346プロの雑用バイト君 作:焼肉定食
ハーメルンで初めて投稿します。
大学生。それは時に人生の夏休みなどと呼ばれることもある、人生において1番自由な期間かもしれない。
勉強を頑張る、彼女を作って恋愛を楽しむ、友達をたくさん作って遊びまくる。などのさまざまな選択肢が与えられる期間だ。
ただ上記の様な事柄の何をやるにせよ、一つだけ確実に必要になってくる物がある。
それは『お金』だ。
そう、例えば勉強をする場合にも教材を買うなり講座を利用するのにはお金が必要になる。他にも彼女を作るためにオシャレするには金が必要だし、彼女を作った後にデートをするのにも金は必要になる。
何にせよ充実した大学生ライフを過ごすためにお金が必要なのだ。それにお金なんてたくさんあっても困ることはない。
そう、今年から大学生になった俺こと『白石幸輝』(しらいし こうき)も、正に今この金銭問題に直面しているのだ。
「あ〜 お金が欲しい……」
誰もいない部屋の中で誰に話しかけるでもないのに、天井に向かって声をぶつける。
俺は大学進学を機に、地元である千葉の田舎から東京に出てきて一人暮らしを始めたのだが、始めて数日で一人暮らしの大変さを実感している。
「金も時間も足りない!! はぁ〜 実家暮らしって恵まれた環境だったんだなぁ……」
そうだよ……家に帰ったら飯があって、朝起きたら服が洗濯されてて、それに生活費なんかについても考えたことなんて全くなかった。
ただ何も考えず自分の思うままに生きて、それを両親が助けてくれていたんだ。
「俺って恵まれてたんだなぁ…」
再び誰もいない部屋で1人ぽつんと呟く。
「考えてても始まらないよな…行動あるのみだ」
起き上がり腕を組んでこれからのことを考える。
さっきも言った通り、勉強を頑張るにしろ、彼女を作るなり精一杯大学生活を楽しむにしろ、充実した生活を送るには絶対的に金が必要になる…
そうだよね、もう1ヶ月に一度お小遣いをくれる親はいないんだ……自分の手で働いて稼がなくちゃいけない。
「よし!バイト探そう!」
一人暮らしを始めてから3ヶ月の間は親が仕送りをしてくれることになっている。この仕送りが断たれるまでに何としてもいいバイトを見つけて金を貯めまくってやるぞ。
〜〜〜〜
「探すとは言ったものの…何をすればいいんだろう。俺バイトしたことないからなぁ…」
バイトを探すと意気込んでから数時間、俺はどうやってバイト先の候補を探せばいいのかも分からずに苦戦を強いられていた。
「よ、よし!ネットで調べてみよう!今の時代ネット見ればなんとかなる!」
善は急げだ。ネットでバイトの求人情報を集めるぞ!
しかし、そう簡単にはいかないのが人生というもので……
飲食はやめとけおじさん『飲食はやめとけ』
引っ越し業はやめとけおじさん『引っ越しはやめとけ』
コンビニはやめとけおじさん『コンビニはやめとけ』
「なんだこれ……どれもこれも、アレはやめとけコレやめとけって情報しか無いじゃないか!」
とりあえず具体的なバイト先を決める前に、どんな種類の仕事をするのか先に決めようと情報を調べたのだが、どの業界もアレが辛いコレが辛いという意見が多くて見ているだけでもブルーな気分になってきた。
どうなってんだよ〜 なんかどのバイトもめちゃくちゃ難しそうじゃないかよ……。皆こんな大変な思いを抱えながらバイトをしてるのか。
「…ちょっと外歩いてくるか」
一旦気分転換でもしよう。外を歩いていればどこかしらバイトを募集している店とかが見つかるかもしれないしな……
俺は財布とスマホだけを手に持って部屋から出ていった。
…………
とりあえず仕事の内容とかも重要だけど、家からの距離とかも結構重要だよなぁ。遠すぎたら出勤退勤だけで疲れちゃいそうだし……
家の近くにバイト募集してるとことかあったら最高なんだけどね。
俺の住むアパートは大都会東京に存在している。
都会にしては中々安い家賃であり、少し歩けば周りにコンビニもある。それに今年から通うことになる大学の最寄駅も家の最寄り駅から数個先という中々いい条件で、我ながら良くぞ見つけたって褒めてやりたくなる物件だ。
まぁ安いって言っても都会基準だし、そこそこ家賃はするからこそお金を欲してるんだけどね。
「ん? 何だこのデカい建物は」
アパートのある住宅街から歩くこと30分以上、都心に近づいてきた影響で高層ビルや交通量が増えてきた所に、一際大きくて綺麗な建物を見つけた。
何だこのデカい建物は……?
そういえば引っ越してきた時も目に入ったなこれ。何かの会社かな?すごい大きいけど。
俺はすかさずスマホで現在地を確認して、目の前にある巨大な建物の正体を調べる。
「えーと…346プロダクション? なんだこれ、さんびゃくよんじゅうろくプロダクション?変な名前だなぁ…」
「それみしろって読むんだよ?」
「へ?」
突然後ろから声をかけられて体が小さく跳ねる。
い、いきなり話しかけられたから変な声が出ちゃったぞ。めっちゃ恥ずかしい……
そしてゆっくりと振り向くと、ピンクのパーカーを羽織った美少女が俺のことを不思議そうな目で見つめていた。
うわ……何だこの子すっごく可愛いぞ。
「…?おーい!君大丈夫?」
「は、はいっ!?」
「わわっ!急に大きな声出すからびっくりしちゃったよ〜」
「あ、あぁ……ご、ごめんなさい!」
「べ、別に謝らなくていいよ?」
女の子はめすごい勢いで謝る俺に対して、「謝らなくていいよ〜」って言ってくれている。どうやら見た目が可愛いだけじゃなくて性格も良いらしい。
「それで君はここで何をしてたの?社員さんとか?」
「いや!ぜ、全然っ!そんなことありませんっ!!」
「あははっ! さっきからすごい緊張してるけど大丈夫〜?あ…」
あ、と何かに気づいた様子を見せると女の子は少し近づいて上目遣いにこちらを見る。
な、なんだなんだ?そんなに近づかれると普通にドキドキしちゃうんだけど!? そ、それにいい匂いがががが…!
そんな俺の内心を気にすることもなく、女の子は俺と距離を詰めてきてニヤニヤしながら喋り出す。
「もしかして〜 未央ちゃんみたいな美少女とお話してるから照れちゃってるのかな〜?」ニヤニヤ
「ふぁっ!?」
「あ、もしかして図星ってやつですかな〜?」
「そ、そそそそんな!そんなことないですけど!?」
「え〜?じゃあなんで私の目をさっきから見て話してくれないの?」
「い、いや……」
女の子がすごい顔を覗き込んでくるので顔を思わず横に逸らすと、相手もこちらの動きに合わせて顔を動かしてなんとか目と目を合わせようとしてくる。
な、なんかこの子距離感おかしくないですかね!?
だ、誰か〜!この状況から俺を助けてくれ〜! このままだと童貞特有の勘違をいして、初対面の女子を好きにっちゃうぞ!
「あ!いっけない!時間ギリギリなんだった!ごめんね!私もう行かなくちゃだから!ばいばい〜い!」
「えっ!? あっ……ちょっ!」
俺が何とか胸のドキドキを抑えようと自分の心と格闘していると、女の子は何かを思い出したようで唐突に別れを告げて大きな建物の敷地内へと走り去っていってしまった。
「な、なんだったんだあの子……」
1人ぽつんと残された俺は心臓をバクバクの鳴らしながら呟いた。
あと10秒長く見つめられてたら好きになってたかもしれないな。まぁ我ながらチョロいとは思う。
ていうかあの子は絶対普段から男子を勘違いさせてるぞ。そんで勘違いした男子にめちゃくちゃ告白とかされてそう(偏見)
いきなりの美少女との遭遇と会話に疲弊した俺は、ひっそりと1人虚しく我が家へと帰宅した。
〜〜〜〜
家に帰ってきた俺はまだ家具も少ない殺風景な部屋の中に寝転んで、先程の出来事を思い出していた。
「はぁ……めっっっちゃ久しぶりに女子とまともに会話した」
実は俺……白石幸輝は、女子とまともに会話したことがほとんど無いのである。
え? さっきのクソ気持ち悪いキョドり方を見れば分かるって?
でも本当に何を話せばいいのか全く分からないんだよ……
小学校を卒業した俺は男子校の中学校へと進学をした。さらにその雄臭い中学校を卒業した俺は、これまた男子校の高校へと進学をしてしまったんだ。つまり俺はその6年間まともに女子と会話をする事なく、男共に囲まれた灰色の青春を送ってきたという訳だ。
いやまぁ……男友達とバカやって過ごす青春ってのもそれはそれで楽しかったんだけどね?
でもそんな生活をしてきたからなのか、俺は同年代の女子や大人の女性を前にすると、何を話していいのか分からずに頭が真っ白になってしまう悲しき童貞人間になった訳ですよ。
あ、子どもは全然大丈夫。だって子どもだし。
って、俺のそんな話はどうでもいいんだった。それより今はバイトの話だよバイトの。
「……そういえばさっきの346プロって何の会社なんだろ」
気になった俺はスマホを取り出して346プロさんのことを調べる。
スマホって本当に便利だ。
「えーとなになに、346プロダクションは業界最大手の芸能事務所…って、めちゃくちゃすごい会社じゃないか!」
346プロの正体は様々な部門を構える老舗芸能事務所だった。モデル部門に女優部門にアーティスト部門……あ、あと出来たのは最近だけどアイドル部門ってのもあるらしい。
「はぁ〜……すっげぇ……」
そんな小学生のような感想を口にしながら、公式のホームページを下へ下へとスクロールしていく。
「ってあれ? バイト・パートの募集してる!? 内容は……掃除、ゴミ出し、コピー、送迎、事務、普通に雑用だなこれ」
驚いた。こんなエリートが集まってそうな大企業なのにバイトの募集してるんだな……まぁ業務の内容は誰でもこなせる雑務しかないけど。
「こういう企業のバイトとかめちゃくちゃ時給高そうだよな……
えーっと、えっ!? マジで!?」
想像より遥かに高いぞ!? こ、こんなに貰えるのか!?
ブルルルルルル
気づけば勝手に手が動いていた。しまった……と思うがもう電話をかけてしまったからには引き返すことはできない。
まぁこんな大企業だ、俺なんて速攻お断りをくらうのがオチだろう。
ガチャ
『はい。こちら346プロダクションです。』
「あ、私バイト募集の求人を拝見して連絡させていただいたんですけど……」
『アルバイト希望の方ですね。それでは〜』
、、、、
『それでは、明日面接に来ていただくということで。よろしくお願いいたします』
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
『それでは失礼します。』
ガチャ
「…………えっ? 何か普通に面接することになっちゃったぞ」
お、おいおいおい! お、おおおお落ち着け俺! もう決まってしまったものは仕方がない。とりあえず今から面接ってどんな風にすればいいのかをネットで調べて……!
その時、ふとさっき会った女の子のことを思い出した。
あ、そういえば……今日会ったあの子は何だったんだろう? 俺と別れた後346プロの中に入っていってたけど……女優の卵とか?
……確か自分のことみおちゃんとか言ってたな。
「ちょっと調べてみるか」
何故か猛烈に気になった俺はスマホを手にして、346 みおで検索をかけてみる。すると画面にはさっきのあの女の子が、俺と会話した時と同じピンクのパーカーを着ている状態での画像が出てきた。
「……本田未央。346所属のアイドル……えっ、アイドル!?」
さっきの女の子がアイドルだという事実に驚きが隠せない俺は思わず大きな声を上げる。が、少し冷静になって思い返してみれば充分納得がいく。
「……そりゃあんだけ可愛いんだからアイドルでもおかしくないよな」
そんなことを呟きながらなんとなく本田未央の検索結果にある画像を眺めていく。
宣材写真にライブでの写真に握手会での写真。どれもいい笑顔だし文句なしに美少女だ。この水着の写真もすごくいい…ん?水着?
本田未央のはじける笑顔の水着写真を前に体が硬直する。
「あ、あの子…あのパーカーの下にとんでもないモノを隠して……!」
口から出たのはそんなしょーもない感想。でも健全な男子からしたらしょうがないことでもある。
「ん?ちょっと待てよ…346にはこの本田未央並に可愛い子がたくさんいるってことだよね?」
そう思って346プロ所属のアイドルを調べる。すると本田未央にも負けないレベルの名前も知らない美少女たちの宣材写真がどんどん溢れてきた。
……あ、あれ…? もしかして俺結構やばいのでは?
こんな美少女たちのいる事務所でアルバイトとか絶対にヤバい。
「い、いやいや待て待て。落ち着け俺。例え面接に受かって346で働くことになったとしてこの子たちと関わることなんてある訳ないじゃないか……うん、そうだよ」
俺は脳内で勝手に自己解決をして考えることを放棄する。
とりあえずは面接だ。受かる気はあんまりしないけど、どうせ受けるならみっともない真似だけはしたくない。
それから俺は、面接に臨む心意気や好印象を持たれる態度なんかについて少しだけ調べた後に眠りについた。
その日の夜は明日の面接の事で頭がいっぱいであまり眠れなかった。
何か感想・意見等ございましたらよろしくお願いいたします。