロン!

 画面がパッと開いた。

 

 HP最大値 +3、強さ +1、バイタリティ +1

 

 まぁまぁの成果である。

 

 これ以上死闘なんてやりたくないヴィクトルは、何にもまして強くなることを目指すと決めた。レベルも19に達し、もう雑魚であれば余裕で倒せるようになっている。

 なるべくたくさんの雑魚を安全に倒し、魔石を食べまくること、これが今の最善策に違いなかった。

 

 ヴィクトルは血だらけの服や体を生活魔法で綺麗にすると、靴ひもを結びなおす。

 そして、両手でほほをパンパンと叩いて気合を入れると、

「よしっ!」

 と、叫んだ。

 自分の逆転劇はこれから始まるのだという高揚感でブルっと武者震いをすると、木の棒をギュッと握り、ビュンビュンと振り回した。


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