ラブライブ! スピンオフ A-RISE   作:watton

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 英玲奈っちです。って何で私が自分のことを英玲奈っちって呼ばなきゃならないんだ。
 ファンが増える?
 なるほど……ってやっぱりおかしいと思うんだが。
 あんじゅもよく頑張った。
 私から見てもパーフェクトだ!
 今回のリハーサルもこの調子でいこう、ツバサ、あんじゅ!


7話 リハーサル!

 ツバサ達が占いをしている同刻。

 UTX高校21階。

 

 この階層には、生徒会室、会議室、校長室、職員室など、UTX高校のブレインとなる部屋が割り当てられている。

 生徒会室は隔離された位置にあり、エレベーターから降りると、職員室前を通らずに向かうことができる。

 生徒会と生徒達の交流を妨げない為の配慮ある配置になっている。

 

 

 1年生、演出科の早乙女千尋(さおとめちひろ)は生徒会長のあずさに呼び出されていた。

 廊下を歩く少女の姿はぎこちなく、肩に力がはいっていた。ポニーテールが揺れている。

 

 千尋は昔から、将来は音楽に携わった仕事をしたいと考えていた。

 歌は音痴、リズム感皆無。それでも自分に何かできることはないか。

 そんなとき、コンサートライブに必要不可欠なポジションとして、音響があることを知った。

 さっそく音響を学べるUTX高校に体験入学した。

 体験入学で音響のミキサーをいじらせてもらった時、これだと思った。

 ステージ全体の音のバランスをとっていく全能感。

 ライブを達成したときのグループと感動を分かち合うことを想像するだけで、心が踊った。

 

 そして必死に勉強してUTX高校に入学した。

 音響をやっていくんだと志を立てたのだ。

 

 やっぱ緊張するなぁ……。何の用だろう……。

 生徒会室のドアをノックする。

 

「演出科の、早乙女千尋です!」

「どうぞ」

「し、失礼します!」

 

 千尋が部屋に入るとそこには、作りのいい椅子に腰を掛けた、生徒会長のあずさと副生徒会長の智美がいた。

 

「ようこそ、早乙女さん。あ、そこにかけていいわ」

「ありがとうございます」

 

 千尋は備え付けの椅子に座らせてもらうと、めったに入ったことのない生徒会室を見回す。

 流石生徒会室だけあって、物という物全て丁寧に整っている。本棚には分厚いファイルがいくつも詰まっている。開いている窓から、まだ春先の少し冷たい風が吹き込んで白いカーテンがなびく。

 日当たりのいい部屋だから、千尋はそれほど寒さは感じなかった。

 

「既に入学式で挨拶したから知ってると思うけど、私が生徒会長の千音寺あずさよ。そしてこっちが副生徒会長の本田さん」

「本田です。よろしくね」

「よろしくお願いします!」

 

 たった一度の入学式の挨拶で名前など覚えられるわけもなく、半ば忘れかけていた千尋にとって、ありがたい自己紹介だった。

 自己紹介が済むと、あずさは柔らかな表情で千尋に問いかけた。

 

「早乙女さん。あなたに質問があるわ」

「は、はい! 何でしょうか」

「音響技術者を目指しているってお伺いしたのだけれど、そうなのかしら?」

「え、あ、はい! まだ全然何もわからないですけど、そうですね!」

「わからないとは?」

「ミキサーや様々な機材の使い方というか……」

「そうね。1年生だもの。仕方ないわ」

「はい……」

 

 話が途切れると、生徒会長のあずさは、席を立ち窓に手をかけ外を見た。

 そよ風があずさの長髪を撫でると再び千尋に視線を向ける。

 

「音響技術者になるために、いや、何においても上達する為に必要なことって何だと思う?」

「え……えと……向上心……でしょうか?」

「そうね、向上心も大事。ただ、向上心だけではどうにもならない部分もある」

 

 千尋は唐突な面接トークに言葉が詰まりつつもとっさに思いついたことを言ってみる。

 こういう問いかけに深い意味をもたせた解答など、千尋には持ちあわせていなかった。

 千尋は黙って生徒会長の話に耳を傾ける。

 

「簡単に言えば、環境と経験よ。技術を上達させるためには実地での積み重ねが肝心なの。数をこなせば失敗もするし、成功もする。そして、それを積み重ねていくことで、一流になる」

「なるほど……」

「でもね、例えるなら、経験の浅い執刀医に心臓手術は任せられない。患者はそんな先生に頼みたくなんてないの」

 

 ド素人に仕事は回ってこない。当然のことだ。

 経験がない為に数多の志望者に埋もれようとしている現状に、千尋は気付かされた。

 だが、千尋は薄々感づいていた。これから生徒会長が言わんとしていることに。

 

「けど、私はできる。経験を積ませることが」

 

「素人同然の生徒を、最前線に立たせて経験させることが」

 

「私のさじ加減でこのUTX高校の生徒が一流になれるっていうことよ」

 

 やはり――。

 千尋は自分が特別な存在だと感じてしまった。

 まだ会って間もない生徒会長に魅入られた!

 これは二度とないチャンスを生徒会長がくれるってことに違いない。

 

 だが、生徒会長は微塵もそんなことを思ってはいない。

 使えるものを使う、それだけのこと。

 

「私の"簡単なお願い"を聞いてくれれば、あなたを今後のライブで多く起用されるよう手配してあげるわ」

「え?! 何ですかその簡単なお願いって」

「ここから先はやるかやらないか、決めてもらわないと言えないわ」

「や、やります!」

 

 千尋はチャンスを逃したくなかったが為に即答した。

 ここで断ったら自分の道は閉ざされてしまう。やるしかないんだ。

 

「後になって、やっぱりやめますって言われたら、あなたへの声掛けはなくなるけどいい?」

「いいです! 何でも来てください!」

「クスッ、やる気がある子は嫌いじゃないわ」

 

 長髪の少女が笑みを浮かべると席に座って千尋と正面で向かい合った。

 

「今度の日曜日、1年のRISEがお披露目ライブをするのは知っているわね?」

「はい、RISEの皆さんは頑張ってますよね。私のクラスでもRISEの話題でもちきりですよ」

「今の担当の代わりにあなたにやってもらいたいと思ってるの」

「早速ですね!」

「それでね、ここから先がその条件なんだけど、」

 

 条件――。簡単なお願いの内容に千尋は集中する。

 

「日曜のRISEお披露目ライブで、RISE3人の"イヤモニのボリュームをゼロに設定"してもらえるかしら」

「イヤモニを……ゼロに?」

 

 入学して間もない千尋の聞きなれない単語、イヤモニ。

 なんだろう。嫌なファイン◯ィング・ニモみたいな?それはニモか。

 くだらないジョークが脳裏によぎる。

 

「よくわかりませんが、それだけでいいんですか?」

「ええ、彼女たちには必要なことだから。それと、このことは他言無用よ」

「わかりました!」

 

 千尋は彼女たちに必要なことと言われ、何となく"今までイヤモニのボリュームを意図的にあげてる人がいてそれでライブするメンバーは迷惑していた"のだろうと勝手に推測する。

 

「以上よ。わざわざ来てくれてありがとう、早乙女さん。よろしくね」

「こちらこそありがとうございました! よろしくお願いします!」

 

 ミキサーの使い方資料を受け取ると、入ってくる時とは異なる足取りのよさで出て行く千尋の期待が膨らんでいるのが見て取れた。

 

「楽しみね、智美」

「言われたので黙ってましたが、今回はそういう方針ですか」

「ええ」

「とんでもない事件になりますよ、早乙女さんまで責任を感じて夢を閉ざしてしまうかも」

「大丈夫大丈夫、初心者っていう免罪符があるから。それに、」

 

 長髪の少女が艶やかな髪を耳にかけ直すと、声を低くしてハッキリ言った。

 

「そこでやめてしまうならそこまでの人ってことよ」

 

 

--

 お披露目ライブ前日。

 ツバサ達は楽屋で本番と同じ衣装に着替え、UTX高校2階屋内スペースに向かった。

 

 衣装は美術科の生徒が作ったものだ。

 白を基調としたUTX高校の制服デザインをベースに、上着と短いスカートの所々に淡い黄色のフリルがついている。

 上着の縁には、黄色いラインのアクセントが縫いこんである。

 ひざ上まであるソックスと、スカートの下から覗かせる絹のような柔肌が、一層三人の魅力を引き立てる。

 また、三人とも全く同じデザインというわけではない。

 ツバサとあんじゅはバフスリーブ(袖付けと袖口にギャザーを入れてふくらませた袖)とヒラヒラした白いグローブ、英玲奈はノースリーブにロンググローブの組み合わせで肩を露出した作りだ。

 さらに、ツバサは白いベレー帽に黄色いリボン、あんじゅは白のリボンにブローチの髪留め、英玲奈は白のヘアバンド、とそれぞれにマッチした可愛いオプションがついている。

 総じて言えば、高級感と清楚な雰囲気を併せ持った、まさにツバサ達の為に誂えられた衣装だ。

 

「あんじゅも英玲奈も衣装似合ってるわね」

「ツバサだけ帽子付いててズルい!」

「確かにそうだな。私にはあわないからいいが」

「ふっふっふ、センターの特権よ! 今日は本番だと思ってしっかり練習しましょ」

「練習の時も同じこと言ってたよね、ツバサ」

「いつも本番と思えば間違いないということだ」

「そういうことね」

 

 ツバサ達は屋内スペースに着くと、設営しているスタッフ達に大きく挨拶する。

 

「「「おはようございまーす」」」

「うーーっす!」

「おはよー!」

 

 スタッフのみんなは予めツバサ達が挨拶回りをしていただけあって、フレンドリーに挨拶を返してくれる。

 流石はツバサの手配の周到さだ。

 おかげでコミュニケーションを取りながら着々とツバサ達も準備を進める。

 

 しかし、ツバサ達に思いもよらない事態が起こる。

 驚きを隠せないあんじゅと英玲奈は声が揃ってしまう。

 

「「素人?!」」

「は、はい。ですがやる気はあります! ちゃんとミキサーの扱い方も読みました」

 

 あんじゅと英玲奈は唖然としていた。

 目の前にいる少女、早乙女千尋は、明日参加できなくなった音響担当の代役としてあてられたという。

 音響経験は、入学前に一度いじらせてもらったことがあるぐらいと言っていた。

 ツバサは落ち着いた態度で会話の方向を修正する。

 ツバサだけが既に先を見据えていた。

 

「私、ちょっとだけなら使い方わかるから一緒にチェックしましょうか」

「ありがとうございます!」

 

--

音響ルーム

 

 音響ルームへと移動する4人。本来ならば、2人体勢で音響をするべきだとは思うが、なぜか千尋しか音響担当がいない。

 だが、そんなことを気にしている場合ではない。

 最低限やれることをやってもらおうとツバサは考えた。

 

「付箋もってる? 早乙女さん」

「あります。何に使うんですか?」

「大量にあるボリュームをわかりやすくするのに使えるの。例えば私のボリュームはここだから、ここにツバサって書いて貼っておけば、すぐにわかるでしょ」

「おぉー」

「それで……」

 

 ツバサは慣れたように1つずつ千尋に教えこんでいく。

 素人と聞いて、あんじゅと英玲奈は明日のライブを心配したが、今のツバサを見て安堵した。

 

「あ、そうか。ツバサはバンドやってたから。まさかミキサーの使い方まで知ってるとは思わなかったけど」

「そういえばそんなことも言ってたな」

「ここはイヤモニね。3人それぞれ違うから、これは忘れずに3つともあげておいてね」

「わかりました」

「それじゃ、よろしくね! 早乙女さん!」

「はい!」

 

 イヤモニ、と付箋を付けると、ツバサ達はまたステージに移動した。

 

--

ライブステージ

 

「聞いて下さい! PrivateWars!!」

 

 音楽が流れ始めて歌が始まると、ツバサ達は違和感に気づく。

 マイクに向かってツバサは千尋に呼びかける。

 

「ねー! イヤモニのボリュームあがってないわー!」

「えっ?!」

 

 曲を一度中断し、千尋はボリュームを調整する。

 

「こ、こうですか?」

「もうちょっとあげてー!」

「テステス……おっけー!」

 

 千尋は、言われてイヤモニのボリュームをあげた。

 千尋に不安がよぎる。まさかこれは重要なボリュームなのでは。

 いや、そんなことはない。入学したてのRISEがわかっていないだけだ。

 そう自分に言い聞かせる。

 

 しばらく演奏が続くと、また同じことが起こった。

 

「また下がってるよ、ツバサ」

「何かおかしいわね」

「見に行ってみよう」

 

 

--

音響ルーム

 

 ステージを見渡せる場所に位置する音響ルームへ移動すると、ツバサは疑問を投げかけた。

 

「どうしたの?早乙女さん。イヤモニ、ボリュームあげてもらわないと」

「あ、はい」

 

 あんじゅは不快な表情を隠しつつも、続けざまに確認する。

 

「本当にわかってるの?」

「だっ、大丈夫です」

「こう言っているんだから、何かの手違いだっただけだろう。それに今日こういう間違いがあってよかった。これで明日失敗せずにすむからな」

「そうね! 前向きにいきましょう!」

 

 

--

 それからは順調にリハーサルが進み、屋内スペースのボリュームバランスの調整はほぼ完璧になった。

 人が入れば音を吸収するからもう少しあげるのが目安とツバサは千尋に助言した。

 ステージでの立ち位置もチェックは完了。

 無事ではなかったが、何とかリハーサル時間以内にお披露目ライブの形になった。

 何とかと言っても、高校生がやるライブにしては完成度は非常に高い。

 ツバサ達とスタッフは翌日使う道具はそのままにして、簡単に片付けを済ませた。

 

「皆さん、今日はリハーサルに付き合っていただきありがとうございました! 明日もよろしくお願いします!」

「良いライブにしよう! 明日もよろしくね!」

「ここまでこれたのも、スタッフの皆のおかげ。明日は必ず成功させよう」

 

 3人で締めの挨拶をし、リハーサルは解散となった。

 楽屋で制服に着替えるツバサ達。

 

「喉乾いたし、UTXのカフェにでも行きましょうか」

「いいね!」

「かまわない。私も喉が渇いたところだ」

「ふふっ」

 

 英玲奈の言い回しが好きなツバサは思わず笑みがこぼれる。

 着替え終わってエレベーターに向かって廊下を歩いていると、ツバサは千尋が帰ろうとしているところに気づく。

 

「早乙女さんも一緒にカフェに行かない?」

「いいんですか!」

「ええ!」

 

--

UTXカフェテリア

 

 4人飲み物を持ってテーブルに着くと、ツバサは乾杯の音頭をとる。

 

「今日はお疲れ様でした! 明日もがんばりましょう! かんぱーい!」

「お疲れ様ー!」

「うむ!」

「かんぱーい!」

 

 それぞれ、今日のリハーサルでよかったこと、注意する点を話し合った。

 皆、明日のことが楽しみで仕方がない様子だ。

 

 そんな中、千尋は自分が初心者であることもあり、熟練者に囲まれて引け目を感じていた。

 自分に実力がなくて申し訳ない気持ちがあった。

 そこからふっと、許しを得たい気持ちが生まれ、言葉がでた。

 

「明日失敗したら、ごめんね」

「許さないわ」

 

 ツバサは真剣な表情で千尋を見つめる。

 千尋は一瞬にして温まった感情の温度が引いていった。

 

「なんちゃって! 誰でも失敗はあるわ。肩に力を入れすぎずやりましょう!」

「は、はい!」

「明日もよろしくね、早乙女さん」

 

 ツバサの元の優しい表情を見て、冗談だったんだと千尋はわかった。

 こんな未熟な私にも気さくに話しかけてくれる彼女は何ていい人なんだろう。

 綺羅さんは見た目だけじゃなくて性格も可愛いんだ、と千尋は感じた。

 

 

--

 明日のこともあり、30分程度でリハーサルの打ち上げは切り上げられた。

 イメージトレーニングやトークの練習など3人でこれからするようだ。

 千尋は3人と別れた後、することもないので帰路に就いた。

 千尋は、イヤモニのことが気になっていた。

 電車の中で検索してみる。

 

*********

 イヤモニ……

 イヤーモニターの略。イヤフォンタイプのモニター。主に大音響の中で自分の声を聞くためにある。他にディレクターの進行を聞いたり、一定のリズムを流してステージ全体がズレないようにしたりということにも使う。

 イヤモニは、従来のボーカルモニターではできなかった、アイドルのステージを広く使う為のツールとしてメジャーとなった。

*********

 

 続けてボーカルモニターを検索する。

 

*********

 ボーカルモニター……

 スピーカータイプのモニター。ボーカルが自身の声を聞き、大音響の中でも音程を外さないようにする為の重要なモニター。

 どこのライブハウスにも基本的に設置されている。

*********

 

 音程を外さない……。自分の声を聞くため……。

 つまり、自分の声が聞こえないと音痴になる?

 どうして生徒会長はそれを……。

 

 多分、本当はイヤモニのボリュームは下げちゃいけないんだ。

 先日の放課後、生徒会室でのやり取りの記憶が千尋に蘇る。

 

 

「私の"簡単なお願い"を聞いてくれれば、あなたを今後のライブで多く起用されるよう手配してあげるわ」

「え?! 何ですかその簡単なお願いって」

 

 

「ここから先はやるかやらないか、決めてもらわないと言えないわ」

「や、やります!」

 

 

「後になって、やっぱりやめますって言われたら、あなたへの声掛けはなくなるけどいい?」

「いいです! 何でも来てください!」

 

 

 私は……、音響技術者になりたい。RISEは、まだ1年生で後3年もチャンスがあるじゃない。

 私はここでしかチャンスを掴めない。

 

 本当にそれでいいの?

 RISEが失敗して、私は……きっと綺羅さんは優しく許してくれるだろう。

 初心者だから仕方ないと思ってくれるだろう。

 綺羅さんを本当に裏切れる?

 私を信じてくれているのに、私はわざと失敗できるの?

 

 

 考えても千尋の答えはでなかった――。




 A-RISEがμ'sに負けてショックで筆が止まっておりました(嘘

 本当に申し訳ありません!
 また書き始めましたので、生暖かく見守ってください。

 次回! 無事お披露目ライブ成功!!



 ……させません! 目が離せないね!
 次の更新いつになるのかわからんのにこんな展開でごめんよ!
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